病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜

白川

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本編

10 暴かれるイザークと離れる距離

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「あら?あなた達もいらっしゃったのね。ご機嫌よう」  
 

 声のした方を見ると、ノアさまがリリーさまと一緒にこちらに向かってきていた。

「……ご機嫌よう」
 私自身も警戒していたけれど、オリヴィアが気になって横目で見ると酷く怯えた様子だった。
 私と仲が良いと思われたら、嫌な思いをさせてしまう。
 彼女もきっと知られたくないだろうし、私も彼女が酷いことをされるのは嫌だ。

「お二人は仲がよろしいのね?」
「初めてお会いしたのです。イザークさまと、オリヴィアさんの旦那さまであるノアさんが、この場を設けてくださいました」
 ノアさまとノアさんは名前が同じだが、性格は正反対だ。
 名前を出すとノアさまの目が鋭くなり、リリーさまも睨みつけてきた。

「……そうなのね。よかったらご一緒しても?」
「ええ、どうぞ」
 ここで断ったら余計角が立つ。
 オリヴィアが心配だが、仕方がない。


 お二人が席につき、ティーカップに口をつけてすぐに、視線が私の手首へと向けられる。
「それはイザークさまから?」
 ここは堂々としていなければ。
「ええ、そうです」
「まあ、もう二本もくださったのね。仲睦まじいこと」
「イザークさまがお優しいので、穏やかに過ごせていますよ」
 リリーさまが私たちの様子を見て口を開く。

「素敵だわ~!でも、怪しいとは思わない?そんな直ぐにだなんて恋愛結婚みたいだもの。しかもアイリスみたいな役立たずが」
 侮辱する言葉に不快な気持ちになり、軽く睨んでしまう。
「リリーお辞めなさい。アイリスさま、ごめんなさい。この子に悪気はないのよ。ただ私たち心配しているの」
「心配?」
 怪しいと思いながらもつい聞き返してしまうと、一呼吸置いてから言いにくそうに話し出した。

「イザークさまはあなたのこと何とも思ってないのよ。メリットがあるから政略結婚をするのでしょう?そのメリットのために演じてるだけ。もちろんそれが悪いだなんて言わないわ。ただ、アイリスさまは純粋なお人だから鵜呑うのみにして傷つかないかとても心配していたの」

 思ってもみなかった言葉に驚くが、今まで過ごした彼との思い出に嘘などなかった。


「ご心配ありがとうございます。ですが、お気遣い頂かなくて結構ですわ」

 まさか私が反論するとは思わなかったのか、無言の間があった。
 しかし、リリーさまがまた強い口調で投げ掛けてくる。
「本気にしていたらイザークさまに迷惑よ。……何もできない病気の嫁なんて本当ならいらない、気を遣わないといけないから屋敷に帰っても疲れる、と大変疲弊ひへいされていたわ」


 つい先程までは全く気にしなかったのに、自分が不安に思っていたことを告げられて指先が冷える。
 
 すると、それまで口を閉ざしていたオリヴィアが躊躇いながら反論してくれた。
「あの、大変失礼ながらその情報は確かでしょうか?もし不確定な情報であれば、不敬だと捉えられてもおかしくありません。また、先ほどからアイリスさまを見下すような発言が見受けられますが、彼女の論文が評価されているのをご存知ないのですか?」

「はあ?あんたこそ不敬ね。元々だって私たちより地位も低いし、旦那もただの騎士じゃない。そんな立場の人間がよく歯向かってきたわ!」

 私を庇ったがために矛先ほこさきが彼女に向いてしまった。
 そう焦れば焦るほど余計混乱してくるが、絶対に守らなくては。
「確かに今の発言は失礼だと思うわ。私たちはきちんとした情報源があるのよ。この前の集まりでの発言だったから、他の者に聞いてみても良いけれど。……オリヴィアさん、謝ってくださる?」
「も、申し訳ございませんでした」
 
 彼女が頭を深く下げても何も言われず、そのままだ。
 これではずっと頭を上げられない。

 悲しいことに貴族の、特に令嬢の身分差はそれほどまでに厳しく存在しているのだ。 
 しかも彼女は私と親しい仲だともう知られてしまっただろう。
 それならば、私もブロッサム家の娘として、そして今はアンスリウム家の人間として威厳を保たなければ。
 黙って聞いてしまっていたけれど、許して良い言動ではなかった。

「そのくらいにされては?ここでの貴女方の言動も知られたくはないものですよね。私への侮辱だって、私が許さなければどうなるか」
 語気を強めてはっきりと態度で示すと、目での攻防が行われる。


「……申し訳ありません。そんなつもりはなかったのです。ただ友人として心配してしまったからこそのものだと、お見過ごしくださいませ」
 証拠がないから良いと言われればそれまでだったが、ここは一旦引くことにしたらしい。
 リリーさまは無言で睨みつけてくるだけだが、言葉遣いも態度も変わり、オリヴィアも体勢を崩すことができた。
 ある意味、臨機応変とも言えようか。

「ただ、先程のイザークさまについてのお言葉は真実だとお伝えしておきます」
 そう告げると、そのまま逃げるかのように足早に去っていった。

    



 なぜそこまで急いでいるのか疑問に思っていると、すぐその後イザークさまとノアさんが帰ってこられた。

 私とオリヴィアの様子がおかしいからか、イザークさまが耳元で囁いてくる。
「アイリス嬢、大丈夫か?」
 どうすれば良いか分からなくて、ただ頷くことしかできなかった。

「あの、オリヴィアが何かしてしまいましたか?」
 ノアさんの不安を滲ませる姿に焦る。
「いえ!とてもお優しくて、友人になれましたわ。……オリヴィア、本当にありがとう。オリヴィアさえ良ければまたお会いしてね」
「……いえ、そんな。また機会がありましたら、ぜひ」
 オリヴィアは目も合わず、その後も当たり障りない挨拶しか交わせないまま終わってしまった。
 せっかく友人になれたというのに、こんな形になってしまってとても悲しかったが、仕方ないことだと自分に言い聞かせる。



 馬車の中も、屋敷に着いてからもずっと、こんな身体の妻などイザークさまに迷惑だろうという気持ちに、ノアさまとリリーさまの言葉が重なってしまう。
 思考が駆け巡り心が酷く乱れて、もう何も考えられなくなってしまった。

 ────少し、距離を取るべきだろうか。

 ひたすら孤独な世界で思い詰める私は、イザークさまがこちらをずっと伺っていることにも気がつかなかった。

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