78 / 160
三章 犯人を追って【オーギュスト】
第10話 王都外へ
しおりを挟む
アダンを乗せた馬車はそのまま進み続け、王都を囲う塀を出てしまった。門番には作戦を伝えていない。
あっさりと通過できてしまったことから、ここにも犯人の仲間がいる可能性が高い。
オーギュストは馬車とともに門を出てから、門の死角に降り立つ。ミシュリーヌを地面に降ろして、伝書鳩を召喚した。
【北門を通過 門番は荷を確認せず 仲間がいる可能性あり】
オーギュストはメモを伝書鳩の足につけて空に放つ。送り先は離宮に待つジョエルだ。彼は離宮に敵が来た場合に備えて待機してくれている。メモを見れば、すぐに門に向かう人を手配するだろう。
「ここからは馬で行くよ」
オーギュストは言いながら馬を召喚する。二人用の鞍をつけて、ミシュリーヌを乗せてから自分もその後ろに跨った。
上空の移動は便利だが魔力の消費が激しい。王都の外に出た以上長距離移動になる恐れがある。魔獣も出るので、その点からも魔力を温存する必要がある。
オーギュストはすぐに馬を走らせ、馬車の後ろについた。二人乗りとはいえ、馬車よりは早いため、魔法で速度を上げるまでもない。
「北町の屋敷に行くわけではなかったのですね」
「そうだね。行き先の検討もつかないよ」
数日で着けるような距離ではないが、この先にはフリルネロ公爵領もある。
フリルネロ公爵領もしくはビビ伯爵領に向かうのだろうか?
ただ、ヘクターは今朝の時点で王都にある婿入り先のナチュレ公爵邸に滞在していることが分かっている。監視している者からの報告がないことから考えると、動きはなさそうだ。
「わたくし、離宮に帰ったほうがよろしいでしょうか?」
「怖いか?」
「オーギュスト様と一緒ですもの。怖くはありませんわ」
前を向くミシュリーヌの表情は分からない。それでも、ミシュリーヌが落ち着いていることは、凛とした後姿からオーギュストにも伝わってくる。
「それなら良かった。できるなら、このまま同行してほしい。ミシュリーヌに頼みたいことがあるんだ」
「何でもおっしゃって下さいませ!」
ミシュリーヌが嬉しそうに振り返る。オーギュストは慌てて抱きしめる腕に力を入れた。できれば、馬上にいることを覚えていてほしい。咎めるように見るが、どうしても愛しさが溢れて頬が緩んでしまい、ミシュリーヌも微笑みながら謝罪する。
ミシュリーヌに頼みたいのは馬の疲労回復だ。馬は長時間走り続けることが難しい。誘拐犯は仲間が別の馬を途中で準備しているか、街で馬を変えるのかもしれない。しかし、隠れて追跡するオーギュストたちには難しい。召喚できる馬は、オーギュストでさえ今乗る愛馬だけだ。
「わたくし、魔法は使えないはずですが……」
「悪い。五日前の診察で使用許可が出ている」
「えっ!?」
ミシュリーヌが再び勢いよく振り返るが、今度は咎めることができない。
「ミシュリーヌが急にいなくなるのが怖くて、医師に長めの期間を伝えさせた。言い訳になるが、魔力譲渡が上手くいかなかった場合には一ヶ月かかる可能性もあったんだ」
ミシュリーヌはプクッと頬を膨らませてから、小さく息をつく。
「今回は許して差し上げますわ」
「ありがとう。ゴメンな」
「良いのです。わたくしもオーギュスト様の立場なら同じことをしてしまいそうですもの。次にそんな嘘をついたら家出しますからね」
オーギュストがビクッと身体を動かすと、ミシュリーヌがクスリと笑う。いたずらっぽい表情を見れば冗談だと分かるが、ミシュリーヌならやりかねない。
「久しぶりですので、試させて下さいませ」
ミシュリーヌが申し訳なさそうに言って、オーギュストに癒やしの魔法をかける。自分で思っている以上に動揺が顔に出ていたのだろう。
……
アダンを誘拐した者たちは、最初こそ街道を進んだが、すぐにアダンを輿に移し、山の中に入っていく。地元の人間だけが使うような獣道なので、追手を気にしてのことだろう。
実際に近衛隊長が秘密裏にミシュリーヌの救出に向かうという体で隊を組んでいるはずだ。
オーギュストは馬を降り、ミシュリーヌを乗せた馬を引きながら、誘拐犯の後ろを進む。他の魔導師団員は一名のみ走り去った馬車を追いかけ、後は同じように馬を引いて歩いている。
「彼らは冒険者なのでしょうか?」
「どうかな? 少なくとも二人は騎士の経験がありそうだよ」
御者は去ったので、犯人は図書館での誘拐の際からいた七名。時々現れる魔獣への対応から、輿を持たぬ三名は戦闘の経験が豊富であることが伺える。それでも、こちらは魔導師の精鋭ばかりなので、いつでも制圧は可能だ。ミシュリーヌもそれが分かっているからか表情に緊張はみえず、落ち着いているようだった。
あっさりと通過できてしまったことから、ここにも犯人の仲間がいる可能性が高い。
オーギュストは馬車とともに門を出てから、門の死角に降り立つ。ミシュリーヌを地面に降ろして、伝書鳩を召喚した。
【北門を通過 門番は荷を確認せず 仲間がいる可能性あり】
オーギュストはメモを伝書鳩の足につけて空に放つ。送り先は離宮に待つジョエルだ。彼は離宮に敵が来た場合に備えて待機してくれている。メモを見れば、すぐに門に向かう人を手配するだろう。
「ここからは馬で行くよ」
オーギュストは言いながら馬を召喚する。二人用の鞍をつけて、ミシュリーヌを乗せてから自分もその後ろに跨った。
上空の移動は便利だが魔力の消費が激しい。王都の外に出た以上長距離移動になる恐れがある。魔獣も出るので、その点からも魔力を温存する必要がある。
オーギュストはすぐに馬を走らせ、馬車の後ろについた。二人乗りとはいえ、馬車よりは早いため、魔法で速度を上げるまでもない。
「北町の屋敷に行くわけではなかったのですね」
「そうだね。行き先の検討もつかないよ」
数日で着けるような距離ではないが、この先にはフリルネロ公爵領もある。
フリルネロ公爵領もしくはビビ伯爵領に向かうのだろうか?
ただ、ヘクターは今朝の時点で王都にある婿入り先のナチュレ公爵邸に滞在していることが分かっている。監視している者からの報告がないことから考えると、動きはなさそうだ。
「わたくし、離宮に帰ったほうがよろしいでしょうか?」
「怖いか?」
「オーギュスト様と一緒ですもの。怖くはありませんわ」
前を向くミシュリーヌの表情は分からない。それでも、ミシュリーヌが落ち着いていることは、凛とした後姿からオーギュストにも伝わってくる。
「それなら良かった。できるなら、このまま同行してほしい。ミシュリーヌに頼みたいことがあるんだ」
「何でもおっしゃって下さいませ!」
ミシュリーヌが嬉しそうに振り返る。オーギュストは慌てて抱きしめる腕に力を入れた。できれば、馬上にいることを覚えていてほしい。咎めるように見るが、どうしても愛しさが溢れて頬が緩んでしまい、ミシュリーヌも微笑みながら謝罪する。
ミシュリーヌに頼みたいのは馬の疲労回復だ。馬は長時間走り続けることが難しい。誘拐犯は仲間が別の馬を途中で準備しているか、街で馬を変えるのかもしれない。しかし、隠れて追跡するオーギュストたちには難しい。召喚できる馬は、オーギュストでさえ今乗る愛馬だけだ。
「わたくし、魔法は使えないはずですが……」
「悪い。五日前の診察で使用許可が出ている」
「えっ!?」
ミシュリーヌが再び勢いよく振り返るが、今度は咎めることができない。
