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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第24話 聞きたい事(中)
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ヘクターはヘラヘラとノルベルトを見ていたが、ノルベルトはオーギュストと違って動揺を見せることはない。逆にヘクターの顔を見て、ニヤリと笑ってみせた。
「冷静じゃないのはお前の方じゃないのか? 勝手な先入観でミシュリーヌ妃を決めつけて、探りさえ入れなかったとは滑稽だな」
「言うね~。そんな挑発には乗らな……もしかして、あの爺さんは知ってたの?」
ヘクターの笑顔が途中で固まる。
爺さん?
「神官長に探りを入れていたのか。あの方に何を言われたんだ?」
オーギュストには分からなかったが、ノルベルトには伝わったらしい。ノルベルトの楽しそうな笑顔を、ヘクターが睨みつけている。どうやら、『爺さん』とは王都の神官長のことのようだ。神官長とヘクターに協力関係を疑っていたが、それは考えすぎだったらしい。
「オーギュストが神官長に協力を要請したのかい? それとも、ミシュリーヌ妃の協力者かな?」
「答えなくて良い。今更知ったところで意味がないだろう?」
「それくらいは良いじゃないですか。神官長は『見舞いに行ったけど、ぐったりしていて会話も難しかった』って言っていた。オーギュスト、実際はどうなの?」
「……」
オーギュストは動揺を隠して無表情を保った。いつもは怖がられるが、こういうときには表情が動きにくいことも役に立つ。
もちろん、神官長にミシュリーヌを会わせた事実はないし、オーギュストもミシュリーヌも協力を仰いではいない。神官長は独断でヘクターに嘘を教えていたわけだ。ミシュリーヌを神殿で保護するため、ライバルとなるヘクターを真実から遠ざけたのかもしれない。オーギュストからミシュリーヌを引き離そうとしていたわけだが、この発言がミシュリーヌを守ったのだから神官長には感謝するしかない。
「そのくらい話しても何も変わらないのにな。オーギュストもつまらない男になったよね」
ヘクターはしつこかったが、オーギュストは護衛に徹して会話には参加しなかった。悔しいが舌戦で勝てるわけもなく、何を話しても不利になるだけだ。
「オーギュストって、潔いよね。そんな感じでミシュリーヌ妃のことも諦めてくれると思ったんだけどな。それほど執着する価値がどこにあるのか私には分からないよ。ただ、大人しいだけで面白みもない娘でしょ」
「ヘクター、いい加減にしろ。そろそろ、こちらの質問にも答えてもらう。ガエルとは具体的にどんな話をしたんだ? 言いにくいようだが、神官長と同じように嘘でも吹き込まれたか?」
ノルベルトが笑い混じりに言うと、ヘクターは顔を歪ませる。かなりイライラしていそうだ。神官長に騙されたことがよほど気に入らないのだろう。
「私がガエルに騙されるわけないでしょ。こちらが振り回してやったんですよ。ガエルが変な探りを入れてくるから、フリルネロ公爵領の話に誘導して……――」
ヘクターは先程までの警戒が嘘のように、ノルベルトの質問にペラペラと話し始める。興奮で自白剤の影響を抑えられなくなっているのだろう。
「――……『フリルネロ公爵領の魔獣が増加して大変らしいね』って言ったら、『善良な市民を巻き込んで楽しいか?』って怒っちゃったんですよね。熱くなるなんて、ガエルらしくもない。私はガエルのためにもなると思っていたのに、余計なことだったのかもしれないですね」
「『ガエルのため』? どういう意味だ」
「……」
ヘクターは急に黙り込んで俯いてしまった。
「ヘクター?」
ノルベルトが困惑した声で呼びかける。ゆっくりと顔を上げたヘクターは、苦々しい表情をしていた。
「思ったより、強力な自白剤ですね」
ヘクターの唇から血が流れ落ちる。喋りたくなる衝動を痛みで抑えたのだろう。
「オーギュスト、治療してやれ」
「は、はい」
オーギュストは睨みつけてくるヘクターを、距離をとったまま治療する。ノルベルトはガエルについての尋問を終えることにしたようだ。自白剤下で抗おうとする者に同じ質問を浴びせ続けることは、精神面に悪影響を残す恐れがある。ガエルがフリルネロ公爵領で何をしているのかは疑問だが、二人が協力関係にないと分かっただけでも十分だ。
「冷静じゃないのはお前の方じゃないのか? 勝手な先入観でミシュリーヌ妃を決めつけて、探りさえ入れなかったとは滑稽だな」
「言うね~。そんな挑発には乗らな……もしかして、あの爺さんは知ってたの?」
ヘクターの笑顔が途中で固まる。
爺さん?
