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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第20話 神殿の様子
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クリストフは話を終えると、店員を呼んで土産まで注文していた。マジックバッグに入れておけば腐らないが、三つも食べたのによく飽きないなとオーギュストは感心してしまう。
「尾行されたりしなかったか?」
オーギュストは、ケーキをいそいそとしまっているクリストフを横目に、窓際へと近づく。カーテンを薄く開けると、賑やかな街を見下ろすことができた。魔法で調べても、こちらに注目する者はいない。
「大丈夫ですよ。うちの神官長はこの件に興味がありません。今は『ある女性』の動向を調べることに必死ですからね」
オーギュストは驚いてクリストフを振り返る。王都の神官長が動向を気にする女性なんて一人しかいない。クリストフは、動揺するオーギュストを哀れむように見ていた。
「殿下より先に見つける能力はないと思いますが、早く保護されたほうが良いですよ」
「……いつから知っていた?」
オーギュストは探るようにクリストフを見る。ミシュリーヌの出奔を知っているのは限られた人間だ。いずれも、オーギュストの意思に反して誰かに話したりはしない。
「やはり、ご病気ではないんですね。神官長も確信を持っているわけではないと思いますよ。ただ、殿下は分かりやすいですからね」
「そうか」
どうやら、確証があったわけではなく探りを入れられていたようだ。オーギュストは、平然と王族をはめるクリストフにあきれてしまう。
もし、ミシュリーヌが屋敷で寝込んでいるなら、オーギュストが王宮を空けるわけがないとクリストフは言う。ミシュリーヌを探しに出ていた時期のことを言っているのだろう。隠し通せるような期間ではなかったので、魔導師団の任務だったことになっている。
「儚い見た目のわりにお転婆なのは、神官長もよく知っていますからね。オーギュスト殿下に過保護にされ過ぎて、逃げ出したんじゃないかって推測しているようです」
「……」
神官長はミシュリーヌに聖女の魔法を教えてくれた人物だ。いろいろな噂がある人だが、ミシュリーヌのことは孫のように可愛がっている。王家と神殿の微妙な駆け引きを抜きにしても、『魔族の子』と呼ばれるようなオーギュストからミシュリーヌを離したいのだ。
「ミシュリーヌ妃も公の場では深窓の姫君のように見えますからね。気づいている者は多くないと思いますよ。ただし、こんな状況ですから、注意は必要です」
「そうか。実は……」
「あ、詳しく語らないで下さいね。僕には関係のない話です」
クリストフはそんなことを言いながらも、何かあれば協力すると約束してくれた。フリルネロ公爵領の情報をもたらしたのが、ミシュリーヌであることも気づいているのかもしれない。オーギュストが現場を見ないまま信用して動く情報源など限られている。その上で忠告してくれたのだろう。
「僕はこれでもオーギュスト殿下に感謝しているんですよ。巡礼の旅の責任者に抜擢されて、神殿で動きやすくなりましたからね」
「そうか。私もクリストフには感謝している」
最初に神殿から派遣された人間は、自分の立場や地位ばかり気にする人物だった。ミシュリーヌを口先だけで褒めて、浄化をする道具のように扱う。ずっと悩まされていたが、オーギュストには根本的な解決が出来なかった。
そんな中、浄化三年目にその人物の補佐としてやってきたのがクリストフだ。責任者に抜擢してからは嫉妬も受けて大変だっただろうが、いつもこんなふうに言ってくれている。
「僕はこれで失礼します。それ。殿下が少し行動するだけで、すぐに一緒に食べられると思いますよ」
クリストフは意味深に笑って個室を出ていく。
机の上には、クリストフが持って帰ったのと同じケーキの箱が乗っている。今回の店は甘党のクリストフが指定した店だけあって美味しかった。ミシュリーヌにも食べさせたいとオーギュストは思う。できれば、クリストフの言うように二人で一緒に……
オーギュストは遠いフリルネロ公爵領にいるミシュリーヌを思いながら、一人では食べ切れそうにないケーキをマジックバッグにしまった。
――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。次回からは15:30の公開となりますので、よろしくお願いします。
「尾行されたりしなかったか?」
オーギュストは、ケーキをいそいそとしまっているクリストフを横目に、窓際へと近づく。カーテンを薄く開けると、賑やかな街を見下ろすことができた。魔法で調べても、こちらに注目する者はいない。
「大丈夫ですよ。うちの神官長はこの件に興味がありません。今は『ある女性』の動向を調べることに必死ですからね」
オーギュストは驚いてクリストフを振り返る。王都の神官長が動向を気にする女性なんて一人しかいない。クリストフは、動揺するオーギュストを哀れむように見ていた。
「殿下より先に見つける能力はないと思いますが、早く保護されたほうが良いですよ」
「……いつから知っていた?」
オーギュストは探るようにクリストフを見る。ミシュリーヌの出奔を知っているのは限られた人間だ。いずれも、オーギュストの意思に反して誰かに話したりはしない。
「やはり、ご病気ではないんですね。神官長も確信を持っているわけではないと思いますよ。ただ、殿下は分かりやすいですからね」
「そうか」
どうやら、確証があったわけではなく探りを入れられていたようだ。オーギュストは、平然と王族をはめるクリストフにあきれてしまう。
もし、ミシュリーヌが屋敷で寝込んでいるなら、オーギュストが王宮を空けるわけがないとクリストフは言う。ミシュリーヌを探しに出ていた時期のことを言っているのだろう。隠し通せるような期間ではなかったので、魔導師団の任務だったことになっている。
「儚い見た目のわりにお転婆なのは、神官長もよく知っていますからね。オーギュスト殿下に過保護にされ過ぎて、逃げ出したんじゃないかって推測しているようです」
「……」
神官長はミシュリーヌに聖女の魔法を教えてくれた人物だ。いろいろな噂がある人だが、ミシュリーヌのことは孫のように可愛がっている。王家と神殿の微妙な駆け引きを抜きにしても、『魔族の子』と呼ばれるようなオーギュストからミシュリーヌを離したいのだ。
「ミシュリーヌ妃も公の場では深窓の姫君のように見えますからね。気づいている者は多くないと思いますよ。ただし、こんな状況ですから、注意は必要です」
「そうか。実は……」
「あ、詳しく語らないで下さいね。僕には関係のない話です」
クリストフはそんなことを言いながらも、何かあれば協力すると約束してくれた。フリルネロ公爵領の情報をもたらしたのが、ミシュリーヌであることも気づいているのかもしれない。オーギュストが現場を見ないまま信用して動く情報源など限られている。その上で忠告してくれたのだろう。
「僕はこれでもオーギュスト殿下に感謝しているんですよ。巡礼の旅の責任者に抜擢されて、神殿で動きやすくなりましたからね」
「そうか。私もクリストフには感謝している」
最初に神殿から派遣された人間は、自分の立場や地位ばかり気にする人物だった。ミシュリーヌを口先だけで褒めて、浄化をする道具のように扱う。ずっと悩まされていたが、オーギュストには根本的な解決が出来なかった。
そんな中、浄化三年目にその人物の補佐としてやってきたのがクリストフだ。責任者に抜擢してからは嫉妬も受けて大変だっただろうが、いつもこんなふうに言ってくれている。
「僕はこれで失礼します。それ。殿下が少し行動するだけで、すぐに一緒に食べられると思いますよ」
クリストフは意味深に笑って個室を出ていく。
机の上には、クリストフが持って帰ったのと同じケーキの箱が乗っている。今回の店は甘党のクリストフが指定した店だけあって美味しかった。ミシュリーヌにも食べさせたいとオーギュストは思う。できれば、クリストフの言うように二人で一緒に……
オーギュストは遠いフリルネロ公爵領にいるミシュリーヌを思いながら、一人では食べ切れそうにないケーキをマジックバッグにしまった。
――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。次回からは15:30の公開となりますので、よろしくお願いします。
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