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おまけ1▶アダンの故郷【ミシュリーヌ】全九話
アダンの故郷(一)
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【終章13話と14話の間のお話です】
ミシュリーヌがオーギュストの手を借りて馬車から降りると、小さな女の子がモジモジしながら近づいてきた。
「せいじょさま。ようこそ、おいでくださいました」
女の子は頬を染めながら、ミシュリーヌに花束を差し出してくる。女の子の後ろでは、もう少し大きな子どもたちがその様子を見守っていた。素朴な花束は、子どもたちが皆で集めてくれたのだろう。
「素敵なお花をありがとう。部屋に飾らせていただきます」
ミシュリーヌは聖女らしい笑顔で受け取る。花が萎れてしまわないように、密かに魔法をかけた。
「こんな僻地までお越し下さり、ありがとうございます」
「父ちゃん、返事に困るから、『僻地』とか言うなよ」
御者を務めていたアダンが、出迎えてくれた村長をパシパシと叩く。そっくりだとは思っていたが、アダンは村長の息子らしい。アダンは注意しているようでいて、喜びを隠しきれていない。久しぶりの親子の再会は、見ているこちらまで幸せになる微笑ましいものだった。
公爵領の事件が解決してから半年、ミシュリーヌとオーギュストは村の開拓のために、アダンの故郷を訪れていた。
ミシュリーヌを演じたアダンは、オーギュストの助言もあり報奨として故郷の整備を願い出た。アダンの故郷の村を治める領主がオーギュストの介入を受け入れてくれたため、魔導師団が落ち着くのを待ってやってきたのだ。
この村は男爵領の端にある。領都の神殿に置かれた浄化の水晶の恩恵を受けにくく、領都やミシュリーヌたちの住む王都よりも魔素が濃い。暮らしに余裕がないようで、大人も子供も服装はかなり質素だ。
それでも、病的に痩せた者がいないのは、アダンたち若者が街で出稼ぎをしているからだろう。復興や開拓に着手したいが、村に残っていては食べ物が手に入らない。そんな場所がここ以外にもたくさんある。
アダンの村が上手くいけば、オーギュストが新しく作った復興省の職員が同じような方法で各地の村の援助を行う予定だ。
「村で宿を用意できなくて申し訳ありません」
「気にするな。浄化の旅でも同じように過ごしていたから問題ない」
小さな村を一周して顔見世を済ませると、村に隣接する広場に移動する。村の家々は家族が身を寄せ合って寝るだけで精一杯だ。ミシュリーヌたちの世話まではさせられない。
オーギュストがマジックバッグから馬車型の建物を出すと、遠巻きにしていた子供たちから歓声があがった。子どもたちが囲むように集まってきて、オーギュストは困り顔だ。オーギュストを怖がる貴族の子どもたちとは違い、村の子には嫌な先入観がない。オーギュストの穏やかで優しい気性がそのまま伝わっていて嬉しい。
「ミシュリーヌ、笑っていないで助けてくれよ」
オーギュストはそんなふうに言ったが、子どもたちから質問を受けると丁寧に説明している。最終的には一つ多めに出して、滞在中限定の子どもたちの遊び場にしたようだ。
「オーギュスト殿下、早速ですが現場を見ていただいてもよろしいですか?」
落ち着いたところでオーギュストに話しかけてきたのは、国から派遣された文官だ。ミシュリーヌたちに先行して、村に入って活動している。護衛として魔導師団員も何人か同行しており、今も彼らの後ろに二名が控えていた。
地学に詳しい文官が村周辺を調べ、村人と話し合ってくれたので、開拓の方向性はすでに決まっている。
地形を変えるような作業をオーギュストを中心とした魔導師団のチームが今日から行うことになる。
「すぐに出発しよう。ミシュリーヌは中で休んでいてくれ」
「はい。気をつけて行ってらっしゃいませ」
ミシュリーヌは不満を隠して見送る。実用性のないレースのドレスでは、一緒に行きたいとも言えなかった。
今回のミシュリーヌの役目は、嫌な言い方だが広告塔だ。浄化は上手くいったが、生活がすぐに豊かになったわけではない。国への不満が溜まっているため、国王陛下は聖女の人気を最大限に利用するつもりらしい。
オーギュストはミシュリーヌが無茶をしないように、このドレスを勧めてきたような気もする。開拓では魔法で爆破などを起こすこともあるらしい。近くで見たいが、きっと許してくれないだろう。
「皆さま、失礼いたします」
ミシュリーヌは聖女らしい微笑みを浮かべて、自分用の馬車に入る。マジックバッグから小ぶりの花瓶を出して、女の子からもらった花束を飾った。
―――――