「神官長に探りを入れていたのか。あの方に何を言われたんだ?」
オーギュストには分からなかったが、ノルベルトには伝わったらしい。ノルベルトの楽しそうな笑顔を、ヘクターが睨みつけている。どうやら、『爺さん』とは王都の神官長のことのようだ。神官長とヘクターに協力関係を疑っていたが、それは考えすぎだったらしい。
「オーギュストが神官長に協力を要請したのかい? それとも、ミシュリーヌ妃の協力者かな?」
「答えなくて良い。今更知ったところで意味がないだろう?」
「それくらいは良いじゃないですか。神官長は『見舞いに行ったけど、ぐったりしていて会話も難しかった』って言っていた。オーギュスト、実際はどうなの?」
「……」
オーギュストは動揺を隠して無表情を保った。いつもは怖がられるが、こういうときには表情が動きにくいことも役に立つ。
もちろん、神官長にミシュリーヌを会わせた事実はないし、オーギュストもミシュリーヌも協力を仰いではいない。神官長は独断でヘクターに嘘を教えていたわけだ。ミシュリーヌを神殿で保護するため、ライバルとなるヘクターを真実から遠ざけたのかもしれない。オーギュストからミシュリーヌを引き離そうとしていたわけだが、この発言がミシュリーヌを守ったのだから神官長には感謝するしかない。
「そのくらい話しても何も変わらないのにな。オーギュストもつまらない男になったよね」
ヘクターはしつこかったが、オーギュストは護衛に徹して会話には参加しなかった。悔しいが舌戦で勝てるわけもなく、何を話しても不利になるだけだ。
「オーギュストって、潔いよね。そんな感じでミシュリーヌ妃のことも諦めてくれると思ったんだけどな。それほど執着する価値がどこにあるのか私には分からないよ。ただ、大人しいだけで面白みもない娘でしょ」
「ヘクター、いい加減にしろ。そろそろ、こちらの質問にも答えてもらう。ガエルとは具体的にどんな話をしたんだ? 言いにくいようだが、神官長と同じように嘘でも吹き込まれたか?」
ノルベルトが笑い混じりに言うと、ヘクターは顔を歪ませる。かなりイライラしていそうだ。神官長に騙されたことがよほど気に入らないのだろう。
「私がガエルに騙されるわけないでしょ。こちらが振り回してやったんですよ。ガエルが変な探りを入れてくるから、フリルネロ公爵領の話に誘導して……――」
ヘクターは先程までの警戒が嘘のように、ノルベルトの質問にペラペラと話し始める。興奮で自白剤の影響を抑えられなくなっているのだろう。
「――……『フリルネロ公爵領の魔獣が増加して大変らしいね』って言ったら、『善良な市民を巻き込んで楽しいか?』って怒っちゃったんですよね。熱くなるなんて、ガエルらしくもない。私はガエルのためにもなると思っていたのに、余計なことだったのかもしれないですね」
「『ガエルのため』? どういう意味だ」
「……」
ヘクターは急に黙り込んで俯いてしまった。
「ヘクター?」
ノルベルトが困惑した声で呼びかける。ゆっくりと顔を上げたヘクターは、苦々しい表情をしていた。
「思ったより、強力な自白剤ですね」
ヘクターの唇から血が流れ落ちる。喋りたくなる衝動を痛みで抑えたのだろう。
「オーギュスト、治療してやれ」
「は、はい」
オーギュストは睨みつけてくるヘクターを、距離をとったまま治療する。ノルベルトはガエルについての尋問を終えることにしたようだ。自白剤下で抗おうとする者に同じ質問を浴びせ続けることは、精神面に悪影響を残す恐れがある。ガエルがフリルネロ公爵領で何をしているのかは疑問だが、二人が協力関係にないと分かっただけでも十分だ。
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