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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】
第8話 翌日【オーギュスト】
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オーギュストは、魔素に侵された患者と向き合うミシュリーヌの護衛をしていた。魔獣の反乱は丸一日で収まり、翌日の今日はマリエルたちに休みを言い渡している。ミシュリーヌも休ませたかったが、元気そうなので本人の意志を尊重した。
魔導師団員に大きな怪我をした者はなく、冒険者の中に重症者が数人いるものの、今回の反乱で死者は出ていない。浄化薬の用意もあり、治療はクリストフがいれば十分だったため、ミシュリーヌは当初の目的だった療養所の患者の治療に戻っている。
『取り乱して申し訳ありませんでした。怒ってますか?』
昨晩は不機嫌だったミシュリーヌも、今朝起きたときには、いつもの調子に戻っていた。
『怒ってないよ。強引な手を使ってごめんな』
『オーギュスト様の意図は分かっておりますので、謝らないで下さいませ』
不安そうに見つめられて無理やり眠らせた罪悪感が蘇ったが、オーギュストは大人の余裕を見せられただろうか。
オーギュストは聖女らしい所作で治療を続けるミシュリーヌを見つめた。昨日見せた甘えや不機嫌さはどこにもなく、オーギュストから見ても理想の聖女そのものだ。
「無事に終わりましたわ」
「ありがとうございます!」
治療が終わると、患者の家族が泣きながらミシュリーヌにお礼を言う。ミシュリーヌは聖女らしい微笑みでそれに応えていた。
この街では昨日までの出来事をきっかけに、ミシュリーヌが聖女であることが広まってしまっている。そのため、神官として治療していたときとは、患者家族の瞳に宿るものが違う。人ではなく神を見るような目は、向けられる側の精神を削る。オーギュストにも経験があるので、それが良く分かる。
オーギュストが知っているのは、悪魔に向けるような視線ではあるが……
「しばらくは安静にして下さいね」
ミシュリーヌは予定していた治療を終えると、微笑みを残して療養所を出る。オーギュストは従者のように斜め後ろに続いた。
療養所の前には、聖女を一目見ようと人集りが出来ている。ミシュリーヌは凛とした表情で歩き出そうとしたが、人垣が割れないことに気づいて困ったようにオーギュストを振り返った。
「聖女は終わりで良いよ。お疲れ様」
オーギュストはミシュリーヌを抱き上げて、人垣を飛び越える。この街でミシュリーヌが気を抜ける場所は宿の自室しか残っていない。しかし、簡単な解決法をオーギュストは知っていた。
「わたくしたち、皆様からは見えていないのですね。先に言って下さいませ」
オーギュストの腕の中で、ミシュリーヌが頬を膨らます。年齢より幼い表情に戻ったのを見て、オーギュストはクスリと笑った。
「何で笑うのですか? 降ろして下さいませ」
ミシュリーヌは赤い顔で言うが、どこか楽しそうなので本気で降りたいようには見えない。甘やかしても『子供扱い』だと言わなくなったので、オーギュストは好きにさせてもらっている。前から嫌がっているようには見えなかったが、二人の関係が変わってからは、ミシュリーヌからも甘えてくることが増えた気がする。
「もう少しで着くから我慢して」
ミシュリーヌが仕方ないとでも言うように頷いてみせる。オーギュストは可愛い仕草を確認し、ふわりと上空から宿を目指した。
貸し切りになっている宿の前に降り立ち扉を開けると、一階の食堂に団員たちが集まっていた。ミシュリーヌがオーギュストを見てきたが、良く分からないと伝えるように首を振る。隠蔽魔法を解いてミシュリーヌを降ろすと、二人に視線が集まってきた。
「団長、おかえりなさい。お待ちかねですよ」
マリエルがなんとも言えない表情で、魔導師団員の中心に視線を向ける。そこにはよく知る団員が疲れた顔で座り込んでいた。
「団長! 良かった、生きてた!」
叫ぶように言ったのはポールだ。隣のブノワもホッとした顔をしている。
「お前たち、何でここにいるんだ?」
「何でじゃないですよ! あんな時間に飛び出していかれたら、気になって待機なんてできるわけないじゃないですか!」
ブノワが珍しく興奮している。彼らは朝になるのを待って、慎重に追いかけてきたらしい。オーギュストが途中で倒れている可能性を考えて、心配してくれていたようだ。オーギュストが一緒なら半日で付くところを二日がかりだったようだが、怪我もなく無事に到着している。あの日の冷静でなかった自分を思い出すと、命令違反を咎めるのに躊躇した。
オーギュストが対応に困っていると、ミシュリーヌがブノワとポールに回復魔法を掛け始める。それに虚を突かれたのか、二人は大人しくなった。
「せめて無事に街についたことを知らせてほしかったです」
「伝書鳩を送っただろう?」
「もしかして、今日届いたこれのことを言ってます?」
ブノワが伝書鳩に持たせたメモを広げてみせる。そこにはオーギュストが今朝書いた文字が並んでいた。
【街の安全確保終了 迎えに行く 待機せよ】
「団長、さすがにこれは短すぎですよ」
マリエル隊の面々に冷たい目で見られて、オーギュストは頭を掻く。昨晩のうちに送るべきだったが、オーギュストにもブノワたちのことを思い出す余裕がなかったのだ。
「悪かった。今日は美味しいものでも食べて、ゆっくり休んでくれ」
オーギュストはマジックバッグから、お弁当を取り出した。離宮で作られてすぐにマジックバッグに入れたのでまだ温かい。
「食べ物なんかにつられま……良いんですか!?」
ポールは不服そうに蓋を開けたが、中身を見て歓喜の声を上げる。囮捜査のときにアダンにも食べさせたものだが、新人ウケが良いらしい。二年目のブノワも嬉しそうだ。普段は何を食べているのか不安になる。
「人数分出すから、皆も今晩はこれを食べると良い。そんなに手持ちがないから他の団員には言うなよ」
オーギュストはこの街にいる団員とクリストフたちの分のお弁当をマジックバッグから出して、ミシュリーヌとともに部屋へと向かう。ブノワの小言からは逃げられたが、部屋につくとミシュリーヌからの説教が待っていた。ミシュリーヌも同じように夜中に出発したオーギュストを心配していたらしい。もう二度としないと約束させられたが、ミシュリーヌが危険に晒されたなら、オーギュストは何度だって魔獣の中に突っ込んでいくだろう。
魔導師団員に大きな怪我をした者はなく、冒険者の中に重症者が数人いるものの、今回の反乱で死者は出ていない。浄化薬の用意もあり、治療はクリストフがいれば十分だったため、ミシュリーヌは当初の目的だった療養所の患者の治療に戻っている。
『取り乱して申し訳ありませんでした。怒ってますか?』
昨晩は不機嫌だったミシュリーヌも、今朝起きたときには、いつもの調子に戻っていた。
『怒ってないよ。強引な手を使ってごめんな』
『オーギュスト様の意図は分かっておりますので、謝らないで下さいませ』
不安そうに見つめられて無理やり眠らせた罪悪感が蘇ったが、オーギュストは大人の余裕を見せられただろうか。
オーギュストは聖女らしい所作で治療を続けるミシュリーヌを見つめた。昨日見せた甘えや不機嫌さはどこにもなく、オーギュストから見ても理想の聖女そのものだ。
「無事に終わりましたわ」
「ありがとうございます!」
治療が終わると、患者の家族が泣きながらミシュリーヌにお礼を言う。ミシュリーヌは聖女らしい微笑みでそれに応えていた。
この街では昨日までの出来事をきっかけに、ミシュリーヌが聖女であることが広まってしまっている。そのため、神官として治療していたときとは、患者家族の瞳に宿るものが違う。人ではなく神を見るような目は、向けられる側の精神を削る。オーギュストにも経験があるので、それが良く分かる。
オーギュストが知っているのは、悪魔に向けるような視線ではあるが……
「しばらくは安静にして下さいね」
ミシュリーヌは予定していた治療を終えると、微笑みを残して療養所を出る。オーギュストは従者のように斜め後ろに続いた。
療養所の前には、聖女を一目見ようと人集りが出来ている。ミシュリーヌは凛とした表情で歩き出そうとしたが、人垣が割れないことに気づいて困ったようにオーギュストを振り返った。
「聖女は終わりで良いよ。お疲れ様」
オーギュストはミシュリーヌを抱き上げて、人垣を飛び越える。この街でミシュリーヌが気を抜ける場所は宿の自室しか残っていない。しかし、簡単な解決法をオーギュストは知っていた。
「わたくしたち、皆様からは見えていないのですね。先に言って下さいませ」
オーギュストの腕の中で、ミシュリーヌが頬を膨らます。年齢より幼い表情に戻ったのを見て、オーギュストはクスリと笑った。
「何で笑うのですか? 降ろして下さいませ」
ミシュリーヌは赤い顔で言うが、どこか楽しそうなので本気で降りたいようには見えない。甘やかしても『子供扱い』だと言わなくなったので、オーギュストは好きにさせてもらっている。前から嫌がっているようには見えなかったが、二人の関係が変わってからは、ミシュリーヌからも甘えてくることが増えた気がする。
「もう少しで着くから我慢して」
ミシュリーヌが仕方ないとでも言うように頷いてみせる。オーギュストは可愛い仕草を確認し、ふわりと上空から宿を目指した。
貸し切りになっている宿の前に降り立ち扉を開けると、一階の食堂に団員たちが集まっていた。ミシュリーヌがオーギュストを見てきたが、良く分からないと伝えるように首を振る。隠蔽魔法を解いてミシュリーヌを降ろすと、二人に視線が集まってきた。
「団長、おかえりなさい。お待ちかねですよ」
マリエルがなんとも言えない表情で、魔導師団員の中心に視線を向ける。そこにはよく知る団員が疲れた顔で座り込んでいた。
「団長! 良かった、生きてた!」
叫ぶように言ったのはポールだ。隣のブノワもホッとした顔をしている。
「お前たち、何でここにいるんだ?」
「何でじゃないですよ! あんな時間に飛び出していかれたら、気になって待機なんてできるわけないじゃないですか!」
ブノワが珍しく興奮している。彼らは朝になるのを待って、慎重に追いかけてきたらしい。オーギュストが途中で倒れている可能性を考えて、心配してくれていたようだ。オーギュストが一緒なら半日で付くところを二日がかりだったようだが、怪我もなく無事に到着している。あの日の冷静でなかった自分を思い出すと、命令違反を咎めるのに躊躇した。
オーギュストが対応に困っていると、ミシュリーヌがブノワとポールに回復魔法を掛け始める。それに虚を突かれたのか、二人は大人しくなった。
「せめて無事に街についたことを知らせてほしかったです」
「伝書鳩を送っただろう?」
「もしかして、今日届いたこれのことを言ってます?」
ブノワが伝書鳩に持たせたメモを広げてみせる。そこにはオーギュストが今朝書いた文字が並んでいた。
【街の安全確保終了 迎えに行く 待機せよ】
「団長、さすがにこれは短すぎですよ」
マリエル隊の面々に冷たい目で見られて、オーギュストは頭を掻く。昨晩のうちに送るべきだったが、オーギュストにもブノワたちのことを思い出す余裕がなかったのだ。
「悪かった。今日は美味しいものでも食べて、ゆっくり休んでくれ」
オーギュストはマジックバッグから、お弁当を取り出した。離宮で作られてすぐにマジックバッグに入れたのでまだ温かい。
「食べ物なんかにつられま……良いんですか!?」
ポールは不服そうに蓋を開けたが、中身を見て歓喜の声を上げる。囮捜査のときにアダンにも食べさせたものだが、新人ウケが良いらしい。二年目のブノワも嬉しそうだ。普段は何を食べているのか不安になる。
「人数分出すから、皆も今晩はこれを食べると良い。そんなに手持ちがないから他の団員には言うなよ」
オーギュストはこの街にいる団員とクリストフたちの分のお弁当をマジックバッグから出して、ミシュリーヌとともに部屋へと向かう。ブノワの小言からは逃げられたが、部屋につくとミシュリーヌからの説教が待っていた。ミシュリーヌも同じように夜中に出発したオーギュストを心配していたらしい。もう二度としないと約束させられたが、ミシュリーヌが危険に晒されたなら、オーギュストは何度だって魔獣の中に突っ込んでいくだろう。
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