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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】
第16話 それぞれの始まり〈後〉【オーギュスト】
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全ての公爵の挨拶が終わると、このパーティの注目者の一人が姿を現す。昨年まで騎士団長を務めていたローラン・フルーナだ。
「ビビ辺境伯、よく来たな」
形式的な挨拶が済むと、ノルベルトとローランは少し大きめな声でビビ伯爵領改めビビ辺境伯領の近況について語り合う。昨年の騒動の後、ローランがビビ伯爵領を引き受けることになったのだ。
前ビビ伯爵は、魔獣が増える中でソルベ王国からの食料支援を受けていた。関係が悪化していたフルーナ王家ではなく、敵対国であるソルベの王弟を頼ったのだ。
そこからは何があったのか分からない。ビビ伯爵はソルベの王弟がソルベ国王になるための支援をし、ソルベの王弟はビビ伯爵領がフルーナ王国から独立し、ソルベ王国の傘下に入る手助けをしていた。
オーギュストたちがフリルネロ公爵領に滞在中、ノルベルトとともにビビ伯爵領に乗り込んだローランの話によると、ビビ伯爵領の領軍は対人武装をしてフルーナ騎士団を出迎えたという。その装備を見れば、長い期間をかけて準備していたことは明白だった。
ソルベの王弟は、ビビ伯爵の不満のもとでもあったフルーナ前王妃と繋がっていた。伯爵はそれも知った上でノルベルトに敵対する意志を示したのだ。それどころか、伯爵と前王妃が直接やりとりしていたことも、ヘクターが隠していた手紙から発覚している。公爵領の神殿から持ち出された浄化薬も、ビビ伯爵領を通ってソルベ王国に運ばれソルベの王弟へ渡っていた。
伯爵は元凶とも言える前王妃と組むほど、国に恨みがあったようだ。もしかしたら、前王妃は当時の被害者の一人という認識なのかもしれない。全てが推測でしかないのは、ビビ伯爵一家が国軍に追い詰められても投降せず、命を絶ってしまったためである。
『私がビビ伯爵領の困窮に気づいていれば、何かが変わっていただろうか』
ノルベルトはオーギュストと二人きりのときにそんなことを言っていた。ノルベルトは後悔しているようだが、オーギュストはどうしょうもなかったと思っている。どんなに必死になっても、全てを守れる状況にはなかった。そんな中で、ノルベルトは最善を尽くしてきたと思う。
ただ、フリルネロ公爵領での無力感を思い出せば、ノルベルトにかけられる言葉は少ない。オーギュストには、お酒に付き合うことくらいしかできなかった。
騎士団や魔導師団の活躍もあり、ビビ伯爵領での戦闘は二ヶ月ほどで終結している。圧政により領民が疲弊していたことと、ソルベからの支援が途切れたことが大きいだろう。その頃には、ソルベ国内で国王派と王弟派に分かれ、あちこちで紛争が起こっており、王弟に伯爵を支援する余裕はなかったようだ。
ソルべ王国は一年経った今も国王軍と王弟軍の睨み合いが続いていると聞く。フルーナ王国に目を向ける様子はなく、ローランが国境で監視を続けるに留めている。
ローランは騎士団から希望者を引き抜いて連れて行ったため、辺境伯領の統治は上手くいっているようだ。もっとも、長男より秀でた才能を隠すために若い頃から騎士団に入っていたローランの実力があってこそだろう。どちらかというと、騎士団を押し付けられたローランの弟の方が疲れた顔をしている。
こちらは実力がないと言うより、ローランたちの実家である公爵家が優遇されていることへの反感が向かった結果だろう。他に騎士団をまとめられるような人材は浮かばないので、時間が解決してくれることと思う。
ちなみに、ヴァネッサ・ビビはビビ伯爵により別邸に軟禁されているところを保護されている。ヴァネッサは軟禁の理由を理解していなかったようだが、王国軍の進軍に大義名分を与えてしまったのだから当然だろう。『ビビ伯爵の娘が聖女を害そうとした』ことで王国軍は動くことができたのだ。
ミシュリーヌを捉える計画は、ヘクターとビビ伯爵が共謀して考えたものだった。しかし、当初の計画ではヴァネッサが本名を名乗る予定はなかったらしい。ヴァネッサはビビ伯爵の娘としてパーティ会場に入った後、偽名を使ってミシュリーヌに近づくはずだった。
『王族になれば贅沢をして暮らせるのに、オーギュストを本気で手に入れたくないの? 偽名なんて使っちゃったら、今日だけの関係で終わっちゃうよ。君はオーギュストの好みにピッタリなのに残念だな』
ヴァネッサの証言を信じるなら、協力者だったはずのヘクターが唆したらしい。ヘクターは本気で国を乗っ取るつもりだったのだろうか? オーギュストには、ノルベルトのために不穏分子を道連れにしたようにしか思えない。
他にも気になる点がいくつもある。計画を考えると、祝賀パーティーの際に出席者の姿絵が作られることを伯爵はヘクターから聞かされていなかったと思われる。また、王太子一家への襲撃の際に殺害予告が出ていたのも、王妃の動きを察知したヘクターからの警告だと思ったほうが納得がいく。
だが、ヘクターは幽閉されている北の塔で尋ねても『オーギュストは可愛いね』と笑うだけだった。
「ビビ辺境伯、よく来たな」
形式的な挨拶が済むと、ノルベルトとローランは少し大きめな声でビビ伯爵領改めビビ辺境伯領の近況について語り合う。昨年の騒動の後、ローランがビビ伯爵領を引き受けることになったのだ。
前ビビ伯爵は、魔獣が増える中でソルベ王国からの食料支援を受けていた。関係が悪化していたフルーナ王家ではなく、敵対国であるソルベの王弟を頼ったのだ。
そこからは何があったのか分からない。ビビ伯爵はソルベの王弟がソルベ国王になるための支援をし、ソルベの王弟はビビ伯爵領がフルーナ王国から独立し、ソルベ王国の傘下に入る手助けをしていた。
オーギュストたちがフリルネロ公爵領に滞在中、ノルベルトとともにビビ伯爵領に乗り込んだローランの話によると、ビビ伯爵領の領軍は対人武装をしてフルーナ騎士団を出迎えたという。その装備を見れば、長い期間をかけて準備していたことは明白だった。
ソルベの王弟は、ビビ伯爵の不満のもとでもあったフルーナ前王妃と繋がっていた。伯爵はそれも知った上でノルベルトに敵対する意志を示したのだ。それどころか、伯爵と前王妃が直接やりとりしていたことも、ヘクターが隠していた手紙から発覚している。公爵領の神殿から持ち出された浄化薬も、ビビ伯爵領を通ってソルベ王国に運ばれソルベの王弟へ渡っていた。
伯爵は元凶とも言える前王妃と組むほど、国に恨みがあったようだ。もしかしたら、前王妃は当時の被害者の一人という認識なのかもしれない。全てが推測でしかないのは、ビビ伯爵一家が国軍に追い詰められても投降せず、命を絶ってしまったためである。
『私がビビ伯爵領の困窮に気づいていれば、何かが変わっていただろうか』
ノルベルトはオーギュストと二人きりのときにそんなことを言っていた。ノルベルトは後悔しているようだが、オーギュストはどうしょうもなかったと思っている。どんなに必死になっても、全てを守れる状況にはなかった。そんな中で、ノルベルトは最善を尽くしてきたと思う。
ただ、フリルネロ公爵領での無力感を思い出せば、ノルベルトにかけられる言葉は少ない。オーギュストには、お酒に付き合うことくらいしかできなかった。
騎士団や魔導師団の活躍もあり、ビビ伯爵領での戦闘は二ヶ月ほどで終結している。圧政により領民が疲弊していたことと、ソルベからの支援が途切れたことが大きいだろう。その頃には、ソルベ国内で国王派と王弟派に分かれ、あちこちで紛争が起こっており、王弟に伯爵を支援する余裕はなかったようだ。
ソルべ王国は一年経った今も国王軍と王弟軍の睨み合いが続いていると聞く。フルーナ王国に目を向ける様子はなく、ローランが国境で監視を続けるに留めている。
ローランは騎士団から希望者を引き抜いて連れて行ったため、辺境伯領の統治は上手くいっているようだ。もっとも、長男より秀でた才能を隠すために若い頃から騎士団に入っていたローランの実力があってこそだろう。どちらかというと、騎士団を押し付けられたローランの弟の方が疲れた顔をしている。
こちらは実力がないと言うより、ローランたちの実家である公爵家が優遇されていることへの反感が向かった結果だろう。他に騎士団をまとめられるような人材は浮かばないので、時間が解決してくれることと思う。
ちなみに、ヴァネッサ・ビビはビビ伯爵により別邸に軟禁されているところを保護されている。ヴァネッサは軟禁の理由を理解していなかったようだが、王国軍の進軍に大義名分を与えてしまったのだから当然だろう。『ビビ伯爵の娘が聖女を害そうとした』ことで王国軍は動くことができたのだ。
ミシュリーヌを捉える計画は、ヘクターとビビ伯爵が共謀して考えたものだった。しかし、当初の計画ではヴァネッサが本名を名乗る予定はなかったらしい。ヴァネッサはビビ伯爵の娘としてパーティ会場に入った後、偽名を使ってミシュリーヌに近づくはずだった。
『王族になれば贅沢をして暮らせるのに、オーギュストを本気で手に入れたくないの? 偽名なんて使っちゃったら、今日だけの関係で終わっちゃうよ。君はオーギュストの好みにピッタリなのに残念だな』
ヴァネッサの証言を信じるなら、協力者だったはずのヘクターが唆したらしい。ヘクターは本気で国を乗っ取るつもりだったのだろうか? オーギュストには、ノルベルトのために不穏分子を道連れにしたようにしか思えない。
他にも気になる点がいくつもある。計画を考えると、祝賀パーティーの際に出席者の姿絵が作られることを伯爵はヘクターから聞かされていなかったと思われる。また、王太子一家への襲撃の際に殺害予告が出ていたのも、王妃の動きを察知したヘクターからの警告だと思ったほうが納得がいく。
だが、ヘクターは幽閉されている北の塔で尋ねても『オーギュストは可愛いね』と笑うだけだった。
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