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おっさん思考す
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石になってしまった皆の姿……俺は無意識のうちに、震える手でAEDを取り出していた。
大丈夫だ。何も心配いらない。これで仲間を助けてきた。今回も大丈夫だ。
石になったルクスの前に立ち、AEDを起動する。
「おっさんっ」
シービーの声で手が止まった。
「みんなを助けないと……」
俺の声にシービーは首を横に振った。
「そんなの使ったら魔王様の体がバラバラになっちまうかもしれない……」
俺の腕を掴む手の温もりが、冷静さを呼び覚ます。
電気ショックを受けた身だから分かるのだろう、心配するのも無理はない。
なんらかのショックで石が崩れ落ちてしまったら……復活させても意味がない。
AEDを使うのはダメだ……そう分かっていても、それ以外に方法が見つからない。
「魔王様やみんなを助けたい気持ちは分かる。でも、よく考えないと……」
シービーの方が俺なんかよりも冷静だ。
落ち着こう、彼女の言うとおり、よく考えないと。
「私たちだけが石にならなかった理由……」
石化してしまったステラの前で、ライオネット先生が言った。
その声は、震えているようで、どこか冷静でもあった。
「やはり、電子……」
俺もなんとなく思っていた。
俺とシービーとライオネット先生が石化しなかったのは体にマナが流れていないからだろう。
シービーもライオネット先生も、ドルガスの電子レンジ兵器でマナを失い死にかけた。二人が蘇生したのはAEDと人工呼吸……それと同様な措置を施せば、もしかしたら石化が解けるかもしれない。
でも、石像に電気ショックを与えてしまうと、崩れてしまう可能性がある。
どうすれば、みんなを助けられるのか。
AEDではダメだと分かった。なら、どうやって電子を分け与える?
俺は膝の上にAEDを置いたまま、ぼんやりと青い空を見上げた。
雲はひとつもない。
灰色の空気の中に、ほんのわずかな青が残っているだけだった。
「……電子ってのは、目に見えねぇ粒だ」
ぽつりと呟いた俺に、ライオネット先生が顔を向けた。
「目に見えない?」
「ああ。俺の世界じゃ、電気ってのは“流れる電子の道”みたいなもんだ。それが通れば、光も熱も生まれる。逆に、止まれば……何も動かねぇ」
先生は顎に手を当て、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「マナも同じね。私たちの世界では、マナは“存在を動かす粒子”とされている。個体にも液体にも含まれ、気体として拡散させることで魔力へと変換できる」
彼女の声が次第に熱を帯びていく。
科学者が、未知に触れた時のあの光。
「もし電子も同じ性質を持つなら……それを気体のように拡散できれば、石化した人々にも“流れ”を与えられるかもしれない」
「拡散……」
「ええ。マナを霧にして魔法を発動するように、電子を霧にして“生命を再起動”させるのよ」
シービーが不安そうに顔をしかめた。
「でも、どうやってそんなこと……電子って、空気みたいに見えないんでしょ?」
「……加熱してみよう」
先生は淡々と言った。
「マナの気化と同じ。熱を加えれば、電子が外へ放出されるかもしれない」
「熱って……俺たちの体を、燃やすのか?」
シービーの声が震える。
「燃やすんじゃないわ。血液や体液を少しだけ採取して、それを試料にするの」
先生は短剣を抜き、指先に小さな切り傷をつけた。
そして、俺に電気ケトルを出すよう指示した。
自らの血をケトルへ注ぎ、スイッチを入れる。
ケトルが唸る。しゅうしゅうと蒸気が噴き出し、金属の底が不気味に赤く染まった。先生はその口から立ち上る白煙を、石になったステラの頬に吹きかける。
「……ダメね。出力が弱すぎる」
電気ケトルは蒸気をできるだけ出さない構造になっていることも原因だろう。
「ケトルじゃダメだな、なら、これを使ってみよう」
俺は電気バーナーを取り出した。そして今度は自分の掌を短剣で切った。
落ちていた空き瓶に血を溜めて、バーナーの炎で炙った。
けど、結果は同じだった。
