93 / 160
三章 犯人を追って【オーギュスト】
第25話 聞きたい事(後)
しおりを挟む
次に、ノルベルトは王妃の関与について尋ねた。ナチュレ公爵とイレーヌ妃については公開尋問で完全に白と判断された。しかし、王妃については客観的な証拠が一つもなかったため、質問さえできていないのだ。
「私は母上と協力なんてしてないよ」
「では、王妃が行った犯罪行為について知っていることを話せ」
「嫌だよ、面倒くさい。どれだけあると思ってるの? 全部話し終える前に、自白剤の効果が切れちゃうよ」
ヘクターが冷静さを取り戻してヘラリと笑う。母親を庇う気はなさそうだ。
「……」
「オーギュスト、魔力封じの腕輪を外してよ。そうしたら、君が探している物を渡してあげる。私のことが怖いなら、このまま終わりでも良いよ。どうする?」
ヘクターがオーギュストのことを挑発するように見てきたが、魔法に関して怖いことなどない。オーギュストがノルベルトを見ると肯定するように頷くので、ヘクターの周りに結界をもう一枚張ってから腕輪を外した。
「オーギュストの魔法は隙がなさすぎて面白くないよね。真面目すぎる性格がよく出ているよ。ミシュリーヌ妃に飽きられないように気をつけたほうが良いんじゃない? ただでさえ、年の差があるんだからさ」
ヘクターはペラペラと喋りながら、高度な魔法を発動させる。魔法陣が消えた後に現れたのは小さな鍵だった。オーギュストの見立てでは、ヘクターが着ている服を鍵に変換させたのだと思う。どんな魔法だったのかを確定するには、後で記憶した魔法陣を解析する必要があるだろう。
「これが何の鍵なのか分かるでしょ?」
「……」
ヘクターの部屋には、すでに捜査が入っている。その中で魔法でガチガチに固められた金庫が見つかっていた。魔導師団の解析班がヘクターの部屋に泊まり込んで調べているが、どうしても最後に鍵を使わないと解錠は難しく、それが見つからずに停滞していると聞いていた。
オーギュストがなんと言うべきか迷っていると、ヘクターが床に鍵をポイッと投げ捨てる。それを見て、ノルベルトが顔をしかめた。鍵からは禍々しい気配が漂っている。
「オーギュスト、拾いなよ。必要なんでしょ」
ヘクターは挑発してきたが、オーギュストは躊躇いなく拾い上げる。ヘクターの王子らしからぬ舌打ちが部屋に響いた。
呪いのような魔法が付着していたが、魔導師団長として生きてきたオーギュストが、文官でしかないヘクターの魔法に侵されるわけがない。
「本当に、オーギュストの魔法は面白くないよね。まぁ、いいや。金庫の中身は兄上への最後の贈り物だよ。兄上に上手く使いこなせるかな? どこまで見せてもらえるのか分からないけど、兄上の采配を楽しみにしているよ」
ヘクターはそこまで言うと目がとろんとしてくる。魔法を使ったことにより体力が奪われたのだろう。普段ならこうはならないが、自白剤で消耗していたと思われる。
「ここまでだな」
ノルベルトはそう言って席を立つ。オーギュストが魔力封じの腕輪をヘクターにつけて結界を解除したのを見届けると、ノルベルトは部屋を出ていった。代わりに入ってきたヌーヴェル伯爵にこの場を任せて、オーギュストはノルベルトを追う。
「兄上、申し訳ありませんでした」
オーギュストは側近たちと共にいるノルベルトに追いつくと、口を滑らせたことを謝罪する。
「今後は気をつけるべきだろうね。でも、今回に限ってはあれで良かったよ。私とヘクターだけでは何も聞き出せなかったと思う」
ノルベルトはさっぱりした顔だが、そばに控えるノルベルトの乳兄弟が切なげな表情を浮かべた。彼はオーギュストの知らない兄たちを見てきたのだろう。オーギュストは何も言えなくて、頭を下げて護衛の位置に戻った。
「オーギュストはここまでで良いよ」
「今日は近衛以外にも自由が効く護衛を付けておくべきだと思います。それとも、私がいると邪魔ですか?」
「そういうわけではないよ。そろそろ、一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね。お前が同席すると脅しと感じる者も出てくる。それは面倒だろう? 今回は遠慮してくれないか? 【同席したいなら、姿を消してついて来い】」
ノルベルトが最後の【同席したいなら、姿を消してついて来い】という部分だけ魔法で隠してオーギュストだけに伝える。ここにはノルベルトの近衛騎士と侍従しかいないが、敵を騙すなら味方からということだろう。
オーギュストは了解の合図を送って一礼する。
「では、今日はここで下がらせて頂きます」
「ああ、悪いね」
オーギュストはノルベルト一行を見送ると、一度離宮に戻って隠蔽魔法で姿を消す。ノルベルトの魔力を探すと、高位貴族たちの魔力とともに講堂の中にいることを示していた。オーギュストはなるべく急いで講堂に向かう。
『一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね』
ノルベルトがそれに手を伸ばしたなら、体裁を気にする高位貴族でも暴れ出す者がいるかもしれない。
「私は母上と協力なんてしてないよ」
「では、王妃が行った犯罪行為について知っていることを話せ」
「嫌だよ、面倒くさい。どれだけあると思ってるの? 全部話し終える前に、自白剤の効果が切れちゃうよ」
ヘクターが冷静さを取り戻してヘラリと笑う。母親を庇う気はなさそうだ。
「……」
「オーギュスト、魔力封じの腕輪を外してよ。そうしたら、君が探している物を渡してあげる。私のことが怖いなら、このまま終わりでも良いよ。どうする?」
ヘクターがオーギュストのことを挑発するように見てきたが、魔法に関して怖いことなどない。オーギュストがノルベルトを見ると肯定するように頷くので、ヘクターの周りに結界をもう一枚張ってから腕輪を外した。
「オーギュストの魔法は隙がなさすぎて面白くないよね。真面目すぎる性格がよく出ているよ。ミシュリーヌ妃に飽きられないように気をつけたほうが良いんじゃない? ただでさえ、年の差があるんだからさ」
ヘクターはペラペラと喋りながら、高度な魔法を発動させる。魔法陣が消えた後に現れたのは小さな鍵だった。オーギュストの見立てでは、ヘクターが着ている服を鍵に変換させたのだと思う。どんな魔法だったのかを確定するには、後で記憶した魔法陣を解析する必要があるだろう。
「これが何の鍵なのか分かるでしょ?」
「……」
ヘクターの部屋には、すでに捜査が入っている。その中で魔法でガチガチに固められた金庫が見つかっていた。魔導師団の解析班がヘクターの部屋に泊まり込んで調べているが、どうしても最後に鍵を使わないと解錠は難しく、それが見つからずに停滞していると聞いていた。
オーギュストがなんと言うべきか迷っていると、ヘクターが床に鍵をポイッと投げ捨てる。それを見て、ノルベルトが顔をしかめた。鍵からは禍々しい気配が漂っている。
「オーギュスト、拾いなよ。必要なんでしょ」
ヘクターは挑発してきたが、オーギュストは躊躇いなく拾い上げる。ヘクターの王子らしからぬ舌打ちが部屋に響いた。
呪いのような魔法が付着していたが、魔導師団長として生きてきたオーギュストが、文官でしかないヘクターの魔法に侵されるわけがない。
「本当に、オーギュストの魔法は面白くないよね。まぁ、いいや。金庫の中身は兄上への最後の贈り物だよ。兄上に上手く使いこなせるかな? どこまで見せてもらえるのか分からないけど、兄上の采配を楽しみにしているよ」
ヘクターはそこまで言うと目がとろんとしてくる。魔法を使ったことにより体力が奪われたのだろう。普段ならこうはならないが、自白剤で消耗していたと思われる。
「ここまでだな」
ノルベルトはそう言って席を立つ。オーギュストが魔力封じの腕輪をヘクターにつけて結界を解除したのを見届けると、ノルベルトは部屋を出ていった。代わりに入ってきたヌーヴェル伯爵にこの場を任せて、オーギュストはノルベルトを追う。
「兄上、申し訳ありませんでした」
オーギュストは側近たちと共にいるノルベルトに追いつくと、口を滑らせたことを謝罪する。
「今後は気をつけるべきだろうね。でも、今回に限ってはあれで良かったよ。私とヘクターだけでは何も聞き出せなかったと思う」
ノルベルトはさっぱりした顔だが、そばに控えるノルベルトの乳兄弟が切なげな表情を浮かべた。彼はオーギュストの知らない兄たちを見てきたのだろう。オーギュストは何も言えなくて、頭を下げて護衛の位置に戻った。
「オーギュストはここまでで良いよ」
「今日は近衛以外にも自由が効く護衛を付けておくべきだと思います。それとも、私がいると邪魔ですか?」
「そういうわけではないよ。そろそろ、一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね。お前が同席すると脅しと感じる者も出てくる。それは面倒だろう? 今回は遠慮してくれないか? 【同席したいなら、姿を消してついて来い】」
ノルベルトが最後の【同席したいなら、姿を消してついて来い】という部分だけ魔法で隠してオーギュストだけに伝える。ここにはノルベルトの近衛騎士と侍従しかいないが、敵を騙すなら味方からということだろう。
オーギュストは了解の合図を送って一礼する。
「では、今日はここで下がらせて頂きます」
「ああ、悪いね」
オーギュストはノルベルト一行を見送ると、一度離宮に戻って隠蔽魔法で姿を消す。ノルベルトの魔力を探すと、高位貴族たちの魔力とともに講堂の中にいることを示していた。オーギュストはなるべく急いで講堂に向かう。
『一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね』
ノルベルトがそれに手を伸ばしたなら、体裁を気にする高位貴族でも暴れ出す者がいるかもしれない。
28
あなたにおすすめの小説
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
ループ7回目の公爵令嬢は、もう恋愛も復讐も面倒なので、前世の知識で「魔導カフェ」を開き、異世界初のバリスタになります
希羽
恋愛
公爵令嬢アリスは、婚約破棄されて処刑される人生を6回繰り返してきた。7回目の人生が始まった瞬間、彼女は悟る。「もう何もかも面倒くさい」。 復讐も、破滅回避のための奔走も、王子への媚びもすべて放棄。彼女は早々に家を出奔し、市井の片隅で、前世(現代日本)の知識を活かした「魔導カフェ」を開店する。彼女が淹れる「魔力を込めたコーヒー」と、現代風の軽食(ふわふわパンケーキ、サンドイッチ)は、疲れた王都の人々の心を掴み、店は繁盛する。 すると、本来なら敵対するはずの王子や、ゲームの隠しキャラである暗殺者、堅物の騎士団長などが、「癒やし」を求めてカフェに入り浸るように。「君の淹れるコーヒーだけが私の安らぎだ」と勝手に好感度を上げてくる彼らを、アリスは「ただの客」としてドライにあしらうが、その媚びない態度と居心地の良さが、逆に彼らの執着を煽ってしまう。恋愛を捨てたはずが、過去最高のモテ期が到来していた。
※本作は「小説家になろう」でも投稿しています。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?
鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。
楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。
皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!
ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。
聖女はあちらでしてよ!皆様!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる