しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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コイルの村、静寂す

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 雲を突き抜け、風を裂く勢いでジェダが飛ぶ。背にしがみつきながら、俺はただ前を見ていた。
 ボルトリア壊滅──その言葉が耳から離れない。
 心臓を掴まれたような焦りに、喉がひりつく。

 ふと、眼下に見覚えのある景色が広がった。森の合間にひっそりと寄り添うように建つ家々、煙突の並ぶ小さな村──コイルの村だ。けど、なんか様子がおかしい。
 人の姿が見えるけど、航空写真のように動きがない。

 「ジェダくん! 頼む、高度を下げてくれ」
 俺の声が届いたのか、ジェダくんの高度がゆっくりと下がっていく。
 
 「なんのつもりだ?」
 サンダルが睨み付ける。
 「ちょっと気になってな……」
 地面が近づくにつれ、村の異様さがハッキリしてきた。
 時間が止まったように、人影に動きがない。

 「降りよう。なんか様子が変だ」
 「ふざけるな」
 サンダルは荒々しい声で、俺を睨み付けた。

 「ミカ様のもとへ一刻も早く行くべきだろうが! こんなところで寄り道してる場合か!」
 「バカ言え!」
 俺も怒鳴り返していた。
 「世話になった人たちがいるんだ! 見過ごせるかよ!」

 「くだらん情だ!」
 サンダルの声が雷のように響く。
 「王国が危機に晒されてるんだぞ? 村ひとつで足を止めてる場合か!」

 「村ひとつじゃねぇ!」
 俺は振り返り、サンダルを睨み返した。
 「俺にとっちゃ、大切な仲間が住んでる場所なんだ! もしこのまま通り過ぎるくらいなら、一人ででも飛び降りてやる!」

 ジェダの巨大な背の上で、風が一瞬止まったような気がした。
 俺の必死の言葉に、サンダルはしばし口を閉ざす。歯ぎしりする音が聞こえた。
 そして、しぶしぶ吐き捨てる。
 「……チッ、勝手にしろ。ただし長居は許さんぞ」

 ジェダが翼を傾け、村へと高度を下げ始めた。

 着地すると、冷たい沈黙が広がっていた。鳥の声も、風の音さえも無い。
 俺は足を踏み出し、次の瞬間、息を呑んだ。

 人影がある。
 けれどそれは、生きた人ではなかった。

 石だ。
 村人たちが、そのままの姿で石へと変わり果てている。
 井戸端で桶を抱えたままの老女。畑道で笑い合う子供たち。玄関先で箒を持った青年。
 みんな、生きていた時間のまま石像になっている。

 「な、なんだよこれ……」
 膝が震える。喉がからからに乾く。

 「これは……マナの気配が消えている?」
 クレアが周囲を見渡しながら、近くの家へ入っていった。

 「まだ温かい食事がテーブルに並べられたままだ……つい先ほどまで普通に生活していた後……だとすると、一瞬の間に、こんな状態に……」
 クレアが眉を寄せる。

 「石化魔法……規模が大きすぎるが」
 サンダルの言葉に、クレアは声を荒げて反論した。
 「私の知る限り、こんな現象は存在しない。そもそも、これは本当に“魔法”なのか?」

 俺は石と化した村人の一人に手を伸ばした。
 ひんやりと冷たい。それに、石と言うより砂に近い……力を込めると、そのまま崩れてしまいそうな、そんな危うさを感じ、触れるのを止めた。
 「どうにかならねぇのか? 回復魔法とか、解呪とかよ……」
 藁にもすがる思いで尋ねたが、クレアは小さく首を振った。

 「むろん試した。だがマナが呼応しない。魔法が作用しないのだ」
 マナが? ドルガスの作った兵器みたいに?
 じゃあ、俺のAEDで……と思ったが、こんな状態で使ったら、体がバラバラになってしまう。
 「ふざけんなよ……」
 胸の奥から声が漏れる。
 そして、俺の目に映ったのは、一人の少女の姿だった。

 「……エルナ」

 コイルの村で最初に俺を受け入れてくれた少女。
 いつも笑顔で「おじさん」と呼んでくれた、あの声が耳に蘇る。
 だが今、彼女は家の前で花籠を抱えたまま、微笑みの形で石になっていた。

 「おじさん……また遊びに来てね」
 ──最後に交わした言葉が、胸に刺さった。

 足が崩れ、俺は膝をついた。
 「くそっ……なんでだよ……!」

 その肩に、小さな手が触れた。
 シービーだ。
 「おっさん……立てよ」
 声が震えていた。けれど、必死に俺を引っ張る。

 俺は顔を上げた。サンダルがすでにジェダに跨り、苛立ちを隠そうともせず待っている。
 「もういいだろう。……これ以上の時間の浪費は許さん」

 わかってる。ここで泣き続けてても、誰も戻ってこない。
 でも、胸に残る不安は消えなかった。

 ──もしも、ボルトリアも……こんな姿になっていたら。

 俺はシービーの手を握り返し、立ち上がる。
 「……行こう」

 再びジェダの背に乗り込む。翼が広がり、村が遠ざかっていく。
 その景色が小さくなるにつれ、胸の奥で不安が膨れ上がっていった。
 白く固まったエルナの笑顔が、いつまでも瞼の裏から消えなかった。
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