しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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エネッタ帰国す

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 王都ボルトリア。日が傾く頃、重たい蹄の音を響かせて一台の馬車が城門を潜った。

 泥にまみれた制服、乱れた金髪のまま──エネッタは扉が開くのを待たずに飛び出した。周囲の騎士や侍女が驚いて声を上げる間もなく、彼女は全力で城内へと駆けていく。

 玉座の間には、ミカがいた。
 その瞳はいつものように穏やかで──けれど、その周囲には異様な気配が漂っていた。

 剣を下げたクレア、腕を組むサンダルフォン。騎士団の幹部たちが周囲を取り囲み、玉座の間には緊張感が張り詰めている。

 「ミカ様! クレア様も、大変です。おじさまが!」
 エネッタが悲鳴のように叫ぶと、ミカはふっと目を細めてうなずいた。

 「……すでに知っておる」
 「⁉」
 戸惑うエネッタに、ミカは天井を仰ぎながら言った。

 「電のじの“電力”が、北方へ流れていったのが見えた。あの漏れ漏れ電力……さらに漏れる量が増えておるとは……学園へ何しに行ったんじゃあやつは」
 ミカは腕を組み訝しげに言った。
 電次郎を追うようにエネッタが学園を飛び出したことも承知の上。ゆえにすぐさまエネッタを守る結界も展開させた。

 「姫よ、ずいぶんと逞しくなられたが、もう少し考えて行動せぬと国の一大事ぞ」
 ミカは窘めたつもりだったが、単身で脇目も振らず魔法で強化した馬を走らせたエネッタの成長を喜び、表情が少し緩んだ。

 「それでは、この集まりは、おじさまを助けるための? でしたらわたくしも協力いたします。すぐにお父様へ伝え、ボルトリア全軍を魔王領へ……」 
 「たわけ」
 ミカの、その静かな声に全員の動きが止まる。

 「そんな動きを見せれば、魔王軍との全面戦争じゃ」
 「でも、おじさまが……」
 エネッタが崩れるようにその場に膝をつく。

 「おじさまは、わたくしを助けて下さいました。それに、短い間でしたが、おじさまの人となりが分かりました……あの方は、わたくしの……いえ、この国に必要な方だと確信いたしました。ですからわたくしは……なんとしても助けたいのです」
 
 取り乱すエネッタの肩に手を添えたクレアが呟く。
 「姫様、みな同じ気持ちです。ですが、そのためにボルトリアの国民を危険に晒すことは出来ません」
 「……じゃあ、わたくしたちは、ただ見ているだけなのですか……? あの人が、どんな目に遭うかも分からないのに……!」
 彼女の声は、震えていた。嗚咽のような、怒りのような、まじりけのない少女の感情。
 電次郎の身に起こるかもしれない危機。
 ──拷問。実験。奴隷。魔物の餌……子供の頃、夜に眠れなくなるほど怖かった“魔王の昔話”が、頭をよぎる。

 「お願いです、ミカ様。どうか、おじさまを……」
 王女の、ではなく、ひとりの少女としてのその願いに、場の空気が変わった。クレアも、サンダルフォンも、そして周囲の騎士たちも、言葉を飲んだまま顔を伏せる。
 
 「一刻も早く、救い出さねばならん。それだけは……確かじゃ」
 ミカの声が、かすかに震えていた。

 「やはり、少数精鋭の隠密行動を……」
 クレアはそう言い放ったが、その無謀さを鑑みて目を伏せる。

 「正面突破しかねぇだろ、当たって砕けろだ」
 サンダルフォンは、大きな声だけで場を支配しようと試みたが、誰の賛同も得ることは出来なかった。

 「交渉に応じるとは思えぬしな……」
 ミカは腕を組み、溜息をついた。
 
 場が重苦しい沈黙に包まれる中、窓の外では日が沈み、空が黒く染まっていった。

 ──この時、誰も知らなかった。

 その“拷問されるはずの男”が、いま魔王城でふかふかのベッドに沈み込み、あまりの快適さに「逆に怖ぇ」と震えていることを。
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