しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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異形、跋扈す

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 空を裂くようにジェダが翔ける。俺はその背にしがみつき、眼下に広がる景色を凝視した。
 ──ボルトリア。けれどそこにあったのは、俺の知る活気ある城下町じゃなかった。

 「……嘘、だろ」
 思わず声が漏れる。

 街並みは形を残しているのに、人の気配がない。
 石畳の道には倒れた荷馬車が転がり、店先の看板は風に打たれ軋んでいる。だが、肝心の人影がどこにもない。
 いや、あるにはある。けれど、それは「生きた人間」じゃなかった。

 「また……石だ」
 地上に目を凝らすと、コイルの村と同じだ。
 恐怖の顔で固まった親子、剣を抜きかけた衛兵、商人らしい男が商品を抱えた姿で──全員がそのまま石化している。
 まるで街全体が、一瞬で時間を奪われたかのように。

 「なんてことだ……」
 クレアが青ざめた顔で呟いた。サンダルでさえ歯を食いしばり、拳を固めている。

 だが異様なのは、それだけじゃなかった。

 「見ろ!」
 サンダルが指差した先、城の周囲を取り囲む光景に、息が詰まった。

 ボルトリア城を中心に、淡い光の壁が広がっている。
 あれはミカちゃんの張った強力な結界だ。普段は目視できないけど、結界を張る時や、結界を強化するときにだけ見ることができる……なのに今は、ずっと目に見える状態だ。

 そして、その結界に触れるように、無数の“何か”が群がっていた。

 異形──そう呼ぶしかない。
 人の形でも、獣の形でもない。
 黒い泥のような、あるいは煙のようなものがねじれ、絡み合い、巨大な影となって結界にまとわりついている。
 触れた部分から、光がじわじわと吸い込まれていく。
 結界そのものを喰らっているように見えた。

 「なんだよ、あれ……」
 鳥肌が立った。
 どす黒い瘴気の塊のようでいて、時折、無数の眼がこちらを睨むように開き、また消える。
 呻くような、風を裂くような声が混ざり、耳の奥をざわつかせる。
 まともに見ているだけで、吐き気が込み上げてきた。

 「マナを……吸っているのか」
 クレアが険しい表情で呟く。
 「結界が縮んでいるのは、そのせいだな」
 サンダルも低く言った。

 ジェダが大きく旋回する。
 結界の上空に差し掛かると──異変が起きた。

 「……穴が?」
 結界の天頂に、丸い隙間がぽっかりと開いた。
 俺たちを拒むでもなく、まるで“招き入れる”ように。

 「どういうことだ……」
 サンダルの眉がひそめられる。

 「チャンスだ! 今のうちに!」
 俺は叫んだ。
 ジェダは一声咆哮を上げ、翼をたたんで隙間へと飛び込む。

 次の瞬間、視界が変わった。
 淡い光が弾け、身体がふわりと軽くなる。
 通り抜けた瞬間、重苦しい圧が消え去り、静寂に包まれた。

 ジェダくんは、そのままボルトリア城の中庭に降り立つ。

 見渡すと、怯えた人々が身を寄せ合っている。
 貴族らしい服装の者、侍女、そして街から逃げ込んだ住民の一部。
 その顔は恐怖に歪み、子供は泣きじゃくり、母親は必死に抱きしめている。
 誰もが疲弊し、希望を失っているようだった。

 「生き残って……た」
 安堵が胸に広がった。だが同時に、その数の少なさに背筋が冷える。

 石化した住民たちは、もう戻らないのかもしれない──その恐怖が脳裏をかすめた。

 「おっさん……」
 シービーが俺の袖を引く。
 見れば、皆の視線がこちらに集まっていた。
 何かを期待するような、縋るような目。

 ──ここで諦めさせるわけにはいかねぇ。

 「よし……見てろ」
 俺は深く息を吸い込み、次々と家電を召喚した。
 湯気を立てる炊飯器、温かな光を放つランタン、冷たい水を出す冷蔵庫。
 何もない広間に、それらが並んでいく。

 ざわめきが起きた。怯えていた子供が目を丸くし、母親が小さな声で「光だ……」と呟いた。
 温かいご飯の匂いが漂い始め、誰かが泣きながら手を合わせた。

 「おっさん……すげぇな」
 シービーが誇らしげに笑う。

 けれど、俺の心はまだ重かった。
 ──ミカちゃん、エネッタ……どこだ?
 無事でいてくれ。
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