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終章 王子様の決断
28.エミリーの不安
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ディランが戸惑っていると、エミリーが甘えるように寄りかかってくる。ディランはエミリーの珍しい行動に驚きながら肩を抱いた。
「ディラン様、驚かせてすみません」
「うん、それは気にしなくていいんだけど……『良かった』ってどういう意味? 察しが悪くてごめん」
エミリーの反応から推測すると、結婚が遅くなることを悲観しているわけではなさそうだ。エミリーが不安そうに見つめてくるので、引き寄せて腕の中に閉じ込める。
「婚約……解消するのかと思ったんです」
「婚約解消? ごめん、不安にさせてしまったんだね」
ディランは泣き出してしまったエミリーの背中をゆっくりと擦る。ディランはエミリーに嫌われるかもしれないと不安だったが、そのための緊張がより深刻な話であると誤解させたのだろう。
「違うんです。私……ディラン様に話してないことがあって……それで……」
「そっか……無理に話すことはないよ。エミリーが僕のことを嫌いにならない限り、婚約を解消するつもりはないからさ」
エミリーの秘密がどんなものかは想像もつかないが、結婚するつもりでいてくれるなら他は些細なことだ。ディランは嫌いだと言われても離れられるか分からない。重たい気持ちを隠して、エミリーをギュッと抱きしめた。
「ディラン様。私の話を聞いてくださいますか? それで……ディラン様がお嫌なら、ちゃんと……婚約を……」
「エミリー、その先は言わないで。エミリーが話したいならちゃんと聞くよ」
ディランが言葉を遮ると、エミリーはディランの胸元に頬を寄せたままコクリと頷く。気持ちを落ち着かせるためか、エミリーはゆっくりと深呼吸してから話し始めた。
「日記に書かれていた事から想像すると……たぶん……私はヴァランティーヌ・シクノチェス王女殿下の子孫です」
「うん」
「王女殿下が日記を残したのは、自分の子孫に魅了の魔法が継承される可能性に気づいたからなんです。王女殿下は子孫を残してしまったことに不安を持っているようでした」
日記にはヴァランティーヌの葛藤と子孫への謝罪の言葉が記されていたようだ。ヴァランティーヌもディランと同じ神話を読んでいた。神話の中で魅了魔法を使っていた女性は王家に嫁いでいる。そのことから、自分の子孫へ継承される懸念を持ったのだろう。
「僕も血で継承される可能については予想していたよ。知っていて婚約したんだから、何も心配することはない」
「ディラン様……本当に分かっていますか? 私と結婚したら……その……子供が私みたいに変な魔法を使うかもしれないんですよ」
「大丈夫。エミリーの子なら、きっと可愛いよ」
ディランがエミリーの赤い頬を見て言うと、エミリーがそんなこと聞いていないと言うようにジーッと見上げてくる。ディランは笑って誤魔化してエミリーの髪を撫でた。
「真面目な話をするとさ、王女の時代とは色々違うから心配してないんだ。現に兄上なんか、学院での騒動を無能な人間の選別に使ったみたいだ」
魔導士アルビーのおかげで、真面目に訓練した者は、魅了の魔法の影響を受けない。魅了状態になるのは、厳しい訓練を避けて通った証拠だ。
今回、魅了状態になった人間は、よほど他の人間より突出した点がなければ国では雇用しないと、チャーリーは言っていた。例外はトーマスのみになるだろう。
「それに、魅了の魔法を止める腕輪も完成しているしね」
次に魅了魔法を持つ者が生まれるのがいつになるかは分からない。それでも魔道具研究がさらに進むことは確実なので、今よりさらに良いものが作れるだろう。
念の為、魔道士団と王家には魅了魔法を抑える腕輪を寄贈する予定もある。子孫に継承されるなら、王家も他人事ではない。
「他に不安なことはある? せっかくだから、全部聞くよ」
「えっと……たぶん、大丈夫です」
エミリーは少し考えてから笑顔で言った。ディランはそれでも信用しきれなくて、先程のエミリーのように黙ってジーッと見つめる。しばらく見ていると、エミリーは恥ずかしそうにディランの胸元に顔を隠してしまった。
「何か気になることが出来たら、いつでも言うんだよ」
エミリーは顔を隠したままコクリと頷く。隠しきれていない耳が真っ赤で、ディランは思わず笑ってしまった。
「それじゃあ、改めて……」
エミリーが不思議そうに顔をあげるのを見ながら、ディランは近くにあった植物に触れる。魔法で枝を成長させて、作り出した花を手折った。
可愛らしいピンク色の花はエミリーにピッタリだ。ディランは抱きしめていた腕を解いて立ち上がると、エミリーの前に跪く。
「エミリー・カランセ伯爵令嬢……僕と結婚してください」
目の前にピンク色の花を差し出すと、エミリーは恥ずかしそうに笑って受け取ってくれる。
「はい、あの……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
ディランが立ち上がってエミリーの頬に触れると、熱の籠もった瞳でディランを見上げてくる。ふたりは、どちらからともなく唇を合わせた。
「ディラン様、驚かせてすみません」
「うん、それは気にしなくていいんだけど……『良かった』ってどういう意味? 察しが悪くてごめん」
エミリーの反応から推測すると、結婚が遅くなることを悲観しているわけではなさそうだ。エミリーが不安そうに見つめてくるので、引き寄せて腕の中に閉じ込める。
「婚約……解消するのかと思ったんです」
「婚約解消? ごめん、不安にさせてしまったんだね」
ディランは泣き出してしまったエミリーの背中をゆっくりと擦る。ディランはエミリーに嫌われるかもしれないと不安だったが、そのための緊張がより深刻な話であると誤解させたのだろう。
「違うんです。私……ディラン様に話してないことがあって……それで……」
「そっか……無理に話すことはないよ。エミリーが僕のことを嫌いにならない限り、婚約を解消するつもりはないからさ」
エミリーの秘密がどんなものかは想像もつかないが、結婚するつもりでいてくれるなら他は些細なことだ。ディランは嫌いだと言われても離れられるか分からない。重たい気持ちを隠して、エミリーをギュッと抱きしめた。
「ディラン様。私の話を聞いてくださいますか? それで……ディラン様がお嫌なら、ちゃんと……婚約を……」
「エミリー、その先は言わないで。エミリーが話したいならちゃんと聞くよ」
ディランが言葉を遮ると、エミリーはディランの胸元に頬を寄せたままコクリと頷く。気持ちを落ち着かせるためか、エミリーはゆっくりと深呼吸してから話し始めた。
「日記に書かれていた事から想像すると……たぶん……私はヴァランティーヌ・シクノチェス王女殿下の子孫です」
「うん」
「王女殿下が日記を残したのは、自分の子孫に魅了の魔法が継承される可能性に気づいたからなんです。王女殿下は子孫を残してしまったことに不安を持っているようでした」
日記にはヴァランティーヌの葛藤と子孫への謝罪の言葉が記されていたようだ。ヴァランティーヌもディランと同じ神話を読んでいた。神話の中で魅了魔法を使っていた女性は王家に嫁いでいる。そのことから、自分の子孫へ継承される懸念を持ったのだろう。
「僕も血で継承される可能については予想していたよ。知っていて婚約したんだから、何も心配することはない」
「ディラン様……本当に分かっていますか? 私と結婚したら……その……子供が私みたいに変な魔法を使うかもしれないんですよ」
「大丈夫。エミリーの子なら、きっと可愛いよ」
ディランがエミリーの赤い頬を見て言うと、エミリーがそんなこと聞いていないと言うようにジーッと見上げてくる。ディランは笑って誤魔化してエミリーの髪を撫でた。
「真面目な話をするとさ、王女の時代とは色々違うから心配してないんだ。現に兄上なんか、学院での騒動を無能な人間の選別に使ったみたいだ」
魔導士アルビーのおかげで、真面目に訓練した者は、魅了の魔法の影響を受けない。魅了状態になるのは、厳しい訓練を避けて通った証拠だ。
今回、魅了状態になった人間は、よほど他の人間より突出した点がなければ国では雇用しないと、チャーリーは言っていた。例外はトーマスのみになるだろう。
「それに、魅了の魔法を止める腕輪も完成しているしね」
次に魅了魔法を持つ者が生まれるのがいつになるかは分からない。それでも魔道具研究がさらに進むことは確実なので、今よりさらに良いものが作れるだろう。
念の為、魔道士団と王家には魅了魔法を抑える腕輪を寄贈する予定もある。子孫に継承されるなら、王家も他人事ではない。
「他に不安なことはある? せっかくだから、全部聞くよ」
「えっと……たぶん、大丈夫です」
エミリーは少し考えてから笑顔で言った。ディランはそれでも信用しきれなくて、先程のエミリーのように黙ってジーッと見つめる。しばらく見ていると、エミリーは恥ずかしそうにディランの胸元に顔を隠してしまった。
「何か気になることが出来たら、いつでも言うんだよ」
エミリーは顔を隠したままコクリと頷く。隠しきれていない耳が真っ赤で、ディランは思わず笑ってしまった。
「それじゃあ、改めて……」
エミリーが不思議そうに顔をあげるのを見ながら、ディランは近くにあった植物に触れる。魔法で枝を成長させて、作り出した花を手折った。
可愛らしいピンク色の花はエミリーにピッタリだ。ディランは抱きしめていた腕を解いて立ち上がると、エミリーの前に跪く。
「エミリー・カランセ伯爵令嬢……僕と結婚してください」
目の前にピンク色の花を差し出すと、エミリーは恥ずかしそうに笑って受け取ってくれる。
「はい、あの……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
ディランが立ち上がってエミリーの頬に触れると、熱の籠もった瞳でディランを見上げてくる。ふたりは、どちらからともなく唇を合わせた。
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