転生ヒロイン

うめまつ

文字の大きさ
1 / 1

乙女ゲームのヒロイン

しおりを挟む
「可愛いなぁ。」

奇妙な香が漂う部屋でソファーに寝転ぶ少女の足を男は撫でた。
男はへらへら笑い、少女の足を膝に乗せ形のよい小さな爪に指を滑らせた。

「離してよ。気色悪い。」

空いた足で男の肩を蹴るが、男に易々と掴まれ舐められた。
整った顔をしているのに、妙に印象の薄い華やかさを感じさせない風体だった。

「あぁ気持ち悪い。」

忌々しげに睨む少女に男は楽しげに笑った。

「そろそろ薬に慣れてしゃべれる頃だと思ったけど、もう動けるなんですごいね。お香以外に、毎日痺れ薬を飲ませてるのに。」

「お茶に誘われて来てやっただけなのに何日も私を閉じ込めてどういうつもりよ。」

結局、先ほどの一撃が渾身の一発だったようで、今はまた手足をだらりと落とした。

「思ったより簡単に来たから助かったよ。」

悪びれた様子もなく男はへらへら笑った。

「昨日のパーティーで攻略対象とイベントしなきゃいけなかったのよ!私は王子様と結婚するはずだったのに。全部むちゃくちゃ!なんでモブのアンタに監禁されなきゃなんないのよ。」

心底憎いといった様子で男を睨み付け身をよじる。
しかし残念ながら少女の可愛らしい容姿のせいでどんなに睨み付けても効果はなかった。

「くふふ、たかだか男爵の身分でバカじゃないの?」

「うるさいっ!私はヒロインなのよ。私は王子様や騎士とか公爵子息と恋愛して皆に愛されて将来は王妃になるのよ。ああ!パーティーのイベントこなせばハーレムエンドに進むはずだったのに!」

「王子の婚約者も同じことを仰っていたねぇ。」

「は?」

「転生はまだ分かるが、悪役令嬢だとか乙女ゲームだとか。僕はいまいち信じられなかったけど、王子は婚約者の言葉を信じていたよ。」

少女は青ざめぶるぶると震えた。

「最悪。悪役令嬢も転生者なんて。」

「君がここに閉じ込めたのは王家からの指示だよ。」

男は少女の足に口づけを落とし、指を食んだ。

「君に二心あるようなら、最初のイベントが起こる前に監禁するように言われてるの。あむ。」

「足を嘗めるのやめて!モブの癖に触んないで!!」

「まだそんなこと言ってるの?モブだとかヒロインとか。そういえば、モブですらない者ならシナリオの強制力に関係ないそうだよ。だから王家は我が家を選ばれた。」

「ふん、ヒロインの私が可愛いから閉じ込めておく気ね。このストーカーやろう。」

「くふっ、くふ。面白いねぇ、君。」

「まあ、お兄様、ズルいわ。」

部屋にもう一人の侵入者が現れた。
手には刃物や長い針状の金属を持って、垂らした長い黒髪をゆらゆら揺らしながら可愛い顔を上気させて男に走りよった。


「ちょっと味見しただけだよ。」

「私もこの子と遊びたいわ。まだ新品だから傷はつけないように遊ばなきゃ。」

「うん…。君が遊んだあとはぐちゃぐちゃで捨てるしかなくなるからね。気をつけて。」

「い、いやよ!何するのよ!」

「お母様がね、上手に刻めたらご褒美くれるって。」

「見た目を気に入ってるから汚くしないでほしいなぁ。」

妹が刃物や金属を擦り合わせて、しゃーっしゃーっと不気味な音を立てていた。

「ひぃぃ!!ひぃ!」

まだ痺れる体を捻りソファーから落ちる。
這いつくばって逃げようとするが、その場で手足をじたばたもがくだけでどこにも動くことは出来なかった。
ソファーに座ったままの男は慌てることなく、喜ぶ妹に微笑みを向けていた。

「足からね。」

そう言って少女の足に刃物を向けた。
少女の叫び声が部屋に響いた。

「こら、待ちなさい。ダメよ。」

「お母様。だって良いって言ったじゃない。」

「あなたが話の途中で行ってしまうからよ。」


助かったと少女は安堵したが、二人の会話でそうではないと知り絶望した。

「お父様とお兄様のあとならいいのね!」

「ええ、二人は傷つかないように扱うのがお上手だから。使用済みでも充分使えるわ。あとはお母様と頑張りましょうね。」

女同士二人で刺繍か何か淑女らしいことをするような口振りだったが、妹が手に持っているのは刃物。
必要な材料は少女の体だ。

「ひ、ひどいことしないでぇ。」

見逃してくれと泣きながら懇願する少女に母親は優しく話しかけた。

「あなたは何か神様のイタズラで運命を背負ったのでしょうけど、国家転覆を図ったあなたを自由にするわけないでしょう?」

「ああっ、ほら、私は転生者よ。前世の知識で世の中変えるような!生かしてた方がいいわ!ね!だから見逃して!」

「あら、転生者なら珍しくないわ。その中の有能な方を保護するのも我が家の仕事なのよ。残念ながらあなたは無能ね。」

我が家は暗殺だけが仕事ではないのよ、わかった?と母親は優しく諭し、少女は絶叫した。

「いやだぁぁ!リセットオオォ!リセットするぅぅ!」

「ほほほ、リセット出来てたらいいわねぇ。」

「私が遊んだあとならできるんじゃない?死んじゃうから。」

「これは転生者の君らが言うところでのバッドエンドかな。」


床に這いつくばった少女の絶叫が響く中、親子は和やかに微笑んでいた。




~終~
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

きまぐれ

うめまつ
ファンタジー
ヒロインに復讐するパパ。

国の祭典の前日に

夕景あき
ファンタジー
国の祭典の前日に勇者と聖女は、広場にて国民たちからバッシングを受けていた。 聖女は憤り、勇者は信じた。

ラウリーは夢を見ない

ひづき
ファンタジー
公爵家に生まれたラウリーは失敗作だと両親に評価された。 ラウリーの婚約者は男爵家の跡取り息子で、不良物件を押し付けられたとご立腹。お前に使わせる金は一切ないと言う。 父である公爵は、ラウリーの婚約者の言い分を汲んで清貧を覚えさせるためにラウリーへの予算を半分に削れと言い出した。 「───お嬢様を餓死でもさせるおつもりですか?」 ないものを削れだなんて無理難題、大変ね。と、ラウリーは他人事である。

偽聖女のささやかな復讐

ととせ
ファンタジー
聖女と認定され、王子と強制的に婚約させられたのは、庭師の娘、キャロット。 地位も後ろ盾もない彼女は聖女として王宮に迎えられたものの、待っていたのは陰湿ないじめと、理不尽な命令の連続だった。 母譲りの髪を嘲られ、肌を汚いと笑われ、祈りの儀式では十二時間立ちっぱなし。 それでもキャロットは、ただ黙って耐えた。 なぜなら彼女は、誰よりも忠義を知る庭師だったから。キャロットは聖女ではない。 本物の聖女を逃がすため、ただの庭師が身代わりとなっただけだったのだ。 そしてついに、待ちに待った日が訪れる。 「本日この時をもって聖女としての任を解く。同時に俺との婚約も破棄する!異論は認めん!」 その瞬間、キャロットは満面の笑みで答えた。 「はい、喜んで!」

勇者と聖女どちらを選びますか?

青太郎
ファンタジー
生まれ変わったら神獣だったようです。 勇者様と聖女様は仲が悪いそうです。 両方に誘われましたが、どっちを選んだら良いですか? 思い付きのショートなので短いです。

何がために何をする

F.conoe
ファンタジー
悪役令嬢は断頭台のつゆと消えた。 そして国は守られる。

何となくざまぁ

たぬまる
ファンタジー
 無敵の救国の聖女を追い出してしまった国の未来は?  何となくざまぁです。  

貴女が母上だったら良かったのに

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
貴方はもう、好きに生きると良いわ。鞄に入っているのは、これまでの慰謝料みたいなものよ。………遠慮せずに受け取って」 長年暮らした場所を僕、シューベルトは出ていく。 住みやすかったとは言えない、小さな別邸が僕の全てだった。 ◇◇◇ 僕の母親は、僕を産んで死んだ。 産まれたばかりの僕を残して。 僕の出産は、この家の奥様と同じ日だったらしい。 奥様は女の子を。 僕の母親は僕を産んだ。 僕の母親は愛人だったらしい。 このことは奥様と一部の使用人以外には秘密にされていたそうだ。 ◇◇◇ 「お前は私の跡取りだ。たった一人の男の子よ」 この家の伯爵様が幼い僕に言う。 それを見て、奥様の目が無意識につり上がる。 伯爵様はそれに気づき、ほくそ笑むのだ。 僕は愛人の子だけど、伯爵様と奥様の子として届け出が出されている。 奥様の子マルガリーテは、愛人の子として届けが出された。 血縁上の父親である伯爵のせいで、シューベルトの人生は大きく変わっていくのだ。 (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)

処理中です...