しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

文字の大きさ
89 / 130

おっさん鼻下伸ばす

しおりを挟む
 魔王領に来て三日目、いつものように俺とシービーは研究室の前でくつろがされているだけ。
 なんか手伝おうか? と言っても「お前は何もしなくていい、ここに居るだけでいい」と返されるだけ。あとはやたらと電子レンジの補充を頼まれるだけ……一体全体なんの研究をしているんだ?
 なんか不安になってきた俺は、研究室のドアに手を掛ける……が、鍵が掛けられていて開かない。
 ドアを激しく叩いても反応なし。

 くっ、今度、電子レンジを催促されたら突入してやる。
 そう意気込んでいると、遠くからヒールのコツコツという音が響き、やけに威圧感のある影が近づいてくる。
 真っ赤なメイド服に黒いレース、腰まで伸びた金髪を派手に巻き、口元には不敵な笑み。
 ──あれ、たしかシービーに絡んできたメイドのねーちゃん。

 「チービー、ちょっと話があるわ」
 金切り声のような甘ったるい声。
 シービーが眉間に皺を寄せた。
 「……チービーじゃねぇ。シービーだ」
 「どっちでも同じでしょ」
 もうこの時点で嫌な予感しかしない。

 「で、話ってなんだよ」
 「単刀直入に言うわ。あんたの担当のそこの“おっさん”と、うちの担当を交換しなさい」
 俺は思わず「はぁ?」と声を漏らす。
 「おっさんって俺のことか?」
 「他に誰がいるのよ」

  シービーは鼻で笑った。
 「冗談だろ。誰がてめぇなんかに電次郎を渡すかよ」
 「冗談じゃないわ。だって、あんたの担当は幹部からも一目置かれてる。対して、うちの担当は顔だけ良くて、全然仕事しないクズ研究者。これじゃ出世の見込みがないのよ」
 正直な意見だし、若い子たちが俺を取り合っているという現実は、悪くない……いかん、鼻の下を伸ばしたらステラみたいに怒られる。

 「ふざけんなよエンペア。こっちとら出世のためにおっさんの面倒見てんじゃねぇんだよ、一昨日きやがれ」
 シービーはキッパリと否定したが、以前に俺に出世のための世話だと言っていたのを思い出し、お前が言うなと、小声でツッコんだ。
 このメイドはエンペアって名前なのか、顔もスタイルも良いし、こんな子にお世話されるなら、おっさん頑張っちゃうんだけどな……と、そんな妄想をしながらシービーを見ると、めちゃくちゃ睨んでいるじゃないか。
 こいつ、俺の心が読めるのか?

 「ねぇ、おじさまも、そう思いますね? こんなおチビちゃんより、私の方がずっと優しくて丁寧で、刺激的な毎日を約束できるわ」
 そう言ってエンペアは体を密着させてくる。
 完全な美人局じゃねぇか……最初に出世のためって聞かなかったら落ちてたぜ。

 「キモイっ、離れろやブスっ」
 シービーは俺とエンペアの間に割って入る。体が小さいから割と簡単に入ってきたな。
 「おっさんも、こういうのはスグに断れや、変態のプライドってのはねぇのか?」
 なぜか俺も怒られた。
 「つーか、変態じゃねぇって」
 「あ? ロリコンだったっけ?」
 「違うよ。変な言葉覚えんな」
 こいつとの掛け合いも慣れてきたな、そして楽しんでいる自分がいる。

 「おじさま、怒るくらい嫌いなら、すぐに私のところにきてもいいんですよ」
 エンペア……分かってないな、残念ながら俺は色気よりも楽しさを取る。
 ここは、俺もカッコよくお断りを入れておこう……少しだけ後悔はあるが。

 「近寄んなって言ってんだろブス」
 シービーよエンペアは別にブスじゃないぞ。
 「なによチビ」
 シービーは、まぁ小さいが。

 「いいの? 私が本気になれば、あんたなんてすぐに──」
 「すぐに何だよ」シービーが睨み返す。
 火花が散る……ような気がしたその瞬間だ。

 背後から弱々しい声がした。
 「え、あの……エンペアちゃん……僕、聞こえてるんですけど」
 振り返ると、エンペアの言う“顔だけ良い研究者”が困惑した顔で立っていた。
 イケメンなのは認めるが、今の顔は完全に巻き込まれ事故の被害者。

 「アンタは黙ってなさい!」
 エンペアが腕を振り上げ、勢いよく押し返すように突き飛ばした。
 研究者は後ろの机に背中を打ちつけ、山積みの器具がガシャガシャと崩れ落ちる。
 「うわっ!」
 何本かのガラス管が床に落ち、研究者の手に血が滲んでいるのが見えた。
 最悪だ、怪我しちまったか。

 俺とシービーが思わず駆け寄ろうとしたとき、廊下の向こうから重い足音が響く。
 現れたのは、二メートルを超える大柄な魔物。背中に棘のような突起を持ち、腕には幹部候補の紋章が刻まれている。
 「何事だ」
 低い声に、エンペアが一瞬だけ怯んだのを俺は見逃さなかった。

 「そ、その……ちょっとした口論で」
 魔物は倒れた研究者を一瞥し、それからエンペアを睨んだ。
 「研究者を傷付けたのか?」
 「い、いえ、違っ──」
 「連行しろ」
 命令一つで、後ろから現れた屈強な魔物たちがエンペアの両腕をがっちり掴む。
 「ちょっと! 離せ! 私は──」
 その声は、廊下の奥へと引きずられていくにつれて小さくなり、やがて完全に消えた。
 
 怪我をした研究者も連れて行かれ、部屋には、青い液体と割れたガラスの破片、それから微妙な沈黙だけが残る。

 俺はシービーに視線を向けた。
 「……今の、なんだったんだ?」
 「知らねぇよ、尻叩きの刑にでも合うんじゃね? ざまぁねぇぜ」
 尻叩き? そんなんで済むような雰囲気じゃなかった気もするが。

 それから数日経ってもエンペアの姿を見ることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...