【完結】田舎育ちの令嬢は王子様を魅了する

五色ひわ

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終章 王子様の決断

27.王宮の庭で

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 ディランはシャーロットの愚痴を聞きながら一曲踊り終えた。チャーリーがもうすぐ王太子になるので、婚約者のシャーロットも忙しいらしい。また愚痴を聞いてほしいと言われたが、チャーリーに誤解されるのは面倒なので、笑って誤魔化した。後でそれとなくチャーリーにシャーロットを気にかけるよう伝えておくことにする。

 エミリーはトーマスのあとに、チャーリーとも一曲踊ることになった。エミリーはトーマスと踊っている間に覚悟を決めたようだが、ディランがさり気なくイヤリングを外して万全を期す。 

 ディランはその曲をマイラと踊り終わると、エミリーの手を取って会場を出た。着ていたジャケットをエミリーの肩にかけて、灯りの少ない庭園のベンチに並んで座る。遠くに見えるパーティ会場からは明るい光が漏れていた。

「ごめんね、エミリー。ちょっと、守護の力が強すぎたみたい」

「すみません。私のせいで……」

「みんなが憧れる『王子様』だけど、正体を知っちゃうと怖いよね」

 ディランが他に誰もいないのを良いことにはっきり言うと、エミリーは返事の代わりに苦笑した。ディランが労るように髪を撫でると、エミリーはくすぐったそうに目を細める。

「チャーリー殿下のご不況を買ってしまいました」

「大丈夫だよ。兄上が今までやってきたことを考えれば、お釣りがくる。兄上も分かっているはずだよ」

 チャーリーはムスッとしていたが、たぶん本気で怒ってはいなかった。どちらにしろ、ディランの感情で魔法が発動したと思っているので、エミリーに害はない。

「私のせいで、ご兄弟の仲が悪くなったら……」

「それこそ、気にする必要はないよ」

 もともと仲の良い兄弟ではないので、これ以上仲が悪くなりようもない。それに、ディランはチャーリーにひどい要望をされ、それを受け入れる予定なので、しばらくは静かにしているはずだ。

「イヤリング、僕がつけてもいい?」

 エミリーが小さく頷くので、ディランはエミリーの耳に先程外したイヤリングをつけ直す。付けていなくても悪目立ちはしないが、エミリーのことを考えると安心感が違う。

「はい、できたよ」

「ありがとうございます」

 エミリーはイヤリングに触れて、安心したように笑う。またチャーリーを弾き飛ばしたら大変だが、イヤリングの守りを弱めてしまうかは悩むところだ。

「素敵なお庭なのに、誰も出てきませんね」

「うん、夜は冷えるからね」

 普段は王族しか入れない庭だ。暖かい季節なら、暗くても人が集まって来ているだろう。今の季節は魔法で周囲を温められるディランくらいしか利用していない。

「エミリーは寒くない?」

「ディラン様のおかげでちょうどいい温度です」

「良かった。それなら、少し見て回ってもいい?」

「ぜひ!」

 ディランは、はしゃいだ声で返事をしたエミリーの手をとる。歩きやすい場所を選んで進みながら、話を切り出すタイミングを探した。チャーリーからの要望はエミリーも関わることなのだ。

「……」

「ディラン様、何か話したいことがあるんですか?」

「え? なんで分かったの?」

「なんとなくです」

 ディランが驚いてエミリーを見ると、クスリと笑われた。どうやら、ディランは自分で思うよりずっと分かりやすいらしい。

「あまり楽しい話じゃないから、言いにくくて……」

「大丈夫ですよ。ちゃんと受け入れます」

 エミリーが真剣な表情でディランを見上げる。早く話した方がエミリーのためにも良さそうだ。ディランはエミリーをエスコートして手近なベンチに座った。

「実は、僕とエミリーの結婚なんだけど……」

「はい」

「少し待って欲しいんだ。具体的には、エミリーが学院を卒業してから二年後になると思う」

 シャーロットとエミリーは同い年だ。二人が卒業してすぐに結婚となると、どちらが先に跡取りを生むかで王太子妃であるシャーロットには精神的な負担がかかる。チャーリーはそれを避けるため、ディランに結婚を最低でも二年遅らせるようにと言ってきた。

『公爵家の一代目は気楽だろう?』

 確かにチャーリーの言うとおりだが、女性は早く結婚したいものだと聞く。そのため、ディランはエミリーになかなか話せずにいた。

「結婚を遅らせるだけですか?」

「う、うん」

「良かった……」

 エミリーはそう言って、泣きそうな顔で笑う。ディランは思わぬ言葉に驚いてエミリーを見つめた。
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