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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第33話 クマが見たのは、
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オーギュストはガエルの離宮を出ると、そっと息を吐き出した。手がかりが他になかったため、ガエルの『友人』リストももらってきたが、一日で回れる人数ではない。
「これから、どうしますか?」
馬車の中に落ち着くと、ジョエルが聞いてくる。
「まずは、魔導師団で見張りの手配だな。それから、公爵領にいる団員たちに改めて注意喚起し、ガエル兄上の動向が分かったら報告してもらおう。それくらいしか打つ手がない」
オーギュストはジョエルに聞かせるというより、頭を整理するためにツラツラと言葉を紡ぐ。ガエルが戻ってくる可能性があるので、三つの邸宅には見張りが必要だ。今日のことはノルベルトにも報告する必要があるだろう。
「兄上への報告は、夜にならないと無理だから……ん?」
「殿下?」
頭の中に使役獣からの緊急警報が送られてきて、オーギュストは黙り込む。すぐに視界を共有すると、目の前に焦った文字が見えた。長文であることを理解して、使役獣の瞳から抜け出す。
「マリエルからの緊急呼び出しだ。私室に戻る」
「えっ!」
ジョエルの焦った声がしたが、オーギュストは気にせず転移した。離宮の前に着くと、すぐに自分の部屋に向かう。使役獣に入ると無防備になるので、離宮か魔導師団の団長室でないと危険だ。
オーギュストは部屋に入ってソファに座ると、瞳を閉じて使役獣の魔力を辿る。不自由なぬいぐるみの身体に入ると、先程も見た文字を読み進めた。状況を把握し慌ててミシュリーヌを探すと、近くにベッドが見える。
這い上がろうと腕を伸ばすと、誰かがベッドに乗せてくれた。ちらりと背後を振り返ると、真っ青な顔をしたマリエルだった。
使役獣の中にいるオーギュストには聞こえないが、必死に謝罪しているのが分かる。報告を読む限り、マリエルに責任はない。伝えて落ち着かせる時間が惜しくて、申し訳ないがマリエルを後回しにした。
オーギュストは身体の大きさのせいで広く感じる寝台の中央に向かう。ミシュリーヌはぐったりと瞳を閉じて横たわっていた。苦しそうに呼吸しているが、生きていると分かって逆にホッとする。
オーギュストが念のため症状を確認すると、報告にある通り、ミシュリーヌは魔力切れを起こしていた。こうなってしまうと、しばらく魔力は回復しない。一ヶ月ほど耐えれば自然に治るが、ミシュリーヌは魔力なしでそれまで生きていられるだろうか? 嫌な想像をしてしまって、オーギュストは首を振る。
普段魔法を使う際には、無意識に生命活動に必要な魔力を残すので、魔力切れは起こさない。例外はいくつかあるが、その一つがミシュリーヌのように追い詰められて魔法を暴発させてしまった場合だ。つまり、ミシュリーヌには、生命活動に必要な魔力さえ残されていない。
ただでさえ魔力の多い者は、生きるのに魔力を多く使っている。それに加えて、ミシュリーヌは祖国で虐待を受け食事を抜かれていた時期があった。その時期に魔力を使い生き延びていたことにより、どうしても人より魔力に頼る割合が多い。オーギュストもそのことは気になっていたが、調べても改善の方法は見つけられなかった。
だからこそ、人一倍気をつけるように伝えていたが、助けたい者を前にして冷静ではいられなかったのだろう。
治療を受けさせたほうが良いよな。治療……できるのか?
魔力切れを治すには、共鳴した魔力をミシュリーヌに流し込む必要がある。魔力が共鳴しているのは血のつながった家族か、想い合うパートナーくらいだ。何年もの間、相手を特別に想い近くにいることで魔力が共鳴を起こす。
ミシュリーヌの家族は帝国にいる父親のみで、今の状態のミシュリーヌを連れて行くのは不可能だ。関係性を考えれば、共鳴しているかも怪しい。残るは『想い合うパートナー』だが、ミシュリーヌに手紙に書かれていたような男の影はない。
浮気相手の存在を願う日が来るとは思わなかった。
オーギュストが見つめていると、ミシュリーヌが苦しそうに咳き込みだす。マリエルが必死に背中を擦っていたら落ち着いたが、ぐったりしていて、どう考えても一ヶ月は持ちそうにない。
最後の手段を使うしかないのか……
オーギュストはミシュリーヌに申し訳なく思いながら決意した。拒絶反応が起こってしまうが、共鳴していなくても魔力を譲渡する方法が一つだけある。
『文字表を出せ』
オーギュストは動揺するマリエルに身振り手振りで伝えた。言葉を喋れないのは不便だが、文字に手を乗せていけば、短い言葉なら伝えられる。マリエルたちには、王都を出る前にこれから取る手段について伝えてあるから、すぐに理解してくれるだろう。
マリエルは小さく頷くと何処かにバタバタと走っていく。
オーギュストはそれを見届けて、ミシュリーヌに振り返った。苦しそうなミシュリーヌの頭を撫でてやると、薄く瞳が開く。魔力切れの特徴でもあるが、眠れてはいなかったのだろう。オーギュストと目が合うと、ミシュリーヌは瞳を潤ませた。
『オーギュスト殿下……』
ミシュリーヌの口がそんなふうに動いた気がする。オーギュストが来て安堵しているように見えるが自惚れだろうか?
瞳に溜まった涙を小さな手で拭ってやると、擽ったそうに頬を緩める。まだ、気力は残っている。それが分かって、オーギュストは少しだけ安堵した。
「これから、どうしますか?」
馬車の中に落ち着くと、ジョエルが聞いてくる。
「まずは、魔導師団で見張りの手配だな。それから、公爵領にいる団員たちに改めて注意喚起し、ガエル兄上の動向が分かったら報告してもらおう。それくらいしか打つ手がない」
オーギュストはジョエルに聞かせるというより、頭を整理するためにツラツラと言葉を紡ぐ。ガエルが戻ってくる可能性があるので、三つの邸宅には見張りが必要だ。今日のことはノルベルトにも報告する必要があるだろう。
「兄上への報告は、夜にならないと無理だから……ん?」
「殿下?」
頭の中に使役獣からの緊急警報が送られてきて、オーギュストは黙り込む。すぐに視界を共有すると、目の前に焦った文字が見えた。長文であることを理解して、使役獣の瞳から抜け出す。
「マリエルからの緊急呼び出しだ。私室に戻る」
「えっ!」
ジョエルの焦った声がしたが、オーギュストは気にせず転移した。離宮の前に着くと、すぐに自分の部屋に向かう。使役獣に入ると無防備になるので、離宮か魔導師団の団長室でないと危険だ。
オーギュストは部屋に入ってソファに座ると、瞳を閉じて使役獣の魔力を辿る。不自由なぬいぐるみの身体に入ると、先程も見た文字を読み進めた。状況を把握し慌ててミシュリーヌを探すと、近くにベッドが見える。
這い上がろうと腕を伸ばすと、誰かがベッドに乗せてくれた。ちらりと背後を振り返ると、真っ青な顔をしたマリエルだった。
使役獣の中にいるオーギュストには聞こえないが、必死に謝罪しているのが分かる。報告を読む限り、マリエルに責任はない。伝えて落ち着かせる時間が惜しくて、申し訳ないがマリエルを後回しにした。
オーギュストは身体の大きさのせいで広く感じる寝台の中央に向かう。ミシュリーヌはぐったりと瞳を閉じて横たわっていた。苦しそうに呼吸しているが、生きていると分かって逆にホッとする。
オーギュストが念のため症状を確認すると、報告にある通り、ミシュリーヌは魔力切れを起こしていた。こうなってしまうと、しばらく魔力は回復しない。一ヶ月ほど耐えれば自然に治るが、ミシュリーヌは魔力なしでそれまで生きていられるだろうか? 嫌な想像をしてしまって、オーギュストは首を振る。
普段魔法を使う際には、無意識に生命活動に必要な魔力を残すので、魔力切れは起こさない。例外はいくつかあるが、その一つがミシュリーヌのように追い詰められて魔法を暴発させてしまった場合だ。つまり、ミシュリーヌには、生命活動に必要な魔力さえ残されていない。
ただでさえ魔力の多い者は、生きるのに魔力を多く使っている。それに加えて、ミシュリーヌは祖国で虐待を受け食事を抜かれていた時期があった。その時期に魔力を使い生き延びていたことにより、どうしても人より魔力に頼る割合が多い。オーギュストもそのことは気になっていたが、調べても改善の方法は見つけられなかった。
だからこそ、人一倍気をつけるように伝えていたが、助けたい者を前にして冷静ではいられなかったのだろう。
治療を受けさせたほうが良いよな。治療……できるのか?
魔力切れを治すには、共鳴した魔力をミシュリーヌに流し込む必要がある。魔力が共鳴しているのは血のつながった家族か、想い合うパートナーくらいだ。何年もの間、相手を特別に想い近くにいることで魔力が共鳴を起こす。
ミシュリーヌの家族は帝国にいる父親のみで、今の状態のミシュリーヌを連れて行くのは不可能だ。関係性を考えれば、共鳴しているかも怪しい。残るは『想い合うパートナー』だが、ミシュリーヌに手紙に書かれていたような男の影はない。
浮気相手の存在を願う日が来るとは思わなかった。
オーギュストが見つめていると、ミシュリーヌが苦しそうに咳き込みだす。マリエルが必死に背中を擦っていたら落ち着いたが、ぐったりしていて、どう考えても一ヶ月は持ちそうにない。
最後の手段を使うしかないのか……
オーギュストはミシュリーヌに申し訳なく思いながら決意した。拒絶反応が起こってしまうが、共鳴していなくても魔力を譲渡する方法が一つだけある。
『文字表を出せ』
オーギュストは動揺するマリエルに身振り手振りで伝えた。言葉を喋れないのは不便だが、文字に手を乗せていけば、短い言葉なら伝えられる。マリエルたちには、王都を出る前にこれから取る手段について伝えてあるから、すぐに理解してくれるだろう。
マリエルは小さく頷くと何処かにバタバタと走っていく。
オーギュストはそれを見届けて、ミシュリーヌに振り返った。苦しそうなミシュリーヌの頭を撫でてやると、薄く瞳が開く。魔力切れの特徴でもあるが、眠れてはいなかったのだろう。オーギュストと目が合うと、ミシュリーヌは瞳を潤ませた。
『オーギュスト殿下……』
ミシュリーヌの口がそんなふうに動いた気がする。オーギュストが来て安堵しているように見えるが自惚れだろうか?
瞳に溜まった涙を小さな手で拭ってやると、擽ったそうに頬を緩める。まだ、気力は残っている。それが分かって、オーギュストは少しだけ安堵した。
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