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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第6話 秘密
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ミシュリーヌはヘクターのエスコートでダンスの輪に加わる。ヘクターは何をやっても完璧にこなす人で、当然のようにダンスも上手い。ミシュリーヌの癖に合わせて踊りやすいように動いてくれている。
それでも、ミシュリーヌにとっては、不器用さが滲むオーギュストとのダンスの方が踊りやすかった。安定感のあるリードなのに、ヘクターが相手だと上手く足が動かない。
「オーギュストじゃないと踊りにくい?」
「そんなことはありませんわ」
ヘクターがにこやかに指摘してくるので、ミシュリーヌは笑顔が引き攣るのを必死で耐える。こういう揶揄いをする方ではないと思っていた。
「無理に否定しなくて良いよ。弟を大切に想ってくれているなら、私も嬉しいよ」
ヘクターがミシュリーヌに微笑みかけてから、近くで踊る人に視線を送る。ヘクターの視線の先を辿ると、オーギュストが華やかな女性と優雅に踊っていた。オーギュストの動きがミシュリーヌと踊るときより滑らかな気がする。
思わず目で追っていると、オーギュストの表情が一瞬ほころぶ。すぐに無表情に戻ったが、大勢の前であんな表情をするなんて滅多にない。
しかも、若い女性を相手に笑顔を見せるなんて……
ミシュリーヌの心がざわつく。
「気になる?」
「何のことでしょう?」
ミシュリーヌは見ていられなくて、ヘクターに視線を戻した。ヘクターの青い瞳は、意外にも心配そうにミシュリーヌを見つめている。
「あの二人は確かに、昔は婚約者同士だったけど、別れて七年も経っているんだし心配することはないよ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。遅れてオーギュストたちのことを言っているのだろうと理解する。オーギュストに婚約者がいたなんて話は聞いたこともない。ミシュリーヌに隠していたのだろうか?
「婚約者……」
ミシュリーヌが思わず呟くと、ヘクターが気まずそうな顔をする。
「ごめん。聞いていなかったんだね。真面目な奴だから、話していると思っていたよ」
「……」
先程のように、わたくしを揶揄っているのかしら?
ミシュリーヌは真意を確かめるようにヘクターを見つめるが、申し訳なさそうに眉を下げるだけだ。とても嘘をついているようには見えない。
「誤解しないでほしいんだけど、本人たちが婚約を希望したわけではないよ。子供の頃から仲が良かったから、周りがお膳立てしただけさ」
オーギュストは魔力の多さから恐れられ、多くの者に距離を置かれていた。そんな中で仲良くなった女性なんて特別に決まっている。
オーギュストはそれでも女性を気遣って婚約を言い出さなかったのかもしれない。妹としか思っていないミシュリーヌにすら、自分は疎まれる存在だからと様々な場面で遠慮をみせている。そんな心優しい彼が幸せになれるように、彼を愛する周囲が手を回したと考えれば辻褄が合う。
「あの頃は婚約解消なんて珍しいことじゃなかったからね。気にすることないよ」
あの頃……
ヘクターの慰めの言葉が、ミシュリーヌの胸に突き刺さる。
異母姉の我儘で三人の王子の婚約者は何度も入れ替わっていた。それなのに、その話にオーギュストの名が上がったことはない。異母姉よりオーギュストが年下だからだと思っていたが、心から愛し合う婚約者がいたからだとしたら……
引き裂いたのは、わたくしね。
オーギュストとミシュリーヌの結婚は、彼がノルベルトに提案したことで決まったと聞いている。それが本当だとしても、国の状況を考えれば、政略のために婚約者と泣く泣く別れていてもおかしくない。ミシュリーヌの祖国とフルーナ王国には物理的な距離がある。王国にいる者と連絡を取り合うのは難しく、同行していた者の中から結婚相手を選ぶしかなかったことは想像がつく。
「不貞を働くような奴じゃない。ちゃんと気持ちを吹っ切っていると思うよ」
ヘクターが励ましてくれているが、ミシュリーヌの心には響かなかった。
どうしても、ミシュリーヌは彼女と踊るオーギュストの笑顔を思い出してしまうのだ。あの笑顔は心を開いた相手に向けるものだ。オーギュストの心には、今でも彼女だけの場所があるのかもしれない。
