137 / 160
終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】
第9話 ある村人の話(前)【オーギュスト】
しおりを挟む
翌日、オーギュストはミシュリーヌが療養所に向かったのを見届けて、街の外に転移した。そこには、オーギュストが昨日張った結界があり、魔獣草を使用した犯人たちの簡易的な収容所となっている。
「お疲れ様です」
オーギュストが結界の中に入っていくと、先発隊のD班をまとめている班長が出迎える。
「警備ご苦労。人員が少なくて悪いな」
「いいえ。想定外のことでしたので仕方ありませんよ。差し入れありがとうございます」
「ああ」
どうやら、警備中だった者にも昨日の弁当が配られたらしい。オーギュストは綺麗に洗われた箱を回収し、特種な魔法がかかった護送車の扉を開けた。
「暴れたりはしませんが、こちらの問いかけには応じません」
「そうか」
班長は盗聴防止魔法を使っていないのに、狭い部屋に並ぶ七人の男たちは反応もしなかった。
「我が名はオーギュスト・フルーナ。新国王ノルベルトの弟であり、魔導師団長だ。私には貴殿らの主張を聞く用意がある。話す気があるなら、リーダー格の者が名乗りでろ。それとも、ただの人殺しとして裁かれることを望むか?」
オーギュストが芝居がかった口調で伝えると、犯人たちがざわめき出す。あまり着ることのない王族らしい衣装に着替えてきたので信憑性はあると思う。
「魔導師団長?」
「国王の弟って言ったか?」
「そんな人がなんでこんなところにいるんだ?」
犯人たちがヒソヒソと話している様子を見ていると、普通の村人がオーギュストの訪問に驚いているのと何も変わらない。彼らがなぜこのようなことをしてしまったのか、オーギュストは追い詰められた理由を知る必要がある。
「おい。十歳の頃から国中の魔獣討伐に参加してきた王子っていうのは、あんたのことか?」
「あ、ああ。確かに魔導師団員になったのは十歳のときだ。それがどうした?」
「小さな村からの要請でも、嫌な顔一つせずに討伐してくれたって死んだ仲間が言っていた。あんたになら話しても良い」
そう言って、体格の良い男が立ち上がる。
オーギュストは十歳からの五年間の大半を国中の魔獣討伐に当てていた。それは王都から逃げる口実でしかなかったので、そんなふうに言われると居心地が悪い。
魔導師団精鋭部隊と呼ばれる団員は、その頃のオーギュストの強行軍に耐えた者たちで構成されている。その一人で一年ほどオーギュストに同行していたD班の班長は何とも言えない表情を浮かべていた。
オーギュストは名乗り出た男を連れて、別の建物に移動する。
普段は会議などで使っている建物で、犯人の男とソファーに向かい合って座った。オーギュストがお茶を淹れると、男はその待遇に驚いていた。
「どこから話せば良いのだろうか……――」
男は話なれていないのか戸惑っていたが、オーギュストが促すと、ポツリポツリと語ってくれた。
犯人グループ七名は小さな村の生き残りで、男は村長の息子だったことから、まとめ役を引き受けていたのだという。
ことの発端は十年前、魔獣が増え村に住み続けるのが難しくなったことに始まる。村長は、塀に囲まれたこの街に移住の許可を求めたが、認められなかったようだ。街には受け入れる場所がないと追い返されたらしい。
「近隣の街にも願い出たが無理だった」
どこにも逃げ場のなかった村人たちは、村に残るしかなかった。日中のうちに多くの魔獣を狩り、夜は怯えながら暮らす日々。村には魔獣を寄せ付けない対策を施してあったが効かなくなっており、野営と同様に魔獣草を毎日焚いていたという。
「それでも、駄目だったんだ」
男は拳を強く握りしめていた。
その日、男は十数名の若者と共に、村の周辺の魔獣を狩っていたようだ。
「何があったのかは分からない。半日ほどで村に帰ると、何もかもが変わり果てていた。村で生き残ったのは、一緒に村の外で魔獣を狩っていた奴らだけさ」
男は明言を避けて、それだけ言った。
守るべき者を失った男たちは、そのまま冒険者となったようだ。公爵領のために働く気にはなれず、他の領地を転々としていたらしい。皮肉なことに、普通の村人より魔獣狩りに慣れていたため、移住を拒まれることはなかったようだ。
「他の領地に行ったら、大きな街はどこも人で溢れていた。村からの移住者のせいだと聞いたときには、妬ましい気持ちになったよ」
やがて、浄化が進むと冒険者としての仕事が減り始める。もとは畑を耕していた村人だ。狩りが好きでない者もいる。
「戻って村を再建しようって話になったんだ」
男は冒険者を続けると言った数名を残して公爵領に戻ってきた。だが、再建は上手くいかなかったらしい。
「こんなことになったのは、全部俺のせいだ」
男は後悔をにじませる。オーギュストは慰めの言葉が見つからなくて、黙って続きを待つことしかできなかった。
「お疲れ様です」
オーギュストが結界の中に入っていくと、先発隊のD班をまとめている班長が出迎える。
「警備ご苦労。人員が少なくて悪いな」
「いいえ。想定外のことでしたので仕方ありませんよ。差し入れありがとうございます」
「ああ」
どうやら、警備中だった者にも昨日の弁当が配られたらしい。オーギュストは綺麗に洗われた箱を回収し、特種な魔法がかかった護送車の扉を開けた。
「暴れたりはしませんが、こちらの問いかけには応じません」
「そうか」
班長は盗聴防止魔法を使っていないのに、狭い部屋に並ぶ七人の男たちは反応もしなかった。
「我が名はオーギュスト・フルーナ。新国王ノルベルトの弟であり、魔導師団長だ。私には貴殿らの主張を聞く用意がある。話す気があるなら、リーダー格の者が名乗りでろ。それとも、ただの人殺しとして裁かれることを望むか?」
オーギュストが芝居がかった口調で伝えると、犯人たちがざわめき出す。あまり着ることのない王族らしい衣装に着替えてきたので信憑性はあると思う。
「魔導師団長?」
「国王の弟って言ったか?」
「そんな人がなんでこんなところにいるんだ?」
犯人たちがヒソヒソと話している様子を見ていると、普通の村人がオーギュストの訪問に驚いているのと何も変わらない。彼らがなぜこのようなことをしてしまったのか、オーギュストは追い詰められた理由を知る必要がある。
「おい。十歳の頃から国中の魔獣討伐に参加してきた王子っていうのは、あんたのことか?」
「あ、ああ。確かに魔導師団員になったのは十歳のときだ。それがどうした?」
「小さな村からの要請でも、嫌な顔一つせずに討伐してくれたって死んだ仲間が言っていた。あんたになら話しても良い」
そう言って、体格の良い男が立ち上がる。
オーギュストは十歳からの五年間の大半を国中の魔獣討伐に当てていた。それは王都から逃げる口実でしかなかったので、そんなふうに言われると居心地が悪い。
魔導師団精鋭部隊と呼ばれる団員は、その頃のオーギュストの強行軍に耐えた者たちで構成されている。その一人で一年ほどオーギュストに同行していたD班の班長は何とも言えない表情を浮かべていた。
オーギュストは名乗り出た男を連れて、別の建物に移動する。
普段は会議などで使っている建物で、犯人の男とソファーに向かい合って座った。オーギュストがお茶を淹れると、男はその待遇に驚いていた。
「どこから話せば良いのだろうか……――」
男は話なれていないのか戸惑っていたが、オーギュストが促すと、ポツリポツリと語ってくれた。
犯人グループ七名は小さな村の生き残りで、男は村長の息子だったことから、まとめ役を引き受けていたのだという。
ことの発端は十年前、魔獣が増え村に住み続けるのが難しくなったことに始まる。村長は、塀に囲まれたこの街に移住の許可を求めたが、認められなかったようだ。街には受け入れる場所がないと追い返されたらしい。
「近隣の街にも願い出たが無理だった」
どこにも逃げ場のなかった村人たちは、村に残るしかなかった。日中のうちに多くの魔獣を狩り、夜は怯えながら暮らす日々。村には魔獣を寄せ付けない対策を施してあったが効かなくなっており、野営と同様に魔獣草を毎日焚いていたという。
「それでも、駄目だったんだ」
男は拳を強く握りしめていた。
その日、男は十数名の若者と共に、村の周辺の魔獣を狩っていたようだ。
「何があったのかは分からない。半日ほどで村に帰ると、何もかもが変わり果てていた。村で生き残ったのは、一緒に村の外で魔獣を狩っていた奴らだけさ」
男は明言を避けて、それだけ言った。
守るべき者を失った男たちは、そのまま冒険者となったようだ。公爵領のために働く気にはなれず、他の領地を転々としていたらしい。皮肉なことに、普通の村人より魔獣狩りに慣れていたため、移住を拒まれることはなかったようだ。
「他の領地に行ったら、大きな街はどこも人で溢れていた。村からの移住者のせいだと聞いたときには、妬ましい気持ちになったよ」
やがて、浄化が進むと冒険者としての仕事が減り始める。もとは畑を耕していた村人だ。狩りが好きでない者もいる。
「戻って村を再建しようって話になったんだ」
男は冒険者を続けると言った数名を残して公爵領に戻ってきた。だが、再建は上手くいかなかったらしい。
「こんなことになったのは、全部俺のせいだ」
男は後悔をにじませる。オーギュストは慰めの言葉が見つからなくて、黙って続きを待つことしかできなかった。
17
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~
夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。
しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。
しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。
夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。
いきなり事件が発生してしまう。
結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。
しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。
(こうなったら、私がなんとかするしかないわ!)
腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。
それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄されたら、辺境伯とお試し結婚することになりました
ミズメ
恋愛
婚約者を妹に奪われ、悪女として断罪された公爵令嬢フィオレッタ・グラシェルは、王都を追われ、身分を隠して辺境の町で静かに暮らしていた。ある日、迷子の少女ティナと出会い、川辺で花を摘み笑い合うひとときを過ごす。そこに現れたのは、ティナを捜していた辺境の若き領主ヴェルフリート・エルグランドだった。
ティナに懐かれたフィオレッタは子育てのために契約結婚をすることに。ティナの子守りをしながら、辺境で自らの才覚を発揮していくフィオレッタに、ヴェルフリートや領地の人々も惹かれていく。
「俺は、君を幸せにしたい」
いずれ幸せになる、追放令嬢のお話。
・感想いただけると元気もりもりになります!!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる