77 / 160
三章 犯人を追って【オーギュスト】
第9話 追跡
しおりを挟む
オーギュストは図書館の館内をグルリと見回した。
犯人グループのうち三名がこの場に残っている。アダンを護衛していた面々は、仲間に置いていかれた犯人と共にいる者と、図書館の職員と揉めている者とに別れる。前者は……
「お怪我をされているといけないので、騎士団の救護所にお連れします」
近衛隊長がキラキラとした笑顔で犯人の一人を抱き上げていた。犯人は威圧されたのか真っ青で口も聞けないらしい。他の犯人二名も似たような状態なので、そちらは任せて問題ないだろう。
オーギュストは職員と揉めている護衛に近づく。彼らはミシュリーヌを追うために王族専用の扉に入る交渉をしている。誰か監視役がいる恐れがあるので、そのための演技だ。
現に一名変な動きをしている男がいる。オーギュストが動きを追っていると、姿を消している魔導師団員も監視を始めているのが分かった。そういう人間は拘束せずに追跡するよう指示をすでに出してある。
オーギュストは職員と揉めているうちの一人の耳元に口を寄せる。
「頃合いを見て、職員も拘束しろ。私はアダンの追跡に向かう。監視者一名は他の者が追尾を開始した」
オーギュストが声だけ届くように隠蔽の魔法を調節して姿を消したまま囁く。アダンたちを通した図書館職員も犯人の仲間である可能性が僅かにある。
伝えた団員は小さく腕を動かして了承の合図を送ってきた。
「わたくしはどうすればよろしいですか?」
「ミシュリーヌはもう少し待機かな」
再びミシュリーヌを抱き上げると、腕の中で不満そうに頷いた。何か役目がほしいのだろう。
本来であれば、ミシュリーヌには離宮にいてもらうべきかもしれない。だが、こちらの作戦がバレていて離宮に侵入される可能性を頭に置きながら動きたくはなかった。オーギュストの目の届くところにいてくれた方が精神的に助かる。
オーギュストの魔法でガチガチに守られた離宮だが、祝賀パーティの日にミシュリーヌが自ら消えるという出来事も起こっている。首謀者がヘクターなら裏をかかれる可能性を十分に考慮する必要がある。
……
オーギュストは近衛隊長に一声掛けて、図書館を出た。アダンの姿はどこにもないので、空に飛び上がり上空からアダンの魔力を追う。
しばらく飛んでいると、ひどく急いで走る馬車を見つけた。姿を消した魔導師団員が二名、屋根の上に座っているのでアダンの乗る馬車で間違いなさそうだ。姿を消して馬で追っている者も確認できた。予定どおりに進んでいるようだ。
オーギュストは合流したことだけ伝えて上空に戻る。
「あのような馬車の中で、アダンは大丈夫でしょうか?」
アダンの乗る馬車は上空からでも分かるくらいに揺れている。聖女であるミシュリーヌが乗る馬車が揺れることはまずない。想像していない光景だったのか、馬車を見つめるミシュリーヌの顔が少し青い。
「問題ないよ。小柄だがアダンは魔導師団員だ。ミシュリーヌに囮はさせられないと言った意味が分かったかい」
「はい……」
囮の案に賛同していた伯爵も、最初からミシュリーヌを使うつもりはなかったようだ。伯爵のことだから、身代わりを用意すると言ったらミシュリーヌが反対すると分かっていて賛同するふりをしたのだろう。オーギュストとしては、ミシュリーヌに最初からきちんと説明したかったが、皆に止められてできなかった。
ミシュリーヌは自分が囮になるつもりで、オーギュストと図書館に通っていたのだ。オーギュストが本当の作戦を伝えたのは昨晩で、ミシュリーヌの言葉を借りるなら、『初めての夫婦喧嘩』までしてしまった。初めから説明していたら、囮作戦は決行できなかっただろう。
「昨晩は申し訳ありませんでした」
ミシュリーヌがシュンとした顔で謝罪する。かなり落ち込んでいるようだ。囮に使えないことは分かってほしいが、落ち込ませたい訳では無い。
「ミシュリーヌにはミシュリーヌにしか出来ないことがある。いつも頼りにしているよ」
「ありがとうございます」
ミシュリーヌは無理に笑顔を作っている。しばらくは慎重になってくれるだろうが、オーギュストは喜ぶことができなかった。
犯人グループのうち三名がこの場に残っている。アダンを護衛していた面々は、仲間に置いていかれた犯人と共にいる者と、図書館の職員と揉めている者とに別れる。前者は……
「お怪我をされているといけないので、騎士団の救護所にお連れします」
近衛隊長がキラキラとした笑顔で犯人の一人を抱き上げていた。犯人は威圧されたのか真っ青で口も聞けないらしい。他の犯人二名も似たような状態なので、そちらは任せて問題ないだろう。
オーギュストは職員と揉めている護衛に近づく。彼らはミシュリーヌを追うために王族専用の扉に入る交渉をしている。誰か監視役がいる恐れがあるので、そのための演技だ。
現に一名変な動きをしている男がいる。オーギュストが動きを追っていると、姿を消している魔導師団員も監視を始めているのが分かった。そういう人間は拘束せずに追跡するよう指示をすでに出してある。
オーギュストは職員と揉めているうちの一人の耳元に口を寄せる。
