【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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二章 無事を祈って【オーギュスト】

第34話 負の遺産

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 オーギュストはマリエルに具体的な計画を伝えてから使役獣を抜け出した。かなり時間を使ったようで、魔力の残りが心配だ。オーギュストが身体を動かすと、ジョエルがすぐに近寄ってくる。

「ミシュリーヌが魔力切れを起こした。このままにしておくと危険かもしれない。前に話しておいた方法をとる」

 オーギュストはメモを書きながら、ジョエルに状況を伝える。

「分かりました。伯爵に準備するように頼んできます」

「これを持っていけ。私は兄上に許可をもらってくる」

 オーギュストは書き終えたメモをジョエルに渡すと走って離宮を出た。こんなことをするのは何年ぶりだろう。いや、筋力だけで走ったのは初めてかもしれない。近衛騎士が驚いたように見てきても、ミシュリーヌを守るために魔力の消費を極力抑えたかった。

 オーギュストはこれからミシュリーヌを王都に呼び戻すつもりだ。

 具体的には使役獣の召喚を行う。マリエルにはクマのぬいぐるみをミシュリーヌに物理的に縛り付けるように言ってある。そうすることで、ミシュリーヌを使役獣と共に呼び戻すことができるのだ。短距離で実験を繰り返してきたが失敗したことはない。ただ、公爵領から呼び寄せるとなると、距離があるので魔力が足りるか心配だった。  

 そのために、オーギュストはこの国の負の遺産を使おうと思う。異世界から聖女を呼ぶために建国の時代から魔力を貯めてきた地下室。使われなくなった今も大昔の人々の魔力が残されている。

『無理をするなとは言わないが、魔力切れだけは起こさないように慎重に事に当たりなさい。オーギュストにもしものことがあれば、ミシュリーヌ妃が後悔することになる。あの子に影を背負わせたくはないだろう?』

 先日の報告の際に、ノルベルトの許可はすでに取ってある。オーギュストが用意していた『奥の手』だ。今からノルベルトに会って、それを使うという報告をする。

 国の力が弱っている近年、あの地下室が残されていることを他国からチクチクと言われてきた。今までも少しずつ魔力を減らす努力はしてきたが、貯まっている魔力が多すぎて処理は進んでいない。今回のことでそれなりに消費されれば、国のためにも良いかもしれない。

 隠し通路を使い、ノルベルトに直接伝えると、驚いてはいたがすぐに了承してくれた。そのまま、魔導師団にある団長室に向かうと、ジョエルとヌーヴェル伯爵の出迎えを受けた。

「許可は取れた。そちらはどうだ?」

「新人たちには二時間後に試験を行うと通達を出しました」 

「二時間後か……」

 この召喚の最大の問題は、召喚部屋に入る言い訳だ。犯人たちに気づかれても良くないし、あの部屋に残った魔力を使われたくないと思っている勢力もいる。

 頭を悩ませたオーギュストは、伯爵の助言により魔導師団の新人たちの卒業試験を同時に行うことで誤魔化すことにした。報告書にはあの部屋を使っただけで、オーギュストの魔力で召喚したと書く予定だ。

 いつ、ミシュリーヌを呼び戻すような事態になるか分からず、新人の試験を先送りにしてきたことは申し訳なく思う。

「もう少し早くはならないか? ミシュリーヌは元々の魔力が多いせいか、ひどく苦しそうなんだ」

「殿下の魔力はどのくらい残っておりますかな? 王太子殿下からも苦言を呈されたのではありませんか?」

「……」

 伯爵に諭すように言われて、オーギュストは返す言葉もない。召喚部屋の魔力は術者の魔力と混ぜ合わせないと使えないことは文献で確認済みだ。オーギュストの魔力の使用を極力絞ったとしても、大量に使われることは確実だろう。

「ジョエルが呼びに来るまで、きっちり仮眠を取って下さい。召喚して終わりではないのですぞ。お分かりですかな?」

 魔力は眠れば回復する。

 計画の段階では魔力切れを起こしてでもミシュリーヌを呼び戻せれば良いと考えていたが、今の状況ではそういうわけにはいかない。ミシュリーヌには、オーギュストの魔力を送り込むつもりなのだ。オーギュストまで魔力切れを起こして、召喚後にミシュリーヌの魔力を回復させられなければ、急いで呼び戻しても意味がない。

「分かった。悪いが任せる」

 オーギュストは逸る気持ちを抑えて、団長室のソファに横になった。眠れる訳がないと思っていたが、すぐに意識が途絶える。直前に渡されたハーブティーに、ジョエルが何か入れていたらしい。
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