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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第8話 式典
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― 一時間前 ―
オーギュストは王都の郊外に来ていた。新しい橋の開通を祝う式典がこれから行われる。十年ほど前に魔獣の襲撃によって、王都のシンボルだった橋は崩壊してしまった。その時の国民の動揺は、オーギュストもよく覚えている。
仮の橋はすぐに作られていたが、王都の浄化から七年、やっと新しいシンボルと呼べる橋が完成したのだ。
「素敵な橋ですね」
「ああ。今度、きちんと見に来よう」
隣から小さな声で語りかけられて、オーギュストはそちらを見ないままで返事をする。
フルーナ王国の紋章の入ったオブジェが橋の中央にあるはずだが、今は布が掛けられている。式典の中で王太子の二人の王子が紐を引いてお披露目する予定だ。
オーギュストたちは見届けられないので、後日のお楽しみになるだろう。
オーギュストは警備につく部下たちにもう一度視線を走らせてから、天幕に入る。中では、厳しい表情の近衛騎士たちに見守られながら、王太子一家が穏やかに談笑していた。
「王太子、警備の配置が済みました。これより、私は姿を消して警備を続けます」
「ああ。よろしく頼む」
フルーナ王国の王族は強さも求められる。王太子が国民の前に出る際に、弟の警護を公に受け入れるわけにはいかない。いつも、オーギュストは姿を消して近くに隠れているのだ。
オーギュストが自分の姿を消すと、近衛騎士からピリッとした空気が流れる。天幕に入ることが許された騎士は、オーギュストが警備を続けないことを知っている。
オーギュストは誰にも見えないと分かりながら、王太子に一礼して天幕を出た。オーギュストの魔法でずっと隠している小柄な身体を抱き上げて、二人の住まいである離宮に転移した。
コンコン
オーギュストはそのまま離宮の裏口に回って扉をノックする。目印の花弁を一枚扉の前に落として距離をとった。
すぐに小柄な少年が出てきて、キョロキョロと周りを見渡した。少年は花弁を確認したようでローブを深く被ったまま、テテテと可愛らしい音が聞こえてきそうな足どりで離宮を出ていく。まるで、お忍びを楽しむお姫様のようだ。
「わたくし、あのようには歩きませんわ」
隣に立つミシュリーヌが頬を膨らませている。オーギュストが同意できないでいると、繋いだ手を抗議するようにギュッと握ってきた。オーギュストは可愛い行動に小さく笑って、ミシュリーヌに扮した新人団員の後を追った。
囮作戦は決行される事になったが、ミシュリーヌ本人を囮にするわけにはいかない。今回は変装術を得意とする団員のアダンがミシュリーヌの姿に魔法で似せて囮役を務めてくれている。まだ、新人ではあるが上手くやってくれそうだ。
オーギュストとミシュリーヌは、姿を消したまま見守る予定だ。
……
図書館に着くと、アダンはモジモジしながら騎士に微笑みかけていた。ミシュリーヌが不機嫌そうにそれを見つめているが、アダンには伝えないほうが良いだろう。
「でん……いつもご一緒されている同僚の方はご存知なのですか?」
「ええ。もちろんよ」
騎士はアダンの言葉に戸惑っていたが、遠くで見守る護衛の姿を確認して、アダンを通してしまった。
「あの騎士は良くないな。アダンが王家と敵対する者だったら最悪だ」
オーギュストは、次の客の相手を始めた騎士を見てため息をつく。
作戦が続行できて助かるが、警備がずさんすぎる。アダンは頑張っているが、本物のミシュリーヌに会ったことがある人間なら気づくはずだ。姿形や動きはそっくりだが、色気や可愛さがアダンには足りない。
「それより、わたくしは騎士の態度が気になりましたわ。あのように丁寧な対応をされては、『ミーシャ』が身分のある人間だと分かってしまいます」
「そうだな。軽く注意を入れておく」
