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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第21話 クマ【ミシュリーヌ】
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ミシュリーヌは背後が気になって何度も振り返る。クマのぬいぐるみがミシュリーヌの後ろをトテトテと二足歩行でついてきているのだ。背中に小さなリュックを背負っていてかわいい。
ミシュリーヌが療養所での治療を終えて屋台で食事をしていると、マリエルが視界に入ってきた。昨晩別れたっきりで気配すら感じさせなかったのに、どうしてだろう? そう思っていたら、クマのぬいぐるみがやってきたのだ。マリエルは、ミシュリーヌを怖がらせないため、自分が関わっていると分かるようにわざと姿を見せたのだろう。
クマからはオーギュストの魔力を感じる。おそらく、オーギュストの使役獣だ。本来は生き物と契約する魔法で、簡単な命令に従わせたりできる。
オーギュストの魔力なら、精神を支配し視野を共有したり動かすことも可能だと言っていた。ただ、精神の支配は使役獣を弱らせる。オーギュストはその問題を取り除くために、生き物以外と契約する魔法を研究していた。
研究を始めるきっかけとなったのは、二年前の出来事が関係している。ミシュリーヌが神殿で浄化をしていた際に、オーギュストに討伐依頼が入ったのだ。連絡手段は伝書鳩だけだったので、どうしても時間差が生じる。ミシュリーヌは気にならなかったが、オーギュストはそれを重くみたようだ。
ミシュリーヌが立ち止まって振り返ると、クマも歩みを止める。一年ほど前に見た試作品は、コロコロと転がるボールのような形をしていた。その後の進捗状況については聞いていなかったが、今回のために新しく作ったのかもしれない。
「確かに、クマのぬいぐるみが好きだと言いました。でも、それは出会った頃のことで、私はもうすぐ成人なんですよ」
ミシュリーヌは羞恥を覚えながら話しかけてみたが、クマは反応もしなかった。今はオーギュストが操っているわけではないらしい。
クマはミシュリーヌの膝くらいの身長なので急げば置いていけそうだ。それなのに、ミシュリーヌは可哀想な気がして、なんとなく躊躇ってしまう。使役獣を作った人は、ミシュリーヌがクマのぬいぐるみを無視しきれないことをよく知っている。
ミシュリーヌは諦めて、クマを先導するように宿の部屋に戻った。
……
ミシュリーヌが部屋で寛いでいると、クマの茶色の瞳が青く輝き出す。
「オーギュスト殿下?」
驚いて見つめていると、クマが背中のリュックを指し示した。
ミシュリーヌがクマに促されてリュックを開くと、四つ折りにされたメモが入っている。オーギュストが手書きした使役獣の説明書のようだ。
「物理攻撃を防ぐ使役獣?」
ミシュリーヌの着ているローブは、魔法は防げるが物理攻撃には弱い。聖女の加護があれば、どんな攻撃も受けにくくはなるが、念のためにクマを護衛として寄越したようだ。オーギュストが使役獣を操っているときには、クマの瞳が青く光るらしい。
「離婚するのですから、私のことなんて放っておいてくれれば良いのです。この時間を使って、ヴァネッサさんとの交流を深めてはどうですか? もしかして、聖女を手放すのが惜しくなりましたか?」
ミシュリーヌは青い瞳に語りかけてみたが首を傾げるだけだ。ミシュリーヌがため息をつくと、メモに書けと身振り手振りで訴えてくる。焦ったような仕草がオーギュストそのままで、彼がここにいるような錯覚をする。いや、実際にここにいるのと同じなのかもしれない。
【特にお伝えすることはありません】
ミシュリーヌが紙に書いて見せると、クマが寂しそうに頷く。すぐに瞳が茶色に戻ったので、寂しそうに見えたのはミシュリーヌの願望かもしれない。
その後、しばらく待ってみたが瞳が青に変わることはなかった。
説明書には、助けを呼んだときのみクマに憑依するとも書かれている。これまでのことを思い出せば、ミシュリーヌがオーギュストの入ったクマに会うことはもうないのかもしれない。
ということは、これはただの動くぬいぐるみだ。ミシュリーヌは安心して、オーギュストの魔力が残るクマを抱きしめて眠った。
ミシュリーヌが療養所での治療を終えて屋台で食事をしていると、マリエルが視界に入ってきた。昨晩別れたっきりで気配すら感じさせなかったのに、どうしてだろう? そう思っていたら、クマのぬいぐるみがやってきたのだ。マリエルは、ミシュリーヌを怖がらせないため、自分が関わっていると分かるようにわざと姿を見せたのだろう。
クマからはオーギュストの魔力を感じる。おそらく、オーギュストの使役獣だ。本来は生き物と契約する魔法で、簡単な命令に従わせたりできる。
オーギュストの魔力なら、精神を支配し視野を共有したり動かすことも可能だと言っていた。ただ、精神の支配は使役獣を弱らせる。オーギュストはその問題を取り除くために、生き物以外と契約する魔法を研究していた。
研究を始めるきっかけとなったのは、二年前の出来事が関係している。ミシュリーヌが神殿で浄化をしていた際に、オーギュストに討伐依頼が入ったのだ。連絡手段は伝書鳩だけだったので、どうしても時間差が生じる。ミシュリーヌは気にならなかったが、オーギュストはそれを重くみたようだ。
ミシュリーヌが立ち止まって振り返ると、クマも歩みを止める。一年ほど前に見た試作品は、コロコロと転がるボールのような形をしていた。その後の進捗状況については聞いていなかったが、今回のために新しく作ったのかもしれない。
「確かに、クマのぬいぐるみが好きだと言いました。でも、それは出会った頃のことで、私はもうすぐ成人なんですよ」
ミシュリーヌは羞恥を覚えながら話しかけてみたが、クマは反応もしなかった。今はオーギュストが操っているわけではないらしい。
クマはミシュリーヌの膝くらいの身長なので急げば置いていけそうだ。それなのに、ミシュリーヌは可哀想な気がして、なんとなく躊躇ってしまう。使役獣を作った人は、ミシュリーヌがクマのぬいぐるみを無視しきれないことをよく知っている。
ミシュリーヌは諦めて、クマを先導するように宿の部屋に戻った。
……
ミシュリーヌが部屋で寛いでいると、クマの茶色の瞳が青く輝き出す。
「オーギュスト殿下?」
驚いて見つめていると、クマが背中のリュックを指し示した。
ミシュリーヌがクマに促されてリュックを開くと、四つ折りにされたメモが入っている。オーギュストが手書きした使役獣の説明書のようだ。
「物理攻撃を防ぐ使役獣?」
ミシュリーヌの着ているローブは、魔法は防げるが物理攻撃には弱い。聖女の加護があれば、どんな攻撃も受けにくくはなるが、念のためにクマを護衛として寄越したようだ。オーギュストが使役獣を操っているときには、クマの瞳が青く光るらしい。
「離婚するのですから、私のことなんて放っておいてくれれば良いのです。この時間を使って、ヴァネッサさんとの交流を深めてはどうですか? もしかして、聖女を手放すのが惜しくなりましたか?」
ミシュリーヌは青い瞳に語りかけてみたが首を傾げるだけだ。ミシュリーヌがため息をつくと、メモに書けと身振り手振りで訴えてくる。焦ったような仕草がオーギュストそのままで、彼がここにいるような錯覚をする。いや、実際にここにいるのと同じなのかもしれない。
【特にお伝えすることはありません】
ミシュリーヌが紙に書いて見せると、クマが寂しそうに頷く。すぐに瞳が茶色に戻ったので、寂しそうに見えたのはミシュリーヌの願望かもしれない。
その後、しばらく待ってみたが瞳が青に変わることはなかった。
説明書には、助けを呼んだときのみクマに憑依するとも書かれている。これまでのことを思い出せば、ミシュリーヌがオーギュストの入ったクマに会うことはもうないのかもしれない。
ということは、これはただの動くぬいぐるみだ。ミシュリーヌは安心して、オーギュストの魔力が残るクマを抱きしめて眠った。
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