「やっぱり素材が足りねぇな。三人分の血なんて、世界を救うには少なすぎる」
「じゃあ……あなたの“世界のもの”を使うのはどう?」
ライオネットが顔を上げた。
「俺の世界の……?」
「ええ。あなたの家電には、電子を大量に流すための素材が使われてるはず。もしそれを燃やして気化させれば、電子が拡散して……」
「なるほど、電子の霧か」
俺は頷き、色々な家電を出して、広場に積み上げた。
すぐさまバーナーを構え、火を点けた。
黒煙が立ち上る。
プラスチックの焦げた匂いが鼻をつく。
けれど、何も起こらない。
シービーが咳き込み、涙目で叫んだ。
「おっさん! くせぇだけだよ、これ!」
「……ああ、分かってる」
火はすぐに消した。
灰になった家電の山を見つめながら、俺は拳を握る。
「気化するだけでは定着しないか……ならば、もっと大きなエネルギーで気体よりも細かい粒子にする必要があるな」
気体よりも細かい粒子……それは
「プラズマか」
物質の状態、固体、液体、気体、そして第四の状態“プラズマ”。
大手家電メーカーが空気清浄機に取り入れたことで一気に広まったから俺でも知っている。
「プラズマ?」
「ああ、家電に取り入れられているのは、ごく弱いものだけど、プラズマの状態になれば電子を散布するのに適しているのかもしれない」
「電子にも、“神炎”と同様な現象を起こせるのか……」
「神炎?」
眉をひそめる俺に、先生が丁寧に説明してくれた。
「気化したマナをさらに強力なエネルギーで加速し、放出する古代魔法だ」
「古代魔法……」
「確かに、石化した人々に電子を浸透させるには、その第四の状態まで持って行く必要があるのかもしれない、だが……」
先生は、唇を噛みながら続けた。
「マナを気体よりも細かい粒子にし、膨大なエネルギー体にするには、ドラゴンの炎に匹敵する熱量が必要だと言われている。なら電子も、同じかそれ以上の熱を……」
「ドラゴンの炎……そんなの俺の知っている家電じゃ無理だ」
そういえば、プラズマを発生させるには五千度まで加熱する必要があるって聞いたことがある。ドラゴンの炎がどのくらいかは分からんけど、途方もない熱量が必要ってことは、マナも電子も同じってことか。
でも、先生が言葉を濁した理由を俺もシービーも理解している。
もうこの世界のマナは厄災の獣が全て吸い取ってしまった。
つまり、魔法の原理となる粒子が存在しないから、魔法は使えない。ドラゴンであるジェダくんも石化している。仮にジェダくんがドラゴンになっていたとしても、マナがないのなら炎も吐き出せないかもしれない。
じゃあ、どうやってプラズマを発生させる?
考えろ、答えはすぐそこにある気がする。考えるんだ。
大丈夫だ。何も心配いらない。これで仲間を助けてきた。今回も大丈夫だ。
石になったルクスの前に立ち、AEDを起動する。
「おっさんっ」
シービーの声で手が止まった。
「みんなを助けないと……」
俺の声にシービーは首を横に振った。
「そんなの使ったら魔王様の体がバラバラになっちまうかもしれない……」
俺の腕を掴む手の温もりが、冷静さを呼び覚ます。
電気ショックを受けた身だから分かるのだろう、心配するのも無理はない。
なんらかのショックで石が崩れ落ちてしまったら……復活させても意味がない。
AEDを使うのはダメだ……そう分かっていても、それ以外に方法が見つからない。
「魔王様やみんなを助けたい気持ちは分かる。でも、よく考えないと……」
シービーの方が俺なんかよりも冷静だ。
落ち着こう、彼女の言うとおり、よく考えないと。
「私たちだけが石にならなかった理由……」
石化してしまったステラの前で、ライオネット先生が言った。
その声は、震えているようで、どこか冷静でもあった。
「やはり、電子……」
俺もなんとなく思っていた。
俺とシービーとライオネット先生が石化しなかったのは体にマナが流れていないからだろう。
シービーもライオネット先生も、ドルガスの電子レンジ兵器でマナを失い死にかけた。二人が蘇生したのはAEDと人工呼吸……それと同様な措置を施せば、もしかしたら石化が解けるかもしれない。
でも、石像に電気ショックを与えてしまうと、崩れてしまう可能性がある。
どうすれば、みんなを助けられるのか。
AEDではダメだと分かった。なら、どうやって電子を分け与える?
