【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】

第11話 馬車に揺られて

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 その日の昼過ぎ、ミシュリーヌはある商会の馬車に乗っていた。朝市が終わる時間に市に向えば、商会が同乗者を募集していることが多い。今日、出発する商会のうち、王都から離れる馬車に乗せてもらったのだ。

 これも過保護なオーギュストが教えてくれた知識だ。オーギュストの乳兄弟であるジョエルの兄が治めるヴァーグ伯爵領に向かうなら、十通りくらいの方法をミシュリーヌは知っている。

 もちろん、ミシュリーヌはヴァーグ伯爵領に向かうつもりはない。ミシュリーヌが選んだ商会は、いくつかの町や村を回りながら、王都と第三都市を行き来しているらしい。第三都市はミシュリーヌがこの国に来て最初の旅で浄化を行った地だ。他の町と比べて思い入れがある。嘘をついて申し訳ないが、『ミーシャ』の親族が暮らしており会いに行くのだと商会の人には伝えた。

 第三都市は第二王子ガエルが婿入り予定のフリルネロ公爵領の領都でもある。しかし、人の多い都市なので、市民に混ざっていればガエルに見つかる心配はないだろう。もっとも、ガエルは仕事熱心ではないので、フリルネロ公爵領に来ることがあるのかさえ分からない。数年ほどをこの町で過ごし、住みやすい国を調べて、その後は移住するつもりだ。


「上着をお尻の下に敷くと、いくらか楽になるわよ」

 ミシュリーヌが何度も座り直していると、隣の女性が小声で教えてくれる。言われたとおりに上着をバッグから出して敷くと、馬車の揺れによる振動が少しだけ緩和された。

「ありがとうございます」

 ミシュリーヌは女性にペコリと頭を下げる。これなら、お尻に回復魔法をかける回数を減らせそうだ。周囲の人が平然と乗っていると思ったら、そんな工夫をしていたらしい。

 ミシュリーヌがキョロキョロしていると、女性が微笑ましそうに見ていた。

「旅は初めて? 慣れていないのが分かると、怪しいやつが寄ってくるから注意してね」

「はい。気をつけます」

 ミシュリーヌは返事をしながら背中の弓に手を触れる。対人戦闘には役に立たないことに気がついて、懐のナイフをチラリと見せた。戦えるという意味だったのだが、女性は笑顔のまま小さく首を振る。

「あなたみたいな子は逃げることを優先したほうが良いわよ」

「そうします」

 本当はオーギュストのローブで魔法は弾くことができるし、聖女の加護があれば、物理攻撃も受けづらい。今言うことではないので、ミシュリーヌは親切な警告を素直に受け取ることにした。

『一人のときに何かあったら、とにかく逃げろ』

 オーギュストも口を酸っぱくして言っていたことだ。

「私はサビーヌ。これでも、少し前までは冒険者をしてたのよ。何か困ったことがあったら言ってね」

 サビーヌは腰に下げた立派な剣を見せてくれる。スラッと引き締まった中性的な女性だが、冒険者時代は剣士をしていたようだ。『前まで』とは言っても、今も鍛えていることが素人のミシュリーヌにも分かった。

「ありがとうございます。わたくし……私は『ミーシャ』と申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」

 その後はサビーヌの家族の話を聞きながら馬車の旅を過ごした。故郷には数年会えていない妹がいるようで、ミシュリーヌがその妹と重なり心配になったらしい。

「王都には、病気の夫の薬を買いに行ったの。特殊な薬だから、手に入って幸運だったわ」

 サビーヌは愛おしそうに上着のポケットに触れる。サビーヌは王都で薬を買ってフリルネロ公爵領にある自宅に帰るらしい。

「私もフリルネロ公爵領内にある第三都市に向かう予定なんです」

「そう。フリルネロ公爵領は魔獣が多いからあまりおすすめしないけど……」
 
「魔獣が多いんですか?」

 ミシュリーヌは思わず聞き返した。ミシュリーヌの記憶では、王都の次に平和を取り戻した地域のはずなのだ。 

「理由は分からないけど、一年ほど前から増えているのは確かよ」

 サビーヌが同意を求めるように周囲を見ると、何人かが頷いて見せる。表情は一様に神妙で、事実であることを物語っていた。

「お嬢ちゃん、仕事を探しに行くのかい? 特に第三都市にこだわる理由がないなら、大きな都市を通るときに別の商会を探した方が良い」

 ミシュリーヌの向かいに座る男性が暗い表情で言う。今日始めて会ったのに、ミシュリーヌを心配してくれているようだ。

「私もそう思う」

 サビーヌも同意見のようだ。

 ミシュリーヌ以外の同乗者が、戦闘に適した服装をしている。危険な地域との行き来だったから護衛を兼ねているのかもしれない。商会の人がミシュリーヌを同乗させるのを迷っていたのも同じ理由だろうか?

「ご忠告ありがとうございます。でも、私は第三都市に向かおうと思います」

 魔獣が増えているなら、ミシュリーヌとしては自分の仕事がきちんとできていたのか確かめる必要がある。

 浄化の水晶は魔素を浄化し続けると穢れて効果が落ちてしまう。しかし、ミシュリーヌがきちんと浄化し、神官が浄化を引き継いでくれているので、たった六年で作動しなくなるわけがない。ミシュリーヌの能力不足なら、他の町の今後も心配だ。

「ミーシャにも考えがあるでしょうから、これ以上は言わないわ。でも、乗り換えができそうな街も少ないし、そこに着くまでにもう一度だけ考えてみて」

「はい。お気遣いありがとうございます」

 ミシュリーヌはお礼を言って思考を巡らす。そういえば、浄化薬が通常の配給では足らなくなっていた。ミシュリーヌが知らないだけで、この国は浄化終了を祝っているような状況ではないのかもしれない。
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