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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第5話 ヘクター
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ミシュリーヌは二曲目を踊り終わると、オーギュストのエスコートでホールの壁際に誘導される。そこには、紳士と談笑する第三王子ヘクターの姿があった。
ミシュリーヌたちが近づいて行くと、先に気がついた紳士が二人に一礼して離れていく。
「お邪魔してしまったようで申し訳ありません」
「気にするな。今日の主役の二人が挨拶に来てくれて嬉しいよ」
ヘクターが青い瞳を細めて人懐っこく笑う。オーギュストも表情こそ変わらないが、弟らしい甘えた雰囲気が声から感じられた。
フルーナ王国の王子たちは四人とも仲が良い。特にオーギュストは末っ子だからか、異母兄たちにも可愛がられている。
ミシュリーヌは二人の会話を邪魔しないように笑顔を貼り付けて聞いていた。ヘクターに懐いているオーギュストには知られたくないが、ミシュリーヌはヘクターが苦手だ。ヘクターはミシュリーヌにも優しく接してくれており明確な理由もないが、どうしても気を許せない。
「ミシュリーヌ妃もパーティーを楽しんでいるかな」
「はい。楽しませて頂いておりますわ」
ヘクターがミシュリーヌにも微笑みかけてくれる。聡い義兄はミシュリーヌの心情にとっくに気づいているだろう。それをミシュリーヌに悟らせない余裕のある人だ。
「義姉上は一緒ではないのですね」
「ああ。彼女なら、あちらで友人たちと談笑しているよ」
ヘクターの視線の先では、第三王子妃イレーヌが令嬢たちに囲まれていた。イレーヌは庇護欲をそそる可愛らしい人で、男女ともに人気がある。
「話したいなら呼ぼうか?」
距離がかなりあったが、イレーヌはヘクターの視線に気がついたようだ。こちらに向かって、ふんわりと微笑んでいる。
「お邪魔をしては悪いですから呼ばなくて良いですよ。よろしくお伝え下さい」
「ああ、伝えておくよ」
ヘクターがイレーヌを見ると、イレーヌが微笑んだまま小さく頷く。二人は視線だけで会話できるらしい。
「どうした?」
ミシュリーヌもオーギュストを見上げてみるが、不思議そうに見返されるだけだ。残念に思いながら、何でもないと首をふる。オーギュストに話したら、魔法で会話する方法を考え始めそうだ。それも良いが、通じ合うヘクターとイレーヌには敵わない。
二人はお互いを尊重する仲のよい夫婦だと令嬢の中でも評判なのだ。ミシュリーヌは、羨ましく思いながらも、そのことにホッとしている部分もある。
元々、この国に来る予定だった聖女は、ミシュリーヌの異母姉だった。彼女は無理な要望を重ね、希望が実現したら嫁いで来ると言って、のらりくらりと婚姻を先送りにしていた。
その過程で婚約者を変更しろと言い出すこともあり、オーギュストを除く三人の王子は婚約者を何度も入れ替える羽目になったらしい。この国にはどうしても聖女が必要だったため、異母姉の我儘に付き合うしかなかったのだ。
最終的に異母姉は、帝国まで迎えに来た王太子ノルベルトを拒否し、冷遇されていた異母妹のミシュリーヌをフルーナ王国に押し付けた。オーギュストたちが隠していても、異母姉を中心とした帝国の者がフルーナ王国を見下していたことはミシュリーヌにも分かる。
「――……本当ならば、私が調べるべき聖女絡みの案件を引き受けて下さってありがとうございます」
ヘクターから浄化薬の件の詳細を聞いていたオーギュストが頭を下げる。ミシュリーヌも慌ててそれにならった。
「仕事だからお礼などいらないが……せっかくの機会だから、ミシュリーヌ妃に一曲付き合ってもらおうかな」
ヘクターがにっこりと笑ってミシュリーヌに手を差し出す。
「喜んでお受けいたしますわ」
ミシュリーヌは笑顔でヘクターの手に自分の手を重ねた。こんなふうに頼まれたら断れる訳もない。
「ミシュリーヌの事をよろしくお願いします」
頼みの綱のオーギュストは、あっさりとミシュリーヌの隣を譲る。分かっていたことだが、ちょっとだけ寂しかった。
ミシュリーヌたちが近づいて行くと、先に気がついた紳士が二人に一礼して離れていく。
「お邪魔してしまったようで申し訳ありません」
「気にするな。今日の主役の二人が挨拶に来てくれて嬉しいよ」
ヘクターが青い瞳を細めて人懐っこく笑う。オーギュストも表情こそ変わらないが、弟らしい甘えた雰囲気が声から感じられた。
フルーナ王国の王子たちは四人とも仲が良い。特にオーギュストは末っ子だからか、異母兄たちにも可愛がられている。
ミシュリーヌは二人の会話を邪魔しないように笑顔を貼り付けて聞いていた。ヘクターに懐いているオーギュストには知られたくないが、ミシュリーヌはヘクターが苦手だ。ヘクターはミシュリーヌにも優しく接してくれており明確な理由もないが、どうしても気を許せない。
「ミシュリーヌ妃もパーティーを楽しんでいるかな」
「はい。楽しませて頂いておりますわ」
ヘクターがミシュリーヌにも微笑みかけてくれる。聡い義兄はミシュリーヌの心情にとっくに気づいているだろう。それをミシュリーヌに悟らせない余裕のある人だ。
「義姉上は一緒ではないのですね」
「ああ。彼女なら、あちらで友人たちと談笑しているよ」
ヘクターの視線の先では、第三王子妃イレーヌが令嬢たちに囲まれていた。イレーヌは庇護欲をそそる可愛らしい人で、男女ともに人気がある。
「話したいなら呼ぼうか?」
距離がかなりあったが、イレーヌはヘクターの視線に気がついたようだ。こちらに向かって、ふんわりと微笑んでいる。
「お邪魔をしては悪いですから呼ばなくて良いですよ。よろしくお伝え下さい」
「ああ、伝えておくよ」
ヘクターがイレーヌを見ると、イレーヌが微笑んだまま小さく頷く。二人は視線だけで会話できるらしい。
「どうした?」
ミシュリーヌもオーギュストを見上げてみるが、不思議そうに見返されるだけだ。残念に思いながら、何でもないと首をふる。オーギュストに話したら、魔法で会話する方法を考え始めそうだ。それも良いが、通じ合うヘクターとイレーヌには敵わない。
二人はお互いを尊重する仲のよい夫婦だと令嬢の中でも評判なのだ。ミシュリーヌは、羨ましく思いながらも、そのことにホッとしている部分もある。
元々、この国に来る予定だった聖女は、ミシュリーヌの異母姉だった。彼女は無理な要望を重ね、希望が実現したら嫁いで来ると言って、のらりくらりと婚姻を先送りにしていた。
その過程で婚約者を変更しろと言い出すこともあり、オーギュストを除く三人の王子は婚約者を何度も入れ替える羽目になったらしい。この国にはどうしても聖女が必要だったため、異母姉の我儘に付き合うしかなかったのだ。
最終的に異母姉は、帝国まで迎えに来た王太子ノルベルトを拒否し、冷遇されていた異母妹のミシュリーヌをフルーナ王国に押し付けた。オーギュストたちが隠していても、異母姉を中心とした帝国の者がフルーナ王国を見下していたことはミシュリーヌにも分かる。
「――……本当ならば、私が調べるべき聖女絡みの案件を引き受けて下さってありがとうございます」
ヘクターから浄化薬の件の詳細を聞いていたオーギュストが頭を下げる。ミシュリーヌも慌ててそれにならった。
「仕事だからお礼などいらないが……せっかくの機会だから、ミシュリーヌ妃に一曲付き合ってもらおうかな」
ヘクターがにっこりと笑ってミシュリーヌに手を差し出す。
「喜んでお受けいたしますわ」
ミシュリーヌは笑顔でヘクターの手に自分の手を重ねた。こんなふうに頼まれたら断れる訳もない。
「ミシュリーヌの事をよろしくお願いします」
頼みの綱のオーギュストは、あっさりとミシュリーヌの隣を譲る。分かっていたことだが、ちょっとだけ寂しかった。
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