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第1章:「鋼鉄の要塞、異世界へ」
1-7:「第701編制隊」
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月明かりの元の世闇の中で行われた戦闘――いや一方的な虐殺は。敵――ガリバンデュル大帝国の兵隊の、そのほとんどの排除無力化。わずかな逃走敗走をもって終結した。
そして夜は明けてしまい、一帯は眩しい朝を迎えた。
清々しいはずの朝の空気は。しかし火力投射の餌食となった、大帝国兵達の末路姿の散らばる光景に、素直にそれを享受する事は難しい。
そんな中、太陽の光の元に明確になった、な造りの鉄の道筋――改め、鉄道線路軌道の。二条並び延びる複線のその片方の上には、また明確になったその巨体を堂々横たえる、鋼鉄の怪物――
――自衛隊装甲列車の長大な姿が在った。
その詳細を正確に言えば。
それは陸上自衛隊、第1建設団、第7建設群の内に編成される――〝第701編制隊〟と呼ばれる部隊が保有管理運用する、装甲列車編制だ。
状況想定により編成を変更するため、編制自体に書類上の正式名称は無いが。隊員等からは《ひのもと》――日本、の愛称が付けられ呼ばれていた。
その今は鎮座停車する《ひのもと》を中心とし、周辺一帯には《ひのもと》に同伴搭乗していた戦闘群の各隊が展開して警戒に付いている。
また、いくつかの分隊や車輛が逃走した敵の追撃。偵察などの任を担い、各方角方向へ察されていた。
その鎮座停車する《ひのもと》の車輛列に沿うように、線路側を悠々とした様子で歩み進む一つの姿が在る。
他でもない、会生であった。
ここで補足しておけば、会生もまた《ひのもと》の運用運行を担う、第701編制隊の所属隊員である。そして会生を隊長とする観測遊撃隊は、その内の一隊だ。
その会生は編制の内の一両。動力車たる重連のDD14の後方に隣接連結される、装甲を有する指揮通信車輛、正式名称を〝74式指揮通信・貨客車〟と呼ばれるその車輛前に到着すると。
車体に備わる乗降タラップに脚を掛け、軽々とした動きで登り車輛の乗降ドアを潜った。
ドアを潜り車輛デッキに入り、そこから伸び続く通路を。時折反対から通り来る隊員と難儀にすれ違いながら抜けて行く会生。
そして歩みすぐに、その先の空間に出た。
その指揮通信車輛の三分の一程を利用した空間は、この車輛の名称が示す通り、この《ひのもと》編制の指揮を預かる指揮所空間であった。
指揮所空間と言えば聞こえはいいが。実際の所は一部は車輛天井の重機関銃銃座のスペースで天井が低くなっていたり、乗員仮眠用の折り畳みベッドが張り出ていたり、搭載の補給資材物資がぎっちり積み込まれていたりと、諸々――かなり手狭であった。
装甲列車は戦闘運行の特性上、乗員要員がそれなりの期間、搭乗して生活する事を前提とするため。そのための設備や物資で占められ、艦船や潜水艦などよりはマシだが、スペースに余裕がある乗り物とは言えないかった。
加えて指揮車輛は〝74式指揮通信・貨客車〟の正式名が示すように、実質は複数の機能役割を詰め込んだ雑務車輛だ。煩雑で狭いのは必然のものとも言えた。
「祀」
その手狭な指揮所空間に向けて、会生は端的な声を飛ばし響かせる。
その声に反応したのは空間の片方壁側で、そこに置かれた小さな作戦卓の前に立ち、背を向ける一人の迷彩服姿の女隊員。
その女は振り向くと、端麗な顔をその前髪の元に覗かせた。
美麗な黒色の、切りそろえられた長い髪に彩られ。真の通っていそうな凛とした顔立ちが映える。
身長は160㎝前半、年齢は20代前半か。美少女と美女の間と言ったような可憐さを醸し出している。
迷彩服の襟には、二等陸尉の階級章が見えた。
「会生か、しばし待て」
その可憐な、祀と呼ばれた女隊員は振り向き会生を見止めると、切れのある口調でそんな言葉を寄こす。その声色は、昨晩に会生等を情報で支援した指揮所の女の声。彼女がその正体であった。
「ん」
その求める声に、会生は端的にそして適当な一声を返す。
その方や、祀は同じく作戦卓を囲っていた他隊員に断りを取る様子を見せると。身を翻して会生の前へと歩んで来る。
「報告は聞いている。保護の成功は良くやったが、また無茶をしたと聞いているぞ――」
会生と距離を詰めながら。祀は毅然とし、少し圧すら感じる様子でそんな言葉を寄こす。それは、昨晩の会生の作戦中の行動に振れるもの。
それは咎める色のそれに見えたが―^
「――まったく、いつも無茶し過ぎよ……もう少し自分の身も考えてね」
しかし祀は、会生の前に立ち相対すると。
一転、その顔に困りながらも柔らかい色を見せ。同じく口調もどこか優し気な物へと変えて。そんな会生を案ずる物である言葉を紡いだ。
「それが最善と見たからな。別に、自分の身も蔑ろにしているつもりは無いが」
そんな言葉を紡ぎ寄こした祀に向けて、会生はまた淡々とそう解答を返す。幹部である祀に対しての言葉であるにも関わらず、その色はどこか不躾なまでのタメ口。
その理由は、明かせば二人がそれなりに長い間柄の腐れ縁同士の者であるからであった。
もちろんそれでも自衛官と言う身の上で階級を考慮しない事は良しとされる事では無いが。そこは会生がいささか規格外の問題隊員という部分がまた在り。また会生の過去の経歴諸々が影響して看過されている部分があるのだが、今は割愛する。
「相変わらずね……あなたの事だから、蛮勇や驕りでのそれでは無いのでしょうけど」
そんな会生の大事無いと言うような言葉に、祀はそれ以上咎め追及する事はせず。また少し困りながらも柔らかい顔色で、そんな言葉だけを零した。
そんな二人のやり取りが一区切りした所で。ガチャと、背後の通路に設けられる扉が開かれる。そして一人の男性隊員が出てきて姿を現した。
身長は高めの180㎝半ばに、偉丈夫の体が纏う迷彩服越しにも目立つ。そして顔立ち体とも合わせて、質実剛健を体現したような様相を見せている。
迷彩服の襟には三等陸佐を示す階級章が見える。
「――おぉ、戻ったか」
そんな男性隊員は、まず真っ先に会生の姿を見止めると。それを軽く歓迎するような言葉を紡ぎ寄こした。
「えぇ、戻りました。芭文さん」
それに対して会生は、今度は敬語(いささか不躾な色があるが)をもって言葉を返し。合わせての報告の言葉を一緒に、その三佐の名を呼んだ。
この芭文こそ。この装甲列車《ひのもと》を運用運行する第701編制隊の隊長、すなわち《ひのもと》の長たる人物であった。
詳細には同伴同乗する戦闘群にもその指揮官の三等陸佐がいるのだが。それを含めた装甲列車部隊全体の長も、芭文が兼任していた。
「ハデにやったようだな」
その芭文は次には、呆れ半分揶揄い半分といった色で会生にそんな言葉を寄こす。それはまた、昨晩の会生の戦いっぷりからの敵の頭目の排除成功を、呆れつつも評すもの。
「えぇ、結果としてそうなりました」
「まぁ、結果オーライだ」
それに会生はまた淡々と回答を返して見せたが。芭文も細かくを突っ込む気は無いらしく、そんな結果を歓迎する返した。
幹部と曹士の間柄でありながら、二人のそれもまたどこかフランクなもの。明かせば二人はまた、それ以前に長い付き合いの友人の関係であった。会生はその気質から詳細にはどう思っているのか不可解だが、少なくとも芭文はそう思っていた。
「祀二尉、新たな報告は上がって来てるか」
そのやり取りが一区切りした所で、芭文は今度はその隣に立つ祀に尋ねる声を掛ける。
