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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第9話 追跡
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オーギュストは図書館の館内をグルリと見回した。
犯人グループのうち三名がこの場に残っている。アダンを護衛していた面々は、仲間に置いていかれた犯人と共にいる者と、図書館の職員と揉めている者とに別れる。前者は……
「お怪我をされているといけないので、騎士団の救護所にお連れします」
近衛隊長がキラキラとした笑顔で犯人の一人を抱き上げていた。犯人は威圧されたのか真っ青で口も聞けないらしい。他の犯人二名も似たような状態なので、そちらは任せて問題ないだろう。
オーギュストは職員と揉めている護衛に近づく。彼らはミシュリーヌを追うために王族専用の扉に入る交渉をしている。誰か監視役がいる恐れがあるので、そのための演技だ。
現に一名変な動きをしている男がいる。オーギュストが動きを追っていると、姿を消している魔導師団員も監視を始めているのが分かった。そういう人間は拘束せずに追跡するよう指示をすでに出してある。
オーギュストは職員と揉めているうちの一人の耳元に口を寄せる。
「頃合いを見て、職員も拘束しろ。私はアダンの追跡に向かう。監視者一名は他の者が追尾を開始した」
オーギュストが声だけ届くように隠蔽の魔法を調節して姿を消したまま囁く。アダンたちを通した図書館職員も犯人の仲間である可能性が僅かにある。
伝えた団員は小さく腕を動かして了承の合図を送ってきた。
「わたくしはどうすればよろしいですか?」
「ミシュリーヌはもう少し待機かな」
再びミシュリーヌを抱き上げると、腕の中で不満そうに頷いた。何か役目がほしいのだろう。
本来であれば、ミシュリーヌには離宮にいてもらうべきかもしれない。だが、こちらの作戦がバレていて離宮に侵入される可能性を頭に置きながら動きたくはなかった。オーギュストの目の届くところにいてくれた方が精神的に助かる。
オーギュストの魔法でガチガチに守られた離宮だが、祝賀パーティの日にミシュリーヌが自ら消えるという出来事も起こっている。首謀者がヘクターなら裏をかかれる可能性を十分に考慮する必要がある。
……
オーギュストは近衛隊長に一声掛けて、図書館を出た。アダンの姿はどこにもないので、空に飛び上がり上空からアダンの魔力を追う。
しばらく飛んでいると、ひどく急いで走る馬車を見つけた。姿を消した魔導師団員が二名、屋根の上に座っているのでアダンの乗る馬車で間違いなさそうだ。姿を消して馬で追っている者も確認できた。予定どおりに進んでいるようだ。
オーギュストは合流したことだけ伝えて上空に戻る。
「あのような馬車の中で、アダンは大丈夫でしょうか?」
アダンの乗る馬車は上空からでも分かるくらいに揺れている。聖女であるミシュリーヌが乗る馬車が揺れることはまずない。想像していない光景だったのか、馬車を見つめるミシュリーヌの顔が少し青い。
「問題ないよ。小柄だがアダンは魔導師団員だ。ミシュリーヌに囮はさせられないと言った意味が分かったかい」
「はい……」
囮の案に賛同していた伯爵も、最初からミシュリーヌを使うつもりはなかったようだ。伯爵のことだから、身代わりを用意すると言ったらミシュリーヌが反対すると分かっていて賛同するふりをしたのだろう。オーギュストとしては、ミシュリーヌに最初からきちんと説明したかったが、皆に止められてできなかった。
ミシュリーヌは自分が囮になるつもりで、オーギュストと図書館に通っていたのだ。オーギュストが本当の作戦を伝えたのは昨晩で、ミシュリーヌの言葉を借りるなら、『初めての夫婦喧嘩』までしてしまった。初めから説明していたら、囮作戦は決行できなかっただろう。
「昨晩は申し訳ありませんでした」
ミシュリーヌがシュンとした顔で謝罪する。かなり落ち込んでいるようだ。囮に使えないことは分かってほしいが、落ち込ませたい訳では無い。
「ミシュリーヌにはミシュリーヌにしか出来ないことがある。いつも頼りにしているよ」