ミシュリーヌは二人の姿を見たくなくて、視線を下げて踊った。
オーギュストは国のためにミシュリーヌのそばにいる。オーギュストが笑顔を見せたとしても、ミシュリーヌとの生活に幸せを感じているとは限らない。
それでも、ミシュリーヌにとっては、不器用さが滲むオーギュストとのダンスの方が踊りやすかった。安定感のあるリードなのに、ヘクターが相手だと上手く足が動かない。
「オーギュストじゃないと踊りにくい?」
「そんなことはありませんわ」
ヘクターがにこやかに指摘してくるので、ミシュリーヌは笑顔が引き攣るのを必死で耐える。こういう揶揄いをする方ではないと思っていた。
「無理に否定しなくて良いよ。弟を大切に想ってくれているなら、私も嬉しいよ」
ヘクターがミシュリーヌに微笑みかけてから、近くで踊る人に視線を送る。ヘクターの視線の先を辿ると、オーギュストが華やかな女性と優雅に踊っていた。オーギュストの動きがミシュリーヌと踊るときより滑らかな気がする。
思わず目で追っていると、オーギュストの表情が一瞬ほころぶ。すぐに無表情に戻ったが、大勢の前であんな表情をするなんて滅多にない。
しかも、若い女性を相手に笑顔を見せるなんて……
ミシュリーヌの心がざわつく。
「気になる?」
「何のことでしょう?」
ミシュリーヌは見ていられなくて、ヘクターに視線を戻した。ヘクターの青い瞳は、意外にも心配そうにミシュリーヌを見つめている。
「あの二人は確かに、昔は婚約者同士だったけど、別れて七年も経っているんだし心配することはないよ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。遅れてオーギュストたちのことを言っているのだろうと理解する。オーギュストに婚約者がいたなんて話は聞いたこともない。ミシュリーヌに隠していたのだろうか?
「婚約者……」
ミシュリーヌが思わず呟くと、ヘクターが気まずそうな顔をする。
「ごめん。聞いていなかったんだね。真面目な奴だから、話していると思っていたよ」
「……」
先程のように、わたくしを揶揄っているのかしら?
ミシュリーヌは真意を確かめるようにヘクターを見つめるが、申し訳なさそうに眉を下げるだけだ。とても嘘をついているようには見えない。
「誤解しないでほしいんだけど、本人たちが婚約を希望したわけではないよ。子供の頃から仲が良かったから、周りがお膳立てしただけさ」
オーギュストは魔力の多さから恐れられ、多くの者に距離を置かれていた。そんな中で仲良くなった女性なんて特別に決まっている。
オーギュストはそれでも女性を気遣って婚約を言い出さなかったのかもしれない。妹としか思っていないミシュリーヌにすら、自分は疎まれる存在だからと様々な場面で遠慮をみせている。そんな心優しい彼が幸せになれるように、彼を愛する周囲が手を回したと考えれば辻褄が合う。
「あの頃は婚約解消なんて珍しいことじゃなかったからね。気にすることないよ」
あの頃……
ヘクターの慰めの言葉が、ミシュリーヌの胸に突き刺さる。
異母姉の我儘で三人の王子の婚約者は何度も入れ替わっていた。それなのに、その話にオーギュストの名が上がったことはない。異母姉よりオーギュストが年下だからだと思っていたが、心から愛し合う婚約者がいたからだとしたら……
引き裂いたのは、わたくしね。
オーギュストとミシュリーヌの結婚は、彼がノルベルトに提案したことで決まったと聞いている。それが本当だとしても、国の状況を考えれば、政略のために婚約者と泣く泣く別れていてもおかしくない。ミシュリーヌの祖国とフルーナ王国には物理的な距離がある。王国にいる者と連絡を取り合うのは難しく、同行していた者の中から結婚相手を選ぶしかなかったことは想像がつく。
「不貞を働くような奴じゃない。ちゃんと気持ちを吹っ切っていると思うよ」
ヘクターが励ましてくれているが、ミシュリーヌの心には響かなかった。
どうしても、ミシュリーヌは彼女と踊るオーギュストの笑顔を思い出してしまうのだ。あの笑顔は心を開いた相手に向けるものだ。オーギュストの心には、今でも彼女だけの場所があるのかもしれない。
ミシュリーヌは二人の姿を見たくなくて、視線を下げて踊った。
オーギュストは国のためにミシュリーヌのそばにいる。オーギュストが笑顔を見せたとしても、ミシュリーヌとの生活に幸せを感じているとは限らない。
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