「はッ。32戦闘群から今先に連絡がありました。周辺近域にてこれ以上の大規模敵勢力との接敵確認は、現在の所発生せずとの事。合わせて現在は一個分隊が、少数残党の逃走方向へ向け、偵察を兼ねた追撃を実施中との事です」
それに答え、祀は現在展開中の戦闘群から上がって来ている状況情報を答え伝える。それはまた、凛とし毅然とした態度に戻っての畏まったそれ。
会生と正反対に、祀は任務職務の際にはそれ相応の態度在り方を徹底することが信条であった。もっともそれもまた行き過ぎではと周りからは見られており、祀のその本質が切り替えの不器用な娘である事がそこから零れ出た姿であった。
「了解、府月さんには切り上げるよう伝えてくれ。これ以上の深追いはリスクに傾きそうだ」
その報告詳細を受けた芭文は、そしてその作戦行動の中止切り上げを指示する言葉を紡いだ。補足すると今上がった府月というのが、戦闘群隊長の三等陸佐の名だ。
「了解、一報します」
「頼む、それと。肝心の〝お客さん〟はどうだ?」
命に対する了解の返答を祀より危機。それに対して芭文は続けてそんな尋ねる言葉を紡ぐ。
お客さん――それは昨晩に発見保護した、他ならぬミューヘルマ達を示す言葉だ。
「擦過等小さな怪我こそありますが、命に別状は無いと医務室からは上がって来ています。一度声を掛けに行きますか?」
祀は上がって来ている情報を芭文に伝え、合わせて進言の言葉を述べる。
ミューヘルマ達にあっては昨晩の戦闘下での接触保護から、まずは何よりその心身のケアを優先され。現在は《ひのもと》に編成される車輛の医務室で、手当てを受けている状況であった。
しかし第707編制隊――芭文等は。そのミューヘルマ達に彼女達の状況立場始め、いくつか尋ねたい事柄が在り、その場を設ける頃合いを伺っていたのだ。
会生が指揮所車輛を訪れたのも、最初の接触者としてその場に立ち合うよう、芭文から指示要請を受けていたからであった。
「そうだな。話自体はあの人達が落ち着いてからが望ましいが、一度様子を伺うか」
その進言を受け。芭文は前提条件を零しつつ、祀のそれを受け入れ、彼女達の様子を見に行く考えを言葉にする。
「――それなら、すぐにでもの対話、情報交換を望まれるそうです」
しかし。そこへ背後より言葉が割り入り寄こされた。
芭文が振り向き、会生や祀が視線を通路の奥に向ければ。車内通路の向こうに見えるデッキ、そこに設けられる後続の寝台車との連結通路より。一人の隊員――昨晩に会生の増援に現れた、観測遊撃隊 遊撃班の班長の寺院が歩み出て来る姿が見えた。
また補足しておくと、寺院は〝曹員填士〟という役職位を指定された陸士長だ。
これはまた曹階級を補填されるために置かれるもので。上級陸曹制度の陸士版、あるいは警察の巡査長が類するものとして近いか、そんな準階級制度のものであった。
さらに人影は、その寺院一人ではない。
寺院に続くように彼の後ろ、連結通路からは、小柄な人影と身長高めの人影の二人分のそれが現れた。少し戸惑う様子で連結通路を抜けてきた二つのそれは、件のダークエルフの少女ミューヘルマと、人間の青年クユリフのものであった。
「ぁ……ぁの!此度のご助力、私共のこの命をお救いいただいた事……感謝致します……!」
内のミューヘルマは次に、寺院の横に出て立つと。芭文や会生に向けて、何か慌て焦り、何より緊張を伴った面持ちでそんな一声を発して見せた。
「その身の上でのごみゅ……ご無礼を承知でこのミューヘルマ・クォン・エルムエイン、貴殿方の長殿へ拝謁をたみゃ、賜りたく……!」
続け彼女が紡いだのは仰々しい色で求める言葉。しかしそれからは緊張とそして慣れない様子が多分に見え、そして彼女はその台詞の所々を嚙む。
そして彼女当人は必至な様子だが、その後ろに立つ青年のクユリフは呆れ困った様子で片手を額に軽く添えており。横の寺院はまた困り笑いを浮かべていた。
「えぇと――敬意に感謝します。しかしこの場で格式張り、身を固くする必要はありません。どうかリラックスなさってください」
そんなミューヘルマからの言葉を向けられた、そして同時にそのいっぱいいっぱいの姿を見かねた芭文は。助け舟を出すようにそんな返答の言葉をまずは返した。
「ぁ、ありがとうこざいます……」
それを受けてミューヘルマは「ふぇ」と声でも漏れそうな様子で、まだ硬さが残るが少し体の力を抜く様子を見せた。
「そんなに堅苦しいのは不要と。今さっきに言われていただろう?」
その背後から、クユリフのまた呆れた声が掛けられる。
「で、でも最初だし……私も立場があるし、彼方方もそうかもしれないし……」
それにまた心配残る様子で振り向き返すミューヘルマ。ここまでで、彼女が生真面目な性格である事が見て取れた。
「寺院、今すぐにとのご希望と?」
「えぇ、先程ご本人達から希望を聞きました」
一方、芭文は寺院に。今の寺院の言葉。ミューヘルマ達が対話の席を今すぐ望んでいる旨を、再度確かか確認する言葉を交わす。
「お二人とも、お体は大丈夫なのですか?心、気持ちの面でもまだ混乱があるでしょう?」
続け芭文はミューヘルマに、芭文は自衛隊側としてまず確認しておくべき事。彼女達の心身の状態を本人達に改めて直接確認する。
「はい、いえ……えぇと。……正直を申し上げれば大きく困惑しています。しかし、いえだからこそ、貴方がたとお話を何より先に希望させていただきたいのですっ」
それに対してミューヘルマは肯定と否定の言葉を迷い。それから本当の所と、その上での要望を今度は臆さずにはっきりと述べて見せた。
「成程、分かりました。我々も貴方方との対話は実は急ぎの要があると思っていました。感謝します――」
それを受け、芭文は双方の意向の合致を確認。礼の言葉を述べると、ミューヘルマ達を指揮所へと招き入れた。
そして夜は明けてしまい、一帯は眩しい朝を迎えた。
清々しいはずの朝の空気は。しかし火力投射の餌食となった、大帝国兵達の末路姿の散らばる光景に、素直にそれを享受する事は難しい。
そんな中、太陽の光の元に明確になった、な造りの鉄の道筋――改め、鉄道線路軌道の。二条並び延びる複線のその片方の上には、また明確になったその巨体を堂々横たえる、鋼鉄の怪物――
――自衛隊装甲列車の長大な姿が在った。
その詳細を正確に言えば。
それは陸上自衛隊、第1建設団、第7建設群の内に編成される――〝第701編制隊〟と呼ばれる部隊が保有管理運用する、装甲列車編制だ。
状況想定により編成を変更するため、編制自体に書類上の正式名称は無いが。隊員等からは《ひのもと》――日本、の愛称が付けられ呼ばれていた。
その今は鎮座停車する《ひのもと》を中心とし、周辺一帯には《ひのもと》に同伴搭乗していた戦闘群の各隊が展開して警戒に付いている。
また、いくつかの分隊や車輛が逃走した敵の追撃。偵察などの任を担い、各方角方向へ察されていた。
その鎮座停車する《ひのもと》の車輛列に沿うように、線路側を悠々とした様子で歩み進む一つの姿が在る。
他でもない、会生であった。
ここで補足しておけば、会生もまた《ひのもと》の運用運行を担う、第701編制隊の所属隊員である。そして会生を隊長とする観測遊撃隊は、その内の一隊だ。
その会生は編制の内の一両。動力車たる重連のDD14の後方に隣接連結される、装甲を有する指揮通信車輛、正式名称を〝74式指揮通信・貨客車〟と呼ばれるその車輛前に到着すると。
車体に備わる乗降タラップに脚を掛け、軽々とした動きで登り車輛の乗降ドアを潜った。
ドアを潜り車輛デッキに入り、そこから伸び続く通路を。時折反対から通り来る隊員と難儀にすれ違いながら抜けて行く会生。
そして歩みすぐに、その先の空間に出た。
その指揮通信車輛の三分の一程を利用した空間は、この車輛の名称が示す通り、この《ひのもと》編制の指揮を預かる指揮所空間であった。
指揮所空間と言えば聞こえはいいが。実際の所は一部は車輛天井の重機関銃銃座のスペースで天井が低くなっていたり、乗員仮眠用の折り畳みベッドが張り出ていたり、搭載の補給資材物資がぎっちり積み込まれていたりと、諸々――かなり手狭であった。
装甲列車は戦闘運行の特性上、乗員要員がそれなりの期間、搭乗して生活する事を前提とするため。そのための設備や物資で占められ、艦船や潜水艦などよりはマシだが、スペースに余裕がある乗り物とは言えないかった。
加えて指揮車輛は〝74式指揮通信・貨客車〟の正式名が示すように、実質は複数の機能役割を詰め込んだ雑務車輛だ。煩雑で狭いのは必然のものとも言えた。
「祀」
その手狭な指揮所空間に向けて、会生は端的な声を飛ばし響かせる。
その声に反応したのは空間の片方壁側で、そこに置かれた小さな作戦卓の前に立ち、背を向ける一人の迷彩服姿の女隊員。
その女は振り向くと、端麗な顔をその前髪の元に覗かせた。
美麗な黒色の、切りそろえられた長い髪に彩られ。真の通っていそうな凛とした顔立ちが映える。
身長は160㎝前半、年齢は20代前半か。美少女と美女の間と言ったような可憐さを醸し出している。
迷彩服の襟には、二等陸尉の階級章が見えた。
「会生か、しばし待て」
その可憐な、祀と呼ばれた女隊員は振り向き会生を見止めると、切れのある口調でそんな言葉を寄こす。その声色は、昨晩に会生等を情報で支援した指揮所の女の声。彼女がその正体であった。
「ん」
その求める声に、会生は端的にそして適当な一声を返す。
その方や、祀は同じく作戦卓を囲っていた他隊員に断りを取る様子を見せると。身を翻して会生の前へと歩んで来る。
「報告は聞いている。保護の成功は良くやったが、また無茶をしたと聞いているぞ――」
会生と距離を詰めながら。祀は毅然とし、少し圧すら感じる様子でそんな言葉を寄こす。それは、昨晩の会生の作戦中の行動に振れるもの。
それは咎める色のそれに見えたが―^
「――まったく、いつも無茶し過ぎよ……もう少し自分の身も考えてね」
しかし祀は、会生の前に立ち相対すると。
一転、その顔に困りながらも柔らかい色を見せ。同じく口調もどこか優し気な物へと変えて。そんな会生を案ずる物である言葉を紡いだ。
「それが最善と見たからな。別に、自分の身も蔑ろにしているつもりは無いが」
そんな言葉を紡ぎ寄こした祀に向けて、会生はまた淡々とそう解答を返す。幹部である祀に対しての言葉であるにも関わらず、その色はどこか不躾なまでのタメ口。
その理由は、明かせば二人がそれなりに長い間柄の腐れ縁同士の者であるからであった。
もちろんそれでも自衛官と言う身の上で階級を考慮しない事は良しとされる事では無いが。そこは会生がいささか規格外の問題隊員という部分がまた在り。また会生の過去の経歴諸々が影響して看過されている部分があるのだが、今は割愛する。
「相変わらずね……あなたの事だから、蛮勇や驕りでのそれでは無いのでしょうけど」
そんな会生の大事無いと言うような言葉に、祀はそれ以上咎め追及する事はせず。また少し困りながらも柔らかい顔色で、そんな言葉だけを零した。
そんな二人のやり取りが一区切りした所で。ガチャと、背後の通路に設けられる扉が開かれる。そして一人の男性隊員が出てきて姿を現した。
身長は高めの180㎝半ばに、偉丈夫の体が纏う迷彩服越しにも目立つ。そして顔立ち体とも合わせて、質実剛健を体現したような様相を見せている。
迷彩服の襟には三等陸佐を示す階級章が見える。
「――おぉ、戻ったか」
そんな男性隊員は、まず真っ先に会生の姿を見止めると。それを軽く歓迎するような言葉を紡ぎ寄こした。
「えぇ、戻りました。芭文さん」
