【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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三章 犯人を追って【オーギュスト】

第22話 公開尋問

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 すり鉢状の会場の中央には机と椅子が二人分置かれ、それを囲むように少し高い位置に上位貴族の面々が円形に並んで座っている。ノルベルトは全体がよく見渡せる、さらに高い位置に着席した。オーギュストは護衛として、その後ろに控える。

「始めてくれ」

 ノルベルトの一言で眼下の扉が開かれる。そこから、ヘクターが魔導師団員とともに入ってきた。ヘクターは魔法で拘束されているが、いつもと変わらず颯爽とした雰囲気だ。

 ヘクターが中央の椅子に座ると、続いて魔導師団の副団長を務めるヌーヴェル伯爵が入場する。伯爵はノルベルトに一礼し、ヘクターと対峙するような位置に座った。

 これから、伯爵がヘクターを尋問する。それを囲む者たちは証人として見守ることになる。

「まずはこちらをお飲みいただけますかな?」

 伯爵は淡々と言ってヘクターに水薬を差し出した。王族や公爵たちに囲まれているにも関わらず、伯爵もいつも通りだ。ノルベルトの人選だが、他に適任者はいないだろう。

 ヘクターは伯爵に渡された水薬を躊躇いなく飲み干す。空になった瓶は数人の魔法に詳しい貴族により確認がなされた。

「自白剤で間違いありません」

 会場がシンッと音がなりそうなほど静まり返る。王族に自白剤まで飲ませるとは思っていなかったのだろう。先日までヘクターの義理の父だったナチュレ公爵だけが、満足そうに頷いている。公爵はヘクターの最大の支援者だったが、今回の件で完全に縁を切ったようだ。自白剤を提案したのも、公爵だと聞いている。公爵家の騎士も利用されたため、公爵自身の潔白を証明する必要もあるからだろう。

 ノルベルトは、当初大勢の前で飲ませる気はなかったようだ。しかし、ノルベルトがこの提案を断れば、裏があると疑われる。許可するしかなかったと悔しそうに言っていた。

「まずは、ヘクター殿下がこのような計画を立てた理由をお聞かせください。王位が欲しかったのですか?」

「もちろん、その通りさ。国王なんて兄上がやろうと私がやろうと、この国は変わらない。それなら、自分が玉座に座ろうと思うのは当然でしょ?」

 ヘクターの言葉を聞いて、会場が一瞬ざわめく。分かりきっていた発言の内容よりも、それを躊躇わずに話した自白剤の強さに驚いている印象だ。だが、自白剤の調合に立ち会ったオーギュストからすると、躊躇わなかったのは薬の影響だけではないと思う。ヘクター自身、隠す気がないのだ。

「聖女様を囚えてソルベ王国に渡る計画もあったようですが、そちらに関してはいかがですか?」

「フリルネロ公爵領の件が失敗したみたいだから、計画を変更したのさ。こんなに早く気づかれるとは思っていなかったよ」

 ヘクターの視線がオーギュストと交わる。本当はミシュリーヌの手柄だが、どんな手を使って調べてもオーギュストと騎士団を束ねるローランの名しか出て来ないはずだ。文章には残さなかったし、オーギュストが信頼している者にしか真実は伝えていない。

「ソルベ王国に渡るおつもりだったのですね?」

「ソルベ王国はボロボロだからね。すぐに乗っ取れると思ったんだ」

 ヘクターの母親はソルベ王国の王女だった人だ。今のソルベ国王はヘクターの伯父にあたる。ヘクターはフルーナ王国で生まれたため、ソルベの王位継承権こそ持っていないが、王族としての血は濃い。ソルベでは王族の中に二人いる聖女が働いていないため、不満が溜まっていると聞く。オーギュスト自身はソルベの事情に詳しくないが、ミシュリーヌを連れていけば、ヘクターが王座につくことも難しくないのかもしれない。

「フルーナ王国のほうがもちろん良いけどさ。強引に手に入れても手を焼きそうな人間がゴロゴロいるでしょ」

 ヘクターがヘラリと笑って、見学する高位貴族を挑発するように見回す。自白剤のせいで、いつもは隠している部分が出ているのだろうか。ノルベルトは平然としているが、若い貴族の幾人かは異様な空気にあてられて顔を青くしていた。

 そんな中でも、尋問はヌーヴェル伯爵の絶妙な調整により順調に進んだ。余計なことまで喋らせないように、必要なことを話すように、薬の聞いたヘクターを上手く誘導していく。

 ヘクターの罪は大きく分けて二つ。一つ目は『ミシュリーヌ』を誘拐し暴力を振るおうとした件だ。ナチュレ公爵領の騎士たちはミシュリーヌを保護するために動いただけで、ヘクターの本当の計画は知らなかったとはっきり明言していた。

 二つ目はフリルネロ公爵領の件で、水晶の浄化を停止させるように働きかけていたことや、魔獣反乱を起こさせるように誘導したことなども自白した。

 ヘクターが魔獣草の特殊な使い方を知っていて、それを利用したことはすでに昨日までの尋問で発覚している。ここで公にするわけにはいかないので、伯爵が気を使った点だろう。

 一番驚くべきことは隠されたが、それでも聴衆はかなり動揺していた。そのざわめきが小さくなったのを確認して、伯爵が会場をぐるりと見回す。

「何かお聞きになりたい方はいますか?」

 オーギュストは伯爵の質問にヒヤリとしたが、声を上げる者はいなかった。事件に関しては資料すら配られていない。詳細を知る者がいなかったことも大きい。何より、この件に深く関わりたくないというのが高位貴族の本音だろう。伯爵はそれが分かっていて聞いたのだ。聞かれたら困ることもあるのに、伯爵は肝が据わっている。

「よろしいですかな?」

 ヌーヴェル伯爵がもう一度ぐるりと会場を見回す。最後に視線を合わせたノルベルトが頷いたことで、尋問は終了となった。
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