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乙女ゲームのヒロイン
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「可愛いなぁ。」
奇妙な香が漂う部屋でソファーに寝転ぶ少女の足を男は撫でた。
男はへらへら笑い、少女の足を膝に乗せ形のよい小さな爪に指を滑らせた。
「離してよ。気色悪い。」
空いた足で男の肩を蹴るが、男に易々と掴まれ舐められた。
整った顔をしているのに、妙に印象の薄い華やかさを感じさせない風体だった。
「あぁ気持ち悪い。」
忌々しげに睨む少女に男は楽しげに笑った。
「そろそろ薬に慣れてしゃべれる頃だと思ったけど、もう動けるなんですごいね。お香以外に、毎日痺れ薬を飲ませてるのに。」
「お茶に誘われて来てやっただけなのに何日も私を閉じ込めてどういうつもりよ。」
結局、先ほどの一撃が渾身の一発だったようで、今はまた手足をだらりと落とした。
「思ったより簡単に来たから助かったよ。」
悪びれた様子もなく男はへらへら笑った。
「昨日のパーティーで攻略対象とイベントしなきゃいけなかったのよ!私は王子様と結婚するはずだったのに。全部むちゃくちゃ!なんでモブのアンタに監禁されなきゃなんないのよ。」
心底憎いといった様子で男を睨み付け身をよじる。
しかし残念ながら少女の可愛らしい容姿のせいでどんなに睨み付けても効果はなかった。
「くふふ、たかだか男爵の身分でバカじゃないの?」
「うるさいっ!私はヒロインなのよ。私は王子様や騎士とか公爵子息と恋愛して皆に愛されて将来は王妃になるのよ。ああ!パーティーのイベントこなせばハーレムエンドに進むはずだったのに!」
「王子の婚約者も同じことを仰っていたねぇ。」
「は?」
「転生はまだ分かるが、悪役令嬢だとか乙女ゲームだとか。僕はいまいち信じられなかったけど、王子は婚約者の言葉を信じていたよ。」
少女は青ざめぶるぶると震えた。
「最悪。悪役令嬢も転生者なんて。」
「君がここに閉じ込めたのは王家からの指示だよ。」
男は少女の足に口づけを落とし、指を食んだ。
「君に二心あるようなら、最初のイベントが起こる前に監禁するように言われてるの。あむ。」
「足を嘗めるのやめて!モブの癖に触んないで!!」
「まだそんなこと言ってるの?モブだとかヒロインとか。そういえば、モブですらない者ならシナリオの強制力に関係ないそうだよ。だから王家は我が家を選ばれた。」
「ふん、ヒロインの私が可愛いから閉じ込めておく気ね。このストーカーやろう。」
「くふっ、くふ。面白いねぇ、君。」
「まあ、お兄様、ズルいわ。」
部屋にもう一人の侵入者が現れた。
手には刃物や長い針状の金属を持って、垂らした長い黒髪をゆらゆら揺らしながら可愛い顔を上気させて男に走りよった。
「ちょっと味見しただけだよ。」
「私もこの子と遊びたいわ。まだ新品だから傷はつけないように遊ばなきゃ。」
「うん…。君が遊んだあとはぐちゃぐちゃで捨てるしかなくなるからね。気をつけて。」
「い、いやよ!何するのよ!」
「お母様がね、上手に刻めたらご褒美くれるって。」
「見た目を気に入ってるから汚くしないでほしいなぁ。」
妹が刃物や金属を擦り合わせて、しゃーっしゃーっと不気味な音を立てていた。
「ひぃぃ!!ひぃ!」
まだ痺れる体を捻りソファーから落ちる。
這いつくばって逃げようとするが、その場で手足をじたばたもがくだけでどこにも動くことは出来なかった。
ソファーに座ったままの男は慌てることなく、喜ぶ妹に微笑みを向けていた。
「足からね。」
そう言って少女の足に刃物を向けた。
少女の叫び声が部屋に響いた。
「こら、待ちなさい。ダメよ。」
「お母様。だって良いって言ったじゃない。」
「あなたが話の途中で行ってしまうからよ。」
助かったと少女は安堵したが、二人の会話でそうではないと知り絶望した。
「お父様とお兄様のあとならいいのね!」
「ええ、二人は傷つかないように扱うのがお上手だから。使用済みでも充分使えるわ。あとはお母様と頑張りましょうね。」
女同士二人で刺繍か何か淑女らしいことをするような口振りだったが、妹が手に持っているのは刃物。
必要な材料は少女の体だ。
「ひ、ひどいことしないでぇ。」
見逃してくれと泣きながら懇願する少女に母親は優しく話しかけた。
「あなたは何か神様のイタズラで運命を背負ったのでしょうけど、国家転覆を図ったあなたを自由にするわけないでしょう?」
「ああっ、ほら、私は転生者よ。前世の知識で世の中変えるような!生かしてた方がいいわ!ね!だから見逃して!」
「あら、転生者なら珍しくないわ。その中の有能な方を保護するのも我が家の仕事なのよ。残念ながらあなたは無能ね。」
我が家は暗殺だけが仕事ではないのよ、わかった?と母親は優しく諭し、少女は絶叫した。
「いやだぁぁ!リセットオオォ!リセットするぅぅ!」
「ほほほ、リセット出来てたらいいわねぇ。」
「私が遊んだあとならできるんじゃない?死んじゃうから。」
「これは転生者の君らが言うところでのバッドエンドかな。」
床に這いつくばった少女の絶叫が響く中、親子は和やかに微笑んでいた。
~終~
奇妙な香が漂う部屋でソファーに寝転ぶ少女の足を男は撫でた。
男はへらへら笑い、少女の足を膝に乗せ形のよい小さな爪に指を滑らせた。
「離してよ。気色悪い。」
空いた足で男の肩を蹴るが、男に易々と掴まれ舐められた。
整った顔をしているのに、妙に印象の薄い華やかさを感じさせない風体だった。
「あぁ気持ち悪い。」
忌々しげに睨む少女に男は楽しげに笑った。
「そろそろ薬に慣れてしゃべれる頃だと思ったけど、もう動けるなんですごいね。お香以外に、毎日痺れ薬を飲ませてるのに。」
「お茶に誘われて来てやっただけなのに何日も私を閉じ込めてどういうつもりよ。」
結局、先ほどの一撃が渾身の一発だったようで、今はまた手足をだらりと落とした。
「思ったより簡単に来たから助かったよ。」
悪びれた様子もなく男はへらへら笑った。
「昨日のパーティーで攻略対象とイベントしなきゃいけなかったのよ!私は王子様と結婚するはずだったのに。全部むちゃくちゃ!なんでモブのアンタに監禁されなきゃなんないのよ。」
心底憎いといった様子で男を睨み付け身をよじる。
しかし残念ながら少女の可愛らしい容姿のせいでどんなに睨み付けても効果はなかった。
「くふふ、たかだか男爵の身分でバカじゃないの?」
「うるさいっ!私はヒロインなのよ。私は王子様や騎士とか公爵子息と恋愛して皆に愛されて将来は王妃になるのよ。ああ!パーティーのイベントこなせばハーレムエンドに進むはずだったのに!」
「王子の婚約者も同じことを仰っていたねぇ。」
「は?」
「転生はまだ分かるが、悪役令嬢だとか乙女ゲームだとか。僕はいまいち信じられなかったけど、王子は婚約者の言葉を信じていたよ。」
少女は青ざめぶるぶると震えた。
「最悪。悪役令嬢も転生者なんて。」
「君がここに閉じ込めたのは王家からの指示だよ。」
男は少女の足に口づけを落とし、指を食んだ。
「君に二心あるようなら、最初のイベントが起こる前に監禁するように言われてるの。あむ。」
「足を嘗めるのやめて!モブの癖に触んないで!!」
「まだそんなこと言ってるの?モブだとかヒロインとか。そういえば、モブですらない者ならシナリオの強制力に関係ないそうだよ。だから王家は我が家を選ばれた。」
「ふん、ヒロインの私が可愛いから閉じ込めておく気ね。このストーカーやろう。」
「くふっ、くふ。面白いねぇ、君。」
「まあ、お兄様、ズルいわ。」
部屋にもう一人の侵入者が現れた。
手には刃物や長い針状の金属を持って、垂らした長い黒髪をゆらゆら揺らしながら可愛い顔を上気させて男に走りよった。
「ちょっと味見しただけだよ。」
「私もこの子と遊びたいわ。まだ新品だから傷はつけないように遊ばなきゃ。」
「うん…。君が遊んだあとはぐちゃぐちゃで捨てるしかなくなるからね。気をつけて。」
「い、いやよ!何するのよ!」
「お母様がね、上手に刻めたらご褒美くれるって。」
「見た目を気に入ってるから汚くしないでほしいなぁ。」
妹が刃物や金属を擦り合わせて、しゃーっしゃーっと不気味な音を立てていた。
「ひぃぃ!!ひぃ!」
まだ痺れる体を捻りソファーから落ちる。
這いつくばって逃げようとするが、その場で手足をじたばたもがくだけでどこにも動くことは出来なかった。
ソファーに座ったままの男は慌てることなく、喜ぶ妹に微笑みを向けていた。
「足からね。」
そう言って少女の足に刃物を向けた。
少女の叫び声が部屋に響いた。
「こら、待ちなさい。ダメよ。」
「お母様。だって良いって言ったじゃない。」
「あなたが話の途中で行ってしまうからよ。」
助かったと少女は安堵したが、二人の会話でそうではないと知り絶望した。
「お父様とお兄様のあとならいいのね!」
「ええ、二人は傷つかないように扱うのがお上手だから。使用済みでも充分使えるわ。あとはお母様と頑張りましょうね。」
女同士二人で刺繍か何か淑女らしいことをするような口振りだったが、妹が手に持っているのは刃物。
必要な材料は少女の体だ。
「ひ、ひどいことしないでぇ。」
見逃してくれと泣きながら懇願する少女に母親は優しく話しかけた。
「あなたは何か神様のイタズラで運命を背負ったのでしょうけど、国家転覆を図ったあなたを自由にするわけないでしょう?」
「ああっ、ほら、私は転生者よ。前世の知識で世の中変えるような!生かしてた方がいいわ!ね!だから見逃して!」
「あら、転生者なら珍しくないわ。その中の有能な方を保護するのも我が家の仕事なのよ。残念ながらあなたは無能ね。」
我が家は暗殺だけが仕事ではないのよ、わかった?と母親は優しく諭し、少女は絶叫した。
「いやだぁぁ!リセットオオォ!リセットするぅぅ!」
「ほほほ、リセット出来てたらいいわねぇ。」
「私が遊んだあとならできるんじゃない?死んじゃうから。」
「これは転生者の君らが言うところでのバッドエンドかな。」
床に這いつくばった少女の絶叫が響く中、親子は和やかに微笑んでいた。
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