それに対して会生は、今度は敬語(いささか不躾な色があるが)をもって言葉を返し。合わせての報告の言葉を一緒に、その三佐の名を呼んだ。
この芭文こそ。この装甲列車《ひのもと》を運用運行する第701編制隊の隊長、すなわち《ひのもと》の長たる人物であった。
詳細には同伴同乗する戦闘群にもその指揮官の三等陸佐がいるのだが。それを含めた装甲列車部隊全体の長も、芭文が兼任していた。
「ハデにやったようだな」
その芭文は次には、呆れ半分揶揄い半分といった色で会生にそんな言葉を寄こす。それはまた、昨晩の会生の戦いっぷりからの敵の頭目の排除成功を、呆れつつも評すもの。
「えぇ、結果としてそうなりました」
「まぁ、結果オーライだ」
それに会生はまた淡々と回答を返して見せたが。芭文も細かくを突っ込む気は無いらしく、そんな結果を歓迎する返した。
幹部と曹士の間柄でありながら、二人のそれもまたどこかフランクなもの。明かせば二人はまた、それ以前に長い付き合いの友人の関係であった。会生はその気質から詳細にはどう思っているのか不可解だが、少なくとも芭文はそう思っていた。
「祀二尉、新たな報告は上がって来てるか」
そのやり取りが一区切りした所で、芭文は今度はその隣に立つ祀に尋ねる声を掛ける。
「はッ。32戦闘群から今先に連絡がありました。周辺近域にてこれ以上の大規模敵勢力との接敵確認は、現在の所発生せずとの事。合わせて現在は一個分隊が、少数残党の逃走方向へ向け、偵察を兼ねた追撃を実施中との事です」
それに答え、祀は現在展開中の戦闘群から上がって来ている状況情報を答え伝える。それはまた、凛とし毅然とした態度に戻っての畏まったそれ。
会生と正反対に、祀は任務職務の際にはそれ相応の態度在り方を徹底することが信条であった。もっともそれもまた行き過ぎではと周りからは見られており、祀のその本質が切り替えの不器用な娘である事がそこから零れ出た姿であった。
「了解、府月さんには切り上げるよう伝えてくれ。これ以上の深追いはリスクに傾きそうだ」
その報告詳細を受けた芭文は、そしてその作戦行動の中止切り上げを指示する言葉を紡いだ。補足すると今上がった府月というのが、戦闘群隊長の三等陸佐の名だ。
「了解、一報します」
「頼む、それと。肝心の〝お客さん〟はどうだ?」
命に対する了解の返答を祀より危機。それに対して芭文は続けてそんな尋ねる言葉を紡ぐ。
お客さん――それは昨晩に発見保護した、他ならぬミューヘルマ達を示す言葉だ。
「擦過等小さな怪我こそありますが、命に別状は無いと医務室からは上がって来ています。一度声を掛けに行きますか?」
祀は上がって来ている情報を芭文に伝え、合わせて進言の言葉を述べる。
ミューヘルマ達にあっては昨晩の戦闘下での接触保護から、まずは何よりその心身のケアを優先され。現在は《ひのもと》に編成される車輛の医務室で、手当てを受けている状況であった。
しかし第707編制隊――芭文等は。そのミューヘルマ達に彼女達の状況立場始め、いくつか尋ねたい事柄が在り、その場を設ける頃合いを伺っていたのだ。
会生が指揮所車輛を訪れたのも、最初の接触者としてその場に立ち合うよう、芭文から指示要請を受けていたからであった。
「そうだな。話自体はあの人達が落ち着いてからが望ましいが、一度様子を伺うか」
その進言を受け。芭文は前提条件を零しつつ、祀のそれを受け入れ、彼女達の様子を見に行く考えを言葉にする。
「――それなら、すぐにでもの対話、情報交換を望まれるそうです」
しかし。そこへ背後より言葉が割り入り寄こされた。
芭文が振り向き、会生や祀が視線を通路の奥に向ければ。車内通路の向こうに見えるデッキ、そこに設けられる後続の寝台車との連結通路より。一人の隊員――昨晩に会生の増援に現れた、観測遊撃隊 遊撃班の班長の寺院が歩み出て来る姿が見えた。
