【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】

第9話 ある村人の話(前)【オーギュスト】

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 翌日、オーギュストはミシュリーヌが療養所に向かったのを見届けて、街の外に転移した。そこには、オーギュストが昨日張った結界があり、魔獣草を使用した犯人たちの簡易的な収容所となっている。

「お疲れ様です」

 オーギュストが結界の中に入っていくと、先発隊のD班をまとめている班長が出迎える。

「警備ご苦労。人員が少なくて悪いな」

「いいえ。想定外のことでしたので仕方ありませんよ。差し入れありがとうございます」 

「ああ」

 どうやら、警備中だった者にも昨日の弁当が配られたらしい。オーギュストは綺麗に洗われた箱を回収し、特種な魔法がかかった護送車の扉を開けた。

「暴れたりはしませんが、こちらの問いかけには応じません」

「そうか」

 班長は盗聴防止魔法を使っていないのに、狭い部屋に並ぶ七人の男たちは反応もしなかった。

「我が名はオーギュスト・フルーナ。新国王ノルベルトの弟であり、魔導師団長だ。私には貴殿らの主張を聞く用意がある。話す気があるなら、リーダー格の者が名乗りでろ。それとも、ただの人殺しとして裁かれることを望むか?」

 オーギュストが芝居がかった口調で伝えると、犯人たちがざわめき出す。あまり着ることのない王族らしい衣装に着替えてきたので信憑性はあると思う。

「魔導師団長?」

「国王の弟って言ったか?」

「そんな人がなんでこんなところにいるんだ?」

 犯人たちがヒソヒソと話している様子を見ていると、普通の村人がオーギュストの訪問に驚いているのと何も変わらない。彼らがなぜこのようなことをしてしまったのか、オーギュストは追い詰められた理由を知る必要がある。

「おい。十歳の頃から国中の魔獣討伐に参加してきた王子っていうのは、あんたのことか?」

「あ、ああ。確かに魔導師団員になったのは十歳のときだ。それがどうした?」 

「小さな村からの要請でも、嫌な顔一つせずに討伐してくれたって死んだ仲間が言っていた。あんたになら話しても良い」

 そう言って、体格の良い男が立ち上がる。
 
 オーギュストは十歳からの五年間の大半を国中の魔獣討伐に当てていた。それは王都から逃げる口実でしかなかったので、そんなふうに言われると居心地が悪い。

 魔導師団精鋭部隊と呼ばれる団員は、その頃のオーギュストの強行軍に耐えた者たちで構成されている。その一人で一年ほどオーギュストに同行していたD班の班長は何とも言えない表情を浮かべていた。


 オーギュストは名乗り出た男を連れて、別の建物に移動する。

 普段は会議などで使っている建物で、犯人の男とソファーに向かい合って座った。オーギュストがお茶を淹れると、男はその待遇に驚いていた。

「どこから話せば良いのだろうか……――」

 男は話なれていないのか戸惑っていたが、オーギュストが促すと、ポツリポツリと語ってくれた。

 犯人グループ七名は小さな村の生き残りで、男は村長の息子だったことから、まとめ役を引き受けていたのだという。

 ことの発端は十年前、魔獣が増え村に住み続けるのが難しくなったことに始まる。村長は、塀に囲まれたこの街に移住の許可を求めたが、認められなかったようだ。街には受け入れる場所がないと追い返されたらしい。

「近隣の街にも願い出たが無理だった」

 どこにも逃げ場のなかった村人たちは、村に残るしかなかった。日中のうちに多くの魔獣を狩り、夜は怯えながら暮らす日々。村には魔獣を寄せ付けない対策を施してあったが効かなくなっており、野営と同様に魔獣草を毎日焚いていたという。

「それでも、駄目だったんだ」

 男は拳を強く握りしめていた。

 その日、男は十数名の若者と共に、村の周辺の魔獣を狩っていたようだ。

「何があったのかは分からない。半日ほどで村に帰ると、何もかもが変わり果てていた。村で生き残ったのは、一緒に村の外で魔獣を狩っていた奴らだけさ」

 男は明言を避けて、それだけ言った。

 守るべき者を失った男たちは、そのまま冒険者となったようだ。公爵領のために働く気にはなれず、他の領地を転々としていたらしい。皮肉なことに、普通の村人より魔獣狩りに慣れていたため、移住を拒まれることはなかったようだ。
 
「他の領地に行ったら、大きな街はどこも人で溢れていた。村からの移住者のせいだと聞いたときには、妬ましい気持ちになったよ」

 やがて、浄化が進むと冒険者としての仕事が減り始める。もとは畑を耕していた村人だ。狩りが好きでない者もいる。

「戻って村を再建しようって話になったんだ」 

 男は冒険者を続けると言った数名を残して公爵領に戻ってきた。だが、再建は上手くいかなかったらしい。

「こんなことになったのは、全部俺のせいだ」

 男は後悔をにじませる。オーギュストは慰めの言葉が見つからなくて、黙って続きを待つことしかできなかった。
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