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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第17話 サビーヌの選択
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翌日の夜、野営地が整うと、ヤニックがサビーヌを呼び出した。ミシュリーヌは、ヤニックとサビーヌが真剣な表情で話し合っているのを遠くから見守る。
ヤニックは一日考えて、サビーヌに話すことに決めたようだ。ミシュリーヌの能力は暈して、浄化薬が一本余っているとだけ伝えるのだそう。
『これは俺の判断だ。責任は俺が取る』
ヤニックはミシュリーヌが了承すると、そんなふうに言っていた。だが、ミシュリーヌは、その『責任』に関しては悩んでいる。咄嗟にヤニックの言葉に頷いてしまったが、それで良いのだろうか?
今までは、当たり前のようにオーギュストの判断に従ってきた。彼は魔導師団長だから、この国の王子だから、何より頼れる夫だから。そう思って苦しい決断を押し付けてはいなかっただろうか?
そんなミシュリーヌの甘えが、二人の関係を歪なものにしていたのだとしたら……
それに、ヤニックはオーギュストとは違い、守るべき国民だ。そもそも、ミシュリーヌが甘えて良い相手ではないし、寄りかかりたいとも思えない。
「わたくしには、力を持って産まれた者としての責任があるわ」
ミシュリーヌは決意を持って立ち上がる。ミシュリーヌにも聖女としての矜持がある。
ミシュリーヌが歩みよると、サビーヌがこちらに視線を向けた。二人の話も、ちょうど終わったようだ。
「ヤニックさんに聞いたわ。もちろん、治癒は難しいと理解している。それでも、私は諦めたくない」
サビーヌの瞳は、決意に満ちている。ミシュリーヌは頷いて、浄化薬を差し出した。
「話を聞いたときに、お渡しできず、すみませんでした。これを使ってください」
「ありがとう。この恩は必ずお返しします」
サビーヌの瞳が潤んでいる。ミシュリーヌは浄化薬が効くことを祈りながら、サビーヌに手渡した。
「サビーヌさんがいなければ、無知な私は旅を続けられませんでした。お世話になったお礼だと思って下さい。ただ、一つだけお願いがあります。使うところを見届けさせて頂けませんか?」
「おい、ミーシャ?」
黙って見守っていたヤニックが、困った顔で口を挟む。上手くいかなかったときのことを心配してくれているのだろう。その優しさはありがたく思う。
「これをお渡しするなら、私には見届ける責任があります」
ミシュリーヌの気持ちは変わらない。そのことが誇らしかった。
「それなら、俺も……」
「いいえ。これは私の仕事です。責任は私にあります」
ミシュリーヌがきっぱりと言うと、ヤニックはハッとしたような顔をした。急に畏まって、サビーヌとともに頭を下げる。
「よろしくお願いします」
二人の態度は『聖女ミシュリーヌ』に対するものだった。ミシュリーヌにとっては、慣れている反応だ。ただ、『ミーシャ』として共に過ごしてきた時間を思い出すと寂しい気持ちもある。
「今まで通りでいて下さい。私はただの『ミーシャ』ですよ」
「そうさせて貰うな」
「ミーシャ、ありがとう」
二人はミシュリーヌの気持ちを汲んで言葉こそ戻してくれたが、やはり今までとはどこかが違う。そのことに寂しさを感じながら、ミシュリーヌは聖女らしい笑顔を返した。
数日後、ミシュリーヌたちはサビーヌの自宅のある街に到着した。商会もこの街に三日ほど留まって、市に出店するらしい。フリルネロ公爵領に入って初めての商いに、商会の人の表情も明るい。
「世話になった」
「こちらこそ、皆さんが我々の商会に同行して下さって助かりました。ありがとうございます」
サビーヌやヤニックを含めて数人の冒険者は、この街で商会と別れるらしい。ミシュリーヌは第三都市である領都まで同行するので、商会が街を出るときに再び合流する予定だ。
「ミーシャさん、これを渡しておきますね」
商会の人に呼ばれて手元を見ると、魔石の入った袋を持っていた。その中のいくつかをミシュリーヌの前に差し出す。
魔石とは魔獣を倒すと中心部から採取できる魔力の籠もった石のことだ。魔導具の動力として使えるため、良い値段で取引されている。この国が魔獣に悩まされながらも何とか耐えてきたのは、この魔石を輸出して外貨を得ていたおかげだ。
「これを私に?」
ミシュリーヌは受け取れないまま魔石を見つめる。旅の中で、冒険者たちが倒していた魔獣からとったものだろう。
「今日で馬車を降りる者も多いので、報酬の分配です」
「でも、私は後方支援をしていただけで……」
「ミーシャ、受け取っておけ」
声をかけて来たのはヤニックだ。商人や他の冒険者たちも頷いている。
「我々は商人です。感情で物のやり取りはしません。これはミーシャさんへの正当な報酬ですよ」
正当な報酬……
ミシュリーヌはその言葉を噛み締める。自分が認められた気がして嬉しかった。オーギュストの助けを得ずに自分の力で得た初めての報酬だ。
「大切に使わせて頂きます」
「風の魔石は火に焚べるなよ」
「有名な迷信ですよね。それくらいは知っています。理由は知りませんけど……」
「俺も知らん」
ミシュリーヌはヤニックの軽口に答えながら受け取った。緊張しながら、ハンカチに丁寧に包んでバッグにしまう。たぶん、もったいなくて売ることも使うこともできないだろう。
ヤニックは一日考えて、サビーヌに話すことに決めたようだ。ミシュリーヌの能力は暈して、浄化薬が一本余っているとだけ伝えるのだそう。
『これは俺の判断だ。責任は俺が取る』
ヤニックはミシュリーヌが了承すると、そんなふうに言っていた。だが、ミシュリーヌは、その『責任』に関しては悩んでいる。咄嗟にヤニックの言葉に頷いてしまったが、それで良いのだろうか?
