11 / 160
一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第10話 隣町で
しおりを挟む
ミシュリーヌは魔獣蠢く夜の街道を愛馬でかける。普通の人間なら避ける時間だが、聖女であるミシュリーヌには問題ない。
自分の周囲に聖魔力を流していれば、戦闘中の荒ぶった魔獣でない限り、向こうの方が勝手に逃げていくのだ。魔力の消費は気になるが、一晩くらいなら枯渇させる心配もない。背中に背負っている弓を使うことはないだろう。
「順調ね」
ミシュリーヌは王族のみが使える脱出路を通り、途中で愛馬を厩舎から拝借して王都を出た。これもオーギュストから聞かされていた緊急時の避難方法の一つであるが、他には知らないのだからしょうがない。ありがたく使わせてもらった。
どれも魔法で閉じられた一方通行の道だが、寝室の隠し扉を出たあとは必死だったので躊躇する余裕もなかった。
「夜が明けるわ」
辺りが明るくなってくると、街道の先に王都に隣接する街の塀が見えてくる。魔獣の多いこの国では、塀に囲まれ、夜には門が閉ざされる街も多い。このまま向かえば、開門と同時に入ることになるだろう。
「もう少し待ったほうが良いわよね」
ミシュリーヌは街道から少し外れた林の中に隠れて、愛馬に水と食事を与える。聖女特有の真っ黒な髪をオーギュストの開発した魔法薬で茶色に変え、増えてきた人に紛れるように門に向かった。
「名前は?」
門番は怪訝そうにミシュリーヌを見る。聖女であるミシュリーヌは、街に入るのに門の前で並ぶことはない。余程のことがない限り入れてもらえると聞いていたが、ドキドキしてしまう。
「冒険者のミーシャです」
ミシュリーヌは下げていたバッグから身分証を取り出す。オーギュストが作ったので、存在しない人物のものではあるが偽造品ではない。
「それはお前の馬か?」
ミシュリーヌは疑うような視線の理由が分かって安堵する。どうやら、愛馬の毛並みを見て、不相応だと思われたらしい。
「高貴なお方からお預かりしている馬なんです。この街に連れてくるようにと申し付けられて来ました」
ミシュリーヌは早口にならないように気をつけながら言った。愛馬が緊張するミシュリーヌを宥めるようにすり寄ってくれている。優しい相棒だ。
「そうか。お疲れさん。通って問題ない」
どうやら、門番は懐き方を見て納得してくれたようだ。訓練されている馬は、盗人に懐くようなことはない。
それに、貴族が遊びに出るときに侍従に馬を預けることもよくあるらしいと聞いている。ミシュリーヌもオーギュストと遠乗りに出た際に、一時的に侍従に馬を預けることもあった。冒険者を名乗るのも、遊び歩く主人の名を明かさぬために使われる手だとオーギュストが言っていた。これも万が一のときのための教えの一つだ。
「ありがとうございます」
ミシュリーヌは頭を下げて門を潜った。結局、離れてもオーギュストの助けを借りているようで情けない。
オーギュストなら、『冒険者ミーシャ』がこの街に入ったことも、時間をかけて調べれば分かるだろう。
オーギュストから逃げたいと思いながら、どこかで探しに来てくれることを望んでいる。ミシュリーヌはその事に気づかないふりをして街の中を歩いた。
少し探したが、目的の場所は思った通りの場所にあった。魔獣に侵入される可能性を考えて、どの街もだいたい同じような造りになっている。応援に来た騎士や魔導師が戦闘に参加しやすくするためだ。
ミシュリーヌは高級感のある宿の厩舎に向かう。朝早い時間だが、馬丁はすでに仕事を始めていた。
「すみません。主人が後で引き取りに来るので、この馬を預かって頂けますか?」
「ああ、構わないよ」
ミシュリーヌは少なくないお金を支払って、愛馬を預ける。オーギュストの名を伝えたので、引き取りに来ないからと、宿の者が数日後には王宮に連絡を入れてくれるだろう。
ここから先、旅人として動くなら、愛馬を連れて行くわけにはいかない。臆病でなければ軍馬になっていたような馬だ。地方の街で目立つことは、聖女として一緒に旅をしていたミシュリーヌならよく知っている。
「ここまで一緒に来てくれてありがとう。迎えが来るはずだから待っててね」
厩舎は掃除が行き届いているので、大切に扱ってくれるだろう。
それでも、ミシュリーヌはチラチラと振り返って厩舎を見てしまう。一人になって心細いのは、ミシュリーヌのほうかもしれない。
自分の周囲に聖魔力を流していれば、戦闘中の荒ぶった魔獣でない限り、向こうの方が勝手に逃げていくのだ。魔力の消費は気になるが、一晩くらいなら枯渇させる心配もない。背中に背負っている弓を使うことはないだろう。
「順調ね」
ミシュリーヌは王族のみが使える脱出路を通り、途中で愛馬を厩舎から拝借して王都を出た。これもオーギュストから聞かされていた緊急時の避難方法の一つであるが、他には知らないのだからしょうがない。ありがたく使わせてもらった。
どれも魔法で閉じられた一方通行の道だが、寝室の隠し扉を出たあとは必死だったので躊躇する余裕もなかった。
「夜が明けるわ」
辺りが明るくなってくると、街道の先に王都に隣接する街の塀が見えてくる。魔獣の多いこの国では、塀に囲まれ、夜には門が閉ざされる街も多い。このまま向かえば、開門と同時に入ることになるだろう。
「もう少し待ったほうが良いわよね」
ミシュリーヌは街道から少し外れた林の中に隠れて、愛馬に水と食事を与える。聖女特有の真っ黒な髪をオーギュストの開発した魔法薬で茶色に変え、増えてきた人に紛れるように門に向かった。
「名前は?」
門番は怪訝そうにミシュリーヌを見る。聖女であるミシュリーヌは、街に入るのに門の前で並ぶことはない。余程のことがない限り入れてもらえると聞いていたが、ドキドキしてしまう。
「冒険者のミーシャです」
ミシュリーヌは下げていたバッグから身分証を取り出す。オーギュストが作ったので、存在しない人物のものではあるが偽造品ではない。
「それはお前の馬か?」
ミシュリーヌは疑うような視線の理由が分かって安堵する。どうやら、愛馬の毛並みを見て、不相応だと思われたらしい。
「高貴なお方からお預かりしている馬なんです。この街に連れてくるようにと申し付けられて来ました」
ミシュリーヌは早口にならないように気をつけながら言った。愛馬が緊張するミシュリーヌを宥めるようにすり寄ってくれている。優しい相棒だ。
「そうか。お疲れさん。通って問題ない」
どうやら、門番は懐き方を見て納得してくれたようだ。訓練されている馬は、盗人に懐くようなことはない。
それに、貴族が遊びに出るときに侍従に馬を預けることもよくあるらしいと聞いている。ミシュリーヌもオーギュストと遠乗りに出た際に、一時的に侍従に馬を預けることもあった。冒険者を名乗るのも、遊び歩く主人の名を明かさぬために使われる手だとオーギュストが言っていた。これも万が一のときのための教えの一つだ。
「ありがとうございます」
ミシュリーヌは頭を下げて門を潜った。結局、離れてもオーギュストの助けを借りているようで情けない。
オーギュストなら、『冒険者ミーシャ』がこの街に入ったことも、時間をかけて調べれば分かるだろう。
オーギュストから逃げたいと思いながら、どこかで探しに来てくれることを望んでいる。ミシュリーヌはその事に気づかないふりをして街の中を歩いた。
少し探したが、目的の場所は思った通りの場所にあった。魔獣に侵入される可能性を考えて、どの街もだいたい同じような造りになっている。応援に来た騎士や魔導師が戦闘に参加しやすくするためだ。
ミシュリーヌは高級感のある宿の厩舎に向かう。朝早い時間だが、馬丁はすでに仕事を始めていた。
「すみません。主人が後で引き取りに来るので、この馬を預かって頂けますか?」
「ああ、構わないよ」
ミシュリーヌは少なくないお金を支払って、愛馬を預ける。オーギュストの名を伝えたので、引き取りに来ないからと、宿の者が数日後には王宮に連絡を入れてくれるだろう。
ここから先、旅人として動くなら、愛馬を連れて行くわけにはいかない。臆病でなければ軍馬になっていたような馬だ。地方の街で目立つことは、聖女として一緒に旅をしていたミシュリーヌならよく知っている。
「ここまで一緒に来てくれてありがとう。迎えが来るはずだから待っててね」
厩舎は掃除が行き届いているので、大切に扱ってくれるだろう。
それでも、ミシュリーヌはチラチラと振り返って厩舎を見てしまう。一人になって心細いのは、ミシュリーヌのほうかもしれない。
19
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする
白雨 音
恋愛
公爵令嬢オーロラの罪は、雇われのエバが罰を受ける、
12歳の時からの日常だった。
恨みを持つエバは、オーロラの14歳の誕生日、魔力を使い入れ換わりを果たす。
それ以来、オーロラはエバ、エバはオーロラとして暮らす事に…。
ガッカリな婚約者と思っていたオーロラの婚約者は、《エバ》には何故か優しい。
『自分を許してくれれば、元の姿に戻してくれる』と信じて待つが、
魔法学校に上がっても、入れ換わったままで___
(※転生ものではありません) ※完結しました
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる