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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】
第12話 優先順位【オーギュスト】
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オーギュストは黙って考える。公爵領ではガエルの目撃情報も出ているが、目的は未だに不明だ。
オーギュストとノルベルトはヘクターが漏らした言葉から、ガエルは公爵領の領民を心配して、滞在しているのではないかと推測していた。
『――……『フリルネロ公爵領の魔獣が増加して大変らしいね』って言ったら、『善良な市民を巻き込んで楽しいか?』って怒っちゃったんですよね。熱くなるなんて、ガエルらしくもない。私はガエルのためにもなると思っていたのに、余計なことだったのかもしれないですね』
ガエルが領民のために動く中でエレオノーレの浮気を知ったのだとしたら……
オーギュストが同じ立場なら領民のことを思いやれるだろうか? ミシュリーヌの手紙だけでも、あれだけ取り乱したのだ。自暴自棄になって、突飛な行動をとる可能性もある。
ただ、ガエルが誰かに執着する姿は想像できない。それと同じくらいに、自分以外の人のために働く姿も想像できなかった。要するに、オーギュストとガエルは違いすぎて、行動の予測がつかないのだ。
「ガエル兄上の、その後の動向は掴めたか?」
「申し訳ありません」
マリエルが静かに首を振る。
「そうか」
オーギュストは驚きはしなかった。ガエルの魔力を考えれば、魔導師団の精鋭部隊でも片手間で見つけるのは不可能だ。領都で情報を得られたのは、ガエルが警戒していなかったからだろう。
ガエルはすでに領地を出ているか、或いは領内に隠れているのか。領内にいるなら魔導師団員の動きを把握して隠れているとみたほうが良いだろう。公爵やエレオノーレと共にフリルネロ公爵邸に滞在し、『聖女』を匿っている可能性まである。
オーギュストは念の為にノルベルトに向けて伝書鳩を飛ばすことにした。『聖女』の居場所だけでなく、エレオノーレの件と、それをガエルが知った可能性についても伝えておく必要がある。ガエルとエレオノーレの不仲については話題に出たことがあるが、ノルベルトがエレオノーレの不貞について語ったことはない。
ノルベルトは王都からビビ伯爵領へ向かう隊を率いて、こちらに向かってきているところだ。周辺の情報はなるべく集めておきたいだろう。ビビ伯爵が前王妃と関わっていた以上、誰と誰が繫っていても驚かない。
オーギュストは明るくなり始めた空に伝書鳩を放つ。オーギュストたちのすぐ後に王都を出たはずだが、ノルベルトはどこにいるだろうか。調査隊より規模の大きな合同部隊なので歩みも遅い。ノルベルトに同行し魔導師団員を率いている第三部隊の隊長は、士気を保つのが難しいと報告してきていた。
「そういえば、調査隊が公爵領に入る許可をもらっているはずだな。誰が出したんだ?」
マリエルたちは小隊なので、本当は駄目だが無許可で領境を出入りしてしまっている。ノルベルトの率いる隊は人数が多いため、通る領地には全て許可をとっているはずだ。それが歩みが遅くなる一因で、先行している調査隊も同じように進んでいる。
「確かにそうですね。公爵様が王都にいらっしゃらなかったのなら、領都の公爵邸に問い合わせたのでしょうか? 申し訳ありません。調査隊との連携不足でした」
「いや、短期間でよく調べたよ。どうせ、調査隊とは接触する予定だ。そのときに確認すれば良い。まぁ、どちらにしろ、私が公爵邸に行くことになりそうだがな」
公爵領の状況を考えれば、王弟であるオーギュストが公爵邸を訪れても不自然ではない。中に入ってしまえば、魔法で調べられるのでこちらのものだ。
ただ、オーギュストはミシュリーヌの治療の旅に同行できなくなりそうだ。公爵とヘクターが繋がっていた可能性が出た以上、後回しにはできない。
公爵領で起きている魔獣反乱についても、魔獣草の倉庫を押さえたことで数人を捕らえることはできたが、公爵領内の彼らの拠点は分かっていない。関わっていたのは貧しい平民だったが、結束が固く誰も口を割っていないのだ。ヘクターは捕まえたが、協力者がいるなら公爵領での事件が続く可能性がある。
今すぐにできることは、なるべく後回しにしたくない。
「マリエル、ミシュリーヌを任せても良いか?」
「はい! 今度こそ、命に代えてもお守りします」
「いや……そんなふうに言われると躊躇うが……あれはミシュリーヌ自身の問題だ。間違うなよ」
「はい……」
マリエルはミシュリーヌが魔力枯渇を起こしたことに責任を感じている。再会直後にも話をしたが、自分の行動に納得していないのだろう。ミシュリーヌを二度と危険に晒したくないのは、オーギュストも同じだ。
「そうは言っても、何か対策は必要だろうな。私と行動を共にしている間にそれぞれ考えてみてくれ。どちらにしろ、調査隊に合流する必要はあるから、まだ時間はある。ジュリーたち三人の中に戦力として連れていける者がいるかも検討してほしい。無理なら容赦なく調査隊に置いていってくれて構わない。優先順位は言わなくても分かるよな」
オーギュストはミシュリーヌの眠る建物に視線を向ける。
「もちろんです」
マリエル隊の者は分かってくれているだろうが、オーギュストが愛するミシュリーヌのために無理を言っているわけではない。オーギュストの気持ちを抜きにしても、ミシュリーヌは優先して守るべき存在なのだ。聖女の存在が、この国をギリギリのところで支えてきた。
ただ、本人に自覚があまりない。アニェスのような人間が出くるのも、それが影響している面もある。
もっと、聖女として国民の前に立たせてあげるべきだっただろうか?
自分の価値を知らぬ者を守るのは難しい。マリエルたちには負担をかけている面もあるだろう。
それでも、オーギュストはミシュリーヌが普通の女性として過ごす時間を守りたいと思う。子供の頃から働かせてしまったのだから、それくらいは許されるはずだ。
ずっと、そばで守ることもできないくせに、そんなふうに思ってしまうのだ。
オーギュストとノルベルトはヘクターが漏らした言葉から、ガエルは公爵領の領民を心配して、滞在しているのではないかと推測していた。
『――……『フリルネロ公爵領の魔獣が増加して大変らしいね』って言ったら、『善良な市民を巻き込んで楽しいか?』って怒っちゃったんですよね。熱くなるなんて、ガエルらしくもない。私はガエルのためにもなると思っていたのに、余計なことだったのかもしれないですね』
ガエルが領民のために動く中でエレオノーレの浮気を知ったのだとしたら……
オーギュストが同じ立場なら領民のことを思いやれるだろうか? ミシュリーヌの手紙だけでも、あれだけ取り乱したのだ。自暴自棄になって、突飛な行動をとる可能性もある。
ただ、ガエルが誰かに執着する姿は想像できない。それと同じくらいに、自分以外の人のために働く姿も想像できなかった。要するに、オーギュストとガエルは違いすぎて、行動の予測がつかないのだ。
「ガエル兄上の、その後の動向は掴めたか?」
「申し訳ありません」
マリエルが静かに首を振る。
「そうか」
オーギュストは驚きはしなかった。ガエルの魔力を考えれば、魔導師団の精鋭部隊でも片手間で見つけるのは不可能だ。領都で情報を得られたのは、ガエルが警戒していなかったからだろう。
ガエルはすでに領地を出ているか、或いは領内に隠れているのか。領内にいるなら魔導師団員の動きを把握して隠れているとみたほうが良いだろう。公爵やエレオノーレと共にフリルネロ公爵邸に滞在し、『聖女』を匿っている可能性まである。
オーギュストは念の為にノルベルトに向けて伝書鳩を飛ばすことにした。『聖女』の居場所だけでなく、エレオノーレの件と、それをガエルが知った可能性についても伝えておく必要がある。ガエルとエレオノーレの不仲については話題に出たことがあるが、ノルベルトがエレオノーレの不貞について語ったことはない。
ノルベルトは王都からビビ伯爵領へ向かう隊を率いて、こちらに向かってきているところだ。周辺の情報はなるべく集めておきたいだろう。ビビ伯爵が前王妃と関わっていた以上、誰と誰が繫っていても驚かない。
オーギュストは明るくなり始めた空に伝書鳩を放つ。オーギュストたちのすぐ後に王都を出たはずだが、ノルベルトはどこにいるだろうか。調査隊より規模の大きな合同部隊なので歩みも遅い。ノルベルトに同行し魔導師団員を率いている第三部隊の隊長は、士気を保つのが難しいと報告してきていた。
「そういえば、調査隊が公爵領に入る許可をもらっているはずだな。誰が出したんだ?」
マリエルたちは小隊なので、本当は駄目だが無許可で領境を出入りしてしまっている。ノルベルトの率いる隊は人数が多いため、通る領地には全て許可をとっているはずだ。それが歩みが遅くなる一因で、先行している調査隊も同じように進んでいる。
「確かにそうですね。公爵様が王都にいらっしゃらなかったのなら、領都の公爵邸に問い合わせたのでしょうか? 申し訳ありません。調査隊との連携不足でした」
「いや、短期間でよく調べたよ。どうせ、調査隊とは接触する予定だ。そのときに確認すれば良い。まぁ、どちらにしろ、私が公爵邸に行くことになりそうだがな」
公爵領の状況を考えれば、王弟であるオーギュストが公爵邸を訪れても不自然ではない。中に入ってしまえば、魔法で調べられるのでこちらのものだ。
ただ、オーギュストはミシュリーヌの治療の旅に同行できなくなりそうだ。公爵とヘクターが繋がっていた可能性が出た以上、後回しにはできない。
公爵領で起きている魔獣反乱についても、魔獣草の倉庫を押さえたことで数人を捕らえることはできたが、公爵領内の彼らの拠点は分かっていない。関わっていたのは貧しい平民だったが、結束が固く誰も口を割っていないのだ。ヘクターは捕まえたが、協力者がいるなら公爵領での事件が続く可能性がある。
今すぐにできることは、なるべく後回しにしたくない。
「マリエル、ミシュリーヌを任せても良いか?」
「はい! 今度こそ、命に代えてもお守りします」
「いや……そんなふうに言われると躊躇うが……あれはミシュリーヌ自身の問題だ。間違うなよ」
「はい……」
マリエルはミシュリーヌが魔力枯渇を起こしたことに責任を感じている。再会直後にも話をしたが、自分の行動に納得していないのだろう。ミシュリーヌを二度と危険に晒したくないのは、オーギュストも同じだ。
「そうは言っても、何か対策は必要だろうな。私と行動を共にしている間にそれぞれ考えてみてくれ。どちらにしろ、調査隊に合流する必要はあるから、まだ時間はある。ジュリーたち三人の中に戦力として連れていける者がいるかも検討してほしい。無理なら容赦なく調査隊に置いていってくれて構わない。優先順位は言わなくても分かるよな」
オーギュストはミシュリーヌの眠る建物に視線を向ける。
「もちろんです」
マリエル隊の者は分かってくれているだろうが、オーギュストが愛するミシュリーヌのために無理を言っているわけではない。オーギュストの気持ちを抜きにしても、ミシュリーヌは優先して守るべき存在なのだ。聖女の存在が、この国をギリギリのところで支えてきた。
ただ、本人に自覚があまりない。アニェスのような人間が出くるのも、それが影響している面もある。
もっと、聖女として国民の前に立たせてあげるべきだっただろうか?
自分の価値を知らぬ者を守るのは難しい。マリエルたちには負担をかけている面もあるだろう。
それでも、オーギュストはミシュリーヌが普通の女性として過ごす時間を守りたいと思う。子供の頃から働かせてしまったのだから、それくらいは許されるはずだ。
ずっと、そばで守ることもできないくせに、そんなふうに思ってしまうのだ。
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