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厄災伝承す
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「……おじさまっ!」
家電で、みんなの顔が和らぎ、少し安心した矢先──その元気な声が響くと同時に、勢いよく柔らかな衝撃が胸に飛び込んできた。
エネッタだ。王族としての威厳も忘れ、子供のように俺へしがみついている。
「エネッタ……!」
思わず抱き留めた俺の胸元で、彼女は少し震えていた。
けれど、すぐに我に返ったのか、ぱっと身を離し、顔を赤らめて服装を整える。
「ご、ごほん……無事で何よりですわ」
気取った声に戻そうとしても、耳まで真っ赤なのは隠しようがない。
「お、おう……」
俺もつられて照れ笑いを浮かべる。なんだこの気恥ずかしい空気は。
そんな俺たちを見て、控えていたシービーが冷ややかな視線を寄越す。
「……やっぱおっさん、ロリコンじゃねぇか」
「ちげぇよ!」
反射的に叫ぶ俺に、周囲から小さな笑いが漏れ、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「久しいのぉ、電のじ」
低い、けれどどこか懐かしい声音が響く。振り返れば、そこにはミカちゃんが立っていた。
「相変わらずお主のカデンとやらは凄まじい。絶望しておった民に、こうも笑顔が戻るとは……」
「ミカちゃん!」
俺は駆け寄り、その小さな体をひょいと抱え上げる。
「久しぶりだなぁ。全然変わんねぇじゃねぇか」
そして、つい調子に乗って、高い高い。
「や、やめぇい!」
必死に暴れるミカ。俺の腕の中でばたつく姿はまるで子供そのものだ。
……うん、やっぱ可愛い。
「……やっぱりロリコンじゃねぇか」
追い打ちをかけるようなシービーの呟きに、俺は頭を抱えた。
「ロリコンって、なんですの?」
エネッタが、不思議そうな顔で無邪気に尋ねる。
俺は、すぐさま話題を変え、ミカちゃんに気になっていた疑問をぶつけた。
「なぁ、ミカちゃん。俺が家電出してどうにかしてるけどさ……本来なら魔法で水出したり、食い物用意したりできるんじゃねぇのか?」
その問いに、ミカは短く息を吐き、険しい表情へと変わった。
「魔法を使う……いや、マナを活性化させることが、何を意味するか分かっておるまい」
「……?」
「外を見よ」
ミカが顎で示す。窓の向こう、結界の外には蠢く異形の影。無数の腕を持ち、黒い鱗を覆った怪物たちが結界を這い回っていた。口という口を結界に押し当て、まるで吸い取るように結界の光を揺らめかせている。
「奴らはマナを食らう。こちらが魔法を使えば使うほど、勢いを増して結界を侵食していく。ゆえに、魔法で応じることは自滅に等しい」
その言葉に、背筋が冷たくなる。もし魔法で対応していたら、この結界すらもう存在していなかったのかもしれないってことか……。
「……じゃあ、あの異形どもは一体なんなんだ?」
問いかけに、ミカの目が一瞬だけ揺らぎ、やがて遠い記憶をたぐるように口を開いた。
「伝承にある。厄災の獣……マナブレイク……あるいは原初のマナとも呼ばれる存在じゃろう」
「厄災の?」
その場の空気が、一気に張り詰めた。人々のざわめきが遠のき、ただミカの声だけが響く。
「数万年ごとに訪れる災厄。マナを使い、欲望を肥大化させ、争いを繰り返す世界を……強制的に清算するために現れる存在だとも言われておる」
「……清算……」
俺の喉が勝手に音を漏らす。
「世界を巡るマナそのものが“意思”を持ち、飽和し、暴走する。人の営みを石と化し、欲望を凍りつかせ、やがて全てを虚無へと還すと伝えられておるが……」
結界の外から、異形の呻き声が響いた。ぞわりと肌を撫でる不気味な振動に、全員が思わず黙り込む。
「どうすんだよ、そんなの……ってか、伝承にあるなら、対処法もあるんだろ?」
そうじゃなきゃ、この世界はとっくの昔に滅んでるってことじゃないのか?
「伝えられておるのは、元凶である厄災の獣を討つ、あるいはマナを満足するまで吸い取って去るのを待つ……それだけじゃ」
「満足するまでって、あとどんだけの人たちが石なりゃ気が済むってんだ」
「分からん……」
ミカちゃんの声が小さくなった。
不安なのはミカちゃんも同じだろう。
大魔導士とまで呼ばれているのに、手も足もでないどころか、魔法を使ったら逆効果っていうんだから。
「討伐だな」
俺はそう言って、サンダルやクレアの顔を見た。
二人とも黙って頷いてくれた。
「それしかないじゃろうな」
「で、その元凶って奴は今どこに?」
「分からん……マナを巡らせても、ハッキリと見えてこぬ……それどころか、至る所で混乱が起こっておるようじゃ……もしかすると、ここと同じような状況がすでに世界各地で……」
ミカちゃんの不安な顔で、事の重大さが伝わってくる。
世界各地でって、まさか学園も……。
「心当たりがあります」
いつの間にか人の姿に戻っていたジェダくんが手を挙げた。
「たぶん、マナの枯渇は俺の故郷が最初です。世界を飛び回って確認してきたので間違いありません」
ジェダくん、ずっと前からこの危機を感じていたのか……だから俺のドローンにも映っていたんだ。
「ドラゴンの里か……人の出入りを許さぬ禁足地。厄災の獣が眠っていたとしても不思議ではないか」
「よし、行くぞ、今すぐにだ」
家電で、みんなの顔が和らぎ、少し安心した矢先──その元気な声が響くと同時に、勢いよく柔らかな衝撃が胸に飛び込んできた。
エネッタだ。王族としての威厳も忘れ、子供のように俺へしがみついている。
「エネッタ……!」
思わず抱き留めた俺の胸元で、彼女は少し震えていた。
けれど、すぐに我に返ったのか、ぱっと身を離し、顔を赤らめて服装を整える。
「ご、ごほん……無事で何よりですわ」
気取った声に戻そうとしても、耳まで真っ赤なのは隠しようがない。
「お、おう……」
俺もつられて照れ笑いを浮かべる。なんだこの気恥ずかしい空気は。
そんな俺たちを見て、控えていたシービーが冷ややかな視線を寄越す。
「……やっぱおっさん、ロリコンじゃねぇか」
「ちげぇよ!」
反射的に叫ぶ俺に、周囲から小さな笑いが漏れ、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「久しいのぉ、電のじ」
低い、けれどどこか懐かしい声音が響く。振り返れば、そこにはミカちゃんが立っていた。
「相変わらずお主のカデンとやらは凄まじい。絶望しておった民に、こうも笑顔が戻るとは……」
「ミカちゃん!」
俺は駆け寄り、その小さな体をひょいと抱え上げる。
「久しぶりだなぁ。全然変わんねぇじゃねぇか」
そして、つい調子に乗って、高い高い。
「や、やめぇい!」
必死に暴れるミカ。俺の腕の中でばたつく姿はまるで子供そのものだ。
……うん、やっぱ可愛い。
「……やっぱりロリコンじゃねぇか」
追い打ちをかけるようなシービーの呟きに、俺は頭を抱えた。
「ロリコンって、なんですの?」
エネッタが、不思議そうな顔で無邪気に尋ねる。
俺は、すぐさま話題を変え、ミカちゃんに気になっていた疑問をぶつけた。
「なぁ、ミカちゃん。俺が家電出してどうにかしてるけどさ……本来なら魔法で水出したり、食い物用意したりできるんじゃねぇのか?」
その問いに、ミカは短く息を吐き、険しい表情へと変わった。
「魔法を使う……いや、マナを活性化させることが、何を意味するか分かっておるまい」
「……?」
「外を見よ」
ミカが顎で示す。窓の向こう、結界の外には蠢く異形の影。無数の腕を持ち、黒い鱗を覆った怪物たちが結界を這い回っていた。口という口を結界に押し当て、まるで吸い取るように結界の光を揺らめかせている。
「奴らはマナを食らう。こちらが魔法を使えば使うほど、勢いを増して結界を侵食していく。ゆえに、魔法で応じることは自滅に等しい」
その言葉に、背筋が冷たくなる。もし魔法で対応していたら、この結界すらもう存在していなかったのかもしれないってことか……。
「……じゃあ、あの異形どもは一体なんなんだ?」
問いかけに、ミカの目が一瞬だけ揺らぎ、やがて遠い記憶をたぐるように口を開いた。
「伝承にある。厄災の獣……マナブレイク……あるいは原初のマナとも呼ばれる存在じゃろう」
「厄災の?」
その場の空気が、一気に張り詰めた。人々のざわめきが遠のき、ただミカの声だけが響く。
「数万年ごとに訪れる災厄。マナを使い、欲望を肥大化させ、争いを繰り返す世界を……強制的に清算するために現れる存在だとも言われておる」
「……清算……」
俺の喉が勝手に音を漏らす。
「世界を巡るマナそのものが“意思”を持ち、飽和し、暴走する。人の営みを石と化し、欲望を凍りつかせ、やがて全てを虚無へと還すと伝えられておるが……」
結界の外から、異形の呻き声が響いた。ぞわりと肌を撫でる不気味な振動に、全員が思わず黙り込む。
「どうすんだよ、そんなの……ってか、伝承にあるなら、対処法もあるんだろ?」
そうじゃなきゃ、この世界はとっくの昔に滅んでるってことじゃないのか?
「伝えられておるのは、元凶である厄災の獣を討つ、あるいはマナを満足するまで吸い取って去るのを待つ……それだけじゃ」
「満足するまでって、あとどんだけの人たちが石なりゃ気が済むってんだ」
「分からん……」
ミカちゃんの声が小さくなった。
不安なのはミカちゃんも同じだろう。
大魔導士とまで呼ばれているのに、手も足もでないどころか、魔法を使ったら逆効果っていうんだから。
「討伐だな」
俺はそう言って、サンダルやクレアの顔を見た。
二人とも黙って頷いてくれた。
「それしかないじゃろうな」
「で、その元凶って奴は今どこに?」
「分からん……マナを巡らせても、ハッキリと見えてこぬ……それどころか、至る所で混乱が起こっておるようじゃ……もしかすると、ここと同じような状況がすでに世界各地で……」
ミカちゃんの不安な顔で、事の重大さが伝わってくる。
世界各地でって、まさか学園も……。
「心当たりがあります」
いつの間にか人の姿に戻っていたジェダくんが手を挙げた。
「たぶん、マナの枯渇は俺の故郷が最初です。世界を飛び回って確認してきたので間違いありません」
ジェダくん、ずっと前からこの危機を感じていたのか……だから俺のドローンにも映っていたんだ。
「ドラゴンの里か……人の出入りを許さぬ禁足地。厄災の獣が眠っていたとしても不思議ではないか」
「よし、行くぞ、今すぐにだ」
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