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おまけ3▶出会い【オーギュスト】
出会い(二)
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離宮は一気に慌ただしくなったが、ミシュリーヌとオーギュストのいる応接室だけは静かなままだった。沈黙の中、嫁いでくる皇女の侍女長に内定していたボンヌが、オーギュストとミシュリーヌの前にホットココアを給仕する。ボンヌに視線で訴えられて、オーギュストは慌てて背筋を伸ばした。
「フルーナ王国第四王子、オーギュスト・フルーナです。王太子である兄の護衛として、こちらに参りました。給仕の者はボンヌと言います。何かお困りのことがあれば、彼女にご用命下さい」
「よろしくお願いいたします」
ミシュリーヌが硬い表情のまま、オーギュストに頭を下げる。視線を感じてボンヌを見ると、『そうじゃない』と言いたそうな顔でこちらを見ていた。
そんなふうに見られても、オーギュストに少女の相手が勤まるわけがない。それを伝えるようにボンヌを見つめかえすと、諦めたように小さく頷いた。
「皇女殿下、甘いものはお好きですか? 良かったらお召し上がり下さい。城下で見つけてきたものですが、美味しいですよ」
ボンヌが笑顔でミシュリーヌにココアとクッキーを勧めている。オーギュストもやっと理解して、ミシュリーヌに勧めつつ自分もココアを手にとった。それを見て、ミシュリーヌもココアを飲む。
「美味しい」
ミシュリーヌの強張っていた表情が、ふんわりとした笑顔に変わる。オーギュストたちに見られていることに気づいたのか、遅れて恥ずかしそうに頬を染めた。
「クッキーもいかがですか? マフィンもおすすめです」
それを見て、ボンヌがお菓子を順番に勧めていく。少し強引なのはやせ細った姿を心配してのことだろう。ミシュリーヌも幸せそうに食べているので無理をさせているわけではなさそうだ。
「甘いものがお好きなのですか?」
「はい」
「では、お菓子の材料を多めに買い付けて帰りましょう」
オーギュストの言葉にミシュリーヌが不思議そうな顔をする。
「今後のことを思えば隠しておけないのでお伝えしますね。我が国は魔獣の増加により作物の生産が落ちています。そういったものは輸入に頼っているのが現状なのです。もっとも、魔獣の素材が豊富なので、仕入れのお金には困っておりません。国民に行き渡らせる国内の流通に関しては課題だらけですが……ですので、お好きなものがあれば、今のうちに教えて下さい。マジックバッグがあるので、大量に持ち帰ることも可能です」
ミシュリーヌは途中から落ち込んだように視線を下げてしまった。予想していた反応だ。帝国は戦争もなく平和が続いている。皇女には想像できない世界だろう。
ボンヌも困った顔をしているが、オーギュストを咎める気配はない。彼女も伝えるべきことだと分かっているのだろう。
「やはり、我が国に来るのはお嫌ですか? 今なら、まだ間に合いますよ」
「いいえ、嫌ではありませんわ。ですが……、わたくしでは……」
すぐに返事が帰ってきたが、ミシュリーヌは途中で言葉を詰まらせる。泣きそうな顔で見られて、オーギュストは慌てた。
「皇女殿下?」
「わたくし、お姉様と違って落ちこぼれなのです。フルーナ王国がそんな状態だなんて知らなくて……ごめんなさい。この国から抜け出せるって思って……わたくし、どうすれば……」
ミシュリーヌのきれいな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
部屋の隅で気配を消していた侍女がミシュリーヌの言葉を聞いて慌てて出ていこうとする。誰かに伝えてノルベルトを追いかけさせるつもりなのだろう。ミシュリーヌの言葉の通りならば正しい行動だが、オーギュストは魔法で侍女をその場に留まらせる。
「大丈夫だよ。落ち着いて。皇女殿下は、聖魔法が使えるんだよね?」
「はい。でも、すごく弱いんです。たぶん、魔力が少ないんだと思います」
オーギュストはその言葉を聞いてホッとする。使えるのならば問題ない。ミシュリーヌが膨大な魔力を有していることはすでに分かっている。
おそらく、この皇宮にいる聖女たちの中で一番魔力が多いだろう。そのせいで虐められているのだと思っていたが、少なくとも本人は知らないらしい。
「心配しなくて良いよ。きちんと食事をして規則正しい生活を送れば、強い魔法が使えるようになる。私が保証するよ。こう見えて、私は魔導師としては優秀なんだ」
「本当ですか!」
「うん。練習にも付き合うから、ゆっくり覚えていけば良い」
ミシュリーヌが涙に濡れた顔で嬉しそうに笑う。ボンヌがハンカチで丁寧に涙を拭ってあげていた。
オーギュストは『ゆっくり』と言ったが、実際にはそんな時間はない。ただ、話を聞く限り魔力が生命維持に使われているため、魔力を多く消費する魔法が使えないだけだろう。それなら、生活を改善すれば良いだけなので、数カ月もすれば解決する。
