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本編
16 まるで新婚な初恋
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「おはよう、アイリス」
彼の声だと他人は思わないであろう甘い声を辿って見れば、至近距離の深い瞳と視線が交じり肩が跳ねた。
「お、おはようございます。イザークさま」
「もうそこまで驚かなくとも良いだろう?」
そう言いながら肩を揺らして笑う。
「まだ慣れないので少し驚いてしまって……」
「これから長い。ゆっくり慣れれば良い」
優しく頭を撫でられるけれど、申し訳ない気持ちになる。
何故なら、初めて共にした夜からかれこれ一週間と数日ほど経っているのである。
全く慣れないどころか、胸の高鳴りが増してしまっている現状────。
もう少し大人にならなければ。
そしてここ最近は私も結婚式の準備をしていたけれど、意外と心配性なイザークさまに見守られているので少しでも辛くなれば止められてしまう。
イザークさまご自身は普段のお仕事に加えて準備、特にデザイナーの方とお話していることも多く日々忙しく過ごしている。
そんな中でもこうして共に過ごす時間を作ってくださっているのだ。
「今日は出かけないか?」
「よろしいのですか?私は嬉しいですけれどお忙しいのではないですか?」
「連れていきたい……いや俺がアイリスと一緒に過ごしたいのだ」
当の本人は一切恥ずかし気もなく発する言葉に、私だけ毎日のように顔を赤くしているのではと思った。
「でしたら、ぜひ……」
馬車に揺られしばらく────。
「これって……」
目の前に広がった景色は人で賑わっており、様々な露店が立ち並んでいる。
甘じょっぱい香ばしい香りが煙に乗って鼻をくすぐる。
「今年は豊作で民も食には悩まずに済んだ。そのような年は祝いの祭りが開催されるのだ。アイリスと来たいと思ってな」
「まあ……それは素敵なお祭りですわ。一緒に来られて嬉しいです」
私から笑みがこぼれると、イザークさまはどこか安心したように微笑まれた。
「ただ、手は繋いでおこう」
差し出された大きな手を見つめる。
(危険を考えてのことだとしても、こうして手を繋いでお祭りを楽しむだなんて本当に婚約者なのね。)
そっと手を握るとぎゅっと包まれ、愛おしい気持ちが溢れる。
「では行こうか」
「はい!」
「腹が減っているだろうからまずは何か食べよう。何が良い?」
「美味しそうな香りがずっとしていて気になります」
「ああ、この地特有の肉料理だ」
イザークさまは串に刺さったお肉を店主から二本受け取り、片方を私に差し出した。
「ありがとうございます。いただきます」
口に入れた瞬間、炭火で焼かれたような香ばしさが広がり噛めば肉汁が溢れ出す。
柔らかくもしっかりとした食感で食べ応えも抜群だ。
「ん~!美味しいです!」
子どものような反応をしてしまうがその様子を見ても咎めることなく、イザークさまも口角を上げ頬張った。
「ああ、美味いな。やはり熱いうちに食べる肉が一番だ」
感慨深く味わっている様子を見てとあることを思い出した。
戦地に赴くときは非常食用の干し肉を持っていき、基本的にそれ以外のものを口にできない場合が多いと聞いたのだ。
「こうしてイザークさまと頂けることで、より美味しく感じますね」
一瞬驚いた顔をされたが、すぐに笑顔になる。
「アイリスは素直に思ったことを言葉にできるのがすごいな。俺も同じことを思っているよ」
次に向かったのは雑貨屋だ。
花の形をした可愛らしいアクセサリーに目がいく。
「……これが気に入ったのか?」
「ええ、とても可愛いらしいです。……ですが子ども向けのようですね」
そう気づいたのはきゃっきゃと笑いながら近くを走っていった小さな女の子が、同じようなものを身に付けていたからだ。
「確かに本来は子ども向けかもしれん。だが好きだと思ったのならそれで良い」
そう言い終わると、私に優しく髪飾りをつけてくれた。
「しかし、子ども達に悪いです」
「お嬢さん大丈夫さ!まだまだ他のアクセサリーだって用意があるからね。大人もつけられるデザインだし、今日は祭りなんだから気にせずに楽しみな!」
様子を見ていた店主がそう大きな声で言いながら拳を握る。
「それに、可愛いアイリスに似合う」
「ありがとうございます……」
イザークさまに可愛いと言われたのは初めてで、声が小さくなってしまう。
他の露店を見歩きながら片手はイザークさまの手を握り、もう片手は髪飾りを触っていた。
「……その髪飾り、子どもがよくつけているのは理由があるのだ」
「理由、ですか?」
「子ども同士の迷信にすぎないが好きな女の子にあげるとその子が幸せになるという、いわば呪いだ」
「素敵ですわ。子どもでも相手を大切に想う気持ちは代わりませんものね」
道行く女の子の髪とその隣を歩く男の子を見て微笑ましく感じる。
「俺が子どもの頃は相手がいなかったし、君には出会えなかったが、今日やっと好きな子にあげられた」
迷信の話をしてくださった意味がわかり、横を見上げると珍しく彼の耳が赤くなっている。
私も恥ずかしいけれど嬉しくて、言葉にできないからそっと腕を組んでみる。
二人の間にしばらく言葉はなかったけれど、そよ風に揺れて心地よい幸せな時間が流れていくのだった────。
彼の声だと他人は思わないであろう甘い声を辿って見れば、至近距離の深い瞳と視線が交じり肩が跳ねた。
「お、おはようございます。イザークさま」
「もうそこまで驚かなくとも良いだろう?」
そう言いながら肩を揺らして笑う。
「まだ慣れないので少し驚いてしまって……」
「これから長い。ゆっくり慣れれば良い」
優しく頭を撫でられるけれど、申し訳ない気持ちになる。
何故なら、初めて共にした夜からかれこれ一週間と数日ほど経っているのである。
全く慣れないどころか、胸の高鳴りが増してしまっている現状────。
もう少し大人にならなければ。
そしてここ最近は私も結婚式の準備をしていたけれど、意外と心配性なイザークさまに見守られているので少しでも辛くなれば止められてしまう。
イザークさまご自身は普段のお仕事に加えて準備、特にデザイナーの方とお話していることも多く日々忙しく過ごしている。
そんな中でもこうして共に過ごす時間を作ってくださっているのだ。
「今日は出かけないか?」
「よろしいのですか?私は嬉しいですけれどお忙しいのではないですか?」
「連れていきたい……いや俺がアイリスと一緒に過ごしたいのだ」
当の本人は一切恥ずかし気もなく発する言葉に、私だけ毎日のように顔を赤くしているのではと思った。
「でしたら、ぜひ……」
馬車に揺られしばらく────。
「これって……」
目の前に広がった景色は人で賑わっており、様々な露店が立ち並んでいる。
甘じょっぱい香ばしい香りが煙に乗って鼻をくすぐる。
「今年は豊作で民も食には悩まずに済んだ。そのような年は祝いの祭りが開催されるのだ。アイリスと来たいと思ってな」
「まあ……それは素敵なお祭りですわ。一緒に来られて嬉しいです」
私から笑みがこぼれると、イザークさまはどこか安心したように微笑まれた。
「ただ、手は繋いでおこう」
差し出された大きな手を見つめる。
(危険を考えてのことだとしても、こうして手を繋いでお祭りを楽しむだなんて本当に婚約者なのね。)
そっと手を握るとぎゅっと包まれ、愛おしい気持ちが溢れる。
「では行こうか」
「はい!」
「腹が減っているだろうからまずは何か食べよう。何が良い?」
「美味しそうな香りがずっとしていて気になります」
「ああ、この地特有の肉料理だ」
イザークさまは串に刺さったお肉を店主から二本受け取り、片方を私に差し出した。
「ありがとうございます。いただきます」
口に入れた瞬間、炭火で焼かれたような香ばしさが広がり噛めば肉汁が溢れ出す。
柔らかくもしっかりとした食感で食べ応えも抜群だ。
「ん~!美味しいです!」
子どものような反応をしてしまうがその様子を見ても咎めることなく、イザークさまも口角を上げ頬張った。
「ああ、美味いな。やはり熱いうちに食べる肉が一番だ」
感慨深く味わっている様子を見てとあることを思い出した。
戦地に赴くときは非常食用の干し肉を持っていき、基本的にそれ以外のものを口にできない場合が多いと聞いたのだ。
「こうしてイザークさまと頂けることで、より美味しく感じますね」
一瞬驚いた顔をされたが、すぐに笑顔になる。
「アイリスは素直に思ったことを言葉にできるのがすごいな。俺も同じことを思っているよ」
次に向かったのは雑貨屋だ。
花の形をした可愛らしいアクセサリーに目がいく。
「……これが気に入ったのか?」
「ええ、とても可愛いらしいです。……ですが子ども向けのようですね」
そう気づいたのはきゃっきゃと笑いながら近くを走っていった小さな女の子が、同じようなものを身に付けていたからだ。
「確かに本来は子ども向けかもしれん。だが好きだと思ったのならそれで良い」
そう言い終わると、私に優しく髪飾りをつけてくれた。
「しかし、子ども達に悪いです」
「お嬢さん大丈夫さ!まだまだ他のアクセサリーだって用意があるからね。大人もつけられるデザインだし、今日は祭りなんだから気にせずに楽しみな!」
様子を見ていた店主がそう大きな声で言いながら拳を握る。
「それに、可愛いアイリスに似合う」
「ありがとうございます……」
イザークさまに可愛いと言われたのは初めてで、声が小さくなってしまう。
他の露店を見歩きながら片手はイザークさまの手を握り、もう片手は髪飾りを触っていた。
「……その髪飾り、子どもがよくつけているのは理由があるのだ」
「理由、ですか?」
「子ども同士の迷信にすぎないが好きな女の子にあげるとその子が幸せになるという、いわば呪いだ」
「素敵ですわ。子どもでも相手を大切に想う気持ちは代わりませんものね」
道行く女の子の髪とその隣を歩く男の子を見て微笑ましく感じる。
「俺が子どもの頃は相手がいなかったし、君には出会えなかったが、今日やっと好きな子にあげられた」
迷信の話をしてくださった意味がわかり、横を見上げると珍しく彼の耳が赤くなっている。
私も恥ずかしいけれど嬉しくて、言葉にできないからそっと腕を組んでみる。
二人の間にしばらく言葉はなかったけれど、そよ風に揺れて心地よい幸せな時間が流れていくのだった────。
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