しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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電子流入す

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 夜が明けるまで、俺たちは実験を繰り返した。
 プラズマは何度も発生したが、散布しても反応はない。
 石化した人々は微動だにせず、風のように冷たい沈黙の中で立ち尽くしていた。

 ブラウン管、電子レンジ、掃除機、蛍光灯。
 出しては壊し、出しては燃やし、焦げた金属の山ができた。
 俺はその山の中に座り込み、指先を黒く汚しながら呟く。

「……何も動かねぇ。どうして上手くいかないんだ」
「世界のマナが消滅したせいかもしれないわね」ライオネットの声が低く響く。
「この星そのものがステラの言う“絶縁体”になっているのかも……エネルギーが循環していない」

 その言葉に、俺の中で何かが折れた。
 いくら電圧を上げても、何も変わらない。
 どんな家電を出しても、光は一瞬で消える。

「俺の世界なら、電気はどこにでもあった。でも、ここじゃ違う……」
 吐き捨てるように言うと、沈黙が落ちた。
 冷たい夜風が、壊れたトースターの隙間を鳴らす。

 その時、シービーが小さくつぶやいた。
「なぁ、おっさんの“家電召喚”って、どうやってるんだ?」

 俺は顔を上げた。
「どうって……普通に、出してるだけだろ」
「でも、マナが消えたのに、なんで出せるの? 魔法みたいだけど、マナは使ってないよな?」

 ライオネットも視線を上げ、家電の山を見渡す。
「……確かに。これだけの質量を“無”から生み出すのは、物理的に不可能だわ。あなたの力は、“生み出す”のではなく、“引き寄せている”のではないかしら」
「引き寄せる……?」

 彼女は地面に指で図を描く。二つの円。
 一つはこの“マナのない世界”。もう一つは、俺がいた“電子の世界”。

「あなたの召喚は、量子的な“穴”を開けているのかもしれない。二つの世界を一瞬だけ繋ぐトンネル。その中を、電子の揺らぎが行き来しているのよ」

 俺は息を呑んだ。
「つまり、俺が家電を出すたびに……元の世界と、この世界が繋がってるってことか?」
「理論上は、そうなるわ」

 ライオネットの瞳が微かに震える。
「もし、あなたの世界に“電子”という粒子が無尽蔵に漂っているのなら……それをこちら側に“呼び寄せる”ことができれば、石化した人々を蘇らせられるかもしれない」

「……電子を、呼び寄せる?」

 俺は焦げたブラウン管を見つめた。
 そこに、親父の背中が重なる気がした。
 「流れを守れ。止まったら死ぬんだ」──あの声が蘇る。

「家電を召喚するみたいに、“電子だけ”を呼び寄せるの。あなたの世界にある電子を、こちらに直接流し込む。その流動性を利用して、プラズマに“加速”を与えるのよ」
「加速……?」
「そう。粒子が自由に動くほど、束縛を失って広がる。もし電子の流れが空間全体に拡散したら……プラズマを超える“何か”になるかもしれない」

 その言葉に、俺の心臓が鳴った。
 ──プラズマ以上の状態。
 電子が自由になり、世界を満たす。
 それはつまり、マナのないこの世界に、
 新しい“流れ”を生み出すということだ。

「……電子の流れが、世界を覆う……」
 ライオネットの目が光を帯びた。
「もし成功すれば、電子がこの星の空気と混ざって、“新しい命の素”になるかもしれない」

 シービーが不安げに眉を寄せる。
「でも、もし失敗したら?」
「最悪、家電召喚の仕組みが壊れる。異世界との繋がりそのものを消費することになるわ」

 家電を失う。
 この世界での俺の全てを失うことになる。
 それでも──

「やるしかねぇだろ」
 俺は立ち上がり、焦げついた金属の匂いの中で息を吸った。
「俺の世界の電子が、まだ流れてるなら……それをここに呼ぶ。それでみんなが助かるなら、迷う理由なんてねぇ」

 ライオネットが微笑んだ。
「無茶を言う人ね」
「電気屋はいつだって無茶をしてきた。止まった流れを、もう一度繋ぐ。それが俺の仕事だ」

 夜が明けはじめた。
 空が白み、冷えた空気が三人の頬を刺す。
 石化した街の中で、ひとつだけ、壊れかけたブラウン管が光を放った。

「行くぞ」
 ──電子を呼び寄せろ。
 ──俺が世界を、繋ぐ!
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