おそらく、ミシュリーヌは虐めという言葉では片付けられないほどのことをされている。本人に聞くわけにもいかず、オーギュストはミシュリーヌにお菓子を勧めた。
「フルーナ王国第四王子、オーギュスト・フルーナです。王太子である兄の護衛として、こちらに参りました。給仕の者はボンヌと言います。何かお困りのことがあれば、彼女にご用命下さい」
「よろしくお願いいたします」
ミシュリーヌが硬い表情のまま、オーギュストに頭を下げる。視線を感じてボンヌを見ると、『そうじゃない』と言いたそうな顔でこちらを見ていた。
そんなふうに見られても、オーギュストに少女の相手が勤まるわけがない。それを伝えるようにボンヌを見つめかえすと、諦めたように小さく頷いた。
「皇女殿下、甘いものはお好きですか? 良かったらお召し上がり下さい。城下で見つけてきたものですが、美味しいですよ」
ボンヌが笑顔でミシュリーヌにココアとクッキーを勧めている。オーギュストもやっと理解して、ミシュリーヌに勧めつつ自分もココアを手にとった。それを見て、ミシュリーヌもココアを飲む。
「美味しい」
ミシュリーヌの強張っていた表情が、ふんわりとした笑顔に変わる。オーギュストたちに見られていることに気づいたのか、遅れて恥ずかしそうに頬を染めた。
「クッキーもいかがですか? マフィンもおすすめです」
それを見て、ボンヌがお菓子を順番に勧めていく。少し強引なのはやせ細った姿を心配してのことだろう。ミシュリーヌも幸せそうに食べているので無理をさせているわけではなさそうだ。
「甘いものがお好きなのですか?」
「はい」
「では、お菓子の材料を多めに買い付けて帰りましょう」
オーギュストの言葉にミシュリーヌが不思議そうな顔をする。
「今後のことを思えば隠しておけないのでお伝えしますね。我が国は魔獣の増加により作物の生産が落ちています。そういったものは輸入に頼っているのが現状なのです。もっとも、魔獣の素材が豊富なので、仕入れのお金には困っておりません。国民に行き渡らせる国内の流通に関しては課題だらけですが……ですので、お好きなものがあれば、今のうちに教えて下さい。マジックバッグがあるので、大量に持ち帰ることも可能です」
ミシュリーヌは途中から落ち込んだように視線を下げてしまった。予想していた反応だ。帝国は戦争もなく平和が続いている。皇女には想像できない世界だろう。
ボンヌも困った顔をしているが、オーギュストを咎める気配はない。彼女も伝えるべきことだと分かっているのだろう。
「やはり、我が国に来るのはお嫌ですか? 今なら、まだ間に合いますよ」
「いいえ、嫌ではありませんわ。ですが……、わたくしでは……」
すぐに返事が帰ってきたが、ミシュリーヌは途中で言葉を詰まらせる。泣きそうな顔で見られて、オーギュストは慌てた。
「皇女殿下?」
「わたくし、お姉様と違って落ちこぼれなのです。フルーナ王国がそんな状態だなんて知らなくて……ごめんなさい。この国から抜け出せるって思って……わたくし、どうすれば……」
ミシュリーヌのきれいな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
部屋の隅で気配を消していた侍女がミシュリーヌの言葉を聞いて慌てて出ていこうとする。誰かに伝えてノルベルトを追いかけさせるつもりなのだろう。ミシュリーヌの言葉の通りならば正しい行動だが、オーギュストは魔法で侍女をその場に留まらせる。
「大丈夫だよ。落ち着いて。皇女殿下は、聖魔法が使えるんだよね?」
「はい。でも、すごく弱いんです。たぶん、魔力が少ないんだと思います」
オーギュストはその言葉を聞いてホッとする。使えるのならば問題ない。ミシュリーヌが膨大な魔力を有していることはすでに分かっている。
おそらく、この皇宮にいる聖女たちの中で一番魔力が多いだろう。そのせいで虐められているのだと思っていたが、少なくとも本人は知らないらしい。
「心配しなくて良いよ。きちんと食事をして規則正しい生活を送れば、強い魔法が使えるようになる。私が保証するよ。こう見えて、私は魔導師としては優秀なんだ」
「本当ですか!」
「うん。練習にも付き合うから、ゆっくり覚えていけば良い」
ミシュリーヌが涙に濡れた顔で嬉しそうに笑う。ボンヌがハンカチで丁寧に涙を拭ってあげていた。
オーギュストは『ゆっくり』と言ったが、実際にはそんな時間はない。ただ、話を聞く限り魔力が生命維持に使われているため、魔力を多く消費する魔法が使えないだけだろう。それなら、生活を改善すれば良いだけなので、数カ月もすれば解決する。
おそらく、ミシュリーヌは虐めという言葉では片付けられないほどのことをされている。本人に聞くわけにもいかず、オーギュストはミシュリーヌにお菓子を勧めた。
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