【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

文字の大きさ
84 / 160
三章 犯人を追って【オーギュスト】

第16話 説得

しおりを挟む
「オーギュストは君自身ではなく、『聖女』を愛しているんだ。そんな相手のそばにいて、君は本当に幸せかい?」

 ヘクターはミシュリーヌに扮したアダンの説得を続けている。オーギュストは気づかれないように、いくつかの魔法を発動した。

「――……私と一緒に来ないか? 私なら怖い思いも寂しい思いもさせないよ」

「へ、ヘクター殿下にはイレーヌ様が……」

 アダンが恐る恐るといった様子で口を開く。ヘクターが返答を求めてきたので、頑張ったのだろう。イレーヌとはヘクターの妻であるナチュレ公爵の長女だ。

 アダンの声は上擦っていたが、きちんと魔法でミシュリーヌに似せるだけの落ち着きはある。オーギュストはもう少し様子をみることにした。
 
「イレーヌ? 彼女に特別な感情を抱いたことはないよ。君たちと同じで、政略的に結婚するしかなかったんだ。それも今日までだよ」 

「今日まで?」

「私はソルベ王国から招待されているんだ。ミシュリーヌも一緒に来ると良い。ソルベ国民は君を待ち望んでくれている」

 ヘクターはソルベ王国の状況と、いかに新しい聖女が必要とされているかを語った。

「この国のために君ができることはなにもない。私は君の気持ちを理解しているよ。聡明な君なら、オーギュストのお荷物でいるのは辛いだろう?」

 戸惑うアダンに、ヘクターは慈しむような笑顔を向ける。女性なら誰でも見惚れてしまいそうだ。不安になって、ミシュリーヌをチラリと見ると、魔獣を見るような顔をしてヘクターを睨んでいた。オーギュストと視線が合うとニッコリと笑う。

 可愛いな……

 どうやら、オーギュストは悪い方向に考え過ぎていたようだ。ミシュリーヌの気持ちを勝手に想像して暗くなっても意味がない。オーギュストは息をゆっくり吐き出して、ヘクターに意識を戻す。

「ミシュリーヌ、私は君を愛……」

 ヘクターがアダンに伸ばした手が結界にあたる。バチンと音が鳴って、ヘクターが赤くなった手を抑えながら、アダンから一歩離れた。

「何をした?」

 ヘクターが顔を歪めて低い声で言う。アダンは声も出さずに一瞬浮いたかと思うぐらいビクッと驚いていた。揺れ始めたアダンの魔力をオーギュストが抑え込む。

「心配するな。結界が破れることはない。そこが一番安全だ」

 オーギュストはゆっくりとアダンに伝える。アダンは二回ほど深呼吸して、魔力を抑えた。

「ミシュリーヌ、結界を解いてくれないか? こんなことをされたら傷つくな」

 ヘクターは先程の様子が幻覚だったかのように甘い顔に戻っている。アダンはそれを見て、さらにカタカタと震えていた。これは演技ではないだろう。

 チッ……

 ヘクターは舌打ちをして、魔法陣を作り出す。結界を破るためのものだ。

 申し訳ないが、魔法だけはヘクターに負ける要素がない。

「結界はいつまで持つのかな? 君は一人、私には騎士がたくさんついている。すぐに謝るなら許してあげるよ」

 震えるアダンを助け出してやりたいとは思う。でも、オーギュストとしては、この場でヘクターを取り押さえる理由がどうしてもほしい。

 オーギュストはミシュリーヌに端によるように指示をする。すぐに結界で囲んで、ミシュリーヌを閉じ込めた。続けて、アダンを守る結界とアダンとの間にもう一つ結界を作り出す。

 ヘクターはイライラしている。上手くいくと信じたい。

 オーギュストは祈りながら、ヘクターの魔法を強化する。アダンの結界がパリンと割れたと同時に、ヘクターがアダンに向かって飛びかかった。

「ギャーー!」

 アダンが野太い叫び声を上がる。オーギュストはヘクターを魔法で拘束し、自分の隠蔽魔法を解いた。

「ヘクター兄上、尊き聖女を害そうとした罪で拘束させていただきます」

「オーギュスト……まさか、任務を放棄して来たのか?」

 ヘクターは幽霊でも見るような顔をしている。オーギュストが来ることは、全く想定していなかったようだ。

「私は七年も前からミシュリーヌ専属の護衛ですよ」
 
「いつから、この場にいた?」

「ヘクター兄上が知る必要はありません」

 オーギュストの言葉を聞いて、ヘクターが顔をしかめる。何も伝えたつもりはないが、何かを読み取ったようだ。

「なるほど、お前が妃を囮に使うとはな……ミシュリーヌ妃、本当にこんな男で良いのか?」

 アダンは首を振りそうになってから、慌てたようにコクリコクリと二度頷いた。アダンのオーギュストへの信頼が揺らいでいる気がする。先に作戦を伝えるべきだったと今になって思い至ったがもう遅い。

 オーギュストはマジックバッグから魔力封じの腕輪を取り出し、ヘクターの腕にはめる。風魔法で扉を開けて魔導師団員を呼び入れた。万が一のために、ヘクターの前後左右を魔導師団員で囲んで建物を出る。

「魔力を封じたのに、ずいぶんと厳重だな」

 ヘクターは笑顔だったが、建物の外の冷たい雰囲気を察して顔をしかめた。

 ナチュレ公爵領の騎士たちが、友好的ではない表情でヘクターを見ている。悲しそうな顔をする者、怯える者、睨みつける者までいた。

「イレーヌ様をお捨てになるおつもりだったのですか?」

 殺気立ったナチュレの騎士がヘクターに問う。騎士はヘクターに殴りかかりそうな勢いだったが、オーギュストが魔法で動きを止めた。魔導師団員の一人がすぐに拘束する。

「何の話だ?」

「あれは確かにヘクター殿下の声だった!」

 拘束された騎士が叫ぶ。申し訳ないが、暴れられても困る。オーギュストが指示をして、騎士には魔力封じの腕輪とさるぐつわがつけられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

婚約破棄されたら、辺境伯とお試し結婚することになりました

ミズメ
恋愛
婚約者を妹に奪われ、悪女として断罪された公爵令嬢フィオレッタ・グラシェルは、王都を追われ、身分を隠して辺境の町で静かに暮らしていた。ある日、迷子の少女ティナと出会い、川辺で花を摘み笑い合うひとときを過ごす。そこに現れたのは、ティナを捜していた辺境の若き領主ヴェルフリート・エルグランドだった。 ティナに懐かれたフィオレッタは子育てのために契約結婚をすることに。ティナの子守りをしながら、辺境で自らの才覚を発揮していくフィオレッタに、ヴェルフリートや領地の人々も惹かれていく。 「俺は、君を幸せにしたい」 いずれ幸せになる、追放令嬢のお話。 ・感想いただけると元気もりもりになります!!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...