俺は膝の上にAEDを置いたまま、ぼんやりと青い空を見上げた。
雲はひとつもない。
灰色の空気の中に、ほんのわずかな青が残っているだけだった。
「……電子ってのは、目に見えねぇ粒だ」
ぽつりと呟いた俺に、ライオネット先生が顔を向けた。
「目に見えない?」
「ああ。俺の世界じゃ、電気ってのは“流れる電子の道”みたいなもんだ。それが通れば、光も熱も生まれる。逆に、止まれば……何も動かねぇ」
先生は顎に手を当て、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「マナも同じね。私たちの世界では、マナは“存在を動かす粒子”とされている。個体にも液体にも含まれ、気体として拡散させることで魔力へと変換できる」
彼女の声が次第に熱を帯びていく。
科学者が、未知に触れた時のあの光。
「もし電子も同じ性質を持つなら……それを気体のように拡散できれば、石化した人々にも“流れ”を与えられるかもしれない」
「拡散……」
「ええ。マナを霧にして魔法を発動するように、電子を霧にして“生命を再起動”させるのよ」
シービーが不安そうに顔をしかめた。
「でも、どうやってそんなこと……電子って、空気みたいに見えないんでしょ?」
「……加熱してみよう」
先生は淡々と言った。
「マナの気化と同じ。熱を加えれば、電子が外へ放出されるかもしれない」
「熱って……俺たちの体を、燃やすのか?」
シービーの声が震える。
「燃やすんじゃないわ。血液や体液を少しだけ採取して、それを試料にするの」
先生は短剣を抜き、指先に小さな切り傷をつけた。
そして、俺に電気ケトルを出すよう指示した。
自らの血をケトルへ注ぎ、スイッチを入れる。
ケトルが唸る。しゅうしゅうと蒸気が噴き出し、金属の底が不気味に赤く染まった。先生はその口から立ち上る白煙を、石になったステラの頬に吹きかける。
「……ダメね。出力が弱すぎる」
電気ケトルは蒸気をできるだけ出さない構造になっていることも原因だろう。
「ケトルじゃダメだな、なら、これを使ってみよう」
俺は電気バーナーを取り出した。そして今度は自分の掌を短剣で切った。
落ちていた空き瓶に血を溜めて、バーナーの炎で炙った。
けど、結果は同じだった。
「やっぱり素材が足りねぇな。三人分の血なんて、世界を救うには少なすぎる」
「じゃあ……あなたの“世界のもの”を使うのはどう?」
ライオネットが顔を上げた。
「俺の世界の……?」
「ええ。あなたの家電には、電子を大量に流すための素材が使われてるはず。もしそれを燃やして気化させれば、電子が拡散して……」
「なるほど、電子の霧か」
俺は頷き、色々な家電を出して、広場に積み上げた。
すぐさまバーナーを構え、火を点けた。
黒煙が立ち上る。
プラスチックの焦げた匂いが鼻をつく。
けれど、何も起こらない。
シービーが咳き込み、涙目で叫んだ。
「おっさん! くせぇだけだよ、これ!」
「……ああ、分かってる」
火はすぐに消した。
灰になった家電の山を見つめながら、俺は拳を握る。
「気化するだけでは定着しないか……ならば、もっと大きなエネルギーで気体よりも細かい粒子にする必要があるな」
気体よりも細かい粒子……それは
「プラズマか」
物質の状態、固体、液体、気体、そして第四の状態“プラズマ”。
大手家電メーカーが空気清浄機に取り入れたことで一気に広まったから俺でも知っている。
「プラズマ?」
「ああ、家電に取り入れられているのは、ごく弱いものだけど、プラズマの状態になれば電子を散布するのに適しているのかもしれない」
「電子にも、“神炎”と同様な現象を起こせるのか……」
「神炎?」
眉をひそめる俺に、先生が丁寧に説明してくれた。
「気化したマナをさらに強力なエネルギーで加速し、放出する古代魔法だ」
「古代魔法……」
「確かに、石化した人々に電子を浸透させるには、その第四の状態まで持って行く必要があるのかもしれない、だが……」
先生は、唇を噛みながら続けた。
「マナを気体よりも細かい粒子にし、膨大なエネルギー体にするには、ドラゴンの炎に匹敵する熱量が必要だと言われている。なら電子も、同じかそれ以上の熱を……」
「ドラゴンの炎……そんなの俺の知っている家電じゃ無理だ」
そういえば、プラズマを発生させるには五千度まで加熱する必要があるって聞いたことがある。ドラゴンの炎がどのくらいかは分からんけど、途方もない熱量が必要ってことは、マナも電子も同じってことか。
でも、先生が言葉を濁した理由を俺もシービーも理解している。
もうこの世界のマナは厄災の獣が全て吸い取ってしまった。
つまり、魔法の原理となる粒子が存在しないから、魔法は使えない。ドラゴンであるジェダくんも石化している。仮にジェダくんがドラゴンになっていたとしても、マナがないのなら炎も吐き出せないかもしれない。
じゃあ、どうやってプラズマを発生させる?
考えろ、答えはすぐそこにある気がする。考えるんだ。
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