【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】

第11話 聖女と名乗る女【オーギュスト】

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 夜明け前、オーギュストが一人で見張りをしていると、マリエルがもう一人の団員と共にやってきた。野営中の朝は早いが、それにしても早すぎる。

「どうした?」

「聖女と名乗っていた女の件で報告があります。妃殿下にお聞かせして良いか分かりませんでしたので、こんな時間に申し訳ありません」

「いや、気を使わせて悪い」

 オーギュストは三人の周囲に盗聴防止の結界を張る。ミシュリーヌに聞かれて困ることはないが、疲れているだろうから起こすのはかわいそうだ。

「話を聞こう。その女は公爵領内を回って浄化薬を配っていたんだったな」

「はい。最後に報告を送ったときまでは、浄化薬を配る旅の追跡をしているような状況でした。その後のことなのですが……」

 オーギュストたちが移動を続けていたこともあり、報告の頻度は減っていた。会って話した方が多くの情報を交換できるため、わざわざ送らせなかったというのもある。

「女とその仲間が領都にあるフリルネロ公爵邸に入ったことを確認しています」

 第三都市とも呼ばれているフリルネロ公爵領の中央にある領都には、公爵家の立派な邸宅がある。公爵とその娘が住んでいるはずだ。

「フリルネロ公爵家の縁者なのか……?」

「残念ながら、女の素性は未だ分かっておりません」

「そうか」

 公爵家が神殿の不正に気づいて動いたのだろうか? そうだとしたら、聖女を名乗る理由が分からない。

 最悪なのは、公爵家とヘクターが手を組んでいた場合だろう。ヘクターには尋問を十分に行っているが、隠し通された共犯者がいても驚かない。やり手と言われているフリルネロ公爵と手を組んでいるなら厄介だ。ただ、公爵にソルベ王国と組むメリットがあるだろうか? 

 ヘクター兄上に操られるような弱みがあるとも思えないんだよな。


「公爵邸については、別の班が監視を続けております。ただ、場所が場所ですので……」

「団員の潜入は難しいだろうな」

 マリエルが重々しく頷く。魔導師団員の潜入が見つかれば、王家と公爵の間に亀裂が走る。団員の判断で行えることではない。

「今は使用人や商人などの出入りを確認するだけに留めています。これが二日前に受け取った報告です」

【女は屋敷の中 怪しい動きなし 家人の在宅は未だ不明】

 家人とはフリルネロ公爵家の直系を指すので、公爵と娘のエレオノーレのことだろう。エレオノーレは二番目の兄ガエルの婚約者だ。

「貴族出身の団員もおりましたので、屋敷周辺を確認してもらっています。『使用人の動きから考えて、家人は在宅しているはず』というのが彼らの一致した意見でした。公爵家にしては出入りする者の人数が少ないという指摘もありましたが、公爵領の現状を考えれば不自然ではないとの結論のようです」

「そうか」

 オーギュストは王都で開かれた主だったパーティに顔を出している。しかし、今年は一度も二人の姿を見ていない。ガエルを探すために王都の公爵邸にも行ったが、二人が滞在している形跡はなかった。

 それらのことから考えると、公爵領の屋敷に閉じ籠もっているとみたほうが自然だろう。しかし、そうなると公爵が聖女と名乗る女の動きを把握していたことになる。

 フリルネロ公爵家が王家に敵対しているなら、今後の移動はより危険になる。早めに確かめる必要がありそうだ。


「ご報告するか迷ったのですが……」

 先程までハキハキ話していたのに、マリエルの声が小さくなる。隣の団員も気まずそうだ。

「なんだ? 言いにくいことなのか?」

「あくまで噂の域を出ないのです。使用人に聞きまわるわけにもいきませんでしたので、街の人たちの会話から得た情報で……」

「話が詠めないな。はっきり言ってくれ」

「申し訳ありません。実は、エレオノーレ様と公爵家の遠縁にあたる男爵子息が恋仲であるという噂が立っています。頻繁に二人で街に出ていたようなのです。二人のことを夫婦だと思っている者までおりました」

 それは、公爵家の動向を探るうちに得た情報らしい。半年前まで、エレオノーレと男爵子息の姿が街で何度も目撃されていた。公爵家で縁者が働くことはよくある。ただ、二人は夫婦のように寄り添い、公爵令嬢と従者という距離感ではなかったらしい。

「噂の信憑性は高そうだな。領地では関係を隠していなかったのだろう。公爵領は王都から離れている。街の者がガエル兄上との婚約を知らなかったとしても不思議ではない。ただ……」

 ガエル兄上は二人の関係を知っていたのだろうか?

 オーギュストは、いつもどこか他人行儀だったガエルとエレオノーレの姿を思い出して、なんとも言えない気持ちになった。
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