オーギュストは頬が緩むのを堪えて真剣に返事をした。ミシュリーヌはお忍びの際に、魔導師団員になりきれていると思っているらしい。ミシュリーヌの変装する『ミーシャ』は、誰が見てもお忍びの貴族のお姫様だ。騎士の態度に疑問を抱く者はいないと思う。
……
アダンがキャピキャピと本を選んでいるのをしばらく眺めていると、護衛とは違う視線が増えてきた。アダンも気がついたようなので、オーギュストは側によってアダンにいくつか指示を出す。
アダンを別の階に行かせたり、視線が入りにくい場所に行かせたりしたところ、『聖女』を見張っている人間は全部で十名だと分かった。その中には騎士のような動きの者もいるが、魔導師がいないことにホッとする。
「この後はどうするのですか?」
「この人数なら、向こうから仕掛けて来るだろうから待つよ」
アダンは良い動きをしているので、オーギュストは見守ることにした。しばらく待っていると、十名の敵のうち数名が同時に動き出す。普段通りに護衛している近衛騎士に近づいていくので、アダンから護衛を引き離す作戦なのだろう。
ミシュリーヌの近衛隊長が、近くで転んだ敵の一人に手を貸すためにアダンから視線を外した。護衛対象者からわざと視線を外すなんて普段では絶対にありえない行動だ。いつもは冷静な隊長の顔が不自然に硬いが、敵に気づかれてはいないだろう。
オーギュストが防御魔法の発動を感じてアダンに視線を戻すと、アダンはグッタリと敵の腕の中に倒れ込んでいた。繋いだ手からミシュリーヌの動揺が伝わってくる。
「魔導師団員は研修期間に毒を防ぐ訓練も受けているから大丈夫だよ。魔獣の毒の方が突然襲ってくるし強力だ」
人間であれば自分も毒に侵される危険があるため、強い毒は使えない。敵に魔導師がいない現状では、万が一の可能性もなくアダンは無事だ。
それにしても、かなり考えられた作戦みたいだな……
その後の敵の行動は早かった。
あっという間にアダンは抱き上げられ、王族しか使えない出口から運び出されていく。魔法で姿を消した魔導師団員たちが慌てて追いかけて行った。
後から見えるように護衛していた者たちが追いかけようとするが、王族が一緒ではないため通れない。この辺りは今後のために何らかの改善が必要になりそうだ。
オーギュストは王都の郊外に来ていた。新しい橋の開通を祝う式典がこれから行われる。十年ほど前に魔獣の襲撃によって、王都のシンボルだった橋は崩壊してしまった。その時の国民の動揺は、オーギュストもよく覚えている。
仮の橋はすぐに作られていたが、王都の浄化から七年、やっと新しいシンボルと呼べる橋が完成したのだ。
「素敵な橋ですね」
「ああ。今度、きちんと見に来よう」
隣から小さな声で語りかけられて、オーギュストはそちらを見ないままで返事をする。
フルーナ王国の紋章の入ったオブジェが橋の中央にあるはずだが、今は布が掛けられている。式典の中で王太子の二人の王子が紐を引いてお披露目する予定だ。
オーギュストたちは見届けられないので、後日のお楽しみになるだろう。
オーギュストは警備につく部下たちにもう一度視線を走らせてから、天幕に入る。中では、厳しい表情の近衛騎士たちに見守られながら、王太子一家が穏やかに談笑していた。
「王太子、警備の配置が済みました。これより、私は姿を消して警備を続けます」
「ああ。よろしく頼む」
フルーナ王国の王族は強さも求められる。王太子が国民の前に出る際に、弟の警護を公に受け入れるわけにはいかない。いつも、オーギュストは姿を消して近くに隠れているのだ。
オーギュストが自分の姿を消すと、近衛騎士からピリッとした空気が流れる。天幕に入ることが許された騎士は、オーギュストが警備を続けないことを知っている。
オーギュストは誰にも見えないと分かりながら、王太子に一礼して天幕を出た。オーギュストの魔法でずっと隠している小柄な身体を抱き上げて、二人の住まいである離宮に転移した。
コンコン
オーギュストはそのまま離宮の裏口に回って扉をノックする。目印の花弁を一枚扉の前に落として距離をとった。
すぐに小柄な少年が出てきて、キョロキョロと周りを見渡した。少年は花弁を確認したようでローブを深く被ったまま、テテテと可愛らしい音が聞こえてきそうな足どりで離宮を出ていく。まるで、お忍びを楽しむお姫様のようだ。
「わたくし、あのようには歩きませんわ」
隣に立つミシュリーヌが頬を膨らませている。オーギュストが同意できないでいると、繋いだ手を抗議するようにギュッと握ってきた。オーギュストは可愛い行動に小さく笑って、ミシュリーヌに扮した新人団員の後を追った。
囮作戦は決行される事になったが、ミシュリーヌ本人を囮にするわけにはいかない。今回は変装術を得意とする団員のアダンがミシュリーヌの姿に魔法で似せて囮役を務めてくれている。まだ、新人ではあるが上手くやってくれそうだ。
オーギュストとミシュリーヌは、姿を消したまま見守る予定だ。
……
図書館に着くと、アダンはモジモジしながら騎士に微笑みかけていた。ミシュリーヌが不機嫌そうにそれを見つめているが、アダンには伝えないほうが良いだろう。
「でん……いつもご一緒されている同僚の方はご存知なのですか?」
「ええ。もちろんよ」
騎士はアダンの言葉に戸惑っていたが、遠くで見守る護衛の姿を確認して、アダンを通してしまった。
「あの騎士は良くないな。アダンが王家と敵対する者だったら最悪だ」
オーギュストは、次の客の相手を始めた騎士を見てため息をつく。
作戦が続行できて助かるが、警備がずさんすぎる。アダンは頑張っているが、本物のミシュリーヌに会ったことがある人間なら気づくはずだ。姿形や動きはそっくりだが、色気や可愛さがアダンには足りない。
「それより、わたくしは騎士の態度が気になりましたわ。あのように丁寧な対応をされては、『ミーシャ』が身分のある人間だと分かってしまいます」
「そうだな。軽く注意を入れておく」
オーギュストは頬が緩むのを堪えて真剣に返事をした。ミシュリーヌはお忍びの際に、魔導師団員になりきれていると思っているらしい。ミシュリーヌの変装する『ミーシャ』は、誰が見てもお忍びの貴族のお姫様だ。騎士の態度に疑問を抱く者はいないと思う。
……
アダンがキャピキャピと本を選んでいるのをしばらく眺めていると、護衛とは違う視線が増えてきた。アダンも気がついたようなので、オーギュストは側によってアダンにいくつか指示を出す。
アダンを別の階に行かせたり、視線が入りにくい場所に行かせたりしたところ、『聖女』を見張っている人間は全部で十名だと分かった。その中には騎士のような動きの者もいるが、魔導師がいないことにホッとする。
「この後はどうするのですか?」
「この人数なら、向こうから仕掛けて来るだろうから待つよ」
アダンは良い動きをしているので、オーギュストは見守ることにした。しばらく待っていると、十名の敵のうち数名が同時に動き出す。普段通りに護衛している近衛騎士に近づいていくので、アダンから護衛を引き離す作戦なのだろう。
ミシュリーヌの近衛隊長が、近くで転んだ敵の一人に手を貸すためにアダンから視線を外した。護衛対象者からわざと視線を外すなんて普段では絶対にありえない行動だ。いつもは冷静な隊長の顔が不自然に硬いが、敵に気づかれてはいないだろう。
オーギュストが防御魔法の発動を感じてアダンに視線を戻すと、アダンはグッタリと敵の腕の中に倒れ込んでいた。繋いだ手からミシュリーヌの動揺が伝わってくる。
「魔導師団員は研修期間に毒を防ぐ訓練も受けているから大丈夫だよ。魔獣の毒の方が突然襲ってくるし強力だ」
人間であれば自分も毒に侵される危険があるため、強い毒は使えない。敵に魔導師がいない現状では、万が一の可能性もなくアダンは無事だ。
それにしても、かなり考えられた作戦みたいだな……
その後の敵の行動は早かった。
あっという間にアダンは抱き上げられ、王族しか使えない出口から運び出されていく。魔法で姿を消した魔導師団員たちが慌てて追いかけて行った。
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