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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第21話 怒涛の3日間
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それからの三日間は、とにかく忙しかった。ノルベルトが社交シーズン終了までに、平常に戻したいと言い出したためだ。
社交シーズンが終わると、大半の貴族たちが領地に帰ってしまう。来年度に持ち越したくないのはオーギュストも同じだが、同意し難くもあった。社交シーズンを締めくくるパーティが目前に迫っていたからだ。
今回のことを秘密裏に済ませるには、ヘクターを指示する第三王子派が多すぎる。ヘクターが理由もなく表舞台から消えたら、反発が起こるだろう。国を平和にまとめるためには、ヘクターが彼らさえ裏切っていたことを示す必要がある。
オーギュストはとにかくノルベルトの護衛や代理として、あちこちに奔走した。必然的にミシュリーヌを離宮に閉じ込めることになったが、彼女はジョエルを通じて食事と睡眠を取るようにと言ってくるだけだ。
眠るミシュリーヌのそばで眠り、彼女が起きる前に部屋を出る。正直に言うと、オーギュストの方が音を上げそうだった。
そして、今年最後のパーティを翌日に控えた夕方、オーギュストはノルベルトとともにヘクターの公開尋問に向かっている。
「オーギュスト、見たくないなら欠席しても構わないよ」
ノルベルトが感情の読めない笑顔で言う。オーギュストの答えなど知っているはずなのに、ノルベルトはやはり過保護だ。ミシュリーヌが心配するたびにいつも怒っていた理由が少しだけ分かった気がする。
『優しい世界に暮らしていたのだな』
あの日、王宮に戻ったオーギュストは、ヘクターの言葉をノルベルトに問いただした。他に話すべきこともやるべきこともたくさんあると分かっていたが、聞かずにはいられなかったのだ。
『お前の耳には入らないようにしていた。ジョエルももちろん知らないはずだよ』
オーギュストが『優しい世界』にいたのは、ノルベルトの意向だったらしい。オーギュストを甘やかしていたわけだが、それだけでもないようだ。
『ヘクターもガエルもオーギュストのことだけは弟だと思っていたからね。お前は私達兄弟の希望でもあったんだ』
ノルベルトにとってオーギュストは、他の兄弟との唯一の繋がりだった。そんなオーギュストに、ヘクターへの疑念を植え付けたくなかったようだ。
八年ほど前のヘクターとの和解が短い休戦だとノルベルトは知っていた。それでも、本当の和解に変わる日が来ることを望んでいたのだろう。
『国の平和を願っているのは、ヘクターも同じだと思っていたんだがな』
ノルベルトは、夢に終わった優しい未来を切なげな表情で語っていた。
「先日も言いましたが、これからはきちんと現実を理解して行動していきます。見たくないものでも、目を逸らすつもりはありません」
オーギュストはノルベルトの青い瞳に訴える。今なら、全て知った上でもノルベルトのために出来ることがある。いや、全てを知ったオーギュストにしか出来ないことがあるはずだ。
「そうか。オーギュストにも守らなきゃいけない人がいるからね」
「私は兄上のことも守りたいと思っていますよ」
オーギュストは正直な気持ちを伝える。物理的な守護だけでなく、精神的な守りの一つに加えてほしい。ノルベルトはオーギュストの言葉を正確に理解したようだが、微笑みを浮かべるだけで何も言ってこなかった。弟に守られる気はないらしい。
「オーギュスト、覚悟は良いかい?」
ノルベルトが荘厳な扉の前で振り返る。オーギュストが力強く頷くと、会場の扉が開かれた。
社交シーズンが終わると、大半の貴族たちが領地に帰ってしまう。来年度に持ち越したくないのはオーギュストも同じだが、同意し難くもあった。社交シーズンを締めくくるパーティが目前に迫っていたからだ。
今回のことを秘密裏に済ませるには、ヘクターを指示する第三王子派が多すぎる。ヘクターが理由もなく表舞台から消えたら、反発が起こるだろう。国を平和にまとめるためには、ヘクターが彼らさえ裏切っていたことを示す必要がある。
オーギュストはとにかくノルベルトの護衛や代理として、あちこちに奔走した。必然的にミシュリーヌを離宮に閉じ込めることになったが、彼女はジョエルを通じて食事と睡眠を取るようにと言ってくるだけだ。
眠るミシュリーヌのそばで眠り、彼女が起きる前に部屋を出る。正直に言うと、オーギュストの方が音を上げそうだった。
そして、今年最後のパーティを翌日に控えた夕方、オーギュストはノルベルトとともにヘクターの公開尋問に向かっている。
「オーギュスト、見たくないなら欠席しても構わないよ」
ノルベルトが感情の読めない笑顔で言う。オーギュストの答えなど知っているはずなのに、ノルベルトはやはり過保護だ。ミシュリーヌが心配するたびにいつも怒っていた理由が少しだけ分かった気がする。
『優しい世界に暮らしていたのだな』
あの日、王宮に戻ったオーギュストは、ヘクターの言葉をノルベルトに問いただした。他に話すべきこともやるべきこともたくさんあると分かっていたが、聞かずにはいられなかったのだ。
『お前の耳には入らないようにしていた。ジョエルももちろん知らないはずだよ』
オーギュストが『優しい世界』にいたのは、ノルベルトの意向だったらしい。オーギュストを甘やかしていたわけだが、それだけでもないようだ。
『ヘクターもガエルもオーギュストのことだけは弟だと思っていたからね。お前は私達兄弟の希望でもあったんだ』
ノルベルトにとってオーギュストは、他の兄弟との唯一の繋がりだった。そんなオーギュストに、ヘクターへの疑念を植え付けたくなかったようだ。
八年ほど前のヘクターとの和解が短い休戦だとノルベルトは知っていた。それでも、本当の和解に変わる日が来ることを望んでいたのだろう。
『国の平和を願っているのは、ヘクターも同じだと思っていたんだがな』
ノルベルトは、夢に終わった優しい未来を切なげな表情で語っていた。
「先日も言いましたが、これからはきちんと現実を理解して行動していきます。見たくないものでも、目を逸らすつもりはありません」
オーギュストはノルベルトの青い瞳に訴える。今なら、全て知った上でもノルベルトのために出来ることがある。いや、全てを知ったオーギュストにしか出来ないことがあるはずだ。
「そうか。オーギュストにも守らなきゃいけない人がいるからね」
「私は兄上のことも守りたいと思っていますよ」
オーギュストは正直な気持ちを伝える。物理的な守護だけでなく、精神的な守りの一つに加えてほしい。ノルベルトはオーギュストの言葉を正確に理解したようだが、微笑みを浮かべるだけで何も言ってこなかった。弟に守られる気はないらしい。
「オーギュスト、覚悟は良いかい?」
ノルベルトが荘厳な扉の前で振り返る。オーギュストが力強く頷くと、会場の扉が開かれた。
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