今までは、当たり前のようにオーギュストの判断に従ってきた。彼は魔導師団長だから、この国の王子だから、何より頼れる夫だから。そう思って苦しい決断を押し付けてはいなかっただろうか?
そんなミシュリーヌの甘えが、二人の関係を歪なものにしていたのだとしたら……
それに、ヤニックはオーギュストとは違い、守るべき国民だ。そもそも、ミシュリーヌが甘えて良い相手ではないし、寄りかかりたいとも思えない。
「わたくしには、力を持って産まれた者としての責任があるわ」
ミシュリーヌは決意を持って立ち上がる。ミシュリーヌにも聖女としての矜持がある。
ミシュリーヌが歩みよると、サビーヌがこちらに視線を向けた。二人の話も、ちょうど終わったようだ。
「ヤニックさんに聞いたわ。もちろん、治癒は難しいと理解している。それでも、私は諦めたくない」
サビーヌの瞳は、決意に満ちている。ミシュリーヌは頷いて、浄化薬を差し出した。
「話を聞いたときに、お渡しできず、すみませんでした。これを使ってください」
「ありがとう。この恩は必ずお返しします」
サビーヌの瞳が潤んでいる。ミシュリーヌは浄化薬が効くことを祈りながら、サビーヌに手渡した。
「サビーヌさんがいなければ、無知な私は旅を続けられませんでした。お世話になったお礼だと思って下さい。ただ、一つだけお願いがあります。使うところを見届けさせて頂けませんか?」
「おい、ミーシャ?」
黙って見守っていたヤニックが、困った顔で口を挟む。上手くいかなかったときのことを心配してくれているのだろう。その優しさはありがたく思う。
「これをお渡しするなら、私には見届ける責任があります」
ミシュリーヌの気持ちは変わらない。そのことが誇らしかった。
「それなら、俺も……」
「いいえ。これは私の仕事です。責任は私にあります」
ミシュリーヌがきっぱりと言うと、ヤニックはハッとしたような顔をした。急に畏まって、サビーヌとともに頭を下げる。
「よろしくお願いします」
二人の態度は『聖女ミシュリーヌ』に対するものだった。ミシュリーヌにとっては、慣れている反応だ。ただ、『ミーシャ』として共に過ごしてきた時間を思い出すと寂しい気持ちもある。
「今まで通りでいて下さい。私はただの『ミーシャ』ですよ」
「そうさせて貰うな」
「ミーシャ、ありがとう」
二人はミシュリーヌの気持ちを汲んで言葉こそ戻してくれたが、やはり今までとはどこかが違う。そのことに寂しさを感じながら、ミシュリーヌは聖女らしい笑顔を返した。
数日後、ミシュリーヌたちはサビーヌの自宅のある街に到着した。商会もこの街に三日ほど留まって、市に出店するらしい。フリルネロ公爵領に入って初めての商いに、商会の人の表情も明るい。
「世話になった」
「こちらこそ、皆さんが我々の商会に同行して下さって助かりました。ありがとうございます」
サビーヌやヤニックを含めて数人の冒険者は、この街で商会と別れるらしい。ミシュリーヌは第三都市である領都まで同行するので、商会が街を出るときに再び合流する予定だ。
「ミーシャさん、これを渡しておきますね」
商会の人に呼ばれて手元を見ると、魔石の入った袋を持っていた。その中のいくつかをミシュリーヌの前に差し出す。
魔石とは魔獣を倒すと中心部から採取できる魔力の籠もった石のことだ。魔導具の動力として使えるため、良い値段で取引されている。この国が魔獣に悩まされながらも何とか耐えてきたのは、この魔石を輸出して外貨を得ていたおかげだ。
「これを私に?」
ミシュリーヌは受け取れないまま魔石を見つめる。旅の中で、冒険者たちが倒していた魔獣からとったものだろう。
「今日で馬車を降りる者も多いので、報酬の分配です」
「でも、私は後方支援をしていただけで……」
「ミーシャ、受け取っておけ」
声をかけて来たのはヤニックだ。商人や他の冒険者たちも頷いている。
「我々は商人です。感情で物のやり取りはしません。これはミーシャさんへの正当な報酬ですよ」
正当な報酬……
ミシュリーヌはその言葉を噛み締める。自分が認められた気がして嬉しかった。オーギュストの助けを得ずに自分の力で得た初めての報酬だ。
「大切に使わせて頂きます」
「風の魔石は火に焚べるなよ」
「有名な迷信ですよね。それくらいは知っています。理由は知りませんけど……」
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