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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第16話 説得
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「オーギュストは君自身ではなく、『聖女』を愛しているんだ。そんな相手のそばにいて、君は本当に幸せかい?」
ヘクターはミシュリーヌに扮したアダンの説得を続けている。オーギュストは気づかれないように、いくつかの魔法を発動した。
「――……私と一緒に来ないか? 私なら怖い思いも寂しい思いもさせないよ」
「へ、ヘクター殿下にはイレーヌ様が……」
アダンが恐る恐るといった様子で口を開く。ヘクターが返答を求めてきたので、頑張ったのだろう。イレーヌとはヘクターの妻であるナチュレ公爵の長女だ。
アダンの声は上擦っていたが、きちんと魔法でミシュリーヌに似せるだけの落ち着きはある。オーギュストはもう少し様子をみることにした。
「イレーヌ? 彼女に特別な感情を抱いたことはないよ。君たちと同じで、政略的に結婚するしかなかったんだ。それも今日までだよ」
「今日まで?」
「私はソルベ王国から招待されているんだ。ミシュリーヌも一緒に来ると良い。ソルベ国民は君を待ち望んでくれている」
ヘクターはソルベ王国の状況と、いかに新しい聖女が必要とされているかを語った。
「この国のために君ができることはなにもない。私は君の気持ちを理解しているよ。聡明な君なら、オーギュストのお荷物でいるのは辛いだろう?」
戸惑うアダンに、ヘクターは慈しむような笑顔を向ける。女性なら誰でも見惚れてしまいそうだ。不安になって、ミシュリーヌをチラリと見ると、魔獣を見るような顔をしてヘクターを睨んでいた。オーギュストと視線が合うとニッコリと笑う。
可愛いな……
どうやら、オーギュストは悪い方向に考え過ぎていたようだ。ミシュリーヌの気持ちを勝手に想像して暗くなっても意味がない。オーギュストは息をゆっくり吐き出して、ヘクターに意識を戻す。
「ミシュリーヌ、私は君を愛……」
ヘクターがアダンに伸ばした手が結界にあたる。バチンと音が鳴って、ヘクターが赤くなった手を抑えながら、アダンから一歩離れた。
「何をした?」
ヘクターが顔を歪めて低い声で言う。アダンは声も出さずに一瞬浮いたかと思うぐらいビクッと驚いていた。揺れ始めたアダンの魔力をオーギュストが抑え込む。
「心配するな。結界が破れることはない。そこが一番安全だ」
オーギュストはゆっくりとアダンに伝える。アダンは二回ほど深呼吸して、魔力を抑えた。
「ミシュリーヌ、結界を解いてくれないか? こんなことをされたら傷つくな」
ヘクターは先程の様子が幻覚だったかのように甘い顔に戻っている。アダンはそれを見て、さらにカタカタと震えていた。これは演技ではないだろう。
チッ……
ヘクターは舌打ちをして、魔法陣を作り出す。結界を破るためのものだ。
申し訳ないが、魔法だけはヘクターに負ける要素がない。
「結界はいつまで持つのかな? 君は一人、私には騎士がたくさんついている。すぐに謝るなら許してあげるよ」
震えるアダンを助け出してやりたいとは思う。でも、オーギュストとしては、この場でヘクターを取り押さえる理由がどうしてもほしい。
オーギュストはミシュリーヌに端によるように指示をする。すぐに結界で囲んで、ミシュリーヌを閉じ込めた。続けて、アダンを守る結界とアダンとの間にもう一つ結界を作り出す。
ヘクターはイライラしている。上手くいくと信じたい。
オーギュストは祈りながら、ヘクターの魔法を強化する。アダンの結界がパリンと割れたと同時に、ヘクターがアダンに向かって飛びかかった。
「ギャーー!」
アダンが野太い叫び声を上がる。オーギュストはヘクターを魔法で拘束し、自分の隠蔽魔法を解いた。
「ヘクター兄上、尊き聖女を害そうとした罪で拘束させていただきます」
「オーギュスト……まさか、任務を放棄して来たのか?」
ヘクターは幽霊でも見るような顔をしている。オーギュストが来ることは、全く想定していなかったようだ。
「私は七年も前からミシュリーヌ専属の護衛ですよ」
「いつから、この場にいた?」
「ヘクター兄上が知る必要はありません」
オーギュストの言葉を聞いて、ヘクターが顔をしかめる。何も伝えたつもりはないが、何かを読み取ったようだ。
「なるほど、お前が妃を囮に使うとはな……ミシュリーヌ妃、本当にこんな男で良いのか?」
アダンは首を振りそうになってから、慌てたようにコクリコクリと二度頷いた。アダンのオーギュストへの信頼が揺らいでいる気がする。先に作戦を伝えるべきだったと今になって思い至ったがもう遅い。
オーギュストはマジックバッグから魔力封じの腕輪を取り出し、ヘクターの腕にはめる。風魔法で扉を開けて魔導師団員を呼び入れた。万が一のために、ヘクターの前後左右を魔導師団員で囲んで建物を出る。
「魔力を封じたのに、ずいぶんと厳重だな」
ヘクターは笑顔だったが、建物の外の冷たい雰囲気を察して顔をしかめた。
ナチュレ公爵領の騎士たちが、友好的ではない表情でヘクターを見ている。悲しそうな顔をする者、怯える者、睨みつける者までいた。
「イレーヌ様をお捨てになるおつもりだったのですか?」
殺気立ったナチュレの騎士がヘクターに問う。騎士はヘクターに殴りかかりそうな勢いだったが、オーギュストが魔法で動きを止めた。魔導師団員の一人がすぐに拘束する。
「何の話だ?」
「あれは確かにヘクター殿下の声だった!」
拘束された騎士が叫ぶ。申し訳ないが、暴れられても困る。オーギュストが指示をして、騎士には魔力封じの腕輪とさるぐつわがつけられた。
ヘクターはミシュリーヌに扮したアダンの説得を続けている。オーギュストは気づかれないように、いくつかの魔法を発動した。
「――……私と一緒に来ないか? 私なら怖い思いも寂しい思いもさせないよ」
「へ、ヘクター殿下にはイレーヌ様が……」
アダンが恐る恐るといった様子で口を開く。ヘクターが返答を求めてきたので、頑張ったのだろう。イレーヌとはヘクターの妻であるナチュレ公爵の長女だ。
アダンの声は上擦っていたが、きちんと魔法でミシュリーヌに似せるだけの落ち着きはある。オーギュストはもう少し様子をみることにした。
「イレーヌ? 彼女に特別な感情を抱いたことはないよ。君たちと同じで、政略的に結婚するしかなかったんだ。それも今日までだよ」
「今日まで?」
「私はソルベ王国から招待されているんだ。ミシュリーヌも一緒に来ると良い。ソルベ国民は君を待ち望んでくれている」
ヘクターはソルベ王国の状況と、いかに新しい聖女が必要とされているかを語った。
「この国のために君ができることはなにもない。私は君の気持ちを理解しているよ。聡明な君なら、オーギュストのお荷物でいるのは辛いだろう?」
戸惑うアダンに、ヘクターは慈しむような笑顔を向ける。女性なら誰でも見惚れてしまいそうだ。不安になって、ミシュリーヌをチラリと見ると、魔獣を見るような顔をしてヘクターを睨んでいた。オーギュストと視線が合うとニッコリと笑う。
可愛いな……
どうやら、オーギュストは悪い方向に考え過ぎていたようだ。ミシュリーヌの気持ちを勝手に想像して暗くなっても意味がない。オーギュストは息をゆっくり吐き出して、ヘクターに意識を戻す。
「ミシュリーヌ、私は君を愛……」
ヘクターがアダンに伸ばした手が結界にあたる。バチンと音が鳴って、ヘクターが赤くなった手を抑えながら、アダンから一歩離れた。
「何をした?」
ヘクターが顔を歪めて低い声で言う。アダンは声も出さずに一瞬浮いたかと思うぐらいビクッと驚いていた。揺れ始めたアダンの魔力をオーギュストが抑え込む。
「心配するな。結界が破れることはない。そこが一番安全だ」
オーギュストはゆっくりとアダンに伝える。アダンは二回ほど深呼吸して、魔力を抑えた。
「ミシュリーヌ、結界を解いてくれないか? こんなことをされたら傷つくな」
ヘクターは先程の様子が幻覚だったかのように甘い顔に戻っている。アダンはそれを見て、さらにカタカタと震えていた。これは演技ではないだろう。
チッ……
ヘクターは舌打ちをして、魔法陣を作り出す。結界を破るためのものだ。
申し訳ないが、魔法だけはヘクターに負ける要素がない。
「結界はいつまで持つのかな? 君は一人、私には騎士がたくさんついている。すぐに謝るなら許してあげるよ」
震えるアダンを助け出してやりたいとは思う。でも、オーギュストとしては、この場でヘクターを取り押さえる理由がどうしてもほしい。
オーギュストはミシュリーヌに端によるように指示をする。すぐに結界で囲んで、ミシュリーヌを閉じ込めた。続けて、アダンを守る結界とアダンとの間にもう一つ結界を作り出す。
ヘクターはイライラしている。上手くいくと信じたい。
オーギュストは祈りながら、ヘクターの魔法を強化する。アダンの結界がパリンと割れたと同時に、ヘクターがアダンに向かって飛びかかった。
「ギャーー!」
アダンが野太い叫び声を上がる。オーギュストはヘクターを魔法で拘束し、自分の隠蔽魔法を解いた。
「ヘクター兄上、尊き聖女を害そうとした罪で拘束させていただきます」
「オーギュスト……まさか、任務を放棄して来たのか?」
ヘクターは幽霊でも見るような顔をしている。オーギュストが来ることは、全く想定していなかったようだ。
「私は七年も前からミシュリーヌ専属の護衛ですよ」
「いつから、この場にいた?」
「ヘクター兄上が知る必要はありません」
オーギュストの言葉を聞いて、ヘクターが顔をしかめる。何も伝えたつもりはないが、何かを読み取ったようだ。
「なるほど、お前が妃を囮に使うとはな……ミシュリーヌ妃、本当にこんな男で良いのか?」
アダンは首を振りそうになってから、慌てたようにコクリコクリと二度頷いた。アダンのオーギュストへの信頼が揺らいでいる気がする。先に作戦を伝えるべきだったと今になって思い至ったがもう遅い。
オーギュストはマジックバッグから魔力封じの腕輪を取り出し、ヘクターの腕にはめる。風魔法で扉を開けて魔導師団員を呼び入れた。万が一のために、ヘクターの前後左右を魔導師団員で囲んで建物を出る。
「魔力を封じたのに、ずいぶんと厳重だな」
ヘクターは笑顔だったが、建物の外の冷たい雰囲気を察して顔をしかめた。
ナチュレ公爵領の騎士たちが、友好的ではない表情でヘクターを見ている。悲しそうな顔をする者、怯える者、睨みつける者までいた。
「イレーヌ様をお捨てになるおつもりだったのですか?」
殺気立ったナチュレの騎士がヘクターに問う。騎士はヘクターに殴りかかりそうな勢いだったが、オーギュストが魔法で動きを止めた。魔導師団員の一人がすぐに拘束する。
「何の話だ?」
「あれは確かにヘクター殿下の声だった!」
拘束された騎士が叫ぶ。申し訳ないが、暴れられても困る。オーギュストが指示をして、騎士には魔力封じの腕輪とさるぐつわがつけられた。
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