【あとがき】
本日よりおまけの短編を公開します。短いお話になりますが、お楽しみいただければ幸いです。
ミシュリーヌがオーギュストの手を借りて馬車から降りると、小さな女の子がモジモジしながら近づいてきた。
「せいじょさま。ようこそ、おいでくださいました」
女の子は頬を染めながら、ミシュリーヌに花束を差し出してくる。女の子の後ろでは、もう少し大きな子どもたちがその様子を見守っていた。素朴な花束は、子どもたちが皆で集めてくれたのだろう。
「素敵なお花をありがとう。部屋に飾らせていただきます」
ミシュリーヌは聖女らしい笑顔で受け取る。花が萎れてしまわないように、密かに魔法をかけた。
「こんな僻地までお越し下さり、ありがとうございます」
「父ちゃん、返事に困るから、『僻地』とか言うなよ」
御者を務めていたアダンが、出迎えてくれた村長をパシパシと叩く。そっくりだとは思っていたが、アダンは村長の息子らしい。アダンは注意しているようでいて、喜びを隠しきれていない。久しぶりの親子の再会は、見ているこちらまで幸せになる微笑ましいものだった。
公爵領の事件が解決してから半年、ミシュリーヌとオーギュストは村の開拓のために、アダンの故郷を訪れていた。
ミシュリーヌを演じたアダンは、オーギュストの助言もあり報奨として故郷の整備を願い出た。アダンの故郷の村を治める領主がオーギュストの介入を受け入れてくれたため、魔導師団が落ち着くのを待ってやってきたのだ。
この村は男爵領の端にある。領都の神殿に置かれた浄化の水晶の恩恵を受けにくく、領都やミシュリーヌたちの住む王都よりも魔素が濃い。暮らしに余裕がないようで、大人も子供も服装はかなり質素だ。
それでも、病的に痩せた者がいないのは、アダンたち若者が街で出稼ぎをしているからだろう。復興や開拓に着手したいが、村に残っていては食べ物が手に入らない。そんな場所がここ以外にもたくさんある。
アダンの村が上手くいけば、オーギュストが新しく作った復興省の職員が同じような方法で各地の村の援助を行う予定だ。
「村で宿を用意できなくて申し訳ありません」
「気にするな。浄化の旅でも同じように過ごしていたから問題ない」
小さな村を一周して顔見世を済ませると、村に隣接する広場に移動する。村の家々は家族が身を寄せ合って寝るだけで精一杯だ。ミシュリーヌたちの世話まではさせられない。
オーギュストがマジックバッグから馬車型の建物を出すと、遠巻きにしていた子供たちから歓声があがった。子どもたちが囲むように集まってきて、オーギュストは困り顔だ。オーギュストを怖がる貴族の子どもたちとは違い、村の子には嫌な先入観がない。オーギュストの穏やかで優しい気性がそのまま伝わっていて嬉しい。
「ミシュリーヌ、笑っていないで助けてくれよ」
オーギュストはそんなふうに言ったが、子どもたちから質問を受けると丁寧に説明している。最終的には一つ多めに出して、滞在中限定の子どもたちの遊び場にしたようだ。
「オーギュスト殿下、早速ですが現場を見ていただいてもよろしいですか?」
落ち着いたところでオーギュストに話しかけてきたのは、国から派遣された文官だ。ミシュリーヌたちに先行して、村に入って活動している。護衛として魔導師団員も何人か同行しており、今も彼らの後ろに二名が控えていた。
地学に詳しい文官が村周辺を調べ、村人と話し合ってくれたので、開拓の方向性はすでに決まっている。
地形を変えるような作業をオーギュストを中心とした魔導師団のチームが今日から行うことになる。
「すぐに出発しよう。ミシュリーヌは中で休んでいてくれ」
「はい。気をつけて行ってらっしゃいませ」
ミシュリーヌは不満を隠して見送る。実用性のないレースのドレスでは、一緒に行きたいとも言えなかった。
今回のミシュリーヌの役目は、嫌な言い方だが広告塔だ。浄化は上手くいったが、生活がすぐに豊かになったわけではない。国への不満が溜まっているため、国王陛下は聖女の人気を最大限に利用するつもりらしい。
オーギュストはミシュリーヌが無茶をしないように、このドレスを勧めてきたような気もする。開拓では魔法で爆破などを起こすこともあるらしい。近くで見たいが、きっと許してくれないだろう。
「皆さま、失礼いたします」
ミシュリーヌは聖女らしい微笑みを浮かべて、自分用の馬車に入る。マジックバッグから小ぶりの花瓶を出して、女の子からもらった花束を飾った。
―――――
【あとがき】
本日よりおまけの短編を公開します。短いお話になりますが、お楽しみいただければ幸いです。
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