【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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三章 犯人を追って【オーギュスト】

第11話 小屋

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 日暮れが近づいてくると、空気中の魔素が濃くなってくる。オーギュストの髪が紫色に輝き始めたが、ミシュリーヌにしか見えていないのでそのままにした。むしろ、魔獣が増える指標として使っている自分に気づいて、オーギュストは心の中で笑う。髪の色の変化に怯えていた子供の頃のオーギュストが知ったら驚くだろう。

「ミシュリーヌ妃殿下、お疲れ様でした」

 輿が降ろされ、アダンがグッタリとしたまま、誘拐犯の一人に抱き上げられていく。どうやら、前方にある小さな小屋で一夜を明かすつもりらしい。

 オーギュストは隠れて追跡する魔導師団員のうち二人に合図を送る。オーギュストの意図を汲み取った二人は、誘拐犯が開けた扉にスルリと滑り込んだ。ここからは二人がアダンの補佐を交代で行ってくれるだろう。

「ミシュリーヌ、私達は休憩を取ろう」

「はい」

 オーギュストはミシュリーヌに手を貸して馬から降ろす。小屋から距離をとって全体が見渡しやすい場所に移動した。馬を手近な木につなぐと、ミシュリーヌがおやつをあげながら、馬を聖魔法で癒やす。

 誘拐犯の数人が魔獣避けの魔獣草を炊き始めているのが見える。オーギュストも残りの団員をミシュリーヌのそばともう一ヶ所に集め、馬と自分たちがギリギリ入れるほどの小さな結界を張った。

 結界外からは姿も見えないようにしたので、数時間ぶりに隠蔽の魔法を解除する。

 ……

 どのくらい時間が経っただろう?

 辺りは真っ暗になり、ミシュリーヌはオーギュストに寄りかかってウトウトとしている。ミシュリーヌは魔導師団員と馬に癒やしの魔法をかけていた。久しぶりだったので疲れたのだろう。療養で体力が落ちているのもあるかもしれない。

 ん?

 オーギュストは何者かが近づいて来るのを感じて、周囲を魔法で検索する。まだ、距離はあるが統制された軍のようだ。近衛隊長が指揮するミシュリーヌの捜索隊ではないはずなので、敵の増援だろうか? 魔獣の多い時間に移動してきたのだから、それなりに実力のある者達だ。

「団長」 

「ああ。皆を起こせ」

 今日はもう動かないとみて、団員たちも交代で睡眠をとっている。オーギュストもミシュリーヌに声を掛けてから、周囲を警戒した。

 どうやら、謎の軍はオーギュストたちのさらに後方に留まることにしたようだ。斥候らしき数人だけが小屋の周辺を検索している。

「我々も偵察を送りますか?」

「そうだな、私が行こう。もし、相手が攻撃してくるようなら、作戦は中止だ。アダンを奪取して離脱する。個々の命を優先しろ」  

「畏まりました。準備します」

 相手の人数が多いので、あまり無理はできない。

 オーギュストはそれぞれが隠蔽魔法を発動させるのを確認して結界を解く。ミシュリーヌを抱き上げて、謎の軍に向かって歩いた。

 この時間は夜行性の飛行魔獣も多くいるため、飛んでの移動は難しい。

「オーギュスト様……」

「うん。分かっているよ」

 ミシュリーヌがある方向を睨み付けるので、オーギュストも頷いてそちらへ向かう。魔力を膨大に持つ者は、魔力から相手を特定することができる。おそらく、この国ではオーギュストとミシュリーヌくらいだ。

 向かう先にいる人物の魔力はよく知っている。オーギュストの兄であるヘクター・ナチュレだ。

 ナチュレ公爵邸を見張っていた者からは【動きなし】と報告が来ている。どうやら、魔導師団員は出し抜かれたらしい。

「わたくしたちがいることも知っているのでしょうか?」

「どうだろうね。そこまで詠まれていないと思いたいけど……もし、その通りなら、逃げるしかないかな」

 純粋な戦闘ならば、負けない自信がある。しかし、残念ながら知略では劣ることは認めざるを得ない。ヘクターが用意した戦場で戦うのは悪手だ。

 オーギュストはヘクターが率いる軍の気配が近くなって慎重に歩みを進める。前方に結界を確認して、その前で止まった。
 
「ヘクター兄上の結界だね」

 オーギュストは言いながら、魔法陣を片手で作り出す。結界を壊すだけなら簡単だが、気づかれずに侵入したい。

 ミシュリーヌがキュッと目を瞑っている。オーギュストはその可愛さに意識を取られながら、スルリと結界の中に入った。

「本当にこんな場所に聖女様がいるのでしょうか?」

「私の情報源は正確だよ。繊細な子だから、早く助けてあげないとね」

 先程まで誰もいなかった場所に現れたのは、ヘクターと数十名の騎士だった。オーギュストは黙ったまま、しばらく様子を伺う。

「斥候が戻ってきました!」

「ヘクター殿下に申し上げます! 前方に簡素な小屋を発見。小屋の中には、ローブを深く被った女性の姿があります」

 その言葉に周囲の騎士たちがざわめき出す。ミシュリーヌがキョロキョロとその様子を眺めていた。

「きっと、聖女様だ」

「殿下! 早く向かいましょう!」

「人質がいるんだ。焦ってはいけないよ」

 ヘクターが焦る若い騎士を宥めている。オーギュストは戸惑いを抱えながら、隊の人数と装備を確認した。それが終わると、状況を整理するために部下のもとへと引き返す。

「ナチュレ公爵家の紋章をつけておりましたね」

 ヘクターの結界を出ると、ミシュリーヌが困惑した表情で言う。ミシュリーヌの言う通り、ヘクターと斥候以外の人間はナチュレ公爵家の紋章がついた軍服を着ていた。オーギュストの知る人物はいなかったが、ナチュレ公爵が団長を勤めるナチュレ公爵騎士団であるとみるべきだろう。

「まるで、正規の救助隊のような顔をしていたな」

 ナチュレ公爵領がフルーナ王国を裏切っていたのなら、まだ分かりやすい。

 ヘクター兄上は自領の騎士団まで騙しているのか?

 オーギュストは状況を掴みきれぬまま、小屋の近くまで戻るしかなかった。
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