「ミシュリーヌが急にいなくなるのが怖くて、医師に長めの期間を伝えさせた。言い訳になるが、魔力譲渡が上手くいかなかった場合には一ヶ月かかる可能性もあったんだ」
ミシュリーヌはプクッと頬を膨らませてから、小さく息をつく。
「今回は許して差し上げますわ」
「ありがとう。ゴメンな」
「良いのです。わたくしもオーギュスト様の立場なら同じことをしてしまいそうですもの。次にそんな嘘をついたら家出しますからね」
オーギュストがビクッと身体を動かすと、ミシュリーヌがクスリと笑う。いたずらっぽい表情を見れば冗談だと分かるが、ミシュリーヌならやりかねない。
「久しぶりですので、試させて下さいませ」
ミシュリーヌが申し訳なさそうに言って、オーギュストに癒やしの魔法をかける。自分で思っている以上に動揺が顔に出ていたのだろう。
……
アダンを誘拐した者たちは、最初こそ街道を進んだが、すぐにアダンを輿に移し、山の中に入っていく。地元の人間だけが使うような獣道なので、追手を気にしてのことだろう。
実際に近衛隊長が秘密裏にミシュリーヌの救出に向かうという体で隊を組んでいるはずだ。
オーギュストは馬を降り、ミシュリーヌを乗せた馬を引きながら、誘拐犯の後ろを進む。他の魔導師団員は一名のみ走り去った馬車を追いかけ、後は同じように馬を引いて歩いている。
「彼らは冒険者なのでしょうか?」
「どうかな? 少なくとも二人は騎士の経験がありそうだよ」
御者は去ったので、犯人は図書館での誘拐の際からいた七名。時々現れる魔獣への対応から、輿を持たぬ三名は戦闘の経験が豊富であることが伺える。それでも、こちらは魔導師の精鋭ばかりなので、いつでも制圧は可能だ。ミシュリーヌもそれが分かっているからか表情に緊張はみえず、落ち着いているようだった。
26
あなたにおすすめの小説
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】王太子とその婚約者が相思相愛ならこうなる。~聖女には帰っていただきたい~
かのん
恋愛
貴重な光の魔力を身に宿した公爵家令嬢エミリアは、王太子の婚約者となる。
幸せになると思われていた時、異世界から来た聖女少女レナによってエミリアは邪悪な存在と牢へと入れられてしまう。
これは、王太子と婚約者が相思相愛ならば、こうなるであろう物語。
7月18日のみ18時公開。7月19日から毎朝7時更新していきます。完結済ですので、安心してお読みください。長々とならないお話しとなっております。感想などお返事が中々できませんが、頂いた感想は全て読ませてもらっています。励みになります。いつも読んで下さる皆様ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】回復魔法だけでも幸せになれますか?
笹乃笹世
恋愛
おケツに強い衝撃を受けて蘇った前世の記憶。
日本人だったことを思い出したワタクシは、侯爵令嬢のイルメラ・ベラルディと申します。
一応、侯爵令嬢ではあるのですが……婚約破棄され、傷物腫れ物の扱いで、静養という名目で田舎へとドナドナされて来た、ギリギリかろうじての侯爵家のご令嬢でございます……
しかし、そこで出会ったイケメン領主、エドアルド様に「例え力が弱くても構わない! 月50G支払おう!!」とまで言われたので、たった一つ使える回復魔法で、エドアルド様の疲労や騎士様方の怪我ーーそして頭皮も守ってみせましょう!
頑張りますのでお給金、よろしくお願いいたします!!
ーーこれは、回復魔法しか使えない地味顔根暗の傷物侯爵令嬢がささやかな幸せを掴むまでのお話である。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる