【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】

第10話 隣町で

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 ミシュリーヌは魔獣うごめく夜の街道を愛馬でかける。普通の人間なら避ける時間だが、聖女であるミシュリーヌには問題ない。

 自分の周囲に聖魔力を流していれば、戦闘中の荒ぶった魔獣でない限り、向こうの方が勝手に逃げていくのだ。魔力の消費は気になるが、一晩くらいなら枯渇させる心配もない。背中に背負っている弓を使うことはないだろう。

「順調ね」

 ミシュリーヌは王族のみが使える脱出路を通り、途中で愛馬を厩舎から拝借して王都を出た。これもオーギュストから聞かされていた緊急時の避難方法の一つであるが、他には知らないのだからしょうがない。ありがたく使わせてもらった。
 
 どれも魔法で閉じられた一方通行の道だが、寝室の隠し扉を出たあとは必死だったので躊躇する余裕もなかった。

「夜が明けるわ」

 辺りが明るくなってくると、街道の先に王都に隣接する街の塀が見えてくる。魔獣の多いこの国では、塀に囲まれ、夜には門が閉ざされる街も多い。このまま向かえば、開門と同時に入ることになるだろう。

「もう少し待ったほうが良いわよね」

 ミシュリーヌは街道から少し外れた林の中に隠れて、愛馬に水と食事を与える。聖女特有の真っ黒な髪をオーギュストの開発した魔法薬で茶色に変え、増えてきた人に紛れるように門に向かった。

「名前は?」

 門番は怪訝そうにミシュリーヌを見る。聖女であるミシュリーヌは、街に入るのに門の前で並ぶことはない。余程のことがない限り入れてもらえると聞いていたが、ドキドキしてしまう。

「冒険者のミーシャです」

 ミシュリーヌは下げていたバッグから身分証を取り出す。オーギュストが作ったので、存在しない人物のものではあるが偽造品ではない。

「それはお前の馬か?」

 ミシュリーヌは疑うような視線の理由が分かって安堵する。どうやら、愛馬の毛並みを見て、不相応だと思われたらしい。

「高貴なお方からお預かりしている馬なんです。この街に連れてくるようにと申し付けられて来ました」

 ミシュリーヌは早口にならないように気をつけながら言った。愛馬が緊張するミシュリーヌを宥めるようにすり寄ってくれている。優しい相棒だ。

「そうか。お疲れさん。通って問題ない」

 どうやら、門番は懐き方を見て納得してくれたようだ。訓練されている馬は、盗人に懐くようなことはない。

 それに、貴族が遊びに出るときに侍従に馬を預けることもよくあるらしいと聞いている。ミシュリーヌもオーギュストと遠乗りに出た際に、一時的に侍従に馬を預けることもあった。冒険者を名乗るのも、遊び歩く主人の名を明かさぬために使われる手だとオーギュストが言っていた。これも万が一のときのための教えの一つだ。

「ありがとうございます」

 ミシュリーヌは頭を下げて門を潜った。結局、離れてもオーギュストの助けを借りているようで情けない。

 オーギュストなら、『冒険者ミーシャ』がこの街に入ったことも、時間をかけて調べれば分かるだろう。

 オーギュストから逃げたいと思いながら、どこかで探しに来てくれることを望んでいる。ミシュリーヌはその事に気づかないふりをして街の中を歩いた。


 少し探したが、目的の場所は思った通りの場所にあった。魔獣に侵入される可能性を考えて、どの街もだいたい同じような造りになっている。応援に来た騎士や魔導師が戦闘に参加しやすくするためだ。

 ミシュリーヌは高級感のある宿の厩舎に向かう。朝早い時間だが、馬丁はすでに仕事を始めていた。

「すみません。主人が後で引き取りに来るので、この馬を預かって頂けますか?」

「ああ、構わないよ」

 ミシュリーヌは少なくないお金を支払って、愛馬を預ける。オーギュストの名を伝えたので、引き取りに来ないからと、宿の者が数日後には王宮に連絡を入れてくれるだろう。
 
 ここから先、旅人として動くなら、愛馬を連れて行くわけにはいかない。臆病でなければ軍馬になっていたような馬だ。地方の街で目立つことは、聖女として一緒に旅をしていたミシュリーヌならよく知っている。

「ここまで一緒に来てくれてありがとう。迎えが来るはずだから待っててね」

 厩舎は掃除が行き届いているので、大切に扱ってくれるだろう。

 それでも、ミシュリーヌはチラチラと振り返って厩舎を見てしまう。一人になって心細いのは、ミシュリーヌのほうかもしれない。
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