「頃合いを見て、職員も拘束しろ。私はアダンの追跡に向かう。監視者一名は他の者が追尾を開始した」
オーギュストが声だけ届くように隠蔽の魔法を調節して姿を消したまま囁く。アダンたちを通した図書館職員も犯人の仲間である可能性が僅かにある。
伝えた団員は小さく腕を動かして了承の合図を送ってきた。
「わたくしはどうすればよろしいですか?」
「ミシュリーヌはもう少し待機かな」
再びミシュリーヌを抱き上げると、腕の中で不満そうに頷いた。何か役目がほしいのだろう。
本来であれば、ミシュリーヌには離宮にいてもらうべきかもしれない。だが、こちらの作戦がバレていて離宮に侵入される可能性を頭に置きながら動きたくはなかった。オーギュストの目の届くところにいてくれた方が精神的に助かる。
オーギュストの魔法でガチガチに守られた離宮だが、祝賀パーティの日にミシュリーヌが自ら消えるという出来事も起こっている。首謀者がヘクターなら裏をかかれる可能性を十分に考慮する必要がある。
……
オーギュストは近衛隊長に一声掛けて、図書館を出た。アダンの姿はどこにもないので、空に飛び上がり上空からアダンの魔力を追う。
しばらく飛んでいると、ひどく急いで走る馬車を見つけた。姿を消した魔導師団員が二名、屋根の上に座っているのでアダンの乗る馬車で間違いなさそうだ。姿を消して馬で追っている者も確認できた。予定どおりに進んでいるようだ。
オーギュストは合流したことだけ伝えて上空に戻る。
「あのような馬車の中で、アダンは大丈夫でしょうか?」
アダンの乗る馬車は上空からでも分かるくらいに揺れている。聖女であるミシュリーヌが乗る馬車が揺れることはまずない。想像していない光景だったのか、馬車を見つめるミシュリーヌの顔が少し青い。
「問題ないよ。小柄だがアダンは魔導師団員だ。ミシュリーヌに囮はさせられないと言った意味が分かったかい」
「はい……」
囮の案に賛同していた伯爵も、最初からミシュリーヌを使うつもりはなかったようだ。伯爵のことだから、身代わりを用意すると言ったらミシュリーヌが反対すると分かっていて賛同するふりをしたのだろう。オーギュストとしては、ミシュリーヌに最初からきちんと説明したかったが、皆に止められてできなかった。
ミシュリーヌは自分が囮になるつもりで、オーギュストと図書館に通っていたのだ。オーギュストが本当の作戦を伝えたのは昨晩で、ミシュリーヌの言葉を借りるなら、『初めての夫婦喧嘩』までしてしまった。初めから説明していたら、囮作戦は決行できなかっただろう。
「昨晩は申し訳ありませんでした」
ミシュリーヌがシュンとした顔で謝罪する。かなり落ち込んでいるようだ。囮に使えないことは分かってほしいが、落ち込ませたい訳では無い。
「ミシュリーヌにはミシュリーヌにしか出来ないことがある。いつも頼りにしているよ」
「ありがとうございます」
ミシュリーヌは無理に笑顔を作っている。しばらくは慎重になってくれるだろうが、オーギュストは喜ぶことができなかった。
47
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~
夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。
しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。
しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。
夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。
いきなり事件が発生してしまう。
結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。
しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。
(こうなったら、私がなんとかするしかないわ!)
腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。
それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄されたら、辺境伯とお試し結婚することになりました
ミズメ
恋愛
婚約者を妹に奪われ、悪女として断罪された公爵令嬢フィオレッタ・グラシェルは、王都を追われ、身分を隠して辺境の町で静かに暮らしていた。ある日、迷子の少女ティナと出会い、川辺で花を摘み笑い合うひとときを過ごす。そこに現れたのは、ティナを捜していた辺境の若き領主ヴェルフリート・エルグランドだった。
ティナに懐かれたフィオレッタは子育てのために契約結婚をすることに。ティナの子守りをしながら、辺境で自らの才覚を発揮していくフィオレッタに、ヴェルフリートや領地の人々も惹かれていく。
「俺は、君を幸せにしたい」
いずれ幸せになる、追放令嬢のお話。
・感想いただけると元気もりもりになります!!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる