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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第35話 召喚の間
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三時間後、オーギュストは魔導師団の新人とともに王宮の地下深くにある薄暗い召喚部屋に入った。それなりの地位にあるオーギュストでも、この部屋に入ることは滅多にない。
「雰囲気があるよな」
「ここで召喚がされてきたんですね」
緊張するオーギュストとは違い、新人たちは遠足気分だ。独特の魔力に満ちているが、それに気がつくほどの実力者は今年の新人にはいないらしい。異世界から聖女を召喚してきたという魔力は膨大で、いつも冷静なヌーヴェル伯爵ですら落ち着かなそうだ。
オーギュストは意を決して、魔力を一番強く感じる台座の前まで歩み寄る。一段高くなったその場所は、大人一人が手を広げて寝れるくらいの円状になっていた。しゃがみこんで、その縁に手を触れてみると身体の奥から力が溢れてくる。文献に書いてあった通り、術者の力を増幅する何かが、この台座にはあるようだ。
念の為、台座の上に登ってみたが、特に嫌な感じはしない。呼び寄せても、ミシュリーヌの害になることはなさそうだ。
「よろしいですかな?」
伯爵に聞かれてオーギュストが小さく頷く。
「これから、オーギュスト殿下が召喚を行います。先程も話した通り、聖女であるミシュリーヌ妃の体調が芳しくないための苦渋の決断です。公表はされませんので、見学の機会に感謝し、きちんと観察して下さい」
その言葉に新人の誰かがゴクリと唾を飲み込む。伯爵は事実のみを新人に伝えているが、新人の中には異世界からの召喚だと勘違いしている者もいるだろう。いや、伯爵の言葉が巧みすぎて、全員がそう思っているのかもしれない。
ここに来る前に一時間の講義を行ったと聞いたが、オーギュストが眠っている間にどんな説明をしたのだろう。少しだけ気になる。
だが、勘違いさせることも試験の一部なので訂正はしない。何が真実か分からない中で、自分の知識、技術、経験などを頼りに真実に近づくというのが目的なのだ。今回ほど大掛かりではないが、オーギュストが新人のときにも似たような試験が行われた。オーギュストは当時の団長であるジョエルの父より魔力が高かったため、全ての魔法が丸見えだったから、試験官たちはやりにくかったことだろう。
「――……五日後の正午までにレポートにまとめて提出しなさい。今から召喚終了までは、魔力の使用を禁止します。聖女様が現れてからは自由に調べてもらって構いません。では、団長」
「始めて良いか?」
「お願いいたします」
ヌーヴェル伯爵が恭しく頭を下げる。いつもと雰囲気が違うのも試験のための演出だろう。
オーギュストは視界から伯爵や新人を追い出して気持ちを切り替える。慣れた使役獣召喚の魔法を発動し、台座の縁に触れた。力が湧き上がり、部屋の周囲から魔力が集まってくるのを感じる。
部屋が目を開けているのも辛いほどの眩しい光に包まれた。
「おお!」
新人たちの興奮を背中に感じながら、オーギュストは現れたミシュリーヌに怪我がないことを確かめる。
ミシュリーヌが睨んできたが、思ったより元気そうだと分かって微笑みが漏れた。
「雰囲気があるよな」
「ここで召喚がされてきたんですね」
緊張するオーギュストとは違い、新人たちは遠足気分だ。独特の魔力に満ちているが、それに気がつくほどの実力者は今年の新人にはいないらしい。異世界から聖女を召喚してきたという魔力は膨大で、いつも冷静なヌーヴェル伯爵ですら落ち着かなそうだ。
オーギュストは意を決して、魔力を一番強く感じる台座の前まで歩み寄る。一段高くなったその場所は、大人一人が手を広げて寝れるくらいの円状になっていた。しゃがみこんで、その縁に手を触れてみると身体の奥から力が溢れてくる。文献に書いてあった通り、術者の力を増幅する何かが、この台座にはあるようだ。
念の為、台座の上に登ってみたが、特に嫌な感じはしない。呼び寄せても、ミシュリーヌの害になることはなさそうだ。
「よろしいですかな?」
伯爵に聞かれてオーギュストが小さく頷く。
「これから、オーギュスト殿下が召喚を行います。先程も話した通り、聖女であるミシュリーヌ妃の体調が芳しくないための苦渋の決断です。公表はされませんので、見学の機会に感謝し、きちんと観察して下さい」
その言葉に新人の誰かがゴクリと唾を飲み込む。伯爵は事実のみを新人に伝えているが、新人の中には異世界からの召喚だと勘違いしている者もいるだろう。いや、伯爵の言葉が巧みすぎて、全員がそう思っているのかもしれない。
ここに来る前に一時間の講義を行ったと聞いたが、オーギュストが眠っている間にどんな説明をしたのだろう。少しだけ気になる。
だが、勘違いさせることも試験の一部なので訂正はしない。何が真実か分からない中で、自分の知識、技術、経験などを頼りに真実に近づくというのが目的なのだ。今回ほど大掛かりではないが、オーギュストが新人のときにも似たような試験が行われた。オーギュストは当時の団長であるジョエルの父より魔力が高かったため、全ての魔法が丸見えだったから、試験官たちはやりにくかったことだろう。
「――……五日後の正午までにレポートにまとめて提出しなさい。今から召喚終了までは、魔力の使用を禁止します。聖女様が現れてからは自由に調べてもらって構いません。では、団長」
「始めて良いか?」
「お願いいたします」
ヌーヴェル伯爵が恭しく頭を下げる。いつもと雰囲気が違うのも試験のための演出だろう。
オーギュストは視界から伯爵や新人を追い出して気持ちを切り替える。慣れた使役獣召喚の魔法を発動し、台座の縁に触れた。力が湧き上がり、部屋の周囲から魔力が集まってくるのを感じる。
部屋が目を開けているのも辛いほどの眩しい光に包まれた。
「おお!」
新人たちの興奮を背中に感じながら、オーギュストは現れたミシュリーヌに怪我がないことを確かめる。
ミシュリーヌが睨んできたが、思ったより元気そうだと分かって微笑みが漏れた。
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