しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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おっさん思い出す

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 どうすれば、みんなを助けられるのか。
 AEDではダメだ。電気を流せば石像が崩れてしまう。
 電子を分け与える方法も見つからない。
 俺は空を見上げ、深く息を吐いた。灰色の雲が、世界を覆っている。

 その時だった。胸の奥で、ふと懐かしい声が蘇った。

 ──「デン、電気ってのはな、止まったら死ぬんだ」

 親父の声だ。
 小学生のころ、壊れたブラウン管テレビの前で泣いていた俺に、あの人はそう言った。
「電気が流れねぇってことは、心臓が止まってるのと一緒だ。けどな、ほんの少し刺激してやれば、また光り出すんだ」

 親父は古いテレビの裏蓋を開け、埃まみれの中に顔を突っ込んでいた。
 パチン、と音がして、青白い火花が散った。
 驚いた俺に、親父は笑って言った。
「中にはな、雷が眠ってんだ。怖がるなよ、こいつは生きてる証拠だ」

 あの時の光が、いまもまぶたの裏に焼きついている。
 小さな青い稲妻。
 それは死んだテレビの中にまだ残っていた“命の残光”だった。

「……雷が、眠ってる……」
 思わず口に出していた。
 ライオネット先生が顔を上げる。
「なに?」
「親父が言ってたんだ。テレビの中には雷が眠ってるって。電子を光らせる箱……もし中身を取り出せれば、“電子を放つ装置”になる」
 自分でも何を言っているのか分からなかった。けど、確信があった。
 電気屋の息子として、そしてこの世界で電子を扱える唯一の存在として。

 そして、すぐさま空間に手を入れて願った。
 古い機械で出せるかどうか不安だったが手応えはあった。 
 重くて分厚くて、もう誰も使わない時代の遺物。
 それでも、俺には宝物のように見えた。

「……これがあなたの世界の装置?」
 ライオネットが覗き込む。
「ああ。こいつはブラウン管テレビってやつだ。映像を映すために電子を撃ち出す仕組みだ。電圧を上げれば、電子そのものを空気に放出できる」
「つまり……それがプラズマ?」
「それだ」

 俺はテレビの裏蓋を外した。
 埃を払い、コンデンサとフライバックトランスを露出させる。
 あの頃の作業台と同じ匂いがした。
 ハンダの焼ける金属臭、鉄と埃の混じった空気。
 ――親父の作業場の匂いだ。

 手が震える。
 怖いんじゃない。ただ、懐かしかった。
 親父はもういない。
 けど、あの人が直していた“命の流れ”は、今も俺の中に残っている。

「……おっさん、本気かよ」
 シービーが不安げに呟く。
「ああ。本気だ。これで、みんなを救う」
 導線を繋ぎ、破損したコイルをまとめる。
 電源ケーブルを差し込み、スイッチを握った。
 祈るように呟く。
「流れてくれ、電子……」

 瞬間、空気が鳴った。
 パチン、と小さな閃光。
 次の瞬間、“バチィィッ!”と雷鳴が弾ける。
 青白い光がテレビの内部から噴き出し、空中に線を描いた。
 光はねじれ、ゆらぎ、音を立てて広がっていく。

「……見ろよ」
 俺の声が震えていた。
 空気が燃えている。
 いや、違う。光っているんだ。

「これが……第四の状態、“プラズマ”」
 ライオネットが息を呑む。
「気体よりも細かい粒子……電子が、空気に溶けていく……!」
 シービーが涙目で後ずさる。
「おっさん、危ねぇよ! 止めろって!」
「止めねぇ! これが唯一の希望なんだ!」
 火花はさらに強くなり、紫の光が広場を照らした。
 灰色だった空が、一瞬だけ鮮やかな蒼に変わる。
 風が巻き上がり、プラズマの粒が石化した仲間たちへと流れていった。

 ステラの頬に、ほんのりと色が戻る。
「……動いた、今、見たか先生!」
 俺の声に、ライオネットが頷く。
「確かに電子が反応した……! これは……!」

 だが、その瞬間、バチンと音がして、ブラウン管が弾けた。
 煙とともに、ガラスの破片が飛び散る。
 光が途切れ、再び静寂が訪れる。

 俺は焦げた装置を見つめながら、拳を握った。
 脈はあった。確かに、ステラの体に“微かな温度”が戻っていた。

 親父の声が、どこか遠くで聞こえる気がした。
 ──「流れを守れ。止まったら、死ぬんだ」

「……ああ、分かってるよ、親父」
 呟いた声は震えていた。
 光は消えた。でも、確かに届いた。
 電子が、命を揺らした。

 これが始まりだ。
 第四の状態──その先に、きっと答えがある。
 俺は、壊れたブラウン管をそっと撫でた。
 焦げたガラスの奥に、まだ小さな光が残っていた。
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