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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第36話 魔力譲渡【ミシュリーヌ→オーギュスト】
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ミシュリーヌはオーギュストに抱き上げられたまま、召喚された部屋を出た。扉が閉まる音を聞いて、説明を求めるように見つめるが、彼は無言のままだ。オーギュストはミシュリーヌの視線にさえ気づいていないかのように、黙々と薄暗い階段を登っていく。
ミシュリーヌの知るオーギュストなら、二人になってすぐに不安を取り除く言葉をくれるはずだ。普段とは違う様子にミシュリーヌは戸惑うが、オーギュストの呼吸が徐々に乱れてきたことで察した。ミシュリーヌを抱えたまま階段を登るのはきついのだろう。
ミシュリーヌは小柄とはいえ、子供の頃とは違って重い。それなのに、オーギュストはミシュリーヌを持ち上げるのに魔力を使っていない。おそらく、召喚で魔力を消費したせいで余力がないのだろう。オーギュストの額に脂汗が浮かんでいる。
自分で歩くので降ろして下さい。
ミシュリーヌは心の中で呟くが、身体がきつすぎて声には出せなかった。ミシュリーヌは自分で歩けるような状態ではない。だが、そんなことも忘れてしまうくらい、オーギュストの様子が普通ではなかった。
ミシュリーヌが動揺しているのを察したのだろうか。オーギュストが観念したように立ち止まって壁に寄りかかる。ぎゅっと抱え込まれたと思ったら、ズルズルとその場に座り込んだ。
庇われたミシュリーヌに怪我はないが、ぐったりとしているオーギュストが心配だ。ミシュリーヌが覗き込むと、泣きそうな顔で見つめ返された。
「ミシュリーヌ……、私のことは嫌いで構わない。どうか、今だけで良いから私の魔力を受け入れてくれ」
殿下?
ミシュリーヌが意味を理解するより先に、オーギュストに唇を奪われた。オーギュストの魔力が冷え切ったミシュリーヌの身体を温める。ミシュリーヌは、オーギュストが魔力を譲渡してくれていることを遅れて理解した。
魔力譲渡は、魔力が共鳴している相手からしか許されていない。
しかし、実際には譲渡に関わるどちらか一方が強く相手を想っていれば、譲渡は成功する。オーギュストはミシュリーヌの気持ちを利用して魔力を分けてくれているのだ。代償を払うのはミシュリーヌを愛していないオーギュストだけだ。自分の魔力が戻ってくる際に混ざるミシュリーヌの魔力に拒否反応を起こし、オーギュストは十日以上苦しむことになる。
ミシュリーヌのオーギュストへの強すぎる想いが、オーギュストの残り少ない魔力を奪っている。酷いことをしているという自覚があるのに、オーギュストの魔力を拒否できない。
好きじゃない。愛してなんかいない。
心の中で唱えても、言葉に逆の意味がこもってしまう。
「やだ……やめて……」
ミシュリーヌは抗うことができずに、そのまま意識を手放した。
◆
「ミシュリーヌ! ミシュリーヌ!」
オーギュストは意識を失ったミシュリーヌの名前を必死で呼ぶ。オーギュストの魔力に対する拒否反応だろうが、すぐに気絶するほどひどいとは思っていなかった。代わってあげられるなら何でもするが、ミシュリーヌを愛するオーギュストには拒否反応など起こらない。
「ミシュリーヌ!」
オーギュストが何度呼びかけても、ミシュリーヌはピクリとも動かない。もしかしたら、ミシュリーヌはこのまま……
「オーギュスト殿下、落ち着いて下さい。眠っていらっしゃるだけです」
頭上からジョエルの声が聞こえて顔を上げると、ジョエルと近衛隊長が間近でオーギュストたちを見下ろしていた。階上の入口で待っていたはずだが、オーギュストの声を聞いて駆けつけてくれたのだろう。
「やはり、拒否反応は起こらなかったようですね」
ジョエルがゆったりとした口調でオーギュストに伝える。その言葉に促されるように視線を戻すと、ミシュリーヌはスヤスヤと穏やかな表情で眠っていた。オーギュストは自分がどれだけ冷静でなかったのかを自覚する。
「拒否反応が起きていない? そんなはずはない」
『やだ……やめて……』
ミシュリーヌの泣きそうな声がオーギュストの頭の中でこだまする。あんなことを言っていたのだから、オーギュストの魔力がよほど嫌だったのだろう。
「ここで議論しても仕方ないですよ。明日には、はっきりすることです」
ジョエルの声がいつもより優しい。
「妃殿下をお預かりしてもよろしいですか?」
「あ、ああ」
オーギュストは近衛隊長の言葉に力なく同意する。今までなら絶対にミシュリーヌを託さなかったが、オーギュストに運ばれる方が嫌だろう。オーギュストはジョエルに肩を借りて、近衛隊長の背中を追った。
ミシュリーヌの知るオーギュストなら、二人になってすぐに不安を取り除く言葉をくれるはずだ。普段とは違う様子にミシュリーヌは戸惑うが、オーギュストの呼吸が徐々に乱れてきたことで察した。ミシュリーヌを抱えたまま階段を登るのはきついのだろう。
ミシュリーヌは小柄とはいえ、子供の頃とは違って重い。それなのに、オーギュストはミシュリーヌを持ち上げるのに魔力を使っていない。おそらく、召喚で魔力を消費したせいで余力がないのだろう。オーギュストの額に脂汗が浮かんでいる。
自分で歩くので降ろして下さい。
ミシュリーヌは心の中で呟くが、身体がきつすぎて声には出せなかった。ミシュリーヌは自分で歩けるような状態ではない。だが、そんなことも忘れてしまうくらい、オーギュストの様子が普通ではなかった。
ミシュリーヌが動揺しているのを察したのだろうか。オーギュストが観念したように立ち止まって壁に寄りかかる。ぎゅっと抱え込まれたと思ったら、ズルズルとその場に座り込んだ。
庇われたミシュリーヌに怪我はないが、ぐったりとしているオーギュストが心配だ。ミシュリーヌが覗き込むと、泣きそうな顔で見つめ返された。
「ミシュリーヌ……、私のことは嫌いで構わない。どうか、今だけで良いから私の魔力を受け入れてくれ」
殿下?
ミシュリーヌが意味を理解するより先に、オーギュストに唇を奪われた。オーギュストの魔力が冷え切ったミシュリーヌの身体を温める。ミシュリーヌは、オーギュストが魔力を譲渡してくれていることを遅れて理解した。
魔力譲渡は、魔力が共鳴している相手からしか許されていない。
しかし、実際には譲渡に関わるどちらか一方が強く相手を想っていれば、譲渡は成功する。オーギュストはミシュリーヌの気持ちを利用して魔力を分けてくれているのだ。代償を払うのはミシュリーヌを愛していないオーギュストだけだ。自分の魔力が戻ってくる際に混ざるミシュリーヌの魔力に拒否反応を起こし、オーギュストは十日以上苦しむことになる。
ミシュリーヌのオーギュストへの強すぎる想いが、オーギュストの残り少ない魔力を奪っている。酷いことをしているという自覚があるのに、オーギュストの魔力を拒否できない。
好きじゃない。愛してなんかいない。
心の中で唱えても、言葉に逆の意味がこもってしまう。
「やだ……やめて……」
ミシュリーヌは抗うことができずに、そのまま意識を手放した。
◆
「ミシュリーヌ! ミシュリーヌ!」
オーギュストは意識を失ったミシュリーヌの名前を必死で呼ぶ。オーギュストの魔力に対する拒否反応だろうが、すぐに気絶するほどひどいとは思っていなかった。代わってあげられるなら何でもするが、ミシュリーヌを愛するオーギュストには拒否反応など起こらない。
「ミシュリーヌ!」
オーギュストが何度呼びかけても、ミシュリーヌはピクリとも動かない。もしかしたら、ミシュリーヌはこのまま……
「オーギュスト殿下、落ち着いて下さい。眠っていらっしゃるだけです」
頭上からジョエルの声が聞こえて顔を上げると、ジョエルと近衛隊長が間近でオーギュストたちを見下ろしていた。階上の入口で待っていたはずだが、オーギュストの声を聞いて駆けつけてくれたのだろう。
「やはり、拒否反応は起こらなかったようですね」
ジョエルがゆったりとした口調でオーギュストに伝える。その言葉に促されるように視線を戻すと、ミシュリーヌはスヤスヤと穏やかな表情で眠っていた。オーギュストは自分がどれだけ冷静でなかったのかを自覚する。
「拒否反応が起きていない? そんなはずはない」
『やだ……やめて……』
ミシュリーヌの泣きそうな声がオーギュストの頭の中でこだまする。あんなことを言っていたのだから、オーギュストの魔力がよほど嫌だったのだろう。
「ここで議論しても仕方ないですよ。明日には、はっきりすることです」
ジョエルの声がいつもより優しい。
「妃殿下をお預かりしてもよろしいですか?」
「あ、ああ」
オーギュストは近衛隊長の言葉に力なく同意する。今までなら絶対にミシュリーヌを託さなかったが、オーギュストに運ばれる方が嫌だろう。オーギュストはジョエルに肩を借りて、近衛隊長の背中を追った。
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