【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】

第4話 ダンス

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 挨拶の列が途切れ小さな王子たちが退出すると、楽隊が音楽を奏で始める。

「今日は、浄化終了を祝うパーティーだ。ファーストダンスの大役は聖女様にお願いしよう」

 王太子ノルベルトの茶目っ気たっぷりの笑顔に押し出されて、ミシュリーヌとオーギュストはホールの中央に歩み出る。いつもならば、療養中の国王に代わり王太子夫婦が最初にダンスを踊るが、今日は特別だ。

「聖女様、私にあなたと踊る栄誉を与えて下さいますか?」

「喜んでお受けいたします」

 ミシュリーヌは緊張を帯びた青い瞳に見つめられて、頬を染めながら頷く。事前に知らされていなければ、緊張で返事もできなかっただろう。震える手を差し出すと、オーギュストが励ますように強く握ってくれた。

 楽隊が奏でるのは、オーギュストが指定してくれたミシュリーヌの得意曲だ。オーギュストのリードに合わせて、ミシュリーヌは緊張しながら会場を舞う。

「大丈夫だよ。失敗しそうになっても魔法で隠せば良い」

 耳元で囁かれて、ミシュリーヌのステップが狂う。オーギュストのちょっとだけ焦った顔が見えて、フワリと身体が浮いた。

「申し訳ありません」

「いや、今のは私が悪い。他の者には演出に見えているだろうから心配しなくて良いよ」

 オーギュストに促されてチラリと周囲を見ると、ホールには友好的な表情が並んでいる。

「さすがは、魔導師団長。優雅だね」

 ホールはオーギュストの魔法を粋な計らいだと勘違いして湧いている。オーギュストに向けられているのが、畏怖だけではないことにホッとする。

 ミシュリーヌが大丈夫だとオーギュストに微笑みかけると、彼がクルリと回りながらミシュリーヌをゆっくり床に降ろした。

「息がぴったりね」
「素敵なご夫婦だわ」

 大丈夫。きちんと夫婦として見てもらえている。

 ミシュリーヌは憂いを忘れて、オーギュストとのダンスを楽しんだ。


 曲が変わると、招待客もダンスの輪に加わる。オーギュストの笑顔に促されて、ミシュリーヌは踊り続ける。周囲からの視線が減ると、会話を楽しむ余裕も戻ってきた。

「ミシュリーヌ。パーティーが終わったら、大事な話があるんだ。ミシュリーヌは頃合いを見て退出してもらって構わないが、私は最後まで残る必要がある。遅くなるけど、部屋で待っていてくれるかい?」

「はい、もちろんですわ。どういったお話でしょう?」

 オーギュストが言いづらそうに話すので、ミシュリーヌは聞かずにはいられなかった。浮き上がった心が徐々に萎んでいく。

「その時に話すよ」

「それは……」

 ミシュリーヌの言葉を遮るように、オーギュストがダンスのステップを変える。オーギュストの瞳に動揺が見て取れて、ミシュリーヌは黙ってオーギュストに合わせた。この話をこの場で続けたくはないのだろう。

「そういえば、神殿からの呼び出しは問題なかったかい?」

 嫌な沈黙が続くかと思ったが、オーギュストが別の話題を提供してくれた。

「はい。浄化薬を生成しただけですわ」

 ミシュリーヌは気まずくなりたくなくて、その話題に飛びつく。

 ヘクターが捜査をする件が頭を過ぎったが、パーティが終わって落ち着いてから話す方が良いだろう。そう思ったのに、オーギュストには誤魔化せなかった。

「その顔は何かあったんだね」

 顔に心配だと書いてある。この場で話したほうが良さそうだ。

「殿下にもお話がいくと思いますが……――」

 ミシュリーヌは掻い摘んでオーギュストに伝える。聖女関連の責任者はオーギュストだ。神殿からも報告書が上がってくるだろう。

「気になるね。ヘクター兄上が出てくるということは、神殿だけで済む話ではないのかもしれないな」

「そうなのですね。わたくしは、どうすれば良いでしょう?」

「うーん、兄上が出てくるなら、お任せすれば良いんじゃないかな。この曲が終わったら、兄上に挨拶だけしておこう」

 オーギュストは言いながら、ヘクターを探して視線を彷徨わせる。オーギュストは兄たちを信頼している。ミシュリーヌも異論はないので、しばらく静観することになるだろう。
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