また補足しておくと、寺院は〝曹員填士〟という役職位を指定された陸士長だ。
これはまた曹階級を補填されるために置かれるもので。上級陸曹制度の陸士版、あるいは警察の巡査長が類するものとして近いか、そんな準階級制度のものであった。
さらに人影は、その寺院一人ではない。
寺院に続くように彼の後ろ、連結通路からは、小柄な人影と身長高めの人影の二人分のそれが現れた。少し戸惑う様子で連結通路を抜けてきた二つのそれは、件のダークエルフの少女ミューヘルマと、人間の青年クユリフのものであった。
「ぁ……ぁの!此度のご助力、私共のこの命をお救いいただいた事……感謝致します……!」
内のミューヘルマは次に、寺院の横に出て立つと。芭文や会生に向けて、何か慌て焦り、何より緊張を伴った面持ちでそんな一声を発して見せた。
「その身の上でのごみゅ……ご無礼を承知でこのミューヘルマ・クォン・エルムエイン、貴殿方の長殿へ拝謁をたみゃ、賜りたく……!」
続け彼女が紡いだのは仰々しい色で求める言葉。しかしそれからは緊張とそして慣れない様子が多分に見え、そして彼女はその台詞の所々を嚙む。
そして彼女当人は必至な様子だが、その後ろに立つ青年のクユリフは呆れ困った様子で片手を額に軽く添えており。横の寺院はまた困り笑いを浮かべていた。
「えぇと――敬意に感謝します。しかしこの場で格式張り、身を固くする必要はありません。どうかリラックスなさってください」
そんなミューヘルマからの言葉を向けられた、そして同時にそのいっぱいいっぱいの姿を見かねた芭文は。助け舟を出すようにそんな返答の言葉をまずは返した。
「ぁ、ありがとうこざいます……」
それを受けてミューヘルマは「ふぇ」と声でも漏れそうな様子で、まだ硬さが残るが少し体の力を抜く様子を見せた。
「そんなに堅苦しいのは不要と。今さっきに言われていただろう?」
その背後から、クユリフのまた呆れた声が掛けられる。
「で、でも最初だし……私も立場があるし、彼方方もそうかもしれないし……」
それにまた心配残る様子で振り向き返すミューヘルマ。ここまでで、彼女が生真面目な性格である事が見て取れた。
「寺院、今すぐにとのご希望と?」
「えぇ、先程ご本人達から希望を聞きました」
一方、芭文は寺院に。今の寺院の言葉。ミューヘルマ達が対話の席を今すぐ望んでいる旨を、再度確かか確認する言葉を交わす。
「お二人とも、お体は大丈夫なのですか?心、気持ちの面でもまだ混乱があるでしょう?」
続け芭文はミューヘルマに、芭文は自衛隊側としてまず確認しておくべき事。彼女達の心身の状態を本人達に改めて直接確認する。
「はい、いえ……えぇと。……正直を申し上げれば大きく困惑しています。しかし、いえだからこそ、貴方がたとお話を何より先に希望させていただきたいのですっ」
それに対してミューヘルマは肯定と否定の言葉を迷い。それから本当の所と、その上での要望を今度は臆さずにはっきりと述べて見せた。
「成程、分かりました。我々も貴方方との対話は実は急ぎの要があると思っていました。感謝します――」
それを受け、芭文は双方の意向の合致を確認。礼の言葉を述べると、ミューヘルマ達を指揮所へと招き入れた。
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エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
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4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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