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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第25話 聞きたい事(後)
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次に、ノルベルトは王妃の関与について尋ねた。ナチュレ公爵とイレーヌ妃については公開尋問で完全に白と判断された。しかし、王妃については客観的な証拠が一つもなかったため、質問さえできていないのだ。
「私は母上と協力なんてしてないよ」
「では、王妃が行った犯罪行為について知っていることを話せ」
「嫌だよ、面倒くさい。どれだけあると思ってるの? 全部話し終える前に、自白剤の効果が切れちゃうよ」
ヘクターが冷静さを取り戻してヘラリと笑う。母親を庇う気はなさそうだ。
「……」
「オーギュスト、魔力封じの腕輪を外してよ。そうしたら、君が探している物を渡してあげる。私のことが怖いなら、このまま終わりでも良いよ。どうする?」
ヘクターがオーギュストのことを挑発するように見てきたが、魔法に関して怖いことなどない。オーギュストがノルベルトを見ると肯定するように頷くので、ヘクターの周りに結界をもう一枚張ってから腕輪を外した。
「オーギュストの魔法は隙がなさすぎて面白くないよね。真面目すぎる性格がよく出ているよ。ミシュリーヌ妃に飽きられないように気をつけたほうが良いんじゃない? ただでさえ、年の差があるんだからさ」
ヘクターはペラペラと喋りながら、高度な魔法を発動させる。魔法陣が消えた後に現れたのは小さな鍵だった。オーギュストの見立てでは、ヘクターが着ている服を鍵に変換させたのだと思う。どんな魔法だったのかを確定するには、後で記憶した魔法陣を解析する必要があるだろう。
「これが何の鍵なのか分かるでしょ?」
「……」
ヘクターの部屋には、すでに捜査が入っている。その中で魔法でガチガチに固められた金庫が見つかっていた。魔導師団の解析班がヘクターの部屋に泊まり込んで調べているが、どうしても最後に鍵を使わないと解錠は難しく、それが見つからずに停滞していると聞いていた。
オーギュストがなんと言うべきか迷っていると、ヘクターが床に鍵をポイッと投げ捨てる。それを見て、ノルベルトが顔をしかめた。鍵からは禍々しい気配が漂っている。
「オーギュスト、拾いなよ。必要なんでしょ」
ヘクターは挑発してきたが、オーギュストは躊躇いなく拾い上げる。ヘクターの王子らしからぬ舌打ちが部屋に響いた。
呪いのような魔法が付着していたが、魔導師団長として生きてきたオーギュストが、文官でしかないヘクターの魔法に侵されるわけがない。
「本当に、オーギュストの魔法は面白くないよね。まぁ、いいや。金庫の中身は兄上への最後の贈り物だよ。兄上に上手く使いこなせるかな? どこまで見せてもらえるのか分からないけど、兄上の采配を楽しみにしているよ」
ヘクターはそこまで言うと目がとろんとしてくる。魔法を使ったことにより体力が奪われたのだろう。普段ならこうはならないが、自白剤で消耗していたと思われる。
「ここまでだな」
ノルベルトはそう言って席を立つ。オーギュストが魔力封じの腕輪をヘクターにつけて結界を解除したのを見届けると、ノルベルトは部屋を出ていった。代わりに入ってきたヌーヴェル伯爵にこの場を任せて、オーギュストはノルベルトを追う。
「兄上、申し訳ありませんでした」
オーギュストは側近たちと共にいるノルベルトに追いつくと、口を滑らせたことを謝罪する。
「今後は気をつけるべきだろうね。でも、今回に限ってはあれで良かったよ。私とヘクターだけでは何も聞き出せなかったと思う」
ノルベルトはさっぱりした顔だが、そばに控えるノルベルトの乳兄弟が切なげな表情を浮かべた。彼はオーギュストの知らない兄たちを見てきたのだろう。オーギュストは何も言えなくて、頭を下げて護衛の位置に戻った。
「オーギュストはここまでで良いよ」
「今日は近衛以外にも自由が効く護衛を付けておくべきだと思います。それとも、私がいると邪魔ですか?」
「そういうわけではないよ。そろそろ、一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね。お前が同席すると脅しと感じる者も出てくる。それは面倒だろう? 今回は遠慮してくれないか? 【同席したいなら、姿を消してついて来い】」
ノルベルトが最後の【同席したいなら、姿を消してついて来い】という部分だけ魔法で隠してオーギュストだけに伝える。ここにはノルベルトの近衛騎士と侍従しかいないが、敵を騙すなら味方からということだろう。
オーギュストは了解の合図を送って一礼する。
「では、今日はここで下がらせて頂きます」
「ああ、悪いね」
オーギュストはノルベルト一行を見送ると、一度離宮に戻って隠蔽魔法で姿を消す。ノルベルトの魔力を探すと、高位貴族たちの魔力とともに講堂の中にいることを示していた。オーギュストはなるべく急いで講堂に向かう。
『一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね』
ノルベルトがそれに手を伸ばしたなら、体裁を気にする高位貴族でも暴れ出す者がいるかもしれない。
「私は母上と協力なんてしてないよ」
「では、王妃が行った犯罪行為について知っていることを話せ」
「嫌だよ、面倒くさい。どれだけあると思ってるの? 全部話し終える前に、自白剤の効果が切れちゃうよ」
ヘクターが冷静さを取り戻してヘラリと笑う。母親を庇う気はなさそうだ。
「……」
「オーギュスト、魔力封じの腕輪を外してよ。そうしたら、君が探している物を渡してあげる。私のことが怖いなら、このまま終わりでも良いよ。どうする?」
ヘクターがオーギュストのことを挑発するように見てきたが、魔法に関して怖いことなどない。オーギュストがノルベルトを見ると肯定するように頷くので、ヘクターの周りに結界をもう一枚張ってから腕輪を外した。
「オーギュストの魔法は隙がなさすぎて面白くないよね。真面目すぎる性格がよく出ているよ。ミシュリーヌ妃に飽きられないように気をつけたほうが良いんじゃない? ただでさえ、年の差があるんだからさ」
ヘクターはペラペラと喋りながら、高度な魔法を発動させる。魔法陣が消えた後に現れたのは小さな鍵だった。オーギュストの見立てでは、ヘクターが着ている服を鍵に変換させたのだと思う。どんな魔法だったのかを確定するには、後で記憶した魔法陣を解析する必要があるだろう。
「これが何の鍵なのか分かるでしょ?」
「……」
ヘクターの部屋には、すでに捜査が入っている。その中で魔法でガチガチに固められた金庫が見つかっていた。魔導師団の解析班がヘクターの部屋に泊まり込んで調べているが、どうしても最後に鍵を使わないと解錠は難しく、それが見つからずに停滞していると聞いていた。
オーギュストがなんと言うべきか迷っていると、ヘクターが床に鍵をポイッと投げ捨てる。それを見て、ノルベルトが顔をしかめた。鍵からは禍々しい気配が漂っている。
「オーギュスト、拾いなよ。必要なんでしょ」
ヘクターは挑発してきたが、オーギュストは躊躇いなく拾い上げる。ヘクターの王子らしからぬ舌打ちが部屋に響いた。
呪いのような魔法が付着していたが、魔導師団長として生きてきたオーギュストが、文官でしかないヘクターの魔法に侵されるわけがない。
「本当に、オーギュストの魔法は面白くないよね。まぁ、いいや。金庫の中身は兄上への最後の贈り物だよ。兄上に上手く使いこなせるかな? どこまで見せてもらえるのか分からないけど、兄上の采配を楽しみにしているよ」
ヘクターはそこまで言うと目がとろんとしてくる。魔法を使ったことにより体力が奪われたのだろう。普段ならこうはならないが、自白剤で消耗していたと思われる。
「ここまでだな」
ノルベルトはそう言って席を立つ。オーギュストが魔力封じの腕輪をヘクターにつけて結界を解除したのを見届けると、ノルベルトは部屋を出ていった。代わりに入ってきたヌーヴェル伯爵にこの場を任せて、オーギュストはノルベルトを追う。
「兄上、申し訳ありませんでした」
オーギュストは側近たちと共にいるノルベルトに追いつくと、口を滑らせたことを謝罪する。
「今後は気をつけるべきだろうね。でも、今回に限ってはあれで良かったよ。私とヘクターだけでは何も聞き出せなかったと思う」
ノルベルトはさっぱりした顔だが、そばに控えるノルベルトの乳兄弟が切なげな表情を浮かべた。彼はオーギュストの知らない兄たちを見てきたのだろう。オーギュストは何も言えなくて、頭を下げて護衛の位置に戻った。
「オーギュストはここまでで良いよ」
「今日は近衛以外にも自由が効く護衛を付けておくべきだと思います。それとも、私がいると邪魔ですか?」
「そういうわけではないよ。そろそろ、一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね。お前が同席すると脅しと感じる者も出てくる。それは面倒だろう? 今回は遠慮してくれないか? 【同席したいなら、姿を消してついて来い】」
ノルベルトが最後の【同席したいなら、姿を消してついて来い】という部分だけ魔法で隠してオーギュストだけに伝える。ここにはノルベルトの近衛騎士と侍従しかいないが、敵を騙すなら味方からということだろう。
オーギュストは了解の合図を送って一礼する。
「では、今日はここで下がらせて頂きます」
「ああ、悪いね」
オーギュストはノルベルト一行を見送ると、一度離宮に戻って隠蔽魔法で姿を消す。ノルベルトの魔力を探すと、高位貴族たちの魔力とともに講堂の中にいることを示していた。オーギュストはなるべく急いで講堂に向かう。
『一番欲しかったものに手を伸ばそうと思ってね』
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