「ありがとうございます」
ミシュリーヌは無理に笑顔を作っている。しばらくは慎重になってくれるだろうが、オーギュストは喜ぶことができなかった。
犯人グループのうち三名がこの場に残っている。アダンを護衛していた面々は、仲間に置いていかれた犯人と共にいる者と、図書館の職員と揉めている者とに別れる。前者は……
「お怪我をされているといけないので、騎士団の救護所にお連れします」
近衛隊長がキラキラとした笑顔で犯人の一人を抱き上げていた。犯人は威圧されたのか真っ青で口も聞けないらしい。他の犯人二名も似たような状態なので、そちらは任せて問題ないだろう。
オーギュストは職員と揉めている護衛に近づく。彼らはミシュリーヌを追うために王族専用の扉に入る交渉をしている。誰か監視役がいる恐れがあるので、そのための演技だ。
現に一名変な動きをしている男がいる。オーギュストが動きを追っていると、姿を消している魔導師団員も監視を始めているのが分かった。そういう人間は拘束せずに追跡するよう指示をすでに出してある。
オーギュストは職員と揉めているうちの一人の耳元に口を寄せる。
「頃合いを見て、職員も拘束しろ。私はアダンの追跡に向かう。監視者一名は他の者が追尾を開始した」
オーギュストが声だけ届くように隠蔽の魔法を調節して姿を消したまま囁く。アダンたちを通した図書館職員も犯人の仲間である可能性が僅かにある。
伝えた団員は小さく腕を動かして了承の合図を送ってきた。
「わたくしはどうすればよろしいですか?」
「ミシュリーヌはもう少し待機かな」
再びミシュリーヌを抱き上げると、腕の中で不満そうに頷いた。何か役目がほしいのだろう。
本来であれば、ミシュリーヌには離宮にいてもらうべきかもしれない。だが、こちらの作戦がバレていて離宮に侵入される可能性を頭に置きながら動きたくはなかった。オーギュストの目の届くところにいてくれた方が精神的に助かる。
オーギュストの魔法でガチガチに守られた離宮だが、祝賀パーティの日にミシュリーヌが自ら消えるという出来事も起こっている。首謀者がヘクターなら裏をかかれる可能性を十分に考慮する必要がある。
……
オーギュストは近衛隊長に一声掛けて、図書館を出た。アダンの姿はどこにもないので、空に飛び上がり上空からアダンの魔力を追う。
しばらく飛んでいると、ひどく急いで走る馬車を見つけた。姿を消した魔導師団員が二名、屋根の上に座っているのでアダンの乗る馬車で間違いなさそうだ。姿を消して馬で追っている者も確認できた。予定どおりに進んでいるようだ。
オーギュストは合流したことだけ伝えて上空に戻る。
「あのような馬車の中で、アダンは大丈夫でしょうか?」
アダンの乗る馬車は上空からでも分かるくらいに揺れている。聖女であるミシュリーヌが乗る馬車が揺れることはまずない。想像していない光景だったのか、馬車を見つめるミシュリーヌの顔が少し青い。
「問題ないよ。小柄だがアダンは魔導師団員だ。ミシュリーヌに囮はさせられないと言った意味が分かったかい」
「はい……」
囮の案に賛同していた伯爵も、最初からミシュリーヌを使うつもりはなかったようだ。伯爵のことだから、身代わりを用意すると言ったらミシュリーヌが反対すると分かっていて賛同するふりをしたのだろう。オーギュストとしては、ミシュリーヌに最初からきちんと説明したかったが、皆に止められてできなかった。
ミシュリーヌは自分が囮になるつもりで、オーギュストと図書館に通っていたのだ。オーギュストが本当の作戦を伝えたのは昨晩で、ミシュリーヌの言葉を借りるなら、『初めての夫婦喧嘩』までしてしまった。初めから説明していたら、囮作戦は決行できなかっただろう。
「昨晩は申し訳ありませんでした」
ミシュリーヌがシュンとした顔で謝罪する。かなり落ち込んでいるようだ。囮に使えないことは分かってほしいが、落ち込ませたい訳では無い。
「ミシュリーヌにはミシュリーヌにしか出来ないことがある。いつも頼りにしているよ」
「ありがとうございます」
ミシュリーヌは無理に笑顔を作っている。しばらくは慎重になってくれるだろうが、オーギュストは喜ぶことができなかった。
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