しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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ライオネット覚醒す

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 電次郎たちを見送るや否や、ステラはライオネットの眠る救護室へと走った。
 部屋の前で息を整え、静かに扉を押し開けると、そこにはすでに目覚めているライオネットの姿があった。
 寝台に背を預け、窓から射す薄い光を眺めている。普段の鋭さを宿した瞳ではなく、どこか遠くを見つめるような迷いを宿していた。

 「……先生」
 ステラは思わず呼びかけた。

 ライオネットはゆっくりと視線をこちらへ移す。
 「ステラ……あの死の間際で見たお前は、幻ではなかったのだな……それで、なぜ君がこんな場所に居るのだ?」
 その声音は掠れていたが、不思議と優しかった。

 ステラは駆け寄り、傍らに膝をつく。
 「電次郎さんが攫われた後に、ジェダくんから魔王城に先生がいるかもしれないと聞いて……」
 「私を追って? いや轟電次郎を助けに来たのか」
 「私は、先生を助けに来ました」
 ステラは、ライオネットの目を見てハッキリとそう答えた。
 「そうか……」
 わずかに目を細め、唇を噛みしめるライオネット。

 ステラの言葉に嘘はないことは理解できた。
 だからこそ、胸に痛みを覚えた。
 あれほどに蔑んだ子が、自分を助けに?

 「轟電次郎は? 礼を言わねば」
 ステラにかける言葉を持たなかったライオネットは、電次郎を探した。

 「電次郎さんは、ボルトリア王国に向かいました」
 「ボルトリアに? では、この城に居ないのか?」
 「はい、ボルトリアが壊滅したとの一報を受け、なりふり構わずに」
 「壊滅……いや、それよりも……」
 「先生、どうしたんですか?」
 眉を顰めるライオネットに、ステラが尋ねる。

 「これは、轟電次郎が置いていった魔道具だ」
 “こりゃ電気ケトルっていうんだ。水を入れてスイッチ押すだけで湯が沸く。いつでもお茶とか、コーヒーが飲めるように、置いといてやるよ”
 自分から漏れ出す電力が魔王城全域に行き届いていることを知った電次郎は、そう言ってめぼしい部屋に役に立ちそうな家電を置いて歩いた。
 目覚めたとき、喉の渇きに耐えきれず、それを手に取っていた。

 ライオネットはおもむろにケトルのスイッチを押した。

 「先生……電次郎さんは、もう居ません。なので、この家電は……」
 水が沸き上がる音を聞いたステラは、言葉を止めた。

 「どうして?」
 不思議がるステラに、ライオネットは試しにスイッチを入れてみるように促した。
 だが、ケトルはなんの反応も示さない。
 
 「新しい発明ですか?」
 「いいや」
 ライオネットは首を横に振った。
 「じゃあ、先生も電力というエネルギーを?」
 「電力というよりも、電子といったところか……」
 顎のあたりに手を添え、己の言葉を確かめるようにライオネットは続ける。

 「轟電次郎が私に施した蘇生法……あれが作用したのかもしれん。代わりに失ったものも大きいが」
 「……先生の気配がいつもと違うと思っていたのですが、まさかマナが?」
 「ああ、ドルガスの作った兵器を受けたからだろう。マナを完全に失ってしまったらしい。だから、轟電次郎がこの城に居ないことにも気付かなかった。この“ケトル”という魔道具を手に取ったときの違和感には気づいていたが……」
 「それじゃあ、先生はもう魔法を使えない……それは、先生の研究に支障をきたすのでは……」
 ステラは、衣服の胸のあたりを握った。
 目的はどうあれ、ライオネットは様々な研究を生きがいとしていた。それに取り組む姿勢も、感情も、表情も、その全てがステラは好きだった。

 「逆だよステラ。これは僥倖だ」
 ライオネットの言葉に、ステラは首を傾げた。

 「私はずっと、目的を違えていた。力だけが子供らを救い、兵器だけが争いを鎮めるものだと……。だが、あの男が見せた光景はどうだ?
  人々が笑い、驚き、希望を抱いていた。家電と呼ばれるものは、破壊ではなく心を満たすための道具だった」
 「先生……」
 ステラの目に涙が滲む。

 「ステラ」
 ライオネットは真っ直ぐに見つめてきた。
 「研究を手伝ってくれ。だが以前のような兵器開発ではない。電子という新たな力を、人を笑顔にするために使いたい。
  魔王領を……この荒れ果てた世界を、再び立ち上がらせるために」

 その言葉は、あの冷酷な魔導科学者の口から出るにはあまりにも不釣り合いに思えた。
 けれど、ステラは直感した。
 ライオネットの中で何かが確かに変わったのだ、と。

 「……先生、本当に……?」
 「私は罪深い女だ。君を利用し、何度も傷つけてきた。それでも──」
 ライオネットは一瞬言葉を切り、そして続けた。
 「今度こそ、変わりたい。あの男が示した未来に……私も触れてみたいのだ」

 ケトルは静かに沸騰の音を奏で続けている。
 白い湯気が、まるで二人の間に新しい絆を結ぶように立ちのぼった。

 ステラは涙を拭い、微笑みを浮かべる。
 「……先生、私……ずっと待っていました。
  優しい先生に戻ってきてくれる日を」

 ライオネットの瞳が揺らいだ。
 「戻るのではない、ステラ──変わるのだ。轟電次郎のように……人を笑顔にする研究者へ」

 ステラは静かに頷いた。
 そして心の中で呟く。

 ──電次郎さん……ありがとうございます。
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