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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第20話 離宮
オーギュストは日付が変わった深夜、やっと離宮に戻って来ることができた。
ノルベルトに報告を入れ、式典の警備をしていたヌーヴェル伯爵から報告を聞き、連れ帰ったナチュレの騎士の尋問に立ち会い、ナチュレ公爵の謁見に同席し……
あまりに忙しなく動き回っていたので、ヌーヴェル伯爵がサラリと『王太子殿下に殺害予告が出ていたようですぞ』と言ったときには、聞き流しそうになってしまった。
ヘクターがオーギュストの存在に驚いていたのは、そういう理由もあったようだ。王太子への殺害予告を知っていれば、今回の作戦を中止し、式典の警備に徹するしかなかっただろう。
だからこそ、魔導師団には秘匿されていた。
伝えられていたのは王太子の近衛騎士だけだったようなので、式典会場でピリピリしていたのも頷ける。ヌーヴェル伯爵は王宮に引き上げた後にノルベルトから聞いたらしい。
今はいつもより多めの魔導師団員が、近衛騎士とともに王太子一家を警護している。
「ジョエル、留守番ご苦労。報告を聞こう」
離宮の玄関では深夜にも関わらず、ジョエルや他の侍従たちが待っていた。
「特に急ぎはないので、報告は明日にしてもよろしいですか?」
「どうした? 珍しいな」
オーギュストはジョエルに疑問をぶつけたが返事を聞く前に、なぜか侍従たちに取り囲まれた。
「なんだ? どうした?」
「今日はもうお休み下さい」
オーギュストは戸惑ったが、自室に連れて行かれ浴室に押し込まれる。あっという間に夜着に替えさせられ、気がつくと寝室の扉の前に立っていた。どうせ眠れないので、書類をいくつか片付けようと思っていたのに、誰も用意してくれない。
オーギュストは諦めて、寝室の扉を開けた。
ミシュリーヌは王宮に戻ってすぐに離宮へ送り届けていたので、すでに眠っているだろう。そう思っていたのに、部屋は明るいままで、ミシュリーヌは寝台に腰掛けて本を読んでいた。オーギュストに気づくと、本を閉じて駆け寄ってくる。
「待っていたのか?」
「昨晩も徹夜だったのに、返ってくるのが遅いです」
オーギュストはミシュリーヌに手を引かれて、ベッドまで連れてこられた。強めの視線に促されて、そのまま二人でベッドに横になる。
オーギュストが眺めていると、ミシュリーヌの大きな瞳がすぐにトロンとしてくる。話したいことでもあるのかと思ったがそうではないらしい。
「眠れそうですか?」
「あ、ああ」
眠そうなミシュリーヌが、心配そうにオーギュストを見ている。
「大丈夫ですわ。今日はオーギュスト様が眠れるまで、わたくしも一緒に起きています」
「それは嬉しいな」
オーギュストは今にも閉じてしまいそうなミシュリーヌの瞳を見て笑いを堪えた。
「わたくしはいつでもオーギュスト様の味方ですから、忘れないで下さいませ」
ミシュリーヌはそう言うと、オーギュストに身を寄せて、すぐに寝息を立て始めた。
「一緒に起きてるんじゃないのか?」
オーギュストは小さく呟いて、いつの間にか繋がれていた手を優しく握り返す。
ミシュリーヌはヘクターを捕まえた後もずっと手を繋いでくれていた。ミシュリーヌ自身が不安なのかと思っていたが、心配してくれていたのだろう。離宮に送り届けたときに、どこか不満そうだった理由もこのあたりにありそうだ。
オーギュストは安心しきった寝顔を見てクスリと笑う。オーギュストは守るべきミシュリーヌがそばにいたお陰で、気持ちを切らさずにいられた気がする。彼女の意図とは多少ズレていそうだが、些細なことだ。
「ミシュリーヌ、ありがとう」
オーギュストは起こさないようにお礼を言う。ミシュリーヌの寝顔を眺めているうちに、オーギュストもつられて眠ってしまった。
ノルベルトに報告を入れ、式典の警備をしていたヌーヴェル伯爵から報告を聞き、連れ帰ったナチュレの騎士の尋問に立ち会い、ナチュレ公爵の謁見に同席し……
あまりに忙しなく動き回っていたので、ヌーヴェル伯爵がサラリと『王太子殿下に殺害予告が出ていたようですぞ』と言ったときには、聞き流しそうになってしまった。
ヘクターがオーギュストの存在に驚いていたのは、そういう理由もあったようだ。王太子への殺害予告を知っていれば、今回の作戦を中止し、式典の警備に徹するしかなかっただろう。
だからこそ、魔導師団には秘匿されていた。
伝えられていたのは王太子の近衛騎士だけだったようなので、式典会場でピリピリしていたのも頷ける。ヌーヴェル伯爵は王宮に引き上げた後にノルベルトから聞いたらしい。
今はいつもより多めの魔導師団員が、近衛騎士とともに王太子一家を警護している。
「ジョエル、留守番ご苦労。報告を聞こう」
離宮の玄関では深夜にも関わらず、ジョエルや他の侍従たちが待っていた。
「特に急ぎはないので、報告は明日にしてもよろしいですか?」
「どうした? 珍しいな」
オーギュストはジョエルに疑問をぶつけたが返事を聞く前に、なぜか侍従たちに取り囲まれた。
「なんだ? どうした?」
「今日はもうお休み下さい」
オーギュストは戸惑ったが、自室に連れて行かれ浴室に押し込まれる。あっという間に夜着に替えさせられ、気がつくと寝室の扉の前に立っていた。どうせ眠れないので、書類をいくつか片付けようと思っていたのに、誰も用意してくれない。
オーギュストは諦めて、寝室の扉を開けた。
ミシュリーヌは王宮に戻ってすぐに離宮へ送り届けていたので、すでに眠っているだろう。そう思っていたのに、部屋は明るいままで、ミシュリーヌは寝台に腰掛けて本を読んでいた。オーギュストに気づくと、本を閉じて駆け寄ってくる。
「待っていたのか?」
「昨晩も徹夜だったのに、返ってくるのが遅いです」
オーギュストはミシュリーヌに手を引かれて、ベッドまで連れてこられた。強めの視線に促されて、そのまま二人でベッドに横になる。
オーギュストが眺めていると、ミシュリーヌの大きな瞳がすぐにトロンとしてくる。話したいことでもあるのかと思ったがそうではないらしい。
「眠れそうですか?」
「あ、ああ」
眠そうなミシュリーヌが、心配そうにオーギュストを見ている。
「大丈夫ですわ。今日はオーギュスト様が眠れるまで、わたくしも一緒に起きています」
「それは嬉しいな」
オーギュストは今にも閉じてしまいそうなミシュリーヌの瞳を見て笑いを堪えた。
「わたくしはいつでもオーギュスト様の味方ですから、忘れないで下さいませ」
ミシュリーヌはそう言うと、オーギュストに身を寄せて、すぐに寝息を立て始めた。
「一緒に起きてるんじゃないのか?」
オーギュストは小さく呟いて、いつの間にか繋がれていた手を優しく握り返す。
ミシュリーヌはヘクターを捕まえた後もずっと手を繋いでくれていた。ミシュリーヌ自身が不安なのかと思っていたが、心配してくれていたのだろう。離宮に送り届けたときに、どこか不満そうだった理由もこのあたりにありそうだ。
オーギュストは安心しきった寝顔を見てクスリと笑う。オーギュストは守るべきミシュリーヌがそばにいたお陰で、気持ちを切らさずにいられた気がする。彼女の意図とは多少ズレていそうだが、些細なことだ。
「ミシュリーヌ、ありがとう」
オーギュストは起こさないようにお礼を言う。ミシュリーヌの寝顔を眺めているうちに、オーギュストもつられて眠ってしまった。
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