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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】
第3話 宿
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街の東側には中流階級の人々が使う宿が建っていた。宿への交渉は団員の仕事だ。ミシュリーヌはオーギュストとともに宿の前で団員を待つ。
「二部屋しか空いていないようです。他を探しますか?」
ミシュリーヌはそれを聞いて、オーギュストのローブを思わず握りしめる。二部屋ならば男女で分かれるのが自然だ。初めて会った団員たちと過ごすのは正直に言うと怖い。
「その部屋をおさえてくれ。この様子では、他も似たようなものだろう」
オーギュストが宥めるようにミシュリーヌの手を握る。貴族たちが領地に帰るために移動しているため、宿がいつもより混んでいる。パーティ直後に移動をはじめた者に一日で追いついてしまったようだ。
「私達は別の宿を取ろう」
「よろしいのですか?」
「夜間の護衛は私一人で十分だ。どうせ、使いものにはならないだろう?」
オーギュストの視線の先では、新人の二人が地面に座り込んでしまっている。
「申し訳ありません。隣の地区にも宿があるようなので確認してきます」
ジュリーは深々と頭を下げると、足早に去っていった。
部屋を探している間に、ミシュリーヌたちは団員が泊まる予定の一室に落ち着いた。オーギュストは念入りに安全を確認すると、ミシュリーヌのために椅子を出してくれる。ミシュリーヌは部屋に似合わぬ良い椅子に座って、オーギュストの淹れたお茶を飲む。
「お前達も飲むと良い」
オーギュストは床に座り込む新人たちにもお茶を渡す。なんだかんだ言って優しい。
「ありがとうございます」
新人たちもキラキラした顔でお礼を言っていた。オーギュストはこうやって無意識に人心を掌握しているのだろう。魔導師団員の忠誠心は総じて高い。
「ミシュリーヌ、私は一度街に出る。ローブをきちんと被って、この部屋からは出ないようにね」
オーギュストがミシュリーヌにフードを被せて、念入りに防護魔法を施す。魔獣の群れの中に放り込まれても、かすり傷すら負わなそうだ。
「わたくしもご一緒しますわ」
「疲れているだろう? 明日も朝が早い。ここで団員たちと待っていてほしい」
オーギュストの有無を言わさぬ視線を受けて、ミシュリーヌは渋々頷く。二年目のブノワが護衛として残ってくれるようだ。他の二人は動ける状態にないし、ジュリーは宿探しをしている。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ああ。すぐ戻るよ」
オーギュストはそう言って部屋を出ていった。
扉が閉まって足音が遠ざかると、団員たちの緊張が解かれる。
「あ~あ。馬車を使った優雅な旅になると思っていたのにがっかりだわ。急いで向かいたいだなんて、わがままを言わないでほしいわよ。団長に守られて座っているだけの人は気楽よね」
新人女性のアニェスが大きな独り言を言う。驚いてミシュリーヌが見ると、一瞬だけ目が合って睨まれた。
「おい。やめろよ」
ポールは焦った顔でアニェスを突っついている。
「だって、急ぐ意味なんてある? 先に出発した調査隊が魔獣を減らすまでは、水晶の浄化は出来ないんでしょ? 留守番の先輩たちが言ってたわよ」
「聖女様の治療が必要な患者がいると報告が入っていただろう?」
ブノワが呆れたように言って、ミシュリーヌに謝罪をする。
ミシュリーヌは苦笑するしかなかった。二人がかりで説得しているが、アニェスの滑らかな口を塞ぐことはできないようだ。
「それだって、聖女様と神殿のミスでしょ? 何で私が尻拭いに駆り出されなきゃいけないわけ? 先輩が宿を探しに行っているのだって、この人のわがままじゃない」
「お前、疲れているんだよな。ここは良いから、隣の部屋でゆっくり休め」
ブノワはアニェスを立たせようとしたが従うつもりはなさそうだ。ミシュリーヌの方が代わりに出ていきたくなる。でも、護衛をしているブノワが、オーギュストに後で叱られることになるので動くこともできなかった。
「二部屋しか空いていないようです。他を探しますか?」
ミシュリーヌはそれを聞いて、オーギュストのローブを思わず握りしめる。二部屋ならば男女で分かれるのが自然だ。初めて会った団員たちと過ごすのは正直に言うと怖い。
「その部屋をおさえてくれ。この様子では、他も似たようなものだろう」
オーギュストが宥めるようにミシュリーヌの手を握る。貴族たちが領地に帰るために移動しているため、宿がいつもより混んでいる。パーティ直後に移動をはじめた者に一日で追いついてしまったようだ。
「私達は別の宿を取ろう」
「よろしいのですか?」
「夜間の護衛は私一人で十分だ。どうせ、使いものにはならないだろう?」
オーギュストの視線の先では、新人の二人が地面に座り込んでしまっている。
「申し訳ありません。隣の地区にも宿があるようなので確認してきます」
ジュリーは深々と頭を下げると、足早に去っていった。
部屋を探している間に、ミシュリーヌたちは団員が泊まる予定の一室に落ち着いた。オーギュストは念入りに安全を確認すると、ミシュリーヌのために椅子を出してくれる。ミシュリーヌは部屋に似合わぬ良い椅子に座って、オーギュストの淹れたお茶を飲む。
「お前達も飲むと良い」
オーギュストは床に座り込む新人たちにもお茶を渡す。なんだかんだ言って優しい。
「ありがとうございます」
新人たちもキラキラした顔でお礼を言っていた。オーギュストはこうやって無意識に人心を掌握しているのだろう。魔導師団員の忠誠心は総じて高い。
「ミシュリーヌ、私は一度街に出る。ローブをきちんと被って、この部屋からは出ないようにね」
オーギュストがミシュリーヌにフードを被せて、念入りに防護魔法を施す。魔獣の群れの中に放り込まれても、かすり傷すら負わなそうだ。
「わたくしもご一緒しますわ」
「疲れているだろう? 明日も朝が早い。ここで団員たちと待っていてほしい」
オーギュストの有無を言わさぬ視線を受けて、ミシュリーヌは渋々頷く。二年目のブノワが護衛として残ってくれるようだ。他の二人は動ける状態にないし、ジュリーは宿探しをしている。
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ああ。すぐ戻るよ」
オーギュストはそう言って部屋を出ていった。
扉が閉まって足音が遠ざかると、団員たちの緊張が解かれる。
「あ~あ。馬車を使った優雅な旅になると思っていたのにがっかりだわ。急いで向かいたいだなんて、わがままを言わないでほしいわよ。団長に守られて座っているだけの人は気楽よね」
新人女性のアニェスが大きな独り言を言う。驚いてミシュリーヌが見ると、一瞬だけ目が合って睨まれた。
「おい。やめろよ」
ポールは焦った顔でアニェスを突っついている。
「だって、急ぐ意味なんてある? 先に出発した調査隊が魔獣を減らすまでは、水晶の浄化は出来ないんでしょ? 留守番の先輩たちが言ってたわよ」
「聖女様の治療が必要な患者がいると報告が入っていただろう?」
ブノワが呆れたように言って、ミシュリーヌに謝罪をする。
ミシュリーヌは苦笑するしかなかった。二人がかりで説得しているが、アニェスの滑らかな口を塞ぐことはできないようだ。
「それだって、聖女様と神殿のミスでしょ? 何で私が尻拭いに駆り出されなきゃいけないわけ? 先輩が宿を探しに行っているのだって、この人のわがままじゃない」
「お前、疲れているんだよな。ここは良いから、隣の部屋でゆっくり休め」
ブノワはアニェスを立たせようとしたが従うつもりはなさそうだ。ミシュリーヌの方が代わりに出ていきたくなる。でも、護衛をしているブノワが、オーギュストに後で叱られることになるので動くこともできなかった。
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