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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第26話 兄弟
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オーギュストが報告を終えると、ノルベルトが小さく息を吐いた。
「私も駄目だな。この後に及んでヘクターが関わっていない可能性を探してしまう。どう考えても、王妃単独では難しいと分かっているのにな」
それはオーギュストも同じだが、ノルベルトとヘクターの微妙な関係を思うと口に出して同意はできなかった。オーギュストには踏み込めない、ノルベルトだけの思いがそこにはある。
ヘクターの母親である王妃は、ソルベ王国の王女だった人だ。ソルベ王国はフリルネロ公爵領と隣接するビビ伯爵領の先にある小規模の国だが、血の気が多いお国柄でもある。南にある豊かなフルーナ王国の領土を欲しており、幾度となく戦争を繰り返してきた。
そんな国から王妃を迎えたのは、魔獣の増加が始まり人間同士で争っている場合ではなくなったからだ。友好の証と言えば聴こえは良いが、実際は人質のように若い王女が連れてこられた。王妃の座にはついたが、それまで王妃であったオーギュストの母はノルベルトをすでに産んでいた。それもあり、王妃は今に至るまでフルーナ王国に馴染んでいない。
口さがない者は国王が王妃に手を出さなければ平和だったと言っている。実際に嫁いできた際に進言した者も多かったようだが、国王は残念ながら人格者でもなければ政治に関心もない。ソルベ王国との和解も亡くなった前国王の采配だった。
第二妃が無理をしてオーギュストを産んだのも、ノルベルトに絶対的な味方を作るためだったと聞いている。それが出来ているかは自信がないが、ノルベルトの努力で必要なくなっていたはずだった。末っ子であるオーギュストに物心がついた頃には、四人の兄弟は母親の違いも気にならないほどに仲良く暮らしていたのだ。その関係は大人になった今も続いていた。いや、オーギュストは続いていると思っていたのだ。
「王妃の罪は問えそうですか?」
今年に入って王太子一家には殺害予告が高頻度で送られてきている。ただの脅しなら良いが、実際にいくつかの事件が起きており、護衛についていた者たちが何人か負傷している。それらの襲撃の背後には王妃がいることがすでに分かっている。
「難しいな。親しかったはずの侍女さえ切り捨てるような人だ。私が国王になった際に、どこかの田舎に蟄居させるくらいしかできないだろう」
その都度、犯人は捕まえているが、王妃へ繋がる証拠は掴めていない。王妃の指示だとされているのは、他の者の指示では動かない者が使われているからだ。王妃の側近が次々に捕まっている。
「そちらもヘクター兄上が関わっているのでしょうか?」
「どうだろうな。作戦は稚拙だから王妃の単独だと思っていた。だが、未だに尻尾をつかめていないのは、ヘクターが後始末をしていたからだと考えれば納得がいく」
王妃はそこまで頭が回る人ではない。当初はすぐに捕まえられると思い、事を起こしてくれたことを喜んでいたほどだ。しかし、実際にはそんなに上手くはいかなかった。
「今後はどうしましょう? フリルネロ公爵領に人を送るなら、ヘクター兄上を通さないと不自然です。私が追及すべきでしょうが……恥ずかしながら、上手くかわされる姿しか想像できません」
オーギュストは表情を隠すように水を飲む。ノルベルトも黙ってしまったので、今後のことを考えてくれているのだろう。
「軍の編成は済んでいるのか?」
「はい。騎士団へも伝達済みですので、情報が解禁されれば三日で出発できます」
ミシュリーヌからの手紙を受け取ったときから、秘密裏に軍の編成を行っている。魔獣が増加してからは、急な遠征も多かった。上層部さえ把握し先に動いていれば、すぐにでも軍が動かせる。
「それなら、ヘクターから依頼してもらおう。後手に回っているところをみると、領民が浄化薬をもらいに王都へ押し寄せてきたことは、ヘクターにとっても予想外だったのだろう。軍部の動きを把握していないように見えるが、今後のために確証がほしい」
「……と言いますと?」
「魔導師団か騎士団に間者が残っているなら、ヘクターからの派遣要請が未だに出ていないのはおかしい。ただ、何か思惑があって静観しているだけかもしれない。オーギュストがヘクターの庭をウロウロすれば、どちらなのか分かるだろう?」
とにかく、オーギュストは『ヘクターの庭』つまりは文官の管理する地区に入り、フリルネロ公爵について調べ回れば良いらしい。オーギュストがどんなに注意していても、ノルベルトの手を借りずに動いたならヘクターには筒抜けだというのだ。それが不自然だと思われずに、こちら側が『知っていること』を漏らすことになる。
「オーギュストが直接問うのも良いが、今ある客観的な証拠だけなら、オーギュストの方が犯人らしいからな。オーギュストはヘクターが関わっていることに気づいていない、私は疑っているが様子を見ている状態、そんなふうに思わせておいた方が良い」
ヘクターは弟であるオーギュストのことをあまり高く評価していない。そのまま油断させておいた方が良いという判断だ。
「私も駄目だな。この後に及んでヘクターが関わっていない可能性を探してしまう。どう考えても、王妃単独では難しいと分かっているのにな」
それはオーギュストも同じだが、ノルベルトとヘクターの微妙な関係を思うと口に出して同意はできなかった。オーギュストには踏み込めない、ノルベルトだけの思いがそこにはある。
ヘクターの母親である王妃は、ソルベ王国の王女だった人だ。ソルベ王国はフリルネロ公爵領と隣接するビビ伯爵領の先にある小規模の国だが、血の気が多いお国柄でもある。南にある豊かなフルーナ王国の領土を欲しており、幾度となく戦争を繰り返してきた。
そんな国から王妃を迎えたのは、魔獣の増加が始まり人間同士で争っている場合ではなくなったからだ。友好の証と言えば聴こえは良いが、実際は人質のように若い王女が連れてこられた。王妃の座にはついたが、それまで王妃であったオーギュストの母はノルベルトをすでに産んでいた。それもあり、王妃は今に至るまでフルーナ王国に馴染んでいない。
口さがない者は国王が王妃に手を出さなければ平和だったと言っている。実際に嫁いできた際に進言した者も多かったようだが、国王は残念ながら人格者でもなければ政治に関心もない。ソルベ王国との和解も亡くなった前国王の采配だった。
第二妃が無理をしてオーギュストを産んだのも、ノルベルトに絶対的な味方を作るためだったと聞いている。それが出来ているかは自信がないが、ノルベルトの努力で必要なくなっていたはずだった。末っ子であるオーギュストに物心がついた頃には、四人の兄弟は母親の違いも気にならないほどに仲良く暮らしていたのだ。その関係は大人になった今も続いていた。いや、オーギュストは続いていると思っていたのだ。
「王妃の罪は問えそうですか?」
今年に入って王太子一家には殺害予告が高頻度で送られてきている。ただの脅しなら良いが、実際にいくつかの事件が起きており、護衛についていた者たちが何人か負傷している。それらの襲撃の背後には王妃がいることがすでに分かっている。
「難しいな。親しかったはずの侍女さえ切り捨てるような人だ。私が国王になった際に、どこかの田舎に蟄居させるくらいしかできないだろう」
その都度、犯人は捕まえているが、王妃へ繋がる証拠は掴めていない。王妃の指示だとされているのは、他の者の指示では動かない者が使われているからだ。王妃の側近が次々に捕まっている。
「そちらもヘクター兄上が関わっているのでしょうか?」
「どうだろうな。作戦は稚拙だから王妃の単独だと思っていた。だが、未だに尻尾をつかめていないのは、ヘクターが後始末をしていたからだと考えれば納得がいく」
王妃はそこまで頭が回る人ではない。当初はすぐに捕まえられると思い、事を起こしてくれたことを喜んでいたほどだ。しかし、実際にはそんなに上手くはいかなかった。
「今後はどうしましょう? フリルネロ公爵領に人を送るなら、ヘクター兄上を通さないと不自然です。私が追及すべきでしょうが……恥ずかしながら、上手くかわされる姿しか想像できません」
オーギュストは表情を隠すように水を飲む。ノルベルトも黙ってしまったので、今後のことを考えてくれているのだろう。
「軍の編成は済んでいるのか?」
「はい。騎士団へも伝達済みですので、情報が解禁されれば三日で出発できます」
ミシュリーヌからの手紙を受け取ったときから、秘密裏に軍の編成を行っている。魔獣が増加してからは、急な遠征も多かった。上層部さえ把握し先に動いていれば、すぐにでも軍が動かせる。
「それなら、ヘクターから依頼してもらおう。後手に回っているところをみると、領民が浄化薬をもらいに王都へ押し寄せてきたことは、ヘクターにとっても予想外だったのだろう。軍部の動きを把握していないように見えるが、今後のために確証がほしい」
「……と言いますと?」
「魔導師団か騎士団に間者が残っているなら、ヘクターからの派遣要請が未だに出ていないのはおかしい。ただ、何か思惑があって静観しているだけかもしれない。オーギュストがヘクターの庭をウロウロすれば、どちらなのか分かるだろう?」
とにかく、オーギュストは『ヘクターの庭』つまりは文官の管理する地区に入り、フリルネロ公爵について調べ回れば良いらしい。オーギュストがどんなに注意していても、ノルベルトの手を借りずに動いたならヘクターには筒抜けだというのだ。それが不自然だと思われずに、こちら側が『知っていること』を漏らすことになる。
「オーギュストが直接問うのも良いが、今ある客観的な証拠だけなら、オーギュストの方が犯人らしいからな。オーギュストはヘクターが関わっていることに気づいていない、私は疑っているが様子を見ている状態、そんなふうに思わせておいた方が良い」
ヘクターは弟であるオーギュストのことをあまり高く評価していない。そのまま油断させておいた